別れの先にあるもの
海溝潤実SIDEーーー
私はドッシュとサキュラを導きバアルの書のある書斎まで足を走らせている。
私は今は霊魂の状態だ、本当の姿は周りが見渡せるガラス張りの「アトランテォスの目」と形容される部屋に囚われの身となっている。
私はあそこで捕らえられ、皇帝デジェウスから責め苦を受け続けた挙句幽体が離脱したらしい…と言うか、これはどうやら
幽体離脱と言っても体と連動はしているので何故か歩く、走るという概念は生身の時と一緒だ。
こうして幽体離脱した私はドッシュとサキュラを導いているけど生身が拘束されている上吸入針と言う太めの針を所々に刺されている為心なしか疲れやすくなり息も絶え絶えになってる。
「大丈夫?潤実!」
サキュラが気遣ってくれている。
いつもなら「気合いが足りない」とか言うけどこうして気遣ってくれているのは嬉しいけど…なんだかこっちまで気を使ってしまう。
「アンタなら出来る!走れ!走るんだ!!」
ドッシュが怒鳴る、貴方何様?
ともあれ私達は運命を書き直しにバアルの部屋にまでサキュラ達を導く。
でも地上にいた時からアトランテォスを見上げて思ったのだけど…やっぱりと言うか、想像以上に広く道も入り混んでいて、一つの国かと思う程の規模に感じられた。
「逃げ場は無いぞ!!」
やはりインスマス達が追って来る。
しまった!向こう側からもやって来ている!
挟み討ちだ!!
「ちい!アンタ達は下がってろ!!影分身!!」
ドッシュの体からもう一人のドッシュが現れ、そのまたドッシュがその体から出現する。
それが矢継ぎ早に繰り返されついにドッシュは五体となってインスマス達をバッタバッタとなぎ倒していく。
「くそうっ!!」
インスマス達は異能を放つがドッシュはそれを躱し、得意の棒術を用いて数体のインスマスを一瞬にして倒す。
強い…しかし体力にも限界があるようでドッシュは息を切らして不利な状態となる。
「ダイヤモンドレイン!!」
一体のインスマスが氷の雨をドッシュの頭上に降らせドッシュを攻撃する。
「ぐわあぁっ!!」
一体目のドッシュが消滅。
「メテオボール!!」
そして二体目、三体目とドッシュが消滅していく。
やはり多勢に無勢、分身して何体にも分けたとは言えそれ以上の大勢のインスマス達の前ではやはり不利だ!
私は霊魂の状態だとクトゥルフに変身出来ずスキルは使えないようだ。
今の状態がスキルを放っている状態でクトゥルフの時のように一緒に戦えたり出来ない。
一体どうすれば…。
その時の事、インスマスが何者かに倒されると共にピンク色の髪の少女が現れる。
「カナッ!」
「久しぶりねサキュラに潤実!世間は狭いと言うけどこんな所で会うなんてね!!」
『カナには私が見えるの?』
霊魂となっているのに何故見えてるんだと思い私はカナに聞いてみた。
「ボクを誰だと思ってるの?サイキックのカナ様だよ!」
カナはややほおを膨らませて口走る。
「それよりドッシュがやられそう!助けてあげて!!」
「わかってるよ!!」
カナはインスマスにサイコパワーでフェイントの爆破を起こし、ドッシュを救いあげる。
「女の手助けなんて借りねえ…」
「何かっこつけてんだよ!今は隠れるよ!!」
カナは気功拳を床にぶつける、すると穴では無くそこは水の波紋のように揺らめく空間が出来、ドッシュと共にそこに飛び込む。
「私達も行きましょう!」
サキュラも続いて飛び込む、そして私も。
床は波紋を作り、そして元に戻った。
私達は下の階に落ちた。
そこには幸い誰もいなかった。
「だから良いって…!」
「いいからじっとしてて!」
白い魔力石でドッシュの傷を癒してくれるカナ。
顔を真っ赤にしてて抵抗してるドッシュを見るとさすがはトラテツの弟分と関心してしまう。
トラテツも照れ屋なところあったね。
それにしてもなんかボーっとしてきた感じがする…本体置いてけぼりにしてきているからな…。
「…み!潤実!大丈夫?」
『あ、サキュラ?』
いつのまにかみんな行こうとしていた。
他の皆は足を止めて私の方を見る。
そうだ、私が案内しなきゃいけないんだった。
「本気で元の体を何とか救いださないとヤバイかもね」
とカナが口走る。
『私は大丈夫、早く運命を書き直さないと大変なんでしょ!』
