心の戦場
サキュラSIDEーーー
ドッシュに棒で叩きのめされていた海溝潤実を助けにケンジ賢者様が救いに入った。
頭でっかちな賢者様とは言うがルルイエ人の本能を逆走し、人間的に磨きをかけた賢者様は彼自身は損をして人から受け入れられないにせよ彼のような人がいるからルルイエはもち直っていると言えよう。
地上、日本人で言う「生真面目な人」のようなポジションだ。
正直者は馬鹿を見ると言われ、そう言った類いの人は生きづらさを感じ克服したい、何とかしたいと自分を考えているがルルイエ人のそれは更に極めようとする。
そのような所に違いがあり、「賢者様の頭でっかち」は一種のステータスとなっている。
少なくとも、彼ら「賢者」の類いの中では。
見習えとは言わないがルルイエ人は大体自身に価値を持つ民族だ。
私はルルイエ人として生まれ良かったと思っている。
かと言って賢者様のようになろうとは思わないが…。
今、海溝潤実を救ったケンジ様がドッシュと闘気を放出させながら睨み合っている。
強い力を持つインスマス同士が激しく闘気を放出させながら睨みあっていると特有の出来事が起こる。
ポルターガイスト、ウィルオウィスプ、岩や石などの浮揚、インスマス同士の間では風が強さに応じて吹き続け、電気の糸がその間でビリビリと音を立てて走り続ける。
そう言えば熊次と氷結が戦っている間も同じ現象が起こっていたわね。
「貴様、そのインスマスは自身のものでは無いな!」
ケンジ様はドッシュに問いだす。
因みに「インスマス」と言う単語が出てきたがそれは異能の強さの事だ。
「よくわかったな賢者!これはな、俺がトラテツ兄貴の仇を取る為に江戸華喧華様が直々に俺に力をくださったのよ!!」
江戸華喧華!?
彼女はもうとうにこの世にいないのでは!??
私は真意を確かめる為にドッシュの
ドッシュSIDEーーー
俺はドッシュ、俺はトラテツ兄貴を探しに各地を転々としてきた。
何故なら地上では暴動事件が多発しだし、俺達猫族の力ではどうする事も出来ず、頼れるのはトラテツ兄貴しかいないと踏んだからだ。
まさか暴動事件が起こっているとは?
全く世の中は何が起こるかわかったもんじゃねえ、地上のインスマスが日本社会に嫌気が指して起こしている事件だ。
詳しくはWNIを見てみな!
市民と警察がインスマスの力を多用し血を流し合っている。
その為インフラは殆ど破壊され、道も原型を留めなくなり、おびただしい遺体の山が重なる。
瓦礫や遺体の山とメラメラと燃える炎の中を走る俺。
俺が駆け込んだのはまだ破壊されていない真新しいような教会。
俺はそこに駆け込み、多くの光る石がそこらかしこに飾られているのをそこで見た。
これは一体?
「誰…猫!?」
後ろからうら若い女の声が聞こえる。
振り向くとシスターの衣装をしたやはり若い女が立っていた。
「お姉さん!トラテツの兄貴を見ませんでしたか!?」
俺はインスマス同士の戦いでほぼ街が全壊しているにも関わらず教会が無事である事、若い女に力が秘められているのを素人の俺にも感じたことから、その女に聞いてみた。
「トラテツ…そのトラテツから貴方に伝言がありました」
「ええっ!?」
言いたい事があったら直に言えば良かったのに…。
そう思っているとそのシスターから衝撃の事実を聞かされた。
「トラテツ様はお亡くなりになりました…」
そんな…あのトラテツの兄貴が…誰よりも正義感が強く、頼れる兄貴だったあのトラテツさんが…。
俺は辺りが暗くなるような衝撃を覚え、立ちすくんでしまった。
「そのトラテツさんからの伝言です、『わいは海溝潤実に殺された!頼む、わいの仇を取ってくれ!!』との事です」
海溝潤実に…女に優しいトラテツさんの事だ…きっとトラテツさんはそれに付け込まれて…くっそ!
俺は悔しさで尾を逆だたせていた。
「悔しいのですねその気持ちわかります、そのまま目をジッと閉じてください、私が貴方にインスマスの力を与えます…海溝潤実を倒し、トラテツさんの仇を取ってくださいね…」
そう言ってシスターは俺の額に手を添えて呪文のような言葉を呟きだした。
するとシスターの姿が少しずつ透明になって消えて行った。
俺はふと目を開ける、ここは…俺は確か教会の中にいたはず?
