第13話

夢を見なくなる、という統計データが出たのは琴音が高校最後の年になってからだった。もちろん通っていれば、の話だが。


その記事は地方版の新聞の小さなところにしか出ていなかったが、小学生の「夢を最後に見たのはいつですか」というアンケートに対し「2年前」または「1年前」というものがほとんどだったのだ。


最初のうちは彼女はそんなこともあるものか、と思いながら記事を読み飛ばそうとしていた。


しかし。

気づいた。気づいてしまった。


私が夢を覗き見れるのも丁度同じ頃ではないか。それに子供の方が夢は見やすい。その子供たちが2年前から夢を見れていないとしたら……。


彼女がとある結論にたどり着いた時には、顔が青白くなっていた。


「私……夢を覗いていたんじゃなかったんだ……」


夢を『盗んでいた』のだと。


ということはあのミリオンセラー作家が新刊を書けなくなったのも私のせいだ。

他人の夢を見ようなんて最初から思うんじゃなかった。


頭を抱えるが、もうすでに盗んでしまった。その夢を返せる方法はないのか。どうにかして彼らが夢を見れるように戻せないか。


結局悩んでも何も変わるわけでもなかった。

失われたものは戻らない。もう何もかも手遅れなのだ。


「……ごめんなさい」


私の頬に生暖かい涙がつうっ、と通るのを感じた。

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