アテナVSデジェウス

アテナSIDEーーー


私は見落としていた…私とデジェウスの徹底的な違いを!


私は先程まで間違いなくデジェウスを押していた。

しかしデジェウスは策に出たのか泣き落としに出る。


私は涙は通じないと放ったが部下達が鬼気迫った表情で駆けつけ、なんとデジェウスを庇い私を捕らえてしまう。


「これが儂とお前との徹底的な違いだ!儂には人脈と言う武器がある!人脈があれば実力が無くとも勝利を手にする事が可能なのだ!!」


デジェウスは勝ち誇った様子に笑いを上げる。

反して私は悔恨に駆られ、デジェウスとの人脈の差を思い知らされる。


部下達はデジェウスを守るように体勢が固められ、私は部下達に取り押さえられた状態。


「正義のデジェウス様を侮辱した罪は重いぞ!女、覚悟しろ!!」


デジェウスの兵士達が私を責めだす。

その様子をデジェウスは部下に勧められたワインを嗜み部下から差し出された玉座に座り責められる私を見て愉しむ。


どんなに優しくても、強くても人脈を得るのには経験と知恵が物を言う。


私は優しさは人一倍だったが嫌われ者だったが故に人脈を作る事は困難を極めた。


それと違いデジェウス、我が兄は心が歪んだ反面持て囃された事実は壮年になっても失われず、皇帝となるまでに神がかった人脈を武器に、信頼を得てきた。


私の強さ、優しさも人脈の前では無意味だったのだ。


サキュラSIDEーーー


私はカナとバアルの書斎に向かったが思わぬインスマスの大群に出くわす。


「どうやらボクも囮にならなきゃいけなくなったね!サキュラ!後は頼んだよ!!」


カナは敵陣に突っ込んで行った。


私は一人になってしまった…。

私一人で何が出来ると言うの…?


私の中に心の迷いが襲ってきた。

心の迷いと言う魔物に襲われ鋭い牙に噛み砕かれかけたのをある者が助けに来てくれる。


「ガニメル兄さん!!」


私を救ったのは私を生み、育てた私の最愛の人…。

私の過ちで命を落とす事になるが私をずっと思ってくれてた人…しかしそのガニメル兄さんはまた別の姿に変える。


変えると言うより、私はガニメルと言う幻を見ていたようだ、その正体は私が最も馬鹿にしてきた存在であり、そして最も信頼した強敵ともだった。


「海溝潤実!!」


私を思わぬところで助けてくれたのは海溝潤実。


「サキュラ!心の迷いに負けないで!サキュラなら一人でも打ち勝てる!だって私がついているんだから!!」


今の潤実はまさに私の姉と呼べた。

だって、心の迷いと言う魔物を私の代わりに戦ってくれているのだから!


「うん…負けないよ…お姉ちゃん!」


私は海溝潤実を助けたら改めてお姉ちゃんと呼ぼうと誓い、孤独と戦いながら書斎へと足を進めた。


中に入ると巨大な本がページが開かれた状態で宙に浮いていて、黒いペンが踊るように舞っていた。


舞っているのでは無い…書かれているのだ!


紙にはルルイエ語でガニメルの生まれ変わり、海溝潤実のその後辿る運命が描かれているのと、地球に起こる、起こそうとしている出来事が巨大な本とは裏腹に小さな文字でビッシリと描かれていた。


これらの本を一から書き直さなければならないと思うと気が遠くなりそうだ。


しかし私達を守る為に散っていった仲間達や海溝潤実の為にも私は逃げる訳に行かない!


「ペン…こんな大変な作業して辛く無い?たまには息抜きしましょう?」


私はドレスを脱いでペンを誘惑するように踊った。

するとペンが私の魔力に吸い込まれるように私に寄ってくる。


良い子良い子…私はそのペンに遊ばれ、逆に遊んでやった。


ペンは気力を吸い取られ、実質タダのペンとなる。


私は早速それを右手に持ち、運命を書き換える作業に出た。

最悪の出来事を二本線で引き、書き換える。

見落としてはならない。


誤字脱字の多いノファンには勤まらない大作業だ。


ウトウトと眠りこけそうになる…いけないいけない!眠ってはそれだけここを嗅ぎつけられ、私が捕らえられ、海溝潤実のように船の生贄に捧げられるリスクが高くなる。


これは時間と、自分との戦いだ!