しかしここは焼け野原だった。
インスマス同士の戦いで街そのものが焼けてしまったのだ。
畜生海溝潤実め!トラテツさんの仇は俺が取ってやる!!
そして俺は海溝潤実の居場所を探し、江戸華喧華の建てたとされる組織「正義の味方市内会」に参加した。
「ドッシュ、お前はシスターの力を得た新しいインスマス!江戸華喧華様は海溝潤実を追いにルルイエに向かった!海溝潤実はゼウスの像を利用して悪どい事をしようとしている!ルルイエに建てられているゼウスの像を壊し、海溝潤実が世界征服しようとするのを阻止するのだ!!」
俺は喧華様の直属の部下からそう言われここ、ルルイエに放たれた。
サキュラSIDEーーー
やはりドッシュは江戸華喧華の部下に騙されてインスマスとなったのね。
それよりケンジさんの言ってた事が真実なのだとすれば大変な事だわ。
『まさかインスマスによって地上が荒れとるなんて…ちょっと早すぎやせんか!?』
ギョロも落ち着かずアタフタしている。
「潤実さん、貴女は充分頑張った!後はワシに任せていなさい!」
ケンジさんは傷つけられて弱った潤実の着ている服の襟袖を錫杖で引っ掛け、潤実の体を私めがけて投げてきた。
確かに潤実は華奢だけど人並みの重さの潤実を軽々と錫杖で投げてしまうなんてその細い腕からどうそんな力が出せるのか。
人はそう突っ込みそうだがケンジさんも賢者として沢山修行を積み、
身体能力だけでなく
特に極めに極めた賢者なら尚の事よ。
ケンジさんとドッシュが睨み合う。
互いの闘気のぶつかり合いで火花が散り、石が浮いては弾ける。
『なんて凄まじい
ギョロも固唾を飲み込み、緊張した眼差しで見守る。
「うおおおっ!!!」
「はあああぁ!!!」
ドッシュの闘気を纏った棒撃とケンジさんの闘気を纏った錫杖がぶつかり合う。
互いの向こう側がボコっと凹む。
ケンジさんは間髪入れず錫杖を器用に操りドッシュに連続攻撃を浴びせてきた。
「くっ、この老いぼれが…!」
ドッシュが苦しまぎれにそう毒づき、必死にケンジさんの攻撃を受け流す。
ケンジさんは同じ連続攻撃では受け流される事を悟り、錫杖を大地に打ち付ける。
「俺に同じ攻撃は通用しないからと悪あがきか!今度はこちらから行くぞ!!」
ドッシュは棒で反撃に転じようとした所ケンジさんは打ち付けた錫杖を掴み出し、自身が槍に回されるように身をグルリと回し、ドッシュを蹴り上げた。
「なっ!?ぐおぉ!!」
ドッシュは壁に打ち付けられる。
「さあこいドッシュ!いやドッシュに取り憑いている悪霊め!」
ケンジさんは錫杖をドッシュめがけて構えを取る。
「私は喧華に使える正義の
ドッシュはケンジに飛びかかる。
ケンジSIDEーーー
「正義のインスマスだと?笑わせてくれる!
それにお前は江戸華喧華を正義だと信じてるようだがその正義が混沌を招いているのだ!!」
「出まかせを言うなー!!」
ドッシュの
「ぐふう!」
凄まじい
『爺ちゃん!』
サキュラの側近のギョロがわしに呼びかけて来る。
ふっ、デンキアンコウの一種じゃな、ルルイエではキモ可愛いと言われペットとして飼われる。
わしなら無事じゃ、ちとばかり体は軋むがな…。
心配かけてはならじとわしはヨロケそうになるのを足で踏ん張る。
「痩せ我慢はほどほどにしろ、無理は体に悪いぞ老人」
ドッシュはそんなわしを見抜いていたのか不敵な笑みを浮かべわしに歩み寄る。
「ドッシュから離れろ悪霊!これ以上ドッシュに罪を被せるな!!」
わしは背中の痛みを
バチイン!バチイン!!
攻防戦で棒と錫杖がぶち当たり、火花が散る。
「これだけの攻撃を受けて戦えるとは中々の精神力だな!」
そう言ってドッシュは笑みを漏らす。
こやつは一体何を企んでおるのだ!?
「しかしお前は賢者だからこそ自分の脆さに気づいていまい!!」
いや、コイツはハッタリじゃ!
「ほざけっ!!」
わしは錫杖で尚も撃ち添えようとするがドッシュの体はわしの錫杖をすり抜けてしまった。
「なんじゃと!?」
わしはドッシュがサキュラ、ギョロ、潤実に向かって走って行くのを見た。
何をするつもりだ!
