届かない思い
海溝潤実SIDE
私は何度も何度も奈照さんに助けを求めた。
(奈照さん…辛いよ…助けてよ…)
しかし奈照さんは何も答えてくれなかった。
なんで…?
「いい加減にしなさい」
そこでサキュラが入ってきた。
お盆におかゆとかリンゴをすり潰したものなど消化に良いもの、水と薬を載せている。
「いくら念じたって来ないものは来ないわ…」
「何でそう…ゴホ!ゴホ!」
私は咳き込む、そう私は風邪を引いている。
昨日、氷の壁に閉ざされたのが響いたらしい。
奈照さんは傷の治療だけでなく風邪など体調が悪い時も瞬間治癒できる能力があった。
いつもならこうした時は助けに来てくれるのに…。
「奈照の事は諦めなさい、代わりに良い
「嫌…だ…私は奈照さんじゃないと嫌だよぅ…」
堪え切れない悔しさに襲われて私は泣いてしまった。
「………」
サキュラはため息をついて食べ物と薬を私のすぐに置いたまま出て行ってしまった。
白い魔力石は私のすぐ横で寝かされているがいつかは心配して来てくれるだろうと思ってた…。
しかし、奈照さんが私に語りかけてくれる事は無かった。
私は携帯を覗く。
(蓮香ちゃんやともみんに慰めてもらおう)
私はゼウむすを先ず読む。
蓮香ちゃん…良かったね…♪
蓮香ちゃんに笑顔が戻り、ほっこりする。
数々の試練、友情、旅を経て成長する蓮香ちゃんを見て励まされた気持ちになる。
逆にどうにでもならない事態に直面した時は頑張って!とか代わってあげたいっ!と言う気持ちになる。
健気だなあ…ついでどうかわを読む私。
ともみんに新たな友達が出来る。
学校ではいじめられて、独りぼっちだったともみん。
でも、成長した鳴海結愛ちゃんに助けられる。
結愛ちゃんも立派になったね…。
私はちょっとでも進歩出来たかな…?
助けられてばかりで…とか言われちゃった…頑張らないと。
ともあれともみんは新たに出来た友達と楽しいひと時。
素敵だなあ…。
「風邪ひいてる時に携帯見てると風邪悪化しちゃうぞ♪」
そんな時、穏やかで優しい声で誰かが私をあざけっている女の人の声がした。
え?奈照さんっ!
信じられない!
私のベッドのすぐ横にはいつのまにか奈照さんがいて、微笑んでくれていた。
「奈照…さん…」
私は思わず目尻が熱くなってしまう。
「あらあら♪相変わらず泣き虫さんね、私が看病してあげるわ、病気が良くなるまで…ね♪」
奈照さんが私の手を両手でギュッと握ってくれる。
スベスベしてて優しい手触り…奈照さん…来てくれたんだ…!
「奈照さん…ごめんなさい…」
私の目の前はウルウルしてて殆ど見えなくなるが、奈照さんがそんな私を優しい眼差しで見てくれているだろうと実感出来た。
「あらあら良いのよ♪私もこの間はどうかしちゃってたもの、謝らなくちゃいけないのはコッチの方、潤実ちゃん、ごめんなさい…」
奈照さんもまた、ウルウルした綺麗な瞳を細め、謝ってくれる。
「私はすぐどこかには行ったりはしないわ、今はゆっくりと休みなさい、それとも、眠れない?」
私は無条件にコクリとしてしまう。
このままずっと一緒にいて欲しい、独りぼっちは嫌だ。
「もう、わがままさんね、じゃあ子守歌歌ってあげるわ、♪どうか破り捨ててくれないかパッケージ 息ができないよ…♪」
奈照さんの心地いい、優しい歌声が私を更なる夢に誘ってくれる。
久しぶりだな…奈照さんの歌を聴くのって♪
トラテツSIDEーーー
わいはトラ猫のトラテツ、今潤実の部屋に忍びこんどんじょ。
うるみん、ごめんな…わいは心の中で一言詫びる。
今からわいのする事はしたらあかん事なんじょ。
うるみんのすぐ横には携帯がある。
携帯からは音楽が…。
これは「蝶々になって」やな、曲探っしょる時に見つけてDLしたや言よったけんど良い曲やったけんわいも時々ハミングしよんじょ。
ほなけどわいの目的はそれとちゃう。
うるみんの持っとる奈照さんの魔力石なんじょ。
それを奪って来いやサキュラに言われて来たけんど…。
携帯のすぐそばに白い石が見える、あれが奈照さんの魔力石なんじょ。
わいはそれをうるみんに気付かれんように
正直「奈照さん…?」と言よった時はビックリしてベッドの下に隠れよったけんどな。
ほなけどうるみんには気の毒じゃ、代わりの白い石置いて来たんやけどどんな奴の魔力石なん?