ーーー


「か…書き上が…った…」


私は修正、書き直し、修正、書き直しを莫大なページをめくりながら書き続け、体力を大幅に削がれ、仰向けに冷たい床に伏した。


手からペンがこぼれ、そのペンは床に吸い込まれるように消える。


全て書き終えたかはわからない、まだ改善すべき文行はあるはずだ…しかし何事も五分五分が良い…何もかも完璧を求めると疲弊、矛盾が起こる。


完璧と言うもの自体あり得ないものだ。

偉大な人物も何かしら欠点があり、苦悩もある。


一生を幸せに過ごせる人なんていない。


だから不完全でも、最悪の出来事が免れればそれで良い。


しかし疲れた…私はインスマス達に捕まるだろう。

でも潤実お姉ちゃんは助かるように書いておいたからね…。


私はこのまま目を瞑り、全てを覚悟するように身体を地に預けた。


やがて本のページがひとりでに破かれ、一ページ一ページの紙に魂が宿ったかの如く紙が空を舞う。


パラパラ、パラパラと紙達は鳴き声を轟かせながら書き終えて疲れきった私を労うかのように。


瞬間、私の体は白く光りだし、書斎から何処かにテレポートされた。


バンッ!!


その後すぐに大勢のインスマス達が殺気立った表情で扉を乱暴に開ける。書斎の中には誰もおらず、そこには大量の巨大な紙きれが床の上に散乱されていた。


海溝潤実SIDEーーー


一体どれだけ時間が過ぎたかわからない…。

私は手足を拘束されて吸入針が刺されたまま?


いいや違う、私は吸入針を外され、拘束された状態からは解放された。

解放されたのだけど…多くのインスマス達にこき使われている。


デジェウスの許しが出て多くのインスマス達が私のあられの無い姿に理性を失い、私を発散の対象に狙いを定めたのだ。


「手離してどうすんだボケ!!」


「襲われたってどうせ誘惑してたんだろ?」


飛び交う罵詈雑言は矢継ぎ早に私に降り注がれる。


「奉仕しろよまだ終わって無いぞ!!」


私は手足は解放されたがその身は延々と拘束されたままだった。


「ゴホ…許して…失敗しないから…」


「許して欲しかったら手離すんじゃねえ!」


乱暴な態度で私を襲い続けるカメレオンのインスマス。

上の者にはやたらと媚びる、私の一番嫌いなタイプだ。


「カメレオンやるなあ♪」


他のインスマス達も私が襲われ続けるのを愉悦の眼差しで見守り、満足した者は次々と私に砲弾を撃ち込む。


私の地獄は続いていた…。


でも私は負けない…ドッシュ君も、カナちゃんも、サキュラも頑張っているんだから…私が挫ける訳にいかない!


そんな時サキュラのいた時の温かさと獣の群れに汚されている時の世界の差を脳の隅々まで突きつけられる事となった。


思えば私は精神がいつ壊れてもおかしく無いくらいのダメージは受けてきた。


でも明るい私のままでいられたのは貴女サキュラがいたから…。


そうだ、サキュラは体の治療は不可能だが人の記憶を一部消去させる事の出来る異能インスマスを持っている。


サキュラが居ないと駄目…KEIさん教えて!サキュラはどうなってるの!?


私はインスマス達に汚されながらサキュラとの思い出を脳の中に馳せていった。


そんな時私の体からあるものが飛び出していく。


それは光のような、ピンク色の闘気とは違う何かの気体であった。


光、煙、電流などは私達異能者インスマスから放たれる闘気、異能の正体である。


人はそれによって氷を操ったり、火を操ったり、重力を操ったり出来るのだが人によってその力は定められている。


私の力は「海」の力だと思われた。

でもそれは違った。


クトゥルフブレイクリーの修行を行う内にわかったのだ。


私の本当の異能は「奇跡」である事に!

飛び出した「それ」は私の奇跡の力!


その奇跡はサキュラの体の隅々に入れ込まれる。


『サキュラ!立ち上がって!!』


力を与えられたサキュラは船内を駆け巡った。

囚われの身となっている私を助ける為に…!


ブチン!!


突然この辺りは暗くなった。


「停電か?一体どうした??」


戸惑うインスマス達の声、そんな時稲妻が一瞬その場を照らした。


トラテツッ!?


