疫病神なんか


振座氷結SIDEーーー


なんて美しい少女だ…私は海溝潤実をまじまじと見つめた。

しかし人を陥れて不幸を招く少女…この可憐な少女が…!


自分の手ながら拳に力が入るのを感じる。

何せ私は彼女を憎んでいる。


何故なら可園熊次と一生会わぬと誓いあったのに会わねばならぬ事態に直面しているのだからな!


「ここは…何これ!?」


潤実は自身の体が縛られているのに狼狽える。


「初めましてマドモアゼル、私は振座氷結ふりざひょうけつ、お前は私が部下に攫わせておいた」


私は海溝潤実に対する憎しみの念を押し殺し、恭しく挨拶を交わした。


「う…海溝潤実です、私は一体…」


「これは何かわかるかな?」


私は海溝潤実に白い魔力石を見せた。


「そ、それは!」


海溝潤実の顔に焦りの色が見えだす。

彼女は軽間奈照の魔力石、私は海溝潤実が目覚める前、軽間奈照の霊とコンタクトを取り、彼女のマインドコントロールを試みた。


『貴方は誰なの?潤実ちゃんに会わせて!』


魔力石から奈照という女性の霊は訴える。


「軽間奈照…もう彼女にこだわるのはやめたら如何ですか?」


『何故ですか?あの子は私がいてあげないと!』


「貴女のせいで結果的にあの子は苦しむ事になっているのですよ?」


この女、どうやら海溝潤実を妹のように思っていたらしい。


『貴方にどうこう言われる覚えはありません!』


「貴女のせいで海溝潤実は甘やかされ、疫病神となって人を困らせている、貴女が潤実を堕落させたからだ」


『そんな事…』


奈照の声に動揺の色が見え始めた。

もう少しだ…。


「彼女を鍛える為だと思って心を鬼にして突き放してあげてください、優しさだけが全てではありません、貴女のせいであの子は駄目になった、あの子が強くなるには無視も必要です』


私はあらかじめ軽間奈照と言うおんなにも潤実を突き放すよう揺さぶった。


『私のせいで潤実は駄目に…』


生き甲斐を失った奈照の沈んだ声…これで海溝潤実をどん底に突き落とす材料は揃った!


海溝潤実SIDEーーー


奈照さんの魔力石の様子がおかしい。

黒く濁り出していると言うのか…!


(潤実ちゃん?)


奈照さん?


(この人から聞きました、貴女、可園彩華や武斉葛子を死に追いやっただけでなく彩華の父親である可園熊次をたぶらかしたんですってね?)


「奈照さんっ!信じて…あれは!」


(黙りなさい!貴女の顔も声も二度と見たく無いし聞きたくない…!)


「どうして奈照さんまで…」


(嘘泣きなんかしても私は揺れ動かないわ、貴女もサキュラと同じで人の血なんか流れていない下劣な人種なのよ)


泣き崩れる海溝潤実の表情、江戸華喧華様も言っていたがそれがこいつの武器と言うのか、しかし軽間奈照と言う女、情は深くも怒りを覚えると修復出来ぬ程頑なになる女と見た。


軽間奈照は海溝潤実から背を向け、振り向く事は無い。


「奈照さあああああ…ん!!!」


潤実は泣きすがろうとするが奈照は潤実から距離を離しその姿は小さくなってやがて消えてしまった。


「そうだ、貴様は疫病神だ、そして俺も交わした約束をお前のせいで破られる事になっている!お前が疫病神であると江戸華喧華様も仰っている、たった今奈照にも嫌われただろ?それがお前が疫病神である証拠だ!!」


俺は指を指して潤実を罵った。

潤実はゾクゾクするような泣き顔を見せてくれる。


「私のせいで…みんなが…」


「そうだ、お前はこの世にいてはいけない女だ!だが安心しろ、これから俺がお前を断罪させてやる!」


俺はそう言い潤実の腹に拳を入れた。


「ぐふっ」


「これは可園彩華の分だ」


さらにもう一発。


「これは武斉葛子の分…」


「ゴホゴホッ!」


俺は彼女のせいで不幸に追いやった人間の分まで彼女に断罪の拳を入れていく。


海溝潤実SIDEーーー


「これは軽間奈照の分だ」


「ぶはぁっ!」


奈照…さんっ!