サキュラSIDEーーー
なんとドッシュがケンジさんの錫杖を擦り抜け、私達の元に走ってくる。
何するつもりなの!?
『くっサキュラ達に手は出させへんで!!』
ギョロが勇ましく私達の前に立つ。
とは言え空飛ぶ魚なので浮いている形なのだが…。
「魚は引っ込んでろ!」
ドッシュが棒でギョロを弾き飛ばす。
ギョロに戦闘力は皆無。前に出た所で意味が無い。
私が出るしか無いか…。
「目的は私なのね、良いわよ…」
私は肌を裸けて魅せつけようとする。
「お前のスキルはお見通しだ!」
と跳ね除けられ、棒で突き飛ばされた。
痛いわね…女の子に乱暴するなんて…しかしドッシュの中に入っている魂は…女の人!?
これは私の誘惑も乗らないわけだわ…ドッシュの目的はそう、潤実だった。
「や、やめて!」
潤実は怯える小動物のようにドッシュに怯え上がる。
その姿はそそるけどさっきの勇気はどうしたのよ!
少しでも守られると弱くなるようならもう一度鍛え直す必要があるわね!
「貴様あぁ!!」
ケンジさんが凄い剣幕でドッシュに飛びかかる。
「コイツがどうなっても良いのか!!」
なんとドッシュが潤実を盾にして尚且つナイフを潤実に突きつけた。
この男、ナイフまで持ってたなんて…。
潤実も恐怖で固まり、動けなくなる。
「貴様、卑怯だぞっ!」
ケンジは錫杖を振り上げた姿勢のまま固まる。
女性に乱暴出来ない故の優しさなのか、それとも…。
「まあそう言わずちょっと遊んで行けよ!」
するとドッシュは潤実の服を引き破いた。
「やめてー!!」
潤実は抵抗するがドッシュは潤実を黙らせた。
ドッシュは誘惑のスキルを潤実に放ったのだ。
潤実の表情は虚ろになり、ほろ酔いしたように表情がピンク色に染まる。
「お、お前この子に何をした…?」
ケンジがドッシュに問い聞かすもさっきまでの勢いがまるでない。
「何ってこうしようとしてるのよ!」
ドッシュが潤実に口づけをする。
潤実は誘惑のスキルにかかってしまい抵抗もままならない。
ドッシュが口を離すと糸が引いた。
「ふふふ、この女、中々触り心地が良いぜ、お前もどうだ?」
ドッシュが潤実の体を愉しむ。
「ゴクッ」
ケンジは賢者のプライドを脱ぎ捨てたように怨めしそうにドッシュに弄られている潤実を見守る。
やはりケンジ様も男と言うわけね…。
賢者として禁欲生活を続けると女に優しい分女と言う武器には太刀打ちが出来ない…。
「ほれほれほれどうだどうだどうだ!??」
ドッシュに弄り回されている潤実を見ている内についにケンジの理性のタガが外れてしまった。
「うがああああぁっ!!」
ついにドッシュにケンジ様が混ざってしまう。
ケンジはもはや女に飢えたタダの獣と化し、ドッシュに混ざって潤実を襲う。
もはやケンジに賢者としてのプライドも、理性も無かった。
ん…?
理性が無い…?
私は今のケンジを見てある事を思いついた。
理性が無いと言うことは意識がぶっ飛んでいると言うこと…。
ケンジ様は活発に動いてはいるけど今は頭はすっからかん。
これは使えそうだわ!
私はスキル「憑依」を放ち、ケンジ様に乗り移ろうとした。
ビリッ!
上手く行かない!?
私は電流に触れたような衝撃を覚え、ケンジの体に入る事が中々出来ない!
ん?その中でケンジがもう一人のケンジと争っている姿が見えた。
『貴様!賢者としてのプライドはどうした!』
『もう賢者なんかやってられっか!俺だって女の体が欲しいんだよ!』
『この野郎ぶっ殺してやる!』
『やるかこのっ!』
二人のケンジが争い出した。
私の憑依が上手くいかないのはこれが原因ね…。
ケンジ様はドッシュと共に潤実を襲ってるけど深層心理の中では未だ善の心と悪の心が戦っている。
そのどちらかを殺さない限りケンジ様の意識が途絶える事は無い!