一瞬、空上に映る白いものがトラテツに見えた。

そんな時の事、私は重力にのしかかられるのを覚える。


一瞬の停電の後、またその場は照らされたが私はそこで見た。


このフロアのインスマス全員が死んだように眠ってるいる事、そして中央には私の最もよく知る少女が涙ぐんだ表情で立っていた事。


「お姉ちゃん…」


サキュラだ、サキュラは私を「お姉ちゃん」と呼び私に寄り添う。

そんなに泣かないで、それにお姉ちゃんだなんてこそばゆい。


「潤実でいいよ、良く来てくれたね♪」


私はサキュラの成長を喜ぶように泣くサキュラのほお周りを指で拭った。


サキュラは嗚咽をあげている。


「お姉ちゃんごめんなさい…実は私…」


サキュラ…実は人一倍苦しんでいたんだね。


「良いよサキュラ、私は貴女の事全てわかってるから、アテナ様がデジェウスと戦っているはず、私たちもアテナ様と合流しましょう!」


「うん、その前にこれ…」


「これは…?」


「ルルイエで開発された薬、これで貴女のこれまでの事は無かった事に出来るから」


うん、それね、大きな声では言えないそれを飲む、すると私は激しい高揚感を覚え部屋全体に最高の悲鳴を轟かす。


最高の悲鳴は部屋を轟いた。


アテナSIDEーーー


「何を言う…人脈があろうと無かろうと…非道な政治を取り仕切った貴方が勝利する事などあり得ない!」


私はデジェウスとでは無く孤独と戦っていた。

デジェウスは多くの部下を従え、勝ち誇った表情で私を見下ろす。


私から出た言葉は負け惜しみだった。

認めなければならないが認められない、兄デジェウスと私の圧倒的な差を…。


「果たしてそうかな?どんなに非道であれど人からの評価が高ければ偉大な人物、正義の味方だと敬まわれ、歴史の一ページを刻む事が出来る、地球の歴史がそれを証明していよう!」


デジェウスはグラスに溜まっているワインをゆっくりと回し、それを口に運んでいる。


大方、偉大な人物は人格者であったとは限らない。

どんなに人格者でも人脈が無ければ不遇に終わる。

人脈こそが正義だとデジェウスの前で思い知り、私は気力、悪に立ち向かう勇気を失っていた。


「然るになんだ、見せてみよ、お前が得た「人脈」と言うものを♪」


デジェウスはこれでもかと言う程私を見下し、こき下ろす。


私に味方はいない…生まれた時から嫌われ者だった。


嫌われ者でも…優しくあればと優しさを貫いて来たけどコミュニケーション能力には優しさは求められず、寧ろ場合によっては仇になる事をデジェウスを前に思い知らされた。


「アテナ様立ち上がって!!」


この声は?私はデジェウスとその部下の更に後ろを見る。


そこには二人の女の子が輝くようなオーラを放ちながら私に声援を送っていた。


「人脈がなんだって言うの?貴女は「破壊の巫女」故に不遇な人生を送ってきたけれど貴女の知らない世界ではこんなに人が貴女を応援している!」


サキュラが力強く放った。


すると『蓮香ちゃん、頑張って!』『私は貴女の味方だよ!』と読者の応援する声が轟き渡る。


私はサキュラと海溝潤実、そして向こうの世界にいる「読者」から放たれる「プラスの気」を一心に受け取った。


「な、なぬ!?アテナが、妹がまた闘気を放ちだした!?」


デジェウスが放ちだした闘気を纏う私を恐れ、僅かに闘気を下げる。


「この世に味方がいなくても、私は闘い続けます!この世界を守る為に!破壊の巫女と言う宿命に抗う為に!!」


闘気が私に送られて私は再び活力を取り戻した。

活力を取り戻した私から莫大なばかりの闘気が溢れだし、デジェウスや部下達も恐れを為す。


デジェウスSIDEーーー


アテナが闘気を取り戻した!?

儂はアテナから戦意や闘気を根こそぎ奪い、弱らせたはず!?


くそう、後ろの邪魔者が入らなければ!


「者共!後ろにいるガキをひっ捕らえい!!」


「そうはさせません!!」


アテナは破壊の巫女さながらの闘気を触手のように放つ。


するとアテナから放たれた「黒い手」は儂の部下達を掴む。


「うわっ、なんだ!?」


闘気に掴み出され、戸惑う部下達。

馬鹿な!「闘気」のみで人を掴み上げる事が出来るだと!??


確かに儂ら異能者インスマスは闘気によってポルターガイスト、念力などを使う事が出来る。


しかしアテナのようにその闘気がより物質化され、部下を闘気だけで飛ばす事が出来るとは聞いた事も無い!