奈照さんの魔力石からは今までのような温かさは感じられなかった。

今、奈照さんの魔力石は降座氷結さんと言う人が持っているけど…私はこの人に何をしたと言うの!?


「わ、私に何の恨みが…私は貴方とは初対面ですっ」


「口答えするなっ!」


私はまた拳を入れられる。

痛い…怖い…何でこんな仕打ち受けているのかわからない…心の支えだった奈照さんにも離れられてしまった…私は独りぼっちなんだ…。


「おおいにあるさ、お前はいるだけで周りに不運をもたらす女よ!!」


私はまた一段と強い一発を氷結から与えられた。


「今のがこの俺の分だ!」


氷結さんは凍てつく程のオーラを放ち次々と私に拳を入れていく。


「そしてこれは可園熊次の分!!」

「トラテツと言う猫の分!!」

「サキュラという少女の分!!」


どれだけ痛めつけられたかわからない…私は縛られて身動き出来ない状態だが氷結さんは次々と私が迷惑をかけた人達の名前を挙げて断罪の拳を入れていく。


「そして最後にこれは…!」


氷結は殺気を一段と噴出させ、拳を充血させる程強く握り、地獄の鬼のような表情でオーラを溜める。


そして氷結は思いきり溜めたオーラを噴出させて私に無数の拳を浴びせてきた。


「お前のせいで人生をボロボロにされた江戸華喧華様の分だああああああぁ!!!」


ドドドドドドドドドドドドッ!!!


「ぶはっ!ぐふっ!ぶぉっ!」


1秒に既に三発、いやそれ以上入れてるんじゃないかと思う程の速い攻撃を浴びせられ私は意識を失う直前に陥る。


途中で氷結は拳を止めてしまう。


「おっと、このまま眠ってもらっては困る♪」


チロチロチロ…。


下から出るもので足は濡れて床にまで溢れ落ちる。

それを気にしない素ぶりで氷結は私の手足に縛られていた縄を解き、自由にする。


しかし私は散々攻撃を浴びせられたのと心理的なショックな為抵抗する意志も失われていた。


氷結はそんな私を乱暴にベッドに投げ飛ばす。

ドサリッ!


私は体に力を入れる力も残されていなかったのでそのままベッドに身を預けられる形となり次いで氷結も乗ってきた。


「グフフ海溝潤実よ、悪い事は言わん、この降座氷結のモノになれ!」


今度は氷結は猫なで声となり笑みを浮かべて私を可愛がりだす。

でもこれだけの事をしておいて何を言うんだろうこの人は?


「やめなさい、メイルストローム!!」


私は我に返りクトゥルフに変身し氷結にメイルストロームをぶつけた。


「このアマ!!フリージングダスト!!」


さらに氷結は凍えるようなオーラを噴出させて部屋中を猛吹雪に襲わせる。


「我とて元はクトゥルフにして熟練の氷の異能を操る男!戦うつもりなら受けて立つぞ!」


先程拳を入れられた箇所が痛む。

でも戦わなければ…もう好き放題にされるのはゴメンだ!!


「やあああー槍百烈突き!!」


「アイシングソード!!」


氷結は氷で出来た剣で私の槍による百烈突きを剣で次々と受け流す。


「かかったわね!水竜槍!!」


私は異能による湖を作り氷結を動けないようにし、私は勇ましく槍を構える人魚の戦士となって氷結に対抗する。


降座氷結SIDEーーー


「かかったのはお前だ!フリージングタワー!!」


海溝潤実が上がった所で俺は潤実の真下にフリージングタワーを放ち、海溝潤実を透明な氷の塔に閉じ込めた。


寒かろう、動く事もままなるまい、疫病神にはそれ相応の罰を受けてもらわねばな。


「ずっとこうしていろ!」


海溝潤実は勇ましい人魚の姿で槍を振りかざした姿で氷で出来た塔の中でこのまま固まっている。


氷のはく製の出来上がりだ!


