目覚めよ真の力!

時は遡りギョロSIDEーーー


アテナ、ケンジ、そしてわいはゼウスの像に呼ばれ、祭壇にまでやって来た。


海底都市ルルイエの更に地下に大きなゼウスの像があり、そこでアテナ様を中心に神託を受ける。


しかしわいらまで呼ばれたのは珍しいケースや。

一体何があったんや?


と内心思いながらアテナ様とケンジ様の後をついて行った。


そして大きなゼウスの像の前にひれ伏し、瞑想をするわいら。


ゼウスの像が語りかけてきた。


『私の見初めたガニメルと言う青年の生まれ変わりが誕生した、彼女には「陽」の力を与えたが一つ問題がある』


「問題…ですか?」


ゼウスの言葉にアテナ様は眉間にしわを寄せながらゼウスに聞く。


それにしても「彼女」とな、ゼウス様はガニメルの兄ちゃんを女の子に生まれ変わらせたみたいやな。


『うむ、彼女の「陽」の力は思いの外強い、いずれはあのデジェウスを倒す事も夢では無い』


ん?ここまで聞くと何が問題なんかわからへんよ?


「でもそれはとても良い事なのではありませんか?」


アテナもわいやケンジと同じ考え方でゼウスに問う。


『しかし彼女はまだ赤ん坊、しかも成長するのに時間がかかり、自分の力を自覚するのにもずっと先の話、それと彼女は俗界の人間、それを知らせても家族も戸惑わせるに違いない』


こう話を続けるゼウス神。


「それで何が問題なのですか?」


『おおそうだった』


ゼウスは大事な事を言い忘れたと言った様子に声を繋ぐ。


『彼女は自覚の無いまま「陽」の力を放つであろう、そうすると確実にデジェウス皇帝やインスマス達にその大きな力を突き止められ、命を狙われるに違いない』


その言葉を聞いて初めてギョッとするわい。

彼女は生まれ持って大変な宿命を負った子と言うことになる。


因みに「陽」と言ってもそれがどんな力なんかはわいもようわからん。


『そこでギョロよ、そなたに頼みがある、徳島の海溝家に潤実と言う赤ん坊がいる、彼女にそなたの異能インスマスを与えてやってくれ!』


「え?そんなことしたらわい力使えなくなりまっせ!?」


わいは慌てて抗議する。


「何故あの子にギョロの力を?」


「そんな事をしたら潤実と言う子の「陽」の力が半減されるどころか「海」の力も強いものがだせなくなりますよ?」


ケンジとアテナが口々に疑問を投げかける。


『それには重要な意味がある、彼女の力をえて弱くする事でデジェウスやその部下達に居場所を突き止められないようにする為じゃ』


ゼウスはそう答えた。

ゼウスの為ならしゃあないんかな?

出来ればこの力手放したくないけんど…。


…と言うわけでわいは徳島にやってきた。

徳島はのんびりしとって良えところやなあ♪

それなのに女の子はべっぴんさんが多いし人は親切やしずっとおろうかな?


あかん危うく任務忘れてまうとこやったわ…ともかくわいの任務は海溝潤実言う赤ん坊にわいの力をあげて元々あの子が持っとる強い力を相殺する事や。


せやけど皮肉なもんやな、デジェウスらに居場所ばれんようにする為とは言えわいの力をあの子にやらなあかんなんて…。


あの子の親に顔見られんようにしろて言われたから忍者みたいに忍びよらなあかんな…。


わいは徳島の街を眺めながら空を飛び、海溝潤実言う女の子のおる家へと向かった。


海溝家は市内の住宅街の中の一軒家の一つやけんどわりかし大きくて綺麗な家やった。


庭も広いしバスケができる広さはあるな。

プールは無いんか、残念やな。


あ、ここは日本やけんプールがあったら珍しいわな♪

わいは二階から忍び込む。


他人の家に忍び込むて泥棒みたいな事はしたあないけんど任務は任務や。


入り込むと良い匂いが家中に漂う。

癖になるなあ。


その時ゆっくりとした音楽が鳴り、音楽の鳴る方へ漂うように進むとゆっくりと回るベッドメリーの飾られたベビーベッドに寝かされた小さな赤ん坊を見つける。


ベッドには「うるみちゃん」とご丁寧に名前も書かれている。


それにしても可愛いなあ♪あやしたいわ、ほなけど姿ばれんようにわいの力やらなあかんけん悔しいのう悔しいのう…。


そこでわいは潤実ちゃんの体内から溢れ出る異能インスマスを感じる。


うーんこれだけの力放出しよったらデジェウスらにも見つかってまうかな?