「ぐわああああぁっデジェウス様ァ!!」


部下達はアテナの後方に吹き飛ばされる。

それはアテナの「闘気の手」によるものだった。


幸い儂には影響が無い、何故なら儂にはアテナに匹敵する程の「闘気」を纏っているから…。


しかし!匹敵するとは言えアテナの「それ」はこの儂も恐れるものがあった。


確かにアテナは自身でも気付かない「威圧感」を放っていた。


それは儂のような「カリスマ」などと言った安易なものでは無く、人を恐れさせ、近づかせないと言う「負のオーラ」だ。


人脈と言う武器で甘やかされた儂には無い、破壊の巫女と呼ばれた所以の魔王と呼ぶに相応しい「異次元のオーラ」をこのアテナは放っていた。


こ、コイツらはアテナの…きやつら、あくまで守護霊となってこの破壊の巫女を守り抜こうと言うのか!!


儂はアテナを守るように儂に立ちはだかるこれまでの戦いの中で亡くなったアテナの友を確認する。


それは実体では無いが、コヤツらは儂にこう放って来た。


『蓮香ちゃんをいじめるな!』


『蓮香ちゃんは人間界では確かに独りだ!でも僕ら動物にとってはカリスマなんだ!!』


『どんなにアンタが持て囃されていても、アテナの辛酸を嘗めて大きくなった「気」には勝てない!何故ならアンタは甘やかされてアテナ程大きな異能インスマスを得る事が出来なかったからだ!!』


守護霊の動物達はこう儂に言葉の矢を打ち抜いてくる。


「認めぬわ!!」


儂は更に闘気を全身から放ち、あくまで蓮香やその仲間に抗うように立ちはだかった。


「儂はカリスマ!貴様は独り!その事実がしっかりと勝敗を分けている!どんなにアテナが儂より実力が上でも、アテナが儂に勝つ事などあり得ないのだ!!」


儂はアテナに蹴りを放つ。

しかしアテナはそれを片腕で受け、この儂を流すかのように地に伏せさせた。


この小さな体からこれだけの力と大きな気を…。


「重要なのは人脈では無い、信頼出来る仲間が少なくてもどれだけ深い絆で結ばれるかなのです、そうでしょう?」


アテナは儂の後方にいる二人の少女に目を向けてこう言った。


海溝潤実、サキュラと言う可愛らしい生き物はコクリと頷き、凛々しい眼差しをアテナに向ける。


二人からも気が送られている!

破壊の巫女に!!


「少女達よ騙されるでない!この女は破壊の巫女!世界をいずれ滅ぼすと予言されてきた世界の嫌われ者なのだ!!!」


儂には正当性がある!儂はあくまで皇帝!何をしようと皆儂の言葉を信じ、儂を反する者を皆駆逐して行った!


訴えればこの小娘達も儂を信じてくれるはず!


「何を言うの!?私を襲って楽しんでいた癖に!貴方のせいでサキュラも酷い目に遭って来たのよ!アテナさん!この人が何を言っても私は貴女の味方だから!!」


おっとり気弱なあの潤実も強く放ち、儂に動じずにアテナを励ます。


「ありがとう潤実さん、そしてサキュラさん、私なら大丈夫…さあデジェウスよ…私と貴方とどっちに正義の女神が微笑むか決着と行きましょう!」


「貴様が嫌われてもこの儂が嫌われる事はあってはならないのだ!貴様を倒し、二人の小娘も屈服させてやるわっ!!」


アテナからは全身から青空のような薄色の青の闘気、儂からは全身から血のような赤色の闘気を噴出させながら最後の戦いの火蓋が切って落とされた。


海溝潤実SIDEーーー


凄い…二人の闘気のぶつかり合いで生温い風が私達の髪を揺らす程度に吹くが、それは時に電気を帯び、静電気に当たった時の痛覚を覚えてしまう。


それだけの激しい闘気が二人の間で噴出しているのだ。


船内が二人の闘気のぶつかり合いで支障をきたさなければ良いけれど…。


そんな時サキュラが放った。


「待って!ここで闘気を放ち合ったらこの船が故障し、落下してしまうわっ!」


二人はそうかっ!と言う表情をし、闘気を収める。


流れ込んでいた生温かい風、そして電気の糸、二人の体の周りに見えていたデジェウスから溢れる赤色、アテナ様から溢れる水色の気体のようなものがその場で収まる。


「ここは場所が悪い、儂とお前の最も思い出深いあの場所に移そう…!」


「どこへ…?」


「後でわかるさ…」


こう言いデジェウスは「はぁ…」と息を継がせ、腕を回す。


すると空間は捻じ曲がり、回りの風景が渦を巻く。


私達にも空間が渦巻いているのが確認でき、アテナとデジェウス同様浮いているような感覚を覚え渦はまた違う風景を作り出す。


どうやら私達もアテナとデジェウス同様違う場所に導かれたようだ。


兄妹同士の戦いをこの目で見届けよという事だろうか?