サキュラSIDEーーー


「ギャアァ!」「うああぁ!」


炎で焼き尽くされていくインスマスの群れ。

熊次の炎と棍棒にかかればインスマス達が束になってかかった所で一網打尽。


「お前達、怪我はないか?」


「ありがとう、貴方の腕も衰えてないわね」


貴方がいなければ無事では済まなかった。


「君も…たまにインスマスがミイラのように干からびている屍体を見ることがあるのだが君の異能なんだろ?」


あら、バレてたみたいね。


一方のトラテツは悔しそうにしている。

まあ、漢見せれなくて歯痒いのはわかるけどこの屈辱を耐えてあえて感謝の念を持つのも漢よ?


それと海溝潤実…私がインスマスを誘惑しあれだけの数のインスマスの生命力を吸い取り地獄まで見送ってあげられているのも貴女のおかげ…。


貴女には気の毒だけど貴女の犠牲は私のこうした能力を高めて魅惑の鱗粉を放出させるのに役立ってくれている。


もっと私を愉しませて頂戴な…♪

…でも今は無事で済んでいるのかしら?


貴女にはまだ死んでもらっては困るから早く助けてあげないと私達の目的も夢のそのまた夢となるわ。


「トラテツ、拗ねてないで海溝潤実と武斉葛子さんの魔力石の在処ありかを探るのよ!」


トラテツにもちゃんと活躍の場はあるんだから。

嫉妬ばかりして熊次さんを目の敵にしてもはじまらないのよ!


ーーー


「ここか…」


インスマスを相手にしながら進んでいくと氷で出来た扉に辿り着く。


これは分厚い氷の扉ってだけじゃなくその取っ手を握ると生身なら凍傷を引き起こしかねない魔界の扉だわ。


「お前らどしたんな?早よ潤実助けて魔力石も戻さんとあかんのやろ?」


何も考えていないトラテツが真っ先に触ろうとする。


「待て!これは瞬間冷凍の扉だ、特別な手袋か氷の使い手の氷結以外の人間が触ると凍傷を引き起こしてしまうぞ!」


熊次は注意をかける。


「いっ!ほんまじゃ…触って無いのに近づけただけでヒリヒリしよる…」


ようやく気付いたみたいね。


「私に任せておけ、ああぁ!!」


熊次は手のひらから火炎放射を発し、氷の扉を焼き尽くす。


氷の扉が溶けていって向こう側の外観が露わになっていく。


向こう側では白衣に銀髪の男が狼狽えた様子でこちらを見ているのが見えるわね。


それと氷の柱ようなものがそびえ、人魚が槍を構えた姿勢でそのまま描かれている…。


あの人魚は…海溝潤実!??


「お前は…降座氷結!!!」


氷が溶け、部屋に足を踏み入れた途端熊次は何故そこにいると言ったように目を見開き、狼狽えた様子で降座氷結を見ている。


どうやら可園熊次と降座氷結は何らかの因縁があるみたいね。


一方可園熊次を見た降座氷結の表情は狼狽えの表情から激しい憎悪の表情となって熊次を睨みつけ、怒声を放つ。


「一生出会わぬと誓ったのに…何故ここに来たああああぁ!!!」


氷結は涙を滝のように流し、顔には激しい怒りの色を見せて大声で叫ぶ。


「真矢が…引き合わせてくれたのかもな…」


「真矢…が…」


氷結は激しい憎悪の表情から何かを懐かしむような、哀しげな表情となって脳裏には真矢の在りし頃の満面の笑顔が焼き付けられた。


「それより海溝潤実を解放しなさい!」


私は氷結に海溝潤実の解放をこころむ。


「そう言う訳には行かぬなあ!彼女は江戸華喧華様から直々に始末しろと言われている!個人的な恨みは貴様と会う事になった位だが喧華様の命令は命より絶対!解放して欲しいと言うなら私を倒してからにしろ!!」


氷結はまたも夜叉の表情となり、構えをとる。


「真矢の思いも俺の思いももうお前には届かぬようだな…」


熊次もまた構えをとる。

悲しい因縁の戦い…命令に忠義してまで何故友情を放棄するというの?