私は大丈夫なフリをして皆を導いた。
船と一体化して今思う事で確かな事は私の本体を取り戻すのは今インスマスが見張っている為困難であるという事。
そしてバアルの書斎は比較的私達のいる所から近い所にあり付近もガラ空きと言うことだ。
しかしもうじきここを嗅ぎつけ、インスマス達が追ってくる。
こうなったら手後れだ。
「いたぞっ!!」
向こうからインスマスと遭遇してしまった。
「くっ!金縛り!!」
カナは手のひらから気功をインスマスめがけて放ち、インスマスに命中するとインスマスは金縛りで動けなくなる。
「な、体が痺れて…!」
「どりゃあぁ!!」
ドッシュが棒でインスマスの頭をかち割る。
インスマスは魂が抜けたようにその場で倒れてしまった。
『あぅっ!』
しかし私は限界が来たのか、動けなくなってうずくまってしまう。
「潤実!大丈夫??」
サキュラが語りかける。
「潤実姉!このままずっと幽体離脱していると危険だよ!後は私達がやるからアンタは元の体に戻ってきな!!」
カナが警告を放つ。
『心配かけてごめんね、このまま真っ直ぐ行くとバアルの書に行けるよ…私、生身じゃ拘束されて身動き出来ないから助けに来てね』
「必ず助けに来る!だからアンタは戻ってろ!」
ドッシュも力強く答える。
良かった、この二人ならサキュラを守ってあげられるし、バアルの書の呪いを書き直す事が出来る!
カナちゃん、ドッシュ、そしてサキュラ…。
後は頼んだよ!
私は気を抜かすとフワッと宙に浮くと言うか、引力に引っ張られるような感覚に襲われ、気がつけば生身の体に戻っていた。
サキュラSIDEーーー
潤実がその場にいなくなったようで何故か心に穴が空いたような気持ちになってしまう私。
私は何気ないフリをしていたがカナやドッシュはそんな私を気遣うように言ってきた。
「潤実はまだ死んだわけじゃないよ!しっかりしな!」
「あぁっ、潤実ちゃんはトラテツの兄貴がしっかりと見守ってくれてんだ!」
私は顔に出てしまっていたらしい。
二人の熱い言葉に胸が熱くなるような感覚を覚えた。
そうか、これが「友情」か…。
とりあえずは潤実はこの先を真っ直ぐに進めばバアルの書斎に辿りつけると言った。
行きましょう!そして潤実を、そして世界を救いましょう!
私達三人はバアルの書斎を目指して長い廊下を走った。
ドゴオォォン!!!
その時目前に轟音と共に爆破が起こる。
「この先には行かさんぞ!!」
いつのまにか多くのインスマス達が私達を待ち構えていた。
全く思い通りにいかないわね!
「お前らは先に行け!俺が囮になる!!」
ドッシュが前に出た。
「ドッシュ!死にたいの!?」
カナが声を荒げる。
「俺は男なんだ、お前ら女に助けられてばかりじゃ示しがつかねえ!」
ドッシュは棒を力強く握り構えを取る。
ドッシュの周囲に激しい闘気で風が揺らめく。
闘気は光を放ちドッシュから放たれているかのように見える。
その闘気に押されてややたじろぐインスマス達。
「狼狽えるな!奴は一人だ!!」
隊長の叱咤が走りインスマス達は強制力に動かされるかのようにドッシュに飛びかかる。
「一人じゃねえ!俺にはトラテツの兄貴がついてんだ!!!」
ドッシュもインスマス達と迎え討った。
ドオオオオオオオオオオオオオオオォン!!!
地鳴りと轟音が響き渡る。
これで良いんスよね?トラテツの兄貴…。
ドッシュの記憶が駆け巡っていく…。
ーーードッシュSIDE
俺は雌猫の幼馴染、ケアミちゃんに思いを寄せていた。
「ごめんね、気持ちはとても嬉しいけど私からしたら貴方は弟としか見れないの」
ケアミは困惑するかのように俺をフる。
弟…つまりは頼りないと見られて世話を焼く対象でしかないと見られた。
なんでだよ!「何かあったらなんでも頼ってね♪」と言ってたのケアミちゃんじゃないか!!
俺はなにもかもどうでも良くなり、マタタビを浴びながら引きこもるようになった。
しかしマタタビもずっとある訳では無く、当然切れてしまう。
俺はマタタビが欲しくなり 盗もうとするが失敗し、怪我を負って道路に放りだされる。
ああ俺もついに終わりか…腹減った…ケアミちゃん来てくれるかなあ?
そう期待していても無情に時間が経つばかり…。
そんな時何者かが俺の側にやって来る。
ケアミちゃん…?