私達はある場所にデジェウスの異能によって連れて来られた。


ここは遺跡…?

廃墟の都市…?建物の残骸と共に植物が絡みついたとある場所に連れて来られたようだ。


「ここは…?」


「懐かしいなあ、ここは第三次世界大戦の戦火に巻き込まれ、お前の破壊の巫女故の力で討ち滅ぼされた白昼夢ソドムの街よ!」


デジェウスは何かをほくそ笑むように声を上げる。

デジェウスの言葉を聞いたサキュラがその後に意味深な言葉を口走った。


「ソドム…聞いた事がある、旧約聖書の『創世記』19章に登場する都市。天からの硫黄と火によって滅ぼされたとされ、後代の預言者たちが言及している部分では、例外なくヤハウェの裁きによる滅びの象徴として用いられている。また、悪徳や頽廃たいはいの代名詞としても知られる…」


私にはわからないけど…それって大昔の作り話よね?どうして最近の第三次世界大戦の事が…?


「どうしてあの昔のその…なんとか聖書の事が第三次世界大戦の話に…?」


「わからないの海溝潤実…「歴史は繰り返されている」のよ!」


「えっ!?」


私にはこのファンタジーのような話にはおおよそ付いてこれなかった。


しかしサキュラはあくまで真顔…アテナとデジェウスは何かを知っているような表情で睨み合っている。


「ここは私達の生まれ故郷…私がまだ15歳にも満たない頃…戦争は起きた…私は今は亡き戦友と共に兵士を討ち、街を守ったのだけれど…」


「この後お前の力は暴走し、ソドムを破滅に追いやった!」


!!!


私達もギョッとする…アテナさんの強過ぎる力が…周りを破滅に追いやってしまうなんて!


良くないけれど…私は味方であるはずのアテナさんを怖いと思ってしまった。


背中が冷たく感じる。


「昔の話です!今はこうして制御出来ているし…私は力を使っていない!!」


アテナは反論するも、表情に焦りが見えている。


「ははは臆したなアテナ!貴様は今二人に失望されるのを恐れつつも罪を認めた!もはやこの勝負我の勝ちだ!!」


デジェウスは両手を突き出し、闘気から流れ出る衝撃波をアテナに放った。


「キャアァ!!」


アテナさんは5メートルほど離れた建物の残骸にその身を打ち付けられ、建物の残骸はガララッと音を立てて崩れ去る。


周りに白い煙が舞う。

アテナ様はどうなってるの!?


私は思ったが白い煙から人の影が立っているのが見えた。


その影は近づいて来ると共にその姿を現わす。

アテナ様だ!

しかしアテナ様にさっきまでの強い闘気は見られなくなった。


デジェウスの狙いって…!?


「中々しぶといな、だが貴様には人望も無いはず…こうなったらもう闘気の出しようもあるまい、とどめだ!!!」


デジェウスはそう言いアテナ様にとどめを刺そうと向かった。


「そんな事ない!!!」


私は放ってみせた。


「過去は過去だよ!アテナ様はこれを機にもう無駄な血は流すまいと努力してる!それが今のアテナ様だよ!!」


私の中の異能が溢れ出る。

その力をアテナ様に与えれば…。


「アテナ様!戦わなければ真の平和は訪れない!私達も戦いますから…!」


「潤実さん…」


アテナ様の表情に少し綻びが見えた。


「私もです!」


続いてサキュラが。


「私達は貴女のように強くはない、でも力を与えることは出来ます!ですから精一杯戦ってください!!」


最近のサキュラは感情が豊かになっているようだ。

何がこの子をそうさせているんだろう?