わいは改めてゼウスの言った事は正解と察した。

そこでわいは潤実ちゃんに自分の異能を与える作業に取り掛かる。


さらばわいの海の異能インスマス…潤実ちゃんに大事に使われるんやよ。


と言っても潤実ちゃんの元々持っとる「陽」の力と一緒に「海」の力も半分半分になってまうけどな…。


ほなけどこの子大きいなってクトゥルフ戦士になるとしたら力の弱い異能者インスマスであるのに泣きたあなってまうかも知れんなあ。


そんな事を思っているとほんまに潤実ちゃんが泣き出した。


「おぎゃあ!おぎゃあ!!」


赤ちゃん可愛い思ったけど泣き声うるさ過ぎ!静かにせんかいコラ!!


そんな時ドカドカと言う物音と共に潤実ちゃんのオカンっぽいのが駆けつけてきた。


「潤実どうしたの?お腹ちゅいたの?よちよち♪」


猫なで声でうるみんをあやすオカン…。

ふう…ベッドの下に隠れて良かったわ…見つかったら一大事やった…。


おかんはうるみんをまたベビーベッドに寝かしつけ、台所に向かう。


さてとわいの力をうるみんに与えるとしますか。

ほなけどうるみんの力を半減させる為にわいの力を分け与えるって何とも皮肉なもんやなぁ…。


せやけど我慢しいよ、わいとまた出会う事になったらあんさんの本来の力を役立てる時が絶対来るから…。


やがてわいの「海」の力は全て海溝潤実と言う赤ん坊に譲られる。


さてこの子がどんな風に成長するんか…楽しみでもあり不安でもあるな…。


このままクトゥルフにならんと過ごせたら良いけんどゼウス様が目を付けた赤ん坊やしこんな愛くるしくてもガニメルあんちゃんの生まれ変わり…。


何らかの運命で絶対ゼウスやアテナ様に出会う事になる、いや出会わなあかん運命や…。


ほなけどこれならデジェウスらに見つからんで済む、ほな潤実ちゃん、達者でな!


そしてわいはルルイエへ戻った。


海溝潤実SIDEーーー


そうか…だから私はインスマスの力弱かったのか…。


何となく納得したと言うか…安心した…。


私の力が弱いのは結局努力不足なのか…どこまで頑張れば良いんだと歯痒さを感じていたから…。


『さあうるみん、あんさんの海の力、わいに返してや』


ギョロが言ってくる。


「うんそれはわかってるけど返し方がわからないよ」


「簡単や、あんさんが持っとるありったけの「メイルストローム」をわいにぶつければ良いだけや!」


ギョロはしっかりと答えた。


「でも良いの?そんな小さな体じゃ簡単に吹き飛ばされてしまうんじゃ…。」


「良いから放ちや!アテナはんが負けても良えん!?」


急いでいるのはわかるけどそんなに怒らなくても良いじゃない!


「すまんな、海の力使えんでこの方不便しとったから」


ギョロは謝ってくれた、その事情があるならしょうがないかな。


「じゃあ行くよ!」


私はクトゥルフに変身しメイルストロームを放つ構えを取った。


「さあいよいよわいの力を見せる時や!」


ギョロは意気揚々と最高の関西弁を放った。


「メイルストローム!!!」


私はギョロにメイルストロームを放つ。

ギョロは大きく裂けた口を開けて私の放ったメイルストロームを飲み込むように受け止める。


ズボボボボボボボボボッ!!!


メイルストロームがどんどんギョロの口の中に入っていく。

ギョロの体の中は四次元の空洞が広がっているのではなかろうか?


そしてギョロの体は一ミリも後ろに下がってない。

これだけの衝撃波を放っているのにも関わらず。


ケンジとサキュラは真剣な眼差しで私の放つメイルストロームとそれを受け止めているギョロを眺めるばかりで一言も発しない。


『あんさんのメイルストロームはその程度のもんか!こんなんじゃ一匹もインスマス倒せれへんで!!』


なんとギョロはメイルストロームを受けておきながらこんな事いうではないか!


くっそこうなったらありったけのメイルストロームを放ってやる!

怪我しても知らないから!!