可園熊次SIDEーーー


降座氷結…出来ればお前とは戦いたく無かった。

何故ここまでして江戸華喧華に忠誠を誓うのか。

だがどうしてもと言うのなら仕方あるまい。


俺は棍棒を構えて戦闘態勢に入った。


俺と氷結のクトゥルフ同士の闘気がぶつかり合い、ポルターガイスト、電流などの現象を引き起こす。


「そうだ、それでこそ俺の元ライバルだ!」


氷結は気持ちだけ褒め、更に闘気を沸き立たせる。

俺も奴に対抗するように闘気を高める。


「クトゥルフ同士の闘気と闘気がぶつかり合っている…」


サキュラさんが呟く。

不思議な女の子だ、ルルイエ人とは言えとても幼い少女とは思えない冷静な判断力、知性、彼女は何者…。


「け、毛が逆立ちよる、にゃ、にゃにゃあ!?」


トラテツが悲鳴をあげたと思うと猫の姿となって転げ回った。

そう言えば彼は元々トラ猫だったようだな。


虎徹頼太郎と言う正義のクトゥルフの飼い猫。

まだ少年ながら頼太郎譲りの正義感とクトゥルフ戦士としての意地は立派であった!


そして海溝潤実さん、武斉葛子の霊に吹き込まれたとは言え貴女を散々苦しませてしまってすまない…。


貴女を救う為なら今は手を穢してでもこの男と戦おう!


編集メールで編集画像を追加削除


「お前も海溝潤実と一緒に葬ってやろう!アイシクルブロウ!!」


赤熊紅蓮突しゃくまぐれんづき


今度は俺と氷結は白兵戦で臨む。

俺の棍棒を受け流し、また俺も氷結のかぎ爪を受け流す。


武器と武器がぶつかり合い、火花を散らす。


俺の闘気は炎となって氷結の肌に熱を伝え、氷結の闘気もまた冷気となって俺の肌に冷気を伝う。


「激しいクトゥルフ同士の戦い…どちらかが死ぬまで戦いは終わらないわ…」


トラテツは闘気が毛に纏わり付いてもがく。

戦いが終わるまではこのままだろう。


俺と氷結は1グラウンドを締めるかのように互いに後方に飛び、息を整える。


「ハァハァ…どうやら年を重ねて少し体力が落ちてたようだな…」


「ハァハァ…お前の方こそ…」


サキュラSIDEーーー


これだけ激しい闘気をぶつけて互いの激しい戦闘力を見せておいて体力が衰えたと言うの!?


熊次さんの異能もさることながら氷結さんの異能もまた強い…。


男同士の意地と意地が彼らをそうさせているのね…。


「行くぞ熊っち!!」


「臨む所だ、ヒョウちゃん!!」


俺と氷結は互いに高校時代のアダ名で呼び合い、第2グラウンドに臨んだ。


「赤熊千煉獄!!!」


「ダイヤモンドメルトン!!!」


熊次の激しい熱風と氷結のダイヤモンドのような隕石がぶつかり合い、相殺を繰り返す。


「まだまだだ!フリージングエアロカッター!!!」


「赤熊魔神旋!!!」


氷のかまいたちと炎のかまいたちが双方を襲い、互いの身体の所々に傷を入れる。


「ウリイイイイイィ!!!」


「オラオラオラオラ!!!」


そして互いに白兵戦へと持ち込みどちらかを殺さんかの勢いで激しい闘気と激しい武器がぶつかり合う。


どちらも負けられない事情がある…。

しかし彼らの表情は殺気だけでは無い、何か温かい感情も芽生えはじめていた。


「これが友情…」


私は確信した、二人がぶつかり合って芽生え出しているもの、それは憎しみだけでは無い…友情であると!