私はチラリとサキュラを見る。


するとサキュラが私を見て微笑んできた。


『貴女のおかげよお姉ちゃん、貴女と出会わなかったら私はこのままだった、だから今は精一杯戦おう、そしてずっと一緒に過ごそう!!』


サキュラがテレパシーを送ってきた。

サキュラのテレパシーを聞いて私は気持ちが暖かくなり、俄然やる気が出た。


「アテナ様!私達の力を貴女にお貸しします!貴女は独りでは無い!私達も付いています!!」


私達はアテナにありったけの力を送った。

白い光が私達の体から溢れ出て、それがアテナに送られる。


アテナは勇ましい出で立ちでデジェウスを睨む。


そして足を踏み込んだ。

それは一瞬にしてデジェウスを怯ませる程の速さであった。


「何ぃ!?」


アテナの鋭い掌底がデジェウスのみぞおちに入る。


「ぐおっ!?」


デジェウスは膝を落とし苦しむ。

その刹那、アテナ様はジャンプし、回し蹴りでデジェウスのぶっというなじ(後ろ首)を蹴り上げた。


何という格闘テクニック…私達が力を与えていると言ってもある程度手練れていないとあれだけの動きは出来ない。


デジェウスは悔しそうに立ち上がる。


「この儂を侮辱するなよお!!!」


デジェウスは手から衝撃波を溜め、手からバリバリと言う音と共にサッカーボール位の大きさの光球が現れる。


「死ねい!!」デジェウスは殺気のこもった光球をアテナめがけて放つ。


アテナ様は光球には光球で返そうと自らも光球を発する。


ブオオオオオオオオオオオォ!!!


光球と光球がぶつかり合うと轟音と共に煙が周りを立ち込める。


「アテナ様は…!?」


「あ、あれ!!」


目の前で戦っているはずのアテナ達が見えず、確認しようとしているとサキュラが上空に指を指した。


!!!


アテナとデジェウスは何と建物の三階分の高さの上空で攻防を繰り広げていた。


「ふはは!上空戦では儂に分があるようだな!!」


何と上空での戦いはデジェウスの方が有利らしく、アテナ様は少しばかり苦戦を強いられているかのように見える。


それにしてもデジェウス、あの図体でなんと素早い動きが出来るのだろう!


デジェウスの岩をも砕きそうな拳や蹴りを必死とは言え受け流しているアテナもアテナだ。


私達では想像も出来ない身体能力を二人は兼ね備えている。


アテナは衝撃波を手から発しデジェウスめがけて放つ。


「甘いわ!」


デジェウスは避けるがアテナの放った衝撃波は地上に建っている一つの半壊した建物を粉々に粉砕してしまった。


しかし粉砕された建物は運悪く私達のすぐそば。

粉砕された建物の瓦礫は私達に降り注いできた。


「ははは馬鹿め!唯一の味方の二人を生き埋めにしてどうする!!破壊の巫女!疫病神!!」


デジェウスはアテナを徹底的に罵る。


アテナSIDEーーー


そんな…私はまた味方をこの手で殺めてしまった…。


神よ…何故私にそんな力を…。


「とどめだ!!」


デジェウスは殺気を込めた手刀を私の首筋に浴びせ、その勢いで私は地上に突き落とされる。


受け身で最小限のダメージは食い止めたが大地に叩きつけられ大地にクレーターは作られ、私自身も骨が軋むような痛みに襲われた。


しかしダメージは身体だけに留まらなかった。


私はまたしても味方を殺めてしまった…。

デジェウスを狙って放った気功砲が何と潤実さん達のすぐ側のコンクリート状の建物を破壊し、潤実さん達を建物の下敷きにしてしまったのだ。


デジェウスは音も立てず大地に足をつける。


「ふははは破壊の巫女としての運命を呪うが良い!!」


デジェウスは私の心をジワジワと嬲り尽くす。


ドカッドカッ!


デジェウスは心に留まらず次々と攻撃を私に浴びせて来た。


私は心にダメージを負いデジェウスの攻撃を受け流す事もままならない。


「ふははさっきまでの勢いはどうした!!」


そんな時潤実さん達を下敷きにした筈の建物から光が見えてきた。


その時そこにいないはずの男性の声が。


「アテナ様!二人の少女は無事ですぞ!!」


『せや!だからアテナはんはこの大男をやっつけてしまいや!!』


なんとケンジとギョロがその場に駆けつけ、潤実とサキュラを救ったのだった。


「皆さん……ありがとう!」


私は皆の温かい力を受け取り立ち上がった。


「デジェウス!観念しなさい!貴方は私には勝てない!!」


デジェウスは歯を軋ませ、青筋がこめかみから浮かび出る。


そして髭、髪の毛を闘気の風で靡かせながら迎え出るデジェウスの巨体は私を尚も押し潰そうとした。


「ほざけええぇ!!儂はルルイエの皇帝!過去を断罪する為に地底に引きこもった貴様とは違うのだ!!!」


デジェウスの強烈な突き、私もデジェウスに鉄拳を浴びせる。私の放った拳は向こう側の建物に穴を開け、デジェウスの拳も向こう側の大木をへし折らせる。


互いに避けるがほおに傷は入る。


(強烈な身体能力に異能力…皇帝の座も努力から成し得たもの…決して甘やかされてきたわけじゃないのね…)