私は更に本気で悔し紛れに歯を食いしばりながらありったけのメイルストロームを放った。


もう遠慮も配慮も頭には無く、ただあっと言わせてやろうと言う負けん気でメイルストロームを放つ私。


それでもギョロは涼しげな表情を崩さず、私の本気のメイルストロームを大口を開けて飲み込む。


メイルストロームを放っている最中、私自身何らかの変化が起こっているのを感じた。


私のギョロから与えられたとされる「海」の力が弱まっていき、代わりに違う何かが私の体の奥底から溢れてくるのを肌で感じる。


その時ケンジが初めて「おおっ!」と目を見開き、感嘆の声をあげた。


そしてサキュラも少し目を輝かせる。


『来たで来たで来たで!!!』


ギョロはテンションが上がっているのか歓喜の声を上げて体が光りだす。


私とギョロの身に何が起こっているのか?

それはギョロが本来持つ「海」の力を取り戻し、私は「海」の力を失う代わりに別の力、つまり私の本来持つべき力が私の体内から溢れていたのだ。


そしてメイルストロームを放ち終わると私はハァハァと息を切らす。


しかし何か清々しい、そんな気持ちだ。


なお私の姿が違うものになっているらしく、サキュラが「綺麗…」と呟いていた。


「これが潤実殿の本来持つ「陽」の力…」


ケンジさんもそう呟く。

そしてギョロは力を取り戻してテンションが上がっているのか元気の良い声で放つ。


「ありがとなうるみん!わいの「海」の力、お礼に見せてやりまっせ!!」


そしてギョロは空を舞い上がる。

その時の事、ギョロは先程のアンコウの姿とは別の、長く神々しい海蛇のような姿となる。


「!!」


それを見た私も心底凄いと思ってしまう。


『よう見とき!これがほんまの「海」の異能インスマスやー!!!』


ギョロは巨大な潮の竜巻を起こし、煉獄の炎をかき消していく。


凄い…あれだけの炎がギョロ君の異能インスマスで次々とかき消されて行く…!


サキュラSIDEーーー


やっぱり潤実の力とは違うわね…。

潤実のはやはり貰ったもの…それも本来の力を抑える為…。


潤実の力が「海」だけのもので無いのはわかっていた…。


でも潤実の力は戦いには使えないから敢えて言わなかったけれど。


その「陽」の力は相手に力を与えるのを主とする異能。

確かに潤実は戦士としては不十分。


でも安心して、別の分野で貴女が活躍する機会はあるから。


「畜生!儂の邪魔をするで無い!!」


デジェウスは潮の竜巻を灼熱の炎で相殺し炎が完全にかき消されないようにする。


アテナ様は頭を抱えもがき続けている。


『くそっ、デジェウス!アテナをこのままトラウマに苦しませるつもりやな!メイルストローム!!』


更にギョロは強力な青い波動で灼熱の炎を消して行く。


しかしデジェウスも炎を巻き続け収集のつかない戦いは続く。


その時こそ潤実の出番!


「潤実!貴女に発現された「異能インスマス」でギョロを助けるのよ!」


私は潤実に放った。


海溝潤実SIDEーーー


デジェウスが灼熱の炎を巻き続け、ギョロがそれをかき消すと言った押し問答が繰り返し行われていた。


私も何かしなければ…。


「潤実!貴女に発現された異能インスマスでギョロを助けるのよ!」


サキュラの第一声が入った。

そうだ、今こそ「陽」の力を使う時!

私は目を瞑り、自分に眠る異能を調べた。


「クトゥルフブースト!」


そして私はその確認出来たスキルを放って見せた。

するとギョロの異能はますます強大なものとなり、デジェウスの灼熱の炎を押して行ってしまう。


「炎の勢いが弱く…!」


ギョロの「海」がデジェウスの放つ「炎」を押し続け、やがて街を覆っていた灼熱の炎は完全に消え去ってしまう。


「そんな…神たる力を持つ業火が魚の異能者インスマスごときに押されてしまうとは…」


デジェウスもアテナも茫然自失と言った表情で炎がかき消された後の街周辺を見つめる。


『うるみんやれば出来るやんか!それがあんさんの力や!』


「うん!」


私の力が役立って良かった!

ギョロが私を労い、私は嬉しくなり満面の笑顔をギョロに向けて返事をする。


でも私はどうやら主役にはなれないみたい…。

まあ元々喧華さんが主人公みたいだし…。


メタな話は置いといてアテナ様のトラウマの元がかき消されて無くなり、アテナ様の顔色も良くなった。


『さあアテナはん!あんさんのトラウマの元はかき消したで!思う存分戦いや!!』



ギョロがドヤ顔でアテナ様にこう言い放つ。


「恩に着ますギョロさん!」


アテナは元の凛々しい表情に戻り戦意を取り戻し立ち上がった。


「デジェウス!もう過 去にも貴方にも惑わされない!」


「ぐぬぬ…」


デジェウスは悔しそうな表情で歯軋りする。


「アテナ様!私の力、受け取ってください!!」


私はギョロに放ったようにクトゥルフブーストをアテナ様に放つ。


アテナSIDEーーー


凄い…!みるみる内に私の力がみなぎってくるわ…。


さあこの力でデジェウスを…。

一方のデジェウスは殺気立った表情をなんと潤実さんに向けていた。



「くっ、この強い力は…あの小娘…先に始末してくれる!」


デジェウスは潤実さんに飛びかかってきた。

いけない!このままだと潤実さんがデジェウスに…!


