第10話

∆∆∆


カフェ『バイサ・ヘクサ』にて。


「いらっしゃいませ」の声が自動ドアが開くと同時に聞こえてくる。デートをしている最中らしき男女が手を握り合いながら、店員の指示に従い窓際の席に座る。年は若い。まだ高校生だろうか。どちらも自分の歳に合った身だしなみを理解しているようで、シンプルな服装をあえてしているようだ。


外はまだ明るいが、少し夕日がかっている。太陽を邪魔する雲がないため、それは見事な半円形を空に描いていた。

互いが向かいの席に座りコーヒーを頼むと、ふたりは話し始めた。趣味の写真の話や音楽の話など……。

それは店員がコーヒーを運んできてからも続いた。


どれだけの時間がたっただろうか。辺りはすっかり暗くなり、街灯もぼちぼちとつき始めたころだった。

やがて話も終盤になり、ふと夢の話が出た。


「そういえばスズは最近どんな夢見よる?」


男が聞く。スズというのはどうやら女の名前らしい。

スズはもう中身のなくなったコーヒーカップをいじりながらいう。


「うーん……変な夢を見てからそれきり見とらんね……」


「どげん夢見たと?」


男が興味深そうに体を乗り出す。


「なんかうちとハルがキスする夢やったんやけどね……それが誰かに見られてる気がして、それからそのまま動けなくなって……って夢……」


女は少しうつむきながら話す。

男もその状況をまずいと思ったのかフォローする。


「だ、大丈夫! きっとまた夢くらい見れるけん元気出しね?」


「せやよね……うん、きっとまた見れるばい」


……。


すっかり夜になろうとしている空を横目に、ふたりの話はまだ続きそうだった。

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