(流石は破壊の巫女…幼き頃より愛されず、それでいて強く優しくいようとした結果、逞しく雄雄しい女性となった、この儂とは苦境を乗り越えた数が違う…)


互いの攻撃を受け、心の中では認め合う兄妹。


闘気と闘気、身体と身体のぶつかり合いは黒い雲を呼び、雷鳴を轟かせた。


「天も興奮している!雌雄を決する時よアテナ!!」


「デジェウスよ!私は絶対に貴方に勝ってみせます!!」


アテナとデジェウスはボロボロになりながらも拳と拳で語り合った。


アテナとデジェウスの格闘で猛烈な衝撃波が襲い、建物が破壊され、木がへし折られる。


「ここにいては危険です!この壁に隠れていなされ!」


ケンジが私達を促す。

ここにいたら確かに危険だし、また足手まといにもなりかねない。


そう判断した私達はケンジさんやギョロのいる壁へと隠れてアテナとデジェウスの死闘を見守る事にした。


しかし二人の戦いは私には見るに耐えない!

血を流し合い、拳と拳で語り合う戦いは女の子の私には見れたものじゃない…のだけれど…。


壁にもパラパラと石が降ってきて、時に破壊音が鳴り響き、目を伏せていても凄まじい戦いがアテナとデジェウスの間で繰り広げられている事を嫌でも感じさせられる。


そんな中ケンジは言ってきた。


「目を反らさず、よく見守っていてくだされ!あの戦いがアテナ様の思い、そして皇帝デジェウスの思いでもあります!!」


そうだ…!

目を反らしちゃいけない!

アテナ様を勝利に導く為に…この戦いを見届けなければならない…いや、見届けよう!


サキュラもアテナとデジェウスの戦いを焼き付けるように見ていた。


そしてサキュラの「気」はアテナに送られていた。

そうだ…私も…私もサキュラに負けじと「気」をアテナに送った。


アテナとデジェウスの死闘。


二人はありったけの身体能力と異能を駆使して互いを倒さんと必死に戦う。


それは凄まじい戦いで互いの闘気がぶつかり合い、それは電気の糸がほとばしり、地面が割れ、石が浮き出す。


ビリビリ、ビリビリという電気音、ポルターガイストなどの不思議な現象が起こり、風が荒れたり建物や木を半壊する程の衝撃波が飛んできたり石や砂などが吹き荒れたりし、身を隠して守らないと自身も無事では済まない。


アテナとデジェウスの戦いはさっきまで互角に戦っていたのが私とサキュラが力をより送り出してから戦況が明らかに変わっていった。


デジェウスの攻撃を躱し、アテナの拳がデジェウスにクリーンヒットする。


尚もデジェウスは攻撃を繰り広げるがそれを全て受け流し、アテナの掌底でぶっ飛ばされる。


「ぐおぉっ!!」


デジェウスは悔し紛れな表情で尚も飛びかかるがアテナの回し蹴りで返り討ちにされる。


私とサキュラに送られた「力」はアテナの身体能力と異能インスマスをより強大なものにし、デジェウスを明らかに押していった。


「私には貴方のような人脈は無い!しかし数少ない中で絆はより固く強いものとし、それは私の力をより強くするのです!」


アテナは倒されて尻餅をついた状態のデジェウスを見下ろし、言い放つ。


デジェウスSIDEーーー


アテナが数少ない強敵なかまとの絆をより固く強固なものにし、それを不動のものとしているだと…?


あり得ぬ!あの嫌われ者のアテナが狭くとも深く絆を築く事が出来るなど…!


アテナは破壊の巫女たる所以か戦闘能力ではこの儂を凌駕している。


しかしアテナのメンタルは思いの外弱い。

数少ない強敵なかまとの絆を滅茶苦茶にしてしまえばアテナを纏う闘気は消失し、アテナの戦闘能力は大幅に削られる。


そこで儂はそう言った作戦を色々と労じた。


しかし、儂の策はこれまでのやり方ではどうも上手くいかないらしい…!


しかし儂にはまだ切り札がある!