「させないっ!」


デジェウスの牙が潤実さんにかかる前に私は足を踏み込んでデジェウスと潤実さんの間に割り込みデジェウスを蹴り上げる。


デジェウスは後ろに蹴り飛ばされるが一回転し、地に足を付けた。


デジェウスに攻撃のいとまを与えないように畳みかけなければ!


私はデジェウスに猛攻撃を仕掛けようとした。

しかしデジェウスは自身の身体能力を格段に上げる「パワーブースト」をかけ、逆に私の猛攻を受け流す。


「うおりゃー!!」


デジェウスは猛攻を猛攻で返すように私を畳みかけようとする。


私も負けていられない。

潤実さんは私にクトゥルフブーストをかけ続ける。


もし潤実さんが私に力を与えなかったら流石の私もパワーブースト化されたデジェウスの猛攻を防ぎきれなかっただろう。


今のところ、私とデジェウスは互角の戦いを繰り広げている。


デジェウスSIDEーーー


くっ、アテナめ…あの小娘の力を使いおって…。

パワーブーストを自らにかけ、何とかアテナとは互角に戦えているがどこまで持つのやら…。


しかしだ…アテナは気付くまい、儂には更なる切り札がある事を…!


アテナは死にものぐるいで儂に攻撃を叩き込む。

儂も当然死にものぐるいだ。


勝つか負けるかのこの戦い…兄妹だろうが…男だろうが女だろうが関係ない…相手は女でも強大な異能と身体能力を持つ破壊の巫女!


破壊の巫女は海溝潤実という小娘の力も手伝い、更に儂を押してくる。


ちょうど儂がアテナに徐々にだが押されつつあるその時、儂は最後の切り札を使った。


パッ!


儂が放ったのは召喚術。

数百人の若い女子を儂はソドムに召喚した。


女子、特に若い女子は生物学上、応援する事によって人にエンドルフィンを分泌させ、やる気、パワーを与える能力に長けている。


幸い、儂のファンの女子は数百人いて、その女子の応援の力を利用して自身の異能インスマス力を上げ、逆にアテナの力を下げる作戦に出た。


アテナは嫌われ者、そして我慢強くはあるがメンタルが弱いアテナも批判され続ければ戦闘力は大幅に削られる。


海溝潤実の「陽」の力を持ってしても。


「見て!デジェウス様と破壊の巫女が戦っている!」


そして召喚された数百人の女子は儂とアテナの戦いの場を一斉に見る。


「「デジェウス様頑張って!!」」


「「破壊の巫女なんかに負けないで!!」」


女子達の応援を受けて儂の力は増幅されていく。


「くっ!デジェウス!数百人の女子を召喚して彼女らの応援を借りて力を増そうとしているのか!」


ケンジが言い放つ。

御名答だがそれだけでは無い!

アテナの弱点を更に突いて奴の戦闘能力を潤実の力を持ってしても増大させられないようにしてやるわ!


