第2話(前) バーサス虚竜

 徴兵令の目的は竜退治にある。この世界には竜が生きる。

 その竜は、前世に見るような巨大な翼持つ爬虫類とはかなり異なった。

 鱗に覆われた人形の爬虫類は、前世で例えるならば、特撮ヒーローに近い。

 仮面ライダーみたいなやつらだ。通称を《虚竜》という。


 平均的な身長は2m、体重は100kg、ゆえに真っ当に一対一で戦闘するならば、人類は虚竜に勝つことはできない。

 そも、小賢しく戦う僕のような盗賊ならば、まず戦闘を避けるべきだ。

 重さの無い蹴りを入れたところで、虚竜の鱗に弾かれる。こちらの足を痛めるのがオチだった。


「ですが虚竜は群れを成すことがない。

 種族の繁栄を目的とせず、弱い個体は守ることなく、むしろ虚竜が虚竜を殺していく。それはこの星の王者としてでしょう。

 最強の自己さえ生存していればそれでいい。弱いやつなどはむしろ死ね。

 寿命による死も未だに確認されていないですし、どう繁殖しているのか不明ですし、虚竜は群れる必要がありません。

 自分の縄張りには絶対に、一体だけしかいない。強い竜ほどその周囲には誰もいなくなる」


「一対一なら勝てないが、二人で戦えば勝機はある、ということ」


「そうですよ、そーまさん。ところで虚竜と遭遇したことは? 戦闘経験はお有りで?」


 遭遇したことはあるが、相手にされなかった。

 虚竜の大目的は自己の生存であるために、弱い人間に目を向けることはない。

 貴族のお家を襲撃する、という話はよく聞くところだが、それは進化のためだ。

 虚竜は、魔力を食いにやってくる。お家の聖女を襲うのだ。


 今どき、聖女の魔力無しでは街は回らない。

 虚竜は聖女を殺すため、人類存続のために、人類は虚竜と戦う必要がある。


「ええまあそうですよね。理不尽な野生生物との戦闘なんて当然避けるべき。

 でも、私は狙われます。虚竜の縄張りは日に日に広がっていきます。

 ケントとの戦闘はご苦労さまでしたが、そーまさんは人間には勝てても竜には勝てない。

 学園に通う前に、やはり竜との実戦経験は積むべきでしょう」


 文明が破綻しない程度には、街に残しておき、各地から少数ずつ聖女を集め、一つの施設に収容する。

 極上の狩場となった学園に集まってくる虚竜を、各個撃破する。

 学園は事実上の徴兵令とのことではあったが、よくよく考えてみればそれは最早撒き餌であり、対虚竜の最前線である。


「守ってくれるんですよね」


「そういう契約だろ」


「そうでしたそうでした。言っておきますが、……死んでいただいても構いませんよ。むしろそれが私の目的かも? お家の秘密を知った人間を、勇者として殺すのには無駄がありません」


 煽るのが趣味かよ。


「……まあだからその、死なないでくださいよ。敵との体重差をよく理解して。変なプライドは捨てて。

 あなたの役割は私のガード、火力は私が担当します。

 ……とりあえず、今回は見ていて、見てるだけでいいから、ケントと私が戦うから、だから、だからこら止まれ! 待て待て待て! 一人で突っ込んでいくなぁッ!」


-------------------------------------------------------------------------------


 虚竜は、何も破壊せず、誰も壊さず、真っ直ぐに貴族の家へと歩いていく。

 街にも番人ぐらいはいるのだが、被害者は貴族であり戦闘できるのも貴族のみで、何もできずに素通しする。

 ただ「破壊行為をしても迷惑にならない所で戦ってくれ」という連絡ぐらいはしてくれる。


 単身で突っ込んだのは地形を確認するためだ。

 小賢しい戦いには地の利を得ることが基本、確かな大地でなければ飛び回ることすら難しい。

 ――不意を打って一撃刺して離脱する。やることはそれだけ。


 ……虚竜の姿を確認した。律儀にも屋敷の正門から来るらしい。

 ならば戦場は訓練の時と同じか。……だったらどうすればいい。一対一で地の利も何もあったものか?