一方のトラテツは「フギャア!フギャア!」と悲鳴を上げて毛に電流が纏わり付いてもがいている。


「赤熊千極陣!!!」


「アイシクルシャドウ!!!」


互いは体と武器、闘気をかけてぶつかり、双方の位置が変わる。


…熊次と氷結の戦いに決着がついたようね。


「くうっ!」


ガクッ…。


地に膝をついたのは氷結だった。


「くっ、流石だ熊次…!真矢が認めただけある…」


「潤実さんは、解放してくれるな?」


「わかった、約束は約束だ!」


そして氷結はパチンと指を鳴らす。

すると氷は凄い勢いで解け、潤実は解放された。


「うぅ…!」


重力で地にドサリと崩れ落ちる潤実。


「「潤実!!!」」


サキュラ達は駆け寄る。


潤実は寒さでかじかんでいるものの命に別状は無かった。


「それとずっとそのままでは寒かろう、これも持っていきなさい!」


氷結は厚い布をサキュラ達に投げた。


「恩に切るわ」


サキュラは潤実に氷結から与えられた布を被せ、暖めた。


「すまないな、氷結…」


「俺の方こそ、真矢が引き合わせてくれた筈なのに勝手に疫病神と決めつけてしまった事、その子にも謝っておいてくれ」


「忘れる所だったわ、ついでに葛子の魔力石も…本来の目的は彩華と葛子を会わせる事だから…」


「はいよ、お嬢さん」


氷結がサキュラに葛子の魔力石を渡した後氷結の様子に異変が生じた。


「ギギギ…!」


氷結が頭を手で押さえもがきだす。


「どうした!?何があった!!」


手加減した筈なのに苦しむ事になるなんて…!

打ち所が悪かったのか!?

俺は介抱しようとした。


『この宿命の戦い!どちらかが死ぬまで放棄は許さぬ!!』


「なっ!ルルイエ議長!?」


天上を見上げたサキュラが珍しく感情的になって吼えた。


『サキュラか…お前も知っていよう…クトゥルフとクトゥルフの戦いは放棄は許されないと…』


「ですが…」


こんな表情のサキュラは始めて見た。

しっかりし過ぎていて無邪気さに欠けると思っていたのに。


『ずっと人間界にいて人間としての感情に芽生えてしまったかサキュラ…!』


「……」


サキュラは押し黙り、まるで親に怒られている子供のような表情になる。


「構わん…お前達はここから行け!!」


氷結はもがきながら俺達にそう言う。


「しかし…」


「行けと言ってるんだ!!」


氷結は俺達を突き飛ばした。


そして氷結はまたパチンと指を弾く。

すると俺達の足元に大きな穴が出来、俺達は地上に真っ逆さまに落ちていった。


降座氷結SIDEーーー


「俺も潮時だな…江戸華喧華さんよ!」


俺は物陰に隠れている江戸華喧華に話しかけた。


「ふっ、よくわかったわね…お前は戦いに敗れ、結束を放棄した、覚悟は出来てるんでしょうね?」


喧華は暗黒のオーラを放つ。


俺はゆっくりと立ち上がり、周囲を吹雪に覆わせた。


周りに冷気が走る…少なくとも俺が闘気を放出している時はそうなるのだ。


更に闘気を放出させると今のように周囲を凍てついた極寒の世界を作る。


「私と戦う気かい?良いでしょう…」


喧華の体は大きくなり、男体化する。


「そっちの方がハンサムですよ」


俺は構えながら皮肉を言ってみせる。


「俺の気にしている事を…死ねい!!!」


そして俺の目の前は真っ白になった。


サキュラSIDEーーー


今の声は本当にルルイエ議長だったのかしら?

何か違ってたような?

私の読心術を知ってしまった奴らは感情を悟らせず戦い、コミュニケーションを取る術を得ているからタチが悪い。


氷結が激しく潤実を憎んでいる事はわかってたけど…しかし妙ね…。


今熊次さんが潤実さんを担ぎ、トラテツと私は誰も使われていないだろう車を適当に見つけ、走りだした。


車も鍵が無いと動かないからこう言う時でもトラテツの鼻は役に立った。

ガソリンは無いかとか…。


インスマスのアジトは廃れてはいるが元はちゃんとした一つの街だったから使えるものは揃えてある。


私達が乗っている車はナンバープレートが無いから途中で乗り捨てて駅で乗り換えする羽目になったんだけど…。


とりあえず私達は彩華と葛子を引き合わせる事に成功した。


『姉御…会いたかった!あっしは幸せッス!!』


『アタイもだ葛子!ずっとずっと愛してんぜ!!』


ほかの人にはわからないが私には聞こえた。

彩華と葛子の再会を喜ぶ声が…。

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