「ふはは!儂にはこのように応援してくれるファンが沢山おる!貴様にはいるか?いるならここに召喚してみせよ!!」


「くっ!」


アテナの戦闘能力は案の定削られ、力もスピードも鈍る。



アテナは防戦一方となり、儂の蹴りに地に滑り込む。


儂はここぞとばかりにアテナの顔を踏みつけ、詰ってみせた。


「くくくアテナよ、そろそろ本当の事を話したらどうだ?貴様がこのソドムの街を滅ぼした張本人だとな♪」


「くっ!」


禁句の言葉に敏感になり、アテナは慌てて口封じの攻撃に転じるが儂は逆にアテナを踵落として地に伏せさせた。


「本当なのデジェウス様!?」


「酷い!」


口々にアテナを非難するギャラリー女子達。


「本当だ、この女は守ってきた街を逆に滅ぼしたのだ!」


アテナSIDEーーー


あれは私のまだ15歳の月日の事…。

私は毎日のようにソドムの街を守っていた。


しかし皆が皆私を労うどころか疎ましい目で見て、私の苦労も心の飢えも知れないでカップルとなったり家族で仲睦まじくして私に見せつけてくる…。


そしてデジェウス兄さんは毎度の如く若い女の子達を連れてリア充ぷりを見せつける。


私は独り寂しさを我慢して街を危険から守っているというのに…。

そしてついに私の怒りは頂点に達した。


「リア充よ爆ぜろ!フレイムテンペスト!!!」


私は我を忘れて街を灼熱の炎に包み込んだ。

私の若気の至りで守ってきた筈の街は守ってきた私自身の手で滅ぼされた。


「デジェウス様本当なの!?」


「デジェウス様可哀想…!」


女子達は揃いも揃ってデジェウスを擁護し同情する。


そしてデジェウスは味をしめて嘘泣きをしだす。


「儂は本当はアテナを尊敬していた…なのにアテナは恩を仇で返したのだ!しくしく…」


「皆さん騙されてはいけません!デジェウスは嘘泣きで人を蹴落とす腐れ外道です!!」


私は弁明するが女子達は私を睨みつけたまま次々と罵声を浴びせる。


「腐れ外道はどっちよ!!」


「強い者いじめは許さないんだから!!」


そして女子達はデジェウスに更に強大な応援を送る。


「デジェウス様!何があっても私達は貴方の味方だからね!」


デジェウスの異能がさらに増幅されるが一方の私は自身の人脈の無さにどうしようもない劣等感、そして街を滅ぼしてしまった罪に苦しみ、戦う意義を見出せない状態となった。


「ありがとう皆の衆!おかげで儂は元気を取り戻した!さあ行くぞアテナ!!」


デジェウスは一方的な攻撃を矢継ぎ早に浴びせてくる。


このままでは戦況は不利だわ…!

戦闘能力は私の方が上のはず…しかし奴は悪知恵とカリスマ性で私をとことん追い詰め、自分の戦況を有利に持っていく。


私には強さと優しさ以外に…何があるの!?


海溝潤実SIDEーーー


数百人の女子ギャラリーがいつのまにか街を覆っていて、皆どう言うわけかデジェウスを応援している。


一方のアテナ様は次々とギャラリー達からも罵声を浴びせられ、デジェウスの攻撃と共に精神攻撃を浴びせられる。


数百人の女子の力がデジェウスに集まっている。


私一人の力じゃ数百人の女子ギャラリーに勝てないよ…!