 ……結構、熱くなっていた。訓練での無様が効いたのか、格好良いところを見せようと躍起になっていた。

 それでもだからこそ一撃を当てないことには顔向けできない。


 敵を確認する。……二足歩行、大きさも前評判の通り、翼は退化していないようだったが飛べるかは怪しい。

 虚竜は竜に近ければ近いほど強力になるが、ほぼ人形なのを見るに個体としては平均的、チュートリアルには都合が良い。


 できることは背後からの奇襲、直前で察知されることは前提として、

 その反撃を避けるところまで想定する。……尾は無いようだ。

 こちらが背を低くさえすれば、敵も重い一撃は放てない。


 できた小細工など、動力小屋の扉を開けておいたぐらい。

 周囲を少しでも煩くして足音を隠すための細やかすぎる抵抗で、それが数秒の間しか誤魔化せないものだとしても、

 その数秒あれば間合いまで踏み込んでみせる――、さあ、行くぞ、

 ――魔力を以て――、


「灰と成せ……ッ!」


 詠唱は普段通りに、指先は虚竜の鱗に触れる。魔術の力は何も聖女をすっぽんぽんにするだけではないのだ。

 時の大鎌に対して、万物は劣化を逃れることなどできやしない、

 虚竜の鱗を剥がし、内側の軟肉に突き刺そうと、金属杭を生成しながら腕を振るう、ここまでは身体が勝手に動く。

 金属音と共に火花が散る。固く握った拳に痛みが走る。状況を理解できないまま後ろに飛んだ。

 虚竜から目を離さないようにはした。……ぴくりとも動いていなかった。振り返ることすらしていなかった。

 ……僕は蚊か。竜は蚊に気づいていないのだ。


 ……剥いだはずの鱗は健在で、硬い装甲に出来合いの武器をぶつけて、押し負けただけ。

 ……なんだあれ。金属じゃないのか。……鱗、そうか鱗? だったら骨か。灰にはならないのか。


「なにやってんですかそーまさん!」


 遠くの方から罵倒が聞こえる。やかましい。

 虚竜は聖女に近づいていく。冷蔵庫に入れておいた食べ物を食べようとするような、穏やかな歩みだった。

 ターゲットがのこのこ出てくるなとは思うが、お家に籠ろうとも同じことだ。

 玄関を閉めたら流石に鍵が壊される。だったら外にいた方が無駄に被害を広げない。


 だから玄関前に聖女とその兵士が立った。


「……だから言ったでしょう。火力は聖女に頼りなさい。人の子よ、せいぜい知るがいいのです。

 後、射線上から避けなさい。だからこら虚竜の後ろに立ってないでさっさとこっちに戻れ!」


-------------------------------------------------------------------------------


 聖女は射線上と言った。唱える魔術は剣ではない。砲だった。

 爆発魔術なら誰にでもできる。爆発の原理は極めて簡単で、安定した物質をばらして不安定にする、というだけ。不安定な物質が勝手に自己分解して急激に燃えるのは当然のことだ。


 しかし普通、それでは全くの火力不足。水素水と書いてあるボトル缶の蓋を外して火を近づけたとしても爆発なんてしないのだ。それは詐欺とかではなくてそれだけでは反応に足るガス量が確保できないためである。


 爆弾を作りたくば可燃性ガスをひたすらに圧縮するのが第一歩であり、もちろんそんな悠長に物質をバラしているよりも、直接敵を殴った方が手っ取り早い。


 そして圧力に耐えうる器も必要だ。爆弾作製には圧力鍋が必要となる。

 殺傷能力を得る程度にガスを圧縮しても破裂しない容器、かつ、一方のみに(この場合、鍋の蓋)脆い部分を持たせ火力に指向性を持たせる構造あってこその砲だった。


 この二つの問題を解決できるのが聖女の膨大な魔力である。


 魔術の力とは《時間の混乱》と《空間の逆転》にある。


 聖女キャノンの作り方は聖女ソードと似通っている。

 太陽じみた熱量を放つ兵器を、ドレスの少女が普通に担うためには、熱量を遮断する仕組みが前提だ。環境に依存しない安定した反応、また身の安全を確保するために、魔力を以て剣と成す以前に、空間を壊していた。