ともあれわいは奈照さんの魔力石を口に咥えてサキュラのおる部屋に走った。
「ご苦労様」
サキュラは無機質な声質、表情で礼を述べてわいの盗ねてきた奈照さんの魔力石を受け取る。
何考えとんかわからん女やな。
「で一体どうして魔力石を交換して来いと?」
わいはメインに気になっとることを聞いてみる。
「あの子の為よ」
サキュラは少し切なげな表情になって遠い目と言って良いんか向こう側を向いて答えた。
サキュラSIDEーーー
悪い事したわね潤実、こうするしかなかったの。
変にしつこくこだわっても無駄な労力を使うだけ。
奈照さんは穏やかに見えて頑固で考え方を簡単には変えない人…。
貴女がいくら彼女に期待をしていても無駄な事なのよ?
でも安心して、奈照はルルイエの礼拝所に預けておくわ。
あそこなら寂しくなくて済むでしょう。
それにあそこは同じ属性の
それに貴女の所にある白い魔力石も気の可愛らしい子だから安心して?
私や彩華みたいに残酷では無いから。
海溝潤実SIDEーーー
「他人の不幸で蜜吸う阿呆
明日も胡蝶の夢をみていよう♪」
あれ、奈照さん声質変わった?
私は目を開けてみる。
するとそこには奈照さんでは無い、別の女の子が私のベッドに座って歌を歌っていた。
携帯から音楽が鳴っている。
あわわっ!恥ずかしい!
私は咄嗟に携帯を取って電源ボタンを押した。
「何で消すん?良い曲やったやん」
何故か関西弁。
「トラテツ?」
私はその顔を見てみた。
その子は大きな尻尾をフリフリさせて緑色のワンピース、茶髪に丸い耳を持った12歳くらいの女の子だった。
サキュラも外見上はそれ位だがサキュラがクールなのに対してこの子は無邪気そうで如何にも12歳と言った感じだった。
「トラテツちゃうよ?ミトモンて言うんやで♪」
女の子はそう答えた。
「それと具合悪かったんやろ?風邪治す魔法かけといたけん」
ミトモンと言う女の子がドヤ顔で言ってきた。
そう言えば体が軽くなってるような?
寝てたからかも知れないけど熱っぽさが無くなってる…。
「それとアンタ名前は何ていうん?」
「海溝…潤実…」
ミトモンが聞いてきたので私は名乗った。
「じゃあうるみんと呼ぶな!早速風邪が治った記念に551行こ!551!!」
ミトモンは私の手を引いて強引に連れて行こうとする。
強引な子だなあ…てかなんで551!?
「ご、551?ここ徳島だよ??」
551は関西メインにある店舗で徳島には無い。
徳島もテレビのCMで551とかホテルニューアワジなどはやってるが近くの県と言うだけで今の私に行く機会はあまり無い。
気になったりはするし551のアイスキャンデーとかホーライとか食べてみたいなーとは思うけど。
「そうなんかーニホンといえば551とかアキハバラとか有名な所て聞くけどなー?」
あーそれはあるね。
見たところ日本人ぽさはあまり無い。
「貴女はどこから?」
「ルルイエやよ?」
ミトモンは答えた。
ル、ルルイエ!?サキュラと同じ所じゃない!見た感じ全然違う。
「に、似てないね…」
心の感情に相反して声のテンションはいつもながら低い私。
「えーほんまー?嬉しい♪サキュラって無愛想よねーなんか人形みたいと言うかゼンマイ人形でうごいてるんとちゃうんて感じ?」
(サキュラってそっちでも嫌われてるんだ…)
でもサキュラってそんなに悪い子では無いと思うけど確かに無機質な所はある。
でもでも、最近はアニメ気に入ってるぽいしゼウむすとかWNIとか魅入るように観ている。
その姿見てる瞬間は共通の趣味だなって思ってほっこりしてしまう。
いつもはクールなんだけどね…。
「ほなトクシマ言うところの街案内してよ!ここ初めてだから何があるのか知りたいし♪」
「い、良いよ、服着替えてくるね」
私は引き出しから服を選んでそれを着た。
それを見たミトモンは。
「なんか地味やなーもっと良いもん無いん?」
と聞いてきた。