私は弱気になりだす。

弱気になりだすと共に少しアテナ様に送られる光が弱くなったのをサキュラは見逃さなかった。


「潤実!!」


サキュラが私の手をその小さな手でぎゅっと握る。


「応援しているのは貴女だけでは無い、私もついている!」


サキュラはこんな大勢のギャラリーの向かいでも数少ないアテナ様の味方の一人…そうだよね、例え向こうが大勢に囲まれていても…。


「そうですぞ!」


次いでケンジ様もギョロ君もサキュラの言葉に頷く形で私に語りかけてくれた。


『わいもアテナはん応援しよる!せやから向こうのギャラリーの人数なんか気にせんと応援しいや!』


「みんな…!」


私は三人に励まされ、アテナ様を応援し続けた。


「ちょっと貴女!あくまで破壊の巫女を応援するの!?」


女子ギャラリーの一人が私達に声を荒げる。


「破壊の巫女は豊かだったこのソドムの街を滅ぼしたのよ!!」


「悪い事は言わない!破壊の巫女には関わらない方が身の為よ!!」


ギャラリー達はアテナ様を悪く言う事で私を仲間に引き入れようとする。


ケンジSIDEーーー


アテナ様は確かに街を滅ぼした………。


しかしアテナ様もやはり一人の人間であり、女性なのだ。


あの時、儂と娘もいた。


「ここで良い子に待ってるんだよ!」


「うん!」


儂は娘を待たせ、選挙の投票に向かった。

その時に悲劇は起こった。


あのアテナ様が街を守る戦いから帰ってきたのだ。


しかしその時は休日…カップルや家族連れが特に多く集まるイベントの日…。


ただ一人孤独と戦いながら街を守り続けているアテナ様には見るに耐えぬ光景であっただろう。


アテナ様はこの街全体を炎で焼きつくしてしまったのだ。


そこには我が娘もいた…。


「ミーナ!大丈夫か!!?」


ちょうど燃えている箇所に娘を待たせていた儂は娘を血なまこで探した。


やがて娘を見つけるのだが…娘は横たわり、何も語らぬまま眠っていたのだ。


「ミーナ!ミーナ!!」


泣きながら娘を揺さぶる儂。


そこでちょうどボロボロの姿で儂を見ている少女と目があった。

「勇者様!?」


その少女は当時勇者と言われていた。

しかし彼女は勇者であるにも関わらず嫌われ者だった。


その勇者様こそアテナだった。


アテナ様は儂と共に娘を助けようと必死に奔走してくれた。


だがその甲斐もなく娘は息を引き取ってしまった。


儂は何日も食物が喉を通らない日が続いた。

アテナ様は見るに見かねて儂に言った。


「ミーナさんを殺したのは実は私です…街を滅ぼしたのも…」


儂は初めは信じられなかった。

ただどう接したら良いのかわからなかった。


「ありがとうございました…貴方と出会った事は忘れません…そしてごめんなさい…」


アテナ様はそう言い残し去っていってしまった。


娘の墓を建てた後アテナ様の事がふと気にかかり儂はアテナ様の行方を探す事にした。


あの生気を無くしたような口ぶりから自ら命を絶とうとしているのでは無いかと思ったのもある。


アテナ様の行方を探す事一週間、アテナ様は何と岩山の下に横たわっていた。


顔色は蒼白で唇も紫色になっていた事から飲まず食わずして命を絶とうとしたのだろう。


儂はアテナ様を介抱した。


「何故私を助けたのです!私は街を滅ぼし、貴方の娘を殺したのですよ!」


そう怒声を放って来たが儂はそんなアテナ様を逆に叱咤した。


「何も若い命を散らす事はない!過去に何かしてようと貴女は一人の女性!今はこうして反省している、それで良いではありませんか!!」


そう放つとアテナ様は泣き崩れ、私に何度も謝った。


時は戻り海溝潤実SIDEーーー


「もし貴女がそれでも破壊の巫女の味方するって言うのなら私達全員を敵に回すって事を覚悟する事ね!」


女子ギャラリーは鋭い剣幕で私を脅す。


「潤実!惑わされちゃ駄目よ!」


『せや!あんさんはああ言われても簡単に靡かれるようなヤワな子や無い!自分を信じるんや!!』


サキュラとギョロは女子に脅されて少し気弱になっている私を懸命に励ます。


うんそうだよね、相手に脅されたって、自分は自分の信じる道を進めば良い…これはサキュラから教えられたんだ、だから私は自分の考えを変えるつもりは無いよ!


「私は…アテナ様の味方を変えるつもりは無いよ!だって、破壊の巫女と言われてもアテナ様はアテナ様だもん!!」


私は言い放ってみせた。

少し自分の言った事に後悔する。


しかしサキュラ、ギョロ、ケンジ様の三人の表情は綻んでいるように見えた。

そうだよ!私も嫌われ者!同調圧力に屈する必要なんて無いんだ!


自分の意志で突き進めば良い、そうだよね!


「貴女ね!!」


女子ギャラリーが掴みかかってくる。


ブオオオオオオォ!!!


水のような竜巻が突如私の目の前に出現する。

一体何があった、と一瞬びっくりしたがアンコウの生き物の最高の関西弁でその正体がわかった。


『おっと可愛い子ちゃんが暴力振るうんはやめや!』


そう、ギョロが小さな潮の竜巻を私とギャラリーの間に噴出させ、女子が私に掴みかかろうとするのを制止したのだ。


「「見てなさい!デジェウス様ー頑張って!!」」


数百人の女子ギャラリー達は一斉にデジェウスに声援を送る。


「私だって負けない!アテナ様私の力を受け取って!!クトゥルフブースト!!」


私もアテナに力を与え続けた。


一方アテナVSデジェウス、二人は決死の死闘を繰り広げていたが…。


「フフフアテナよ、どうやら小娘一人のエールよりも数百人の女子のエールの方が一枚上手のようだな!!」


戦況の方はデジェウスの方に軍配が上がっていた。

女子ギャラリーから放たれるキラキラした光がデジェウスに集中して集まり、デジェウスの身体能力と異能の力をより強くする。


デジェウスの矢継ぎ早に放たれる連続攻撃にアテナはひたすら苦戦する。


駄目だ…四人だけのエールじゃ数百人の女子ギャラリーのエールには勝てない…!


私の「陽」の力ってその程度のものだったんだ…。

そもそも日陰者の私に「陽」なんて似合わないんだ。


ケンジSIDEーーー


再び潤実殿に元気が失われていっている。

私も数百人の女子ギャラリーのエールに潤実殿の力が敵うとは思っていない。


だがこれは試練ですぞ!