 真空であり、魔術的空乏層である空間を作ってから、そこに剣を入れた。


 砲とて同じこと。まずは圧力鍋を作る。そして悠長に物質をバラす。

 そこで時間を省略する。


「魔力を以て――」


 バラせるのはおおよそ有機物、魔術師は自身の身体を少々削って武器にする。

 腹が減るぐらいにしか消費されないが、聖女が聖女たる証明として豪盛な魔石の保有がある。

 それは貴族の家宝にして虚竜の餌にして神話に名を残す魔力源、

 極小体積にして極大質量たる圧縮有機個体を不飽和炭化水素へと変換し、

 許容値を超えた圧力が加わった時、即ち――、


「剣と成せ――!」


 蓋の外れたガス容器、聖女どころか屋敷ごと吹っ飛ばすかのような爆発音、出口を見つけたかのように放出される灼熱する圧縮体、やたらきりっとした聖女。

 爆発の中心地にいたはずの当の本人は微塵も動かず、火力は唯、虚竜へと飛ぶ。

 この圧力鍋爆弾の砲身は細く、直線的に虚竜にまで届いており、なにもない空間の檻によって燃焼は奇怪にも槍状に虚竜まで飛翔する。


 出鱈目な戦闘能力を有する、これが人類救済の聖女様であり、


 ――対して、同等以上の戦闘能力を有するのが虚竜である。


 虚竜のその有翼は飾りではないらしい。

 広げたところで羽ばたきはしなかったが、鱗の配列が動くと闇色にと変化する。

 陽の光を受けたにも関わらず、やはり輝かず、ならばそれは吸光だった。

 竜らしく口をがばりと開くと、口内は鏡のように煌めいた。ならばそれは発振器だった。

 太陽光などに出力を期待するには無限に時間がかかるだろうが、時間がかかるというだけならこのファンタジーにおいて障害にすらならず、そんな道理などは魔力を以て棄却する。竜は火炎を吐くものだが、これでは火でなくレーザー砲だ。


 燃焼砲と相打つは虚竜の極光、焼き尽くす火炎は異なる熱量によって逆流し、砲身の一部が欠け火力は上空へと逃げた。炎の竜が昇ったようだ。これが神話の世界。


 おっかないから僕は聖女の後ろに逃げていた。


「さあ開戦ですよそーまさん! 私をしっかり守ってくださいね!」


「わざと言ってるだろお前」


-------------------------------------------------------------------------------


 聖女の傍には二人の騎士が備えている。

 体躯的にケントらしかったが、全身鎧に覆われて顔が確認できない。

 鎧には斑模様が浮かんでいる。

 鍛造方法は見ただけではわからないが、なにせ魔術による代物だ、前世を振り返ってもその名称は見つかるまい。


 担うは司祭杖、……いや、メイス。……なるほど、鱗があるなら叩き潰せばいい。

 構えは上段、前世の剣道の印象からしてみれば上段は攻撃的な構えに思えるが、敵には装甲がある。

 致命打を与えるためには振り下ろしが望ましいし、どうせ振り上げるなら先に上段に構えておいた方が当たり前に早い。


 しかしこいつら、……僕との訓練の時と全然戦い方が違うんじゃないか……?