いやケアミちゃんはこんなむさ苦しい臭いじゃない。
フワリとしたアルデハイディックのような香りだった。
こんなどこぞの乞食が放つような臭いでは間違いなく無かった。
しかし俺には確認する事すら出来ない。
俺を助けに来てくれたのかどうかはわからない…そいつはずっと俺を見ていて、臭いを嗅いでいる。
「おいお前!そこで何しよんな!?」
そんな時最高の阿波弁が轟く。
誰なんだ?俺を呼んでいるのか?見ての通りだよ、俺は元気が無くなって死にかかってるんだ。
同情するなら餌をくれ…。
微かに目を開けた俺は見た、そいつは確か…黄色と茶色の模様の入った毛皮を纏ったハンサムな雄猫だった。
しかしその雄猫が呼び止めたのは俺では無かった?
なんと猪が死にかかった俺を食べに来ようとしてたのをそのハンサムな雄猫が呼び止めたのだ。
その猪は「ブヒ!ブヒ!」と鳴きながら走り去っていった。
「え、餌を…くれ」
腹の減った俺の口からはそんな言葉が出た。
「わかった!そこで待っとき!」
その
「弱っとるみたいやけん慌てて食べたらあかんじょ!」
夢中で食べようとした俺を止めてくれて、その
だんだん視界がしっかりして来た。
俺の思った通りその
「わいはトラテツ、お前は?」
「俺はドッシュ…」
自己紹介を交わした後俺達は広大で壮美な吉野川の河川敷を眺めながら人生相談を交わした。
「お前あまりマタタビ食ったらあかんじょ!」
トラテツが怒ってくる、ケアミもそうやって叱ってたっけか…。
「俺はケアミがいなきゃ何も出来ない…こうしていりゃいつかまたケアミちゃんが助けてくれると思って…」
今思えばそんな考えは甘え以外の何物でも無いがその時はケアミに依存してて、彼女がまた助けに来てくれると信じて疑わなかった。
「バカ野郎!!」
トラテツの猫パンチが飛ばされた。
俺は地面に滑り込む。
「それでも男か!男が女に依存してどないすんな!」
トラテツは鋭い雷を落として最高の阿波弁を発した。
「讃岐男に阿波女言うことわざあるけどその諺聞いて悔しい無いんか!?阿波(徳島)の男が情けないけんそう言われるんじょ!!」
俺は鋭い痛みと共に悔しさを覚えた。
阿波女は勤勉でしっかり者、徳島が繁栄しているのも阿波の女性がしっかりしているからと言うのも頷ける。
「兄貴!俺も…俺も強くなりてえよ!!」
俺は最後の泣き顔をトラテツに見せた。
「わかった!お前を強い男にしたる!ほなけどわいの特訓はきついじょ!死ぬ気で付いて来い!!」
そしてトラテツと俺の漢の特訓がはじまった。
「なんなその
トラテツ兄貴の特訓は言ってた通り地獄だった。
俺はありったけの異能をトラテツにぶつけたが逆にベテランさながらの強烈な異能を浴び、呆気なく、俺はぶっとばされた。
散々戦い、起き上がるのもキツくなる。
しかし俺は強くならなければ…ケアミちゃんに振り向いてもらえるように…。
ガクッ、俺は立ち上がったものの疲れは自分でも気づかない程に酷かった為かバランスを崩し地に倒れ伏しそうになる。
ガシッと逞しく温かい肌触りを感じる。
そして汗を大量にかいていたのかべっとりとした汗の感触と漢くさい汗の臭いを感じる。
トラテツの兄貴が俺の体を支えてくれたんだ。
「お前、ようわいの特訓にここまで付いてこれた!でもその体やもう無理じょ!時間やし家ん戻って体休めない!」
トラテツの兄貴は俺を自分の家に泊めてくれ、店で盗んだキャットフードをご馳走してくれた。
「ここで一晩泊まって行き」
トラテツさんは特訓の時の厳しい表情は何だったのかと思ってしまう程優しい眼差しで俺に語りかけてくれる。
「良いんスか?」
トラテツさんはコクリと頷いてくれた。
俺とトラテツは一つのベッドで一緒になる。
「ドッシュ…お前の黒い毛並みカッコ良えわ」
「兄貴…貴方のトラ柄の毛並みも鮮やかで素敵ッス!」
肌を密着しあっている中トラテツさんはあるところを触ってきた。
「にゃん♪」
俺はトラテツさんに触れられて気持ちのいい刺激に襲われ喉から鳴き声が漏れる。
「可愛い声出っしょるなあ、可愛いのにそっちはビッグじょな、そんなにわいのが欲しいんへ?」
トラテツさんは俺の耳に吹きかけるように意地悪に囁く。
