第12話

他人の夢を覗けるという奇怪な力が手に入り、約1年が過ぎた。

つまり、私は大体365個の夢を見たことになる。


夢の内容は人それぞれで、借金が膨らみ破産する夢、ピアノコンクールで最優秀賞をとる夢、宇宙人が自販機で飲み物を買う夢……。


中でも一番驚いたのが、数学軍「ユークリッズ」と音楽軍「ハーモニクス」が数式や楽器を使い、永久機関を巡って戦う戦争をする、という夢だ。


数学軍の方は紙に数式を書きながら「フレネル積分! ターゲットをSsin x^2dxと定義! 不定積分により-∞世界から∞世界へ移行!」と叫んでいたり。

音楽軍の方はギターを持ちながら「空間を32分音符でカッティングしてやるよ! ピアニストは空間クラスターの準備をしとけ!」と言っていたり。もちろん意味はわかっていないが。


とてもリアルな夢で、まるで私がその場にいるかのような臨場感だった。

もちろん個性的な夢だし、それだけで十分驚くに値すると思っていたのだが。


事が起こったのはその夢を見た翌月、私は家族で夕食を食べている時だった。

麻婆豆腐を食べ終え、おやつの杏仁豆腐を食べていた時。さっきまで天気予報をしていたリビングのテレビの画面が切り替わり、とある作家が出た。なんでもミリオンセラーの本を出したとか。

その本のあらすじを聞いていくうちに、なにやら覚えのあるような内容……。思えば、なんと私の見た夢と完全に一致しているではないか。


つまり私はミリオンセラー作家の夢を覗いていたのだ。


それであんなにリアルでストーリーも面白かったのかと納得すると同時に、私はリビングで杏仁豆腐片手に思わずとも叫んでいた。


それからさらに翌月になったが、その作家は新刊を出さなかった。本が売れたら新刊は出るものだと思っていたが、どうやら大人の事情があるのだろう。

テレビのインタビューで本人は「夢が見れなくなってからどうもアイディアがうかばない」と言っていた気がする。


そういえば妹の凛も最近夢を見なくなったらしい。そういう年頃なのだろうか。


……まあ私の気にすることでもないか。


そうして私はまた眠りにつくのだった。

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