「……別に手を抜いていたわけではありませんよ。

 盗賊の襲撃を想定すれば鎧なんて着れないし、鎧でも着てなければ上段なんてできません。虚竜が強者として、王者として余裕を持って戦ってくれるからこその、こっちの最強戦力です」


 聖女が鎧装備でないのはただ重いからだろう。

 鎖帷子めいたものを用意したところで、虚竜相手では効果がなさそうだ。


 鎧の騎士は動かない。近づいていた虚竜も、騎士を前にすると歩みを止める。

 メイスを障害と認め、間合いに入ることを拒んだらしい。


 騎士は二人、敵は一人。挟撃がベターにしても聖女は守らねばならない。

 正面衝突は必定、というか背後に回るのは僕の役目か。


「しかし気づきませんか。あなた、まだ小細工が通用すると思っているので?

 ここには奇策も魔剣もありませんよ。間合いに入ったやつに振り下ろすだけです。

 力と力を比べるだけです。いいですか、ぶち当てて、殺せば、勝ち。

 ぶち当てられて、死ななかったら、負けじゃない。でも盗賊の戦い方なんて、逃げるが勝ちってやつじゃないですか」


 また煽ってきた。


「――あなたの戦い方は違いますよね。帝都大学大学院ドクター三年生、相馬宗一郎。あなたは盗賊である前に、人間である前には、そうだったのではないのですか」


 不意に、虚竜の掌に視界を覆われた。違う、真っ直ぐ僕の方に広げただけ、それで突っ込んできているだけ、覆われたせいで敵の姿が隠されてしまった、両足は、反対の腕は、羽は、頭は、目はどうなっている、

 状況は、――僕が、狙われた――、退くも掌に包まれる速度の方が勝り、このままでは掴まれる、背を低くするのは、だめ、やったら最後、上から抑え込まれたら死ぬ、すがるべきは身体ではなく魔術、

 魔力を以て――、


「灰と……ッ?!」


 土を持ち上げて壁を作ったところでなんだ、重量が違いすぎる、目隠しになっただけ、壁は崩れる、

 だが咄嗟にしては上出来だ、これで右か左かに避けられる、そこに、


「馬鹿! 竜が目なんて使ってるわけ……!」


 的確に、避けた方向に竜の手は追ってくる。違った、これでは潰され――、


「……がッ!」


 ――ない、鎧の騎士が僕の身体を蹴っ飛ばし、代わりとなって竜の攻撃の真下に潜った。

 頭部を守るように交差させた小手を虚竜の爪が抉る、激突箇所が弾け飛び衝撃は大地ごと抉る。

 短い苦悶の声はやはりケントのものか。抑え込まれると潰される、が、

 やはり騎士は二人いる、もう片割れがメイスを振り下ろすと虚竜とて受け側に回る。


 ……足手まといは嫌だ。だが僕に何ができる。

 サクラには余裕がありそうだし、いっそ逃げてしまった方がこいつらとしても楽になるのではないか。

 メイスでは鱗は砕けなかった。騎士らはあくまでも敵を固定標的にするために攻撃をするもの、砲台は聖女であり、おそらくそれは訓練の通りに、もう詠唱は済んでいる。


 あまりにも神々しい二振りの剣があった。

 出会ったあの時と同じ、聖なるかな聖なる聖剣、光の剣と炎の剣、クラウ・ソラス。

 無限の火力を空間の鞘にと封じ、敵にとそのままぶつけるもの。

 爆炎などという副産物とは比較にならない、究極の直接攻撃。


 人はこの太陽を直視することすらできないだろう。竜すら遺伝子に刻まれた絶対王者の存在に畏怖するであろう。


 熱量は空間の鞘にて包まれていた。

 虚竜に先に触れるのは鞘であり、狂った空間自体に攻撃能力はない。むしろなにも起きない。虚竜に触れると鞘は発散し、守っていた刀身を剥き出しにする。突き刺した剣は体内にて眠りから解き放たれる。