どうかゼウス様から与えられた試練を超えてくだされ。


私はアテナ殿との過去を再び思い出す。


時は遡るーーー


アテナ殿に出兵依頼が下された。

世の中は今第三次世界大戦の真っ只中…。


しかしアテナ殿は少女…私ならともかく何故アテナ殿に…。


私は半分怒り心頭に直接駐屯地に赴き、幕僚長と言う自衛隊の中でそう言った指示を下すお方に話をつけに行った。


「イシマ将補!私ならともかく何故アテナ殿に出兵依頼を下すのです!?」


イシマ将補は見下すような口調で放った。


「これはあの娘に与えられた試練だからだ」


「試練だとしてもアテナ殿は女の子、そしてまだ16歳の花盛り…!戦争に駆り出すより普通の女の子として過ごさせては下さらぬのか!」


私は将補からアテナに与えられた試練と言われ、より納得いかぬ憤慨に駆られ更に啖呵を切る。


「ケンジさん!!」


アテナ殿が私を止めに入る。


「良いんです…私は生まれついての勇者…私はただ勇者の使命に従うのみ…」


アテナは憂い深き表情でそう呟いた。


「そう言う事だ、さっさとその小娘共々戦死しに行くと良い!」


そう言って将補は邪魔者を扱うようにシッシと手を振った。


「ケンジさん…私と関わらない方が良いんじゃ…貴方まで嫌われますよ?」


「そなたを放って置けますか!私は地獄の果てまでアテナ殿に着いて行く覚悟は出来ております!」


結局、私もアテナも出兵する事となった。


儂はアテナ殿を命がけで守り、そしてアテナ殿も儂を命がけで守ってくれた。


しかし戦争から帰って来る頃には…。


儂らは多くの血を流し過ぎた…。

帰ってくる儂らを軽蔑する目で見る者達。


「帰って来たよノコノコと…」


「他の兵士が沢山死んだってのに良い気なもんだ!」


他の兵士が帰って来れば歓迎して良く頑張ったと労うのにアテナ殿は出迎えもされず、帰ったら帰ったで鼻摘まみ者のようにあしらわれる。


儂もアテナ殿と一緒の身だから当然、アテナ殿と同様鼻摘まみ者にされた。


しかしアテナ殿はずっとこんな思いをして過ごしてきたのか…。


よく我慢して耐えられたものだ。


儂も正直、アテナ殿と過ごす事になる前はずっと彼女を心底軽蔑していた。


娘にも「アテナには挨拶したり話したりしちゃ駄目だよ」と話していたが今となっては恥ずかしい事だ。


嫌われ者の身は嫌われてから初めて知る事になる。


こんな思いをしつつアテナ殿は笑顔でいて、街を守ってきたのだから本当に尊敬する。


こんな儂の気持ち、そしてアテナ殿の気持ちは誰にもわかるまい。


しかし、アテナ殿には一人兄がいた。

兄は妹とは対照的で街の中でも引っ張りダコで男女に関わらずもてはやされていた。


そんな兄、デジェウスはどこで何をしているのか?

噂では豪邸に住んでいるなどと様々な話をチラホラ聞く。


しかし血を血で洗う戦争から帰ってきたアテナ殿も甚だしく精神的にダメージを負ったようで自分の勇者としての宿命を嫌うようになった。


「私はもう勇者をやめたい!殺し合いしなければならない位なら勇者なんてしたくない!!」


側にいた私は何とかしてあげられないだろうかとアテナ殿も連れて神殿に赴き、神託を受ける事にした。


その時出会ったのがゼウスの像だ。


『ケンジ殿、アテナという娘は嫌われ者、そして勇者としての使命がある、そのどちらかを捨てい、その代わり、アテナ殿には巫女になってもらう!』


アテナ殿は二つ返事で答えた。


「私は勇者であるばかりに戦争に出兵し、多くの血を流してきました…私は嫌われても良いんです…でも勇者は真っ平御免、ゼウス様、私を巫女にしてください!」


『良かろう』


そしてアテナ殿は巫女となった。


『してケンジ殿、そなたはアテナ殿の従者となり、アテナ殿の身の回りの世話をする役に命ずる、受け取ってくれるな?』


「ははっ、有難き幸せ!」


そして儂はアテナ殿の従者として尽くす事になった。


しかしアテナが巫女になったと言う噂がどこで流れたのか、アテナ殿のいる神殿は落書きで覆い尽くされ、アテナ殿に限っては「破壊の巫女」と言う名指しをされ神殿の像などが破壊された挙句時間を問わず罵声を浴びせられその場にはいられなくなった。