クトゥルフ姿は妙に露出度高いから普段着は寧ろ普通でいたい。
「このGパンなんかハサミで切った方が…」
「はわわーやめて!」
私はハサミでGパンを短パンにしようとするミトモンを止めた。
「最近の子ってよくミニスカとか履くと言うしそっちの方が男の子釣れるって♪」
「男の子釣りに行くんじゃないんだよ…」
私は呆れながらミトモンに街案内する事にした。
徳島の中枢は吉野川
神山眉山に文化の森
粋な構えの県庁に
いかめし神社は忌部神社
アニメイトズラリポッポ街
そごうビルディングに徳島駅
ポッポと出る汽車どこへ行く
らめなんちゃらギッチョンチョンでパイのパイのパイ
パリコトすだちでフライフライフライ♪
徳島の美麗な大自然は
大歩危小歩危に剣山
せっせとドブ掃除内会員
横で通り過ぎる学生さん
すだち金時ぶどう饅頭
何だとこんちくしょうでネズミ取り
違反にデモ行進にかっぱらい
らめなんちゃらギッチョンチョンでパイのパイのパイ
パリコトすだちでフライフライフライ♪
「あれジンジャーやろ街ん中建っとるって素敵やなー♪」
「神社ね、とりあえずお参りに行ってみようか?」
お賽銭を入れて祈る私達、ミトモンも私を真似てお祈りする。
「なあなあ何お願いしたん?」
「ん、んー皆んなとずっと一緒にいられますように…かな?ミトモンは?」
「えへへー秘密ー♪」
「阿波踊り会館でシネマやっとる?どれどれ、ゼウむす!?行ってみよう!!」
ゼウむすを見て私もだが、ミトモンもハンカチで目を拭いてシクシクと泣いている。
見終わった時は号泣の嵐だった。
ついでにゼウむすのポスターも貰った♪
「そごうでミケネコーンが風船配りよる!ウチらも貰いに行こう!」
「広い川やなあ、吉野川って言うん!?」
案内する度にミトモンには新鮮なのか、感動の嵐だったようだ。
ともあれ気に入って貰えて良かった。
私もミトモンの嬉しそうにはしゃぐ姿を見てほっこりとする。
妹が出来たみたいでとても嬉しい♪
「ホンマ楽しかったわあ♪うるみんありがとな☆」
「ううん、どういたしまして♪」
私とミトモンは互いに微笑みかける。
するとミトモンの姿が薄くなりだした。
「ミトモン…体が…」
徐々に半透明になっていくのに少し焦る私。
「あ…言うん忘れとったけど実はウチ魔力石になってん」
ミトモンは少し困ったような表情になって答える。
魔力石ってクトゥルフが命を落として出来る石の事である。
こんな小さな子が…。
「そんな悲しい顔せんといて、ごっつい楽しいひと時過ごせたしウチもお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しかった♪」
ミトモンが言い終えると姿は跡形も無くなった。
「ミトモン…」
私は白い魔力石を握りしめ、涙が枯れるまで泣いた。
家に帰るとサキュラが寝込んでいた。
隣にはトラテツが。
「遅くなってごめん、あれ?サキュラどうしたの?」
ややほおが赤くなっていてハァハァ息を荒げている。
「サキュラ具合悪い言うて寝てしもたんよ」
「大変!」
私はサキュラに冷たいタオルを額にあて、リンゴをすり潰したのなど消化に良いものを食べさせ、薬を飲ませた。
サキュラの汗を拭き取る私。
辛そう…風邪ってなってみて辛さがわかるものなんだよ…仕事行ってると余計にね。
一晩中でもサキュラの側にいてあげよう。
「この世界中でただひとりだけ不器用なあたし受け止めてくれたから…♪」
私はサキュラに子守唄を聞かせる。
するとサキュラは「お母さん…」と言葉を漏らした。
え?お母さん?
私は呆気に取られた。
まさかサキュラからこのワードが出てくるとは。
でもサキュラもやっぱり女の子…寂しい時は寂しいんだね…。
私はサキュラが憎めなくなり、ずっと側にいてあげた。
私も少しは奈照さんみたいになれたかな?
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