俺は固まって抵抗も出来ない…怖いと言う感覚は不思議と無く、これからどんな事をされるのだろうと期待がかえって強くなり抵抗する余地も無かったのだ。
「ほ…欲しいです…」
俺はトラテツさんの低めの声に魅了されるようにトラテツさんの魔力にハマっていった。
「良い子じゃ」
トラテツさんは俺の盛った棒に口を咥える。
「にゃ…にゃうん♪」
俺からはどこから声を出してるのか自分でもわからない程甲高い悲鳴が漏れてくる。
俺はトラテツさんのテクに魔に取り憑かれたような快楽を覚える。
「わいはじっちゃんと寝るたびに襲われて男同士でどう気持ち良うなるかよう知っとんじょ♪」
なるほどトラテツさんが襲う度俺は思わず体が仰け反り、なにもかもが頭から吹き飛んでしまう程の快感を得る。
吐き出してしまいそうなところで兄貴は止めてしまった。
「今出してしまおう思うとったやろ?わいの特訓あれだけついて来よったのに根性ないなあ」
ビクビクビク…俺の棒がいきり立ったままトラテツさんは俺が吐き出してしまおうとするのを紐で固締め付け、止めてしまった。
「く、苦しいぃ、出させてえぇ!」
俺は早く出したくなり、トラテツに懇願して頼む。
早く出したくて俺の体はグネグネとゆっくりと踊るように仰け反り戻りを繰り返されていた。
ただ、わかったのはトラテツさんの棒も早く吐き出したくて真上にピンと建っていた事だ。
表情も艶めかしい目で俺を射抜いているが我慢しているのか体中うっすらと汗が滲んでいて月光に照らされた彼の体が輝きと色気を放っていたのだ。
「お前もごっつい汗かいとって光に照らされた体が色っぽいなあ、わいも触っても無いのに溢れてしもうたわ♪」
そしてトラテツさんは尾を俺に差し出してきた。
「さあ特訓の成果ここで見せない、お前がどれだけ成長したかこの下半身で確かめてやる!」
声もエロくなっていて快楽に悶えるように息も荒く正気を保てているような口調が益々俺の下半身を高ぶらせた。
「兄貴、行きますよ!」
「さあ来い!弟!!」
俺と兄貴は本物の獣となり満月が興奮するように俺達を見下ろす中、感情に身を預けて踊り狂った。
ーーー
こうして俺はトラテツの兄貴からインスマスの力とエロテクニックを高め、一人前と認められるようになった。
「兄貴!ここまで付き合っていただけて大変感謝しています!貴方から教わった強さで必ずケアミちゃんを振り向かせて見せます!」
「おう頑張りよ!お前なら出来る!!」
トラテツと太陽に見送られ俺は今度こそケアミちゃんと一緒になれるようケアミちゃんの住処まで歩いた。
ーーー
「…なんて事だ…」
ケアミちゃんがいなく、両親が地に横たわっていた。
生々しい血痕が地に付着している。
「人間がケアミを攫っていった…ケアミを助けておくれ…」
言うと両親は言い残した事を言えたかのようにガクリとしてしまった。
「攫われたのか…」
「兄貴!」
「わいも協力するじょ!!」
そして俺とトラテツの兄貴はケアミちゃんを取り戻すために人間のアジトに向かった。
捕らえに来る人間達を俺達は
しかしケアミちゃんはマタタビを沢山打たれていて、気が触れてしまっていた。
その数日後ケアミちゃんは亡くなった…。
俺達は傷を舐めあい、ケアミちゃんの分まで生き抜こうと誓い、戦いにBLに打ち込んだ。
ああついに俺もトラテツの兄貴とケアミちゃんの元に…。
俺は最後の最後に誰かを救って死ねた事に悔いは無かった。
サキュラSIDEーーー
私は感じた。
若い戦士の波動が天に導かれるように消えていったこの感覚を…。
「立ち止まっている暇は無い、インスマスが追って来る前に未来を書き換えるんだ」
カナが落とした声で私に言葉を刻ませる。
コクリ、と私は頷く。
カナは私に目をくれず前を向いたままだったのでカナがそれを知ったか否かはわからないけれど…。
カナの肩、声は悲しげに震えているように思えた。
戦場では戦友の死に悲しんでいる暇は無い。
インスマスを払いのけ、私達は運命を書き直しに行かなければならないんだ。
ドッシュの遺志を無駄にしない為にも…。
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