そして儂らは噂を流している張本人を突き止めた。


アテナ殿が巫女として神殿に仕えていると言う噂を流していたのはなんとアテナ殿の兄、デジェウスだった。


デジェウスは人気者だったがアテナ殿を溺愛していた。


そんな兄が何故そのような事を…そしてアテナ殿と儂は剣山で考え事をしている時に怪我を負った美しい兄妹に出会う。


「どうされました?」


「デジェウス皇帝が…」


アテナ殿の兄、デジェウスは何と皇帝として名を轟かせていたと言う。


そしてどう言う訳かアテナ殿を罪人と名指し、懸賞金まで懸けていると言うのをその青年、ガニメルから聞いた。


そして儂らはガニメルとその義理の妹サキュラと共に目立たない岩山の洞穴に身を隠した。


しかしその中途でガニメルは妹サキュラを残しこの世を去ってしまう。


デジェウスは何と日本にインスマスと言う異能を授けて日本を怠惰させると言った凶行に及び、それを非難したガニメル達に狙いを定めていた。


そして呪われた宿命の鎖を断ち切るべくいずれデジェウスと戦わなければならないと悟った儂らはゼウスの像を至る所に設置し「クトゥルフ」と言うインスマスと戦う組織を集め、本拠地をルルイエの海底都市から遥か地下に移した。


海溝潤実SIDEーーー


私は必死にアテナ様を応援するが女子ギャラリーは私に負けたくないのか更に声を上げてデジェウスを応援する。


女子ギャラリーの絶大な応援パワーがデジェウスに集中してデジェウスは更に絶大な強さを発揮してアテナ様を押していく。


このままじゃ勝ち目が無い!

KEIさん助けて!!


その時『チエチエチエ!』と変わった笑い声が私の脳裏に響いてきた。


誰?変な笑い声を上げている女の子は…!


私は周囲を見渡すが笑い声を上げているような女の子は見られない。


「何してるの?アテナ様を応援し続けなさい!」


サキュラが注意してくる。

そうだ、サキュラやギョロ、ケンジさんもアテナ様を応援し続けてるんだ。


「誰かチエチエ…って笑っていたような…」


「WNIじゃあるまいしそんな変な笑い声…きゃっ!」


その途端サキュラは悲鳴を上げて手で目を覆う。

何故ならその周辺に光が集中したからだ。


そして私達もその眩しさに目を覆う。


「チエチエ!」


すると光の中からまた女の子の笑う声がしてきた。

やがて光が収まっていく。


周りが見える程度の眩しさに戻り、目を覆うのをやめる私達。


あれ?この子いたっけ?

それが私達の第一印象。


周りの女子ギャラリーとは一線を画したチアガールの格好をした可愛い女の子が私達の目の前に立っていた。


「貴女は誰??」


私達に用があるかのように見据えるその女の子にまず尋ねてみる。


睨んでいたわけでも無く、表情から憎しみらしいものは感じない。


「チエチエ!ウチはチエガールや!WNIの世界からやって来た美少女サイコ戦士やで!」


WNI!KEIさんの名作から飛んできたチエちゃんがチアリーダーの格好になって私達の元に飛んで来たのか!


『それを言うならチアガールじゃ…』


「そこの魚!主みたいな突っ込みはせんでよろしいチエチエ!」


ギョロが軽く突っ込むと千恵はチエチエ言いながら怒声を放った。


『なんやと!?わいは魚やのうて由緒正しき神殿に飼われとるリヴァイアサンの子孫やで!!』


「只のアンコウちゃうのチエチエ!」


突然千恵とギョロが最高の関西弁で言い合いを始める。


やめて!こんなとこで言い合いしてたら話が進まなくなるよ!!


「ところで千恵さん貴女は何か用があって来たんじゃ無いですか?」


サキュラがクールに助け舟を出す。


「ああせやった…ウチはうるみんにあんさん専用の武器渡しに来たんよ!じゃーん♪」


そう言って千恵さんが私に差し出して来たのはオレンジ色のポンポンだった。


「ポンポン…?」


因みにポンポンとはチアリーダーが持って踊ったり応援したりと言うアレだ。


「うるみんの「陽」の力はそのままでも強いけど数百人の女の子のエールにはまだまだ勝てん、ほなけどポンポン持ったら百人力やチエチエ!」


千恵さんは満面の笑顔を私に向けてポンポンを差し出した。


「さあ受け取りや!」


「ありがとうございます!」


私は千恵さんからポンポンを受け取る。

ポンポンを受け取った瞬間、そのポンポンから不思議な力が放出されているのを感じた。


凄い…トライデントを持った時はそこまでの力を感じなかったのに…。


私はだんだんと踊りたい気持ちに駆られてきた。

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