私は善のケンジ、悪のケンジが戦っているのを見て、そのどちらかに助太刀する道を選んだ。
私の横に断絶の剣が現れる。
その剣からは男性の声が。
『サキュラよ、善の心と悪の心とどちらかを斬るつもりだな、私を使うが良い!』
私はコクリと頷き、その剣を抜いた。
そして私は深層心理の戦場へと駆けて行った。
「な、なんだ!?」
善と悪のケンジが争いあっていたが私が剣を強く握り、駆けている姿を見て狼狽え出す。
「覚悟ーーー!!!」
そして私はどちらか一体のケンジを剣で撃ち斬った。
『そんな…何故…』
私が剣で絶ったのは善の心のケンジ。
正義は勝つとは言うけどそれは嘘よ。
私の中では悪には制限が無く、正義や情は結局のところ甘さに繋がる。
ケンジはついにプッツリと切れてしまう。
その際、ケンジの意識は今度こそ外れ、私が彼の中に入り込む好機が出来た。
「この体借りるわよ!!」
私はケンジの体に乗り移った。
私は病みつきになりそうな感情を覚えるがケンジはやはり潤実を襲っている最中だった。
でも残念、私は男などと言う下賎な生き物では無い!
私はすぐさま潤実から離れる。
「この機に及んで痩せ我慢か?しかしよく見ろ!お前はもう絶っている!!」
「流石はドッシュ…男の本能を見抜いてたようね…うくっ!」
私の本能から白い血が噴き出る。
「大したメンタルだ、しかしお前は俺には勝てぬ!!」
ドッシュは潤実を担ぎ上げ、盾にしだす。
しかし私はそんな甘い生き物では無い。
「潤実もろとも滅びなさい!!」
私は潤実と共にドッシュを叩きつける。
その際にドッシュは潤実から手を離す。
「こ、こいつ女に乱暴しやがった!これでも賢者か!!」
ドッシュは私を責めだすがそんな御託は私には通じないわ!
「残念だが私はもう賢者じゃない!ハイヤ!!」
私は潤実を叩き上げ、ドッシュをドミノ倒しにする。
「邪魔だ!!」
ドッシュは潤実を振り飛ばす。
潤実はいつもボーっとしてるけど魅惑のスキルで更にボーっとしていてただの人形のように地に崩れ落ちた。
潤実に乗り移っても良かったけどこの際はより力の強いケンジ様の方が使い物になるわ、また乗り移ってあげるから今の所は許して頂戴。
「ドッシュ、いやドッシュに力を貸している悪霊、今貴女とドッシュを引き剥がしてあげるわ!」
私はケンジ様の体を駆りて吼えた。
「俺の恨みは死んでも晴れぬ!トラテツ兄貴の仇は俺が討つ!!!」
ドッシュは殺気を拳に込めて無数の拳を放ってきた。
私は気を集中させてドッシュからその悪霊を弾き飛ばす急所を探る。
それは「経絡秘孔」と言うものでそれを突くと瞬時に悪霊が体から引き剥がされると言う。
私はケンジ様の脳の神経から記憶を辿り、ケンジ様が経絡秘孔について学んでいたのを脳に刻み、そこで錫杖で経絡秘孔を突く態勢を取っていた。
「トドメだぁお前も海溝潤実もこの世から消し去ってやるぅ!!」
その間にもドッシュから無数の拳が飛んでくる。
「うおおぉっ!!」
ドスンッ!私は経絡秘孔を見つけ、勢いよく錫杖でそれを突きつけた。
するとドッシュから飛ばされていた無数の拳が消えてなくなり、ドッシュは地に崩れ落ちた。
その刹那、ドッシュの体からは黒いモヤのようなものが空に浮かび上がり、黒い煙のようなドレスに身を包んだ髪の長い女性が切れ長の目で私を見下ろしていた。
『くうっ、この石頭のクソ賢者めが…』
女は子供じみた罵り文句を私にぶつける。
「さっさとあの世に帰りなさい!!」
私は浄化のスキルで女を消し去った。
「喧華様アーーーーッ!!!」
悪霊は今度こそ地上から消え失せた。
せいぜい喧華様と仲良くやりなさい、地獄でね!
ーーー
そして私は元の体に戻り、とりあえずはドッシュから悪霊を離すのに成功した。
潤実は少なからずショックを受けていたので治してあげた。
ドッシュとは誤解が解けたがドッシュ自身は潤実と会うのは気まずいと逃げ出した。
「私ドッシュ君に嫌われる事したかなあ?」
気にする潤実だが実際は逆よ、まあ私が一部貴女の記憶を消したからわからないのも無理ないけど。
ゼウスの像は壊されたし…一体どうしたら良いんだろう?
そんな時ケンジ様が言ってきた。
「実はゼウスの像はまだ隠された場所にあるのです!」
なんとゼウスの像は更に奥の地下に眠っていると言うではないか!
私達はケンジ様に地下のエレベーターに案内され、ゼウスの像の元へと降り立った。
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