 虚竜を内側から燃焼させた。

 命中させれば勝ち、……なんてでたらめな火力だろう。


 聖女たちは虚竜を撃破した。


「……ふう。……経験値のために一応コメントしますが、……虚竜の構えは訓練の時、ケントがやってくれてるでしょ。見たことあったでしょ。

 腕を伸ばしたまんまで突撃されても、その腕自体の威力は大きくないから受け止められるんです。

 重量差があるから押し負けはする。だけど掴み攻撃なんて一対一でしか成り立ちません。受けてくれれば私が焼くんだからそれでこっちの勝ち。

 土壁で目隠しするのは癖なんでしょうが、魔力で作るべきは即席だろうと小手でしたね。

 ……いやいや別にですね、初虚竜戦なんだから私だって偉そうに言うつもりなんてないですよ。

 自信喪失されるのは望むところじゃありません。

 だって先に教えていれば、別にそーまさんでもケントと同じことができたでしょ。難しくないし。

 怒ってるのは勝手に突っ込んだことですからね」


「……」


「……そーまさん?」


「……う、うううう」


「そんな凹まなくても……ッ、ほ、ほら、勇敢だった! 勇敢だったすごい! だから泣き止んで! よく泣くなこいつ!」


 ……虚竜は強い。歯が立たない。その虚竜をあっさり殺してしまうのがこの聖女たちだった。

 レベルの差を思い知った。調子に乗っていたのが恥ずかしい。

 ……ああ、聖女が神々しく見える。光の剣と炎の剣を虚竜に突き刺しながら、

 突き刺しながらも……、念入りに殺しているのだろうが、……その熱量は、漏れ出していない。

 普通、……口や鱗の隙間から煙でも漏れてくるものだろうが、嫌な、予感がすると、


 がぱりと、虚竜の口が開こうとして、鏡面の銃口は間違いもなく聖女を向いていて、


 ――あ、


 全員呆けていた。人類の驚異相手に油断し過ぎた、

 あるいはもともとそういうものじゃなかったのに、未知なる進化を遂げた個体だったのか、虚竜の眼球が動いている、まだ生きている。

 エネルギーは不意に消えたりなんてしない。こいつは燃え盛る剣を利用して火炎を吹くだろう。

 誰も反応できていない。虚竜と聖女の距離はあまりに近い。魔術での守護は間に合うのか。

 口が開く、火炎が吹き荒れる、聖女の眼前に迫る、だがやはり身体は硬直している。

 身体は硬直していたが、それでも勝手に魔術めいた速度で身体は飛んだ。

 守りたかった聖女と、聖女を殺す死の間に、……「守る」という契約により立たされ、試されている。


 ……どうする。土壁を生やすのか。却下だった、虚竜すら貫通した魔術に壁など通用しない。

 時間の混乱と空間の逆転は剣にも盾にもなるが、魔力量による限度があり、

 万物を断絶する空間は絶大な魔力を必要とするため聖女にしか生み出せない。だから却下。

 次々に却下する。盗賊である自分では虚竜には敵わない。だからここで聖女を守れずに死ぬ。

 どうすればいいかなどもう教えて貰っているだろう。

 真空はそこにある。熱量もそこにある。触媒もそこにある。必要とされる魔力は最低限度、

 そして手段などは手癖で十分に事足りる、なにせこんなもの、後悔するほどに繰り返した実験手順を辿るだけ……!


「魔力を以て――」


 聖女の剣から闇が生える。これは理論上世界最強の漆黒を有するもの、

 空間が捻子曲がったかのような錯覚は、光が逃れ得ない檻であるため、

 悠長な成長速度を待っていられない、待っていられない程度ならば、それを魔力によって棄却する、

 成長環境は良好、後は触媒と材料の供給の供給を維持する、闇は放たれた。


 この闇を貫通できるはずもない、この闇を焼き尽くせるはずもない、

 虚竜の火炎は檻から脱出できずに減衰した。闇の衣は空間の断絶と同義だった。

 だったらついでだ。爆発魔術なら誰にでもできる。自爆を攻撃にまで昇華させるには防壁が必要で、

 最強の防壁ならもうここに築かれた。眼前には黒い球体、景気良く行こう、惜しみはしない、

 腹は減るが僕の熱量を持っていけ、全身全霊を込め爆ぜろ邪悪!


「――灰と成せ……ッ!」


 爆発に、視界が黒く染まっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る