第6話
「ずっと君のこと、好いとったんよ」
夕焼けで赤く染まる放課後の教室。風になびくカーテン。静かに向き合う2つの人影。
最初に言葉を発したのは女の子の方だった。つまり女の子の方から告白したことになる。
私は昨日の変な夢とは違うということで少なからず興奮していた。それに外に出れない私からしたらこういうのはすっごく憧れるから。でも他の人の告白シーンなんて、たとえ夢だとわかっていてもやはり見にくいなと思ってしまう。
「俺もだっ」
男の子が女の子の方に駆け寄り抱きしめる。顔は夕焼けでよく見れないけれど、私にはわかる。影がイケメンのそれだ。多分。
「でも……まさか両思いやったなんて……こげな遠回りせんでよかったたいね」
女の子が喋るが。方言がきつい。聞き取れないかも。
「しゃーしかぁ、今こう気持ちを一緒にできたんだからそれでよか」
しゃ、しゃーしか?なんだそれは。まるで別の言語みたいだ。この訛り方だと博多弁? なのか? 津軽弁じゃなくてまだよかったともいえるのか。部分部分で聞き取れる。
「はぁ……ばり嬉しか……」
ばり嬉しか。それはよかった。
私はずっと部屋にこもりきりで、会う人と言ったら家族くらいだ。なので恋愛には疎い。そのため、恋愛を見せられてもいまいちピンとこないのだ。もちろん『ドキドキ☆文系女子と理系男子は付き合えるのか?』は別として。あれは恋愛要素を抜きにしても面白いのだ。あの面白さをわからない人は以下略。
ふたりは見つめあってどんどんお互いの距離を縮めていく。ふたりの顔は見えないが、容易に想像できるし、これからなにをしようとしているのかも私でもわかる。
その予想に違わず、ふたりは唇を重ね合わせた。
「これが青春か……若い……」
呟く言葉も思わずおばさんのような言葉になってしまう。それくらいピュアということだ。多分。
……。
……。
……。
……って、いつまでキスしたままなんだろう。1分は経っている気がする。
他人の恋愛事情をみるのはこれが初めてかな。いや、一昨日にひとつ、トラウマになりそうなやつがあったっけ。最初は母の夢も覗いてみたかったけど、父のあの夢を見てからどうも覗きたくなくなってしまった。
そんな思い出に思いを馳せている間もずっとふたつの口は重なったまま動かない。その姿はもはや石像だ。
このあとどうなるんだろう、そう思っていると。
私は目が覚めていた。
∆∆∆
「えっ、終わり?」
ベッドに横たわったままそう呟く。あまりにも突然すぎる。これが小説だったら相当な批判を食らいそうだ。
でも実際これで彼らの夢は終わってしまったのだ。私はため息をつく。さて、このままでは収まりも悪いだろう、ここで少しだけメタ発言を置いておこう。
批判でもなんでもしてくれ、ごめんなさい、と。
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