アテナよ、何故この場を儂とお前の戦いの場に選んだか今に思い知る事になろう!


儂は手を交錯させアテナから身を守る姿勢を取った。


しかしそれはアテナの拳から身を守る為では無い!

とある儂の秘奥義を発動しに闘気を少しずつ溜めているのだ!


アテナSIDEーーー


私は攻撃の隙を与えまいとデジェウスに攻撃を矢継ぎ早に繰り出す。


しかしどうも上手く行き過ぎていると思う。

デジェウスがこんなに弱い筈が無い!


そこで私はデジェウスに流れる熱気を帯びたオーラが腕に集中しているのが微かに見えた。


これは…デジェウスが良からぬ異能を放つサインだ!


「みんな!伏せて!!」


周りにいる皆の危険を知らせ、私も身を伏せた。

その刹那、デジェウスは腕に纏った灼熱の闘気を振るった。


「灼熱のフレイムテンペスト!!!


デジェウスの振るった腕から広範囲の灼熱が襲い、周囲を焼き尽くす。


あまりの熱さで火がボウボウと燃え盛り、周囲は一気に紅く染まる。


身を伏せなかったら間違いなく黒焦げになっていただろう。


しかし周囲の光景を目にした途端、私の脳裏に努力して忘れたあの悪夢が嫌でも蘇ってくるのだった。


「嫌ああああああああああああぁ!!!」


ギョロSIDEーーー


アテナの言う通り身を伏せ、再び目を覗かせてみたがこれはさっきまでとは違う灼熱の世界がそこら一帯に広がっとった。


その時アテナが悲鳴を上げてうずくまり、デジェウスが勝ち誇った表情でアテナを見下ろしとるのを確認してしまう。


これは一体なんなんや?


隣にはケンジがその老体には似合わん程の男前ぶりを発揮してうるみんとサキュラを庇っとったが…。


くっそわいが人間やったら…読者は忘れとるみたいやけん言っとくわ、わいはギョロ、空飛ぶアンコウでルルイエの生き物なんや、人間や思った?残念ながら魚なんや、食うたらあかんよ?


…と言う冗談は言よる暇や無さそうや…。


ケンジSIDEーーー


「お伏せなさい!!!」


アテナ様が我々に声を荒げる。

その直後、デジェウスが熱を帯びた闘気を手に集めそれを放ったのだ。


「いかん!お伏せなされ!!」


儂は気づかない潤実とサキュラを乱暴にでも守ろうと地に伏せさせた。


凄まじい熱気が背を伝い、猛烈な風や轟音が響き渡る。


二人の少女の背がガクガクと震えるのが手に伝わる。


怖い思いさせて済まない、そうでもしないと二人共いなくなっていた。


私の娘のように…。

熱と突風が収まり、儂は力を入れて伏せさせた少女達から手を離し、儂もゆっくりと顔を上げる。


しかしそこはかつてあったアテナ様にとって最も悪夢を呼び起こす光景が再現されていたのだ!


こ、これはアテナ様が焼き払った時の白昼夢ソドムの街の光景そのもの!

いかん!アテナ様がそれを見てしまわれたら…!


儂はアテナ様を確認する。

案の定、そこには頭を抱えてうずくまるアテナ様と勝ち誇ったように仁王立ちするデジェウスの姿があった。


「アテナ様!過去の事は気になさらず戦ってくださいまし!」


儂は一か八か励ましてみせるがアテナ様は「嫌!嫌!!」と頭を抱えて苦悶するばかりだった。


そんな時ギョロが海溝潤実に強い眼差しを向けて言ってきた。


「お嬢ちゃん、あんさんの持っとる異能インスマス、わいにそろそろ返してもらおか?」


「い…インスマス?」


海溝潤実は何のことかわからない様子でギョロに聞く。


「なあに、全てをいただくわけちゃうんや、あんさんの「海」の力をわいに返してもらおう思ってな?」


「え?そんな事言っても…私なんのことかさっぱりわからないよ?」


ギョロに聞かれて戸惑うばかりの海溝潤実、儂は薄々とだが気づいた。


この少女の本当の力は「海」では無い、別のものにあると…。


だがこの子が何もわからないのは当然の事であろう。


何せ生まれた頃から何も聞かされないで普通の少女として過ごしてきたのだから…。


「ギョロよ、順を追って話してみたらどうだ?」


儂はギョロに諭した。

ギョロはそうか、と言う表情をし、海溝潤実に順を追って聞かせる。

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