正義は相反しあう…

トラテツSIDEーーー


わからん…ホンマわからん…。

何が言うたらサキュラの考えとる事じょ。


わい、可園熊次言うおっさんは好かん。

普通そうやろ?仲間を散々いじめられて許せると思う?


いくら反省しとっても仲間やられたら恨みの方が勝って許せんと思うけどなあ。


サキュラは心が広いんか、いや何考えとんかわからん部分多いじょな。


今わいらは熊次のおっさんに車でインスマスのアジトまでんでって貰いよんやけど…。


潤実ちゃんは熊次のおっさんの車に甘えるように揺られて寝とる。


さっきまで潤実ちゃん、熊次のおっさんにいじめられてショックがあるて言うてサキュラが記憶の一部分消してくれたんやけどいじめた加害者に車でおぶられるて情けない気持ちにしかならんじょな。


わいやったら考えられへん。

まあ潤実ちゃんは車壊されたみたいやし足が無いけん熊次のおっさんに頼るしか無いんやけどな。


「う…」


あ、潤実が目覚ましたわ。


「ここはどこ」


「目が覚めたのね、熊次さんにお礼言いなさい、貴女、熊次さんに助けられたのよ」


な、サキュラ何言うとんじょ!?このおっさんは潤実ちゃんの敵ちゃうんへ!?


「あ、ありがとうございます」


素直に従うとる潤実も潤実じゃ!!


「潤実ちゃん、あんな…」


わいは事実を潤実ちゃんに言おうとするとどこかから恐ろしい視線を感じた。


ゾク…。

視線を感じて思わず背筋が凍ってしまうわい。


「どうしたのトラテツ?」


潤実はわいに聞いてくる。


「な、何でもありません…」


敬語で返答してもうた。呪いをかけるかのような視線の正体はバックミラーに映るサキュラの目やった。


『もし言ったらどうなるかわかってるんでしょうね?』


と言わんばかりの目じゃアレは…。

下手にサキュラに向かうたら何されるかわからん。


潤実ちゃんには気の毒やけどここは黙っといた方が良えな。


「サキュラちゃん、良いのかあんな嘘ついて…」


熊次のおっさんはガチで申し訳無さげにサキュラに問う。


まあ当然じゃ、いくら謝っても許す気や無いけどな。


「貴方が気にする事じゃないわ」


無機質な感じに返答するサキュラ。

潤実ちゃんはどっか遠い目で景色眺めよる。

ホンマに記憶無いんやろか?


記憶あったらあったで耐えれんと思うわな。


徳島自動車道をずっと進み、謎の抜け道を走らせるとインスマスのアジトに着く。


風景がガラリと変わってスラム臭がしたらそこじゃ。


インスマスは日本を乱し乱世を起こす為の組織。

未解決の事件、犯罪、謎の自然災害はインスマスの仕業なんよ!


ほれに対抗する為にわいらクトゥルフ言うもんがおる!


インスマスは悪い組織やけんやっつけなあかんてじっちゃんも言よった!


そして元は平和な街だった三好市もインスマスが勝手にアジトにして○斗みたいな世紀末臭の強い街にして市民をいじめたりしよんよ!


ほなけど今は葛子の魔力石手に入れて彩華の魔力石と一緒にせなあかん。


女の遺志無駄にせん為にも男見せななあ!!


インスマスのアジトに着くと向こう側から大きな槍が飛んできた。


ザン!グサッ!


車が飛んできた無数の槍に貫かれ、大破する。

その車はわいらの乗ってきたその車じゃ。


「くくくインスマスのアジトに迷い込むとは運のない奴らよ!」


インスマス達が無残な姿となったわいらの車を見て薄ら笑いを浮かべる。


ほんでわいらはどこにおるかと言うとやな!


今さっき大きな槍で車大破した軍団のすぐ後ろじゃ!


「そんな子供騙しわいらには通用せえへんじょ!ライジングボルト!!」


素早さの高いわいがライジングボルトで数人のインスマスを撃退!


「みんな…せめて楽に殺してあげるから!」


そして潤実ちゃんはセクシーなダンスで魅せるようにトライデントを振るう。


「デヘ…え!?」


見惚れた所に裂かれるインスマス。

随分強うなったな潤実ちゃん。


そして熊次のおっさん、如何な実力かお手並み拝見と行こうか!


「クトゥルフは一匹も残してアジトに入れるなー!!」


インスマスの群れがわいらを襲ってくる。


「若いもんに負けてはられないな!」


熊次が前に出る。

そして熊次は空気中から長い棍棒のような武器を両手に持つ。


あれが熊次の武器らしい。


「むんっ!!」


熊次は棍棒から熱を発し器用な棒術で回旋させるとそこから火が放たれる。


彩華の親父だけあって火の使い手でもあるんか!


「この老いぼれがー!!」


インスマスの群れは武器やサイキックを利用してわいら若年層を守るみたいに前に出た熊次を倒そうと意気込む。


赤熊火車回旋しゃくまひしゃかいせん!!!」


熊次は回旋する棍棒から火を広範囲に発生させ、インスマス達を焼き尽くした。


「「ギャアアアァ!!!」」


インスマス達は火だるまになって倒れふす。

ごっつい威力…敵に回したらおっかないな…。

あれだけようけおった(幾十はざっとおった)インスマスを熊次のおっさんだけで平らげてもたもんな。


わいが呆気に取られて熊次のおっさんを見よった矢先にサキュラは聞いてきた。


「どうかしら、これが貴方の馬鹿にしていた熊次さんの能力よ」


「ふ、ふんじっちゃんなんかもっと凄いんやけん!」


わいは強がってみせるがあの強さは侮れへん…。

ひょっとしたら喧華も倒せるんちゃうか…。


可園熊次SIDEーーー


この歳になって再びクトゥルフ能力を使う事になるとは…もう使わまいと封印していた。


高校時代熊次ーーー


高校時代、今の妻とは別に俺には彼女がいた。

鹿島真矢かしままや、当時やんちゃだった俺には勿体ない程器量よしルックス良し成績良しの女の子だった。


しかし、そんなマヤを当時親友だった降座氷結ふりざひょうけつに奪われた。


氷結とは炎氷ツインズと呼ばれ合う名コンビで二人で学校をシメていたと言うのに。


奪われた真矢を取り返しに襲いかかってくる氷結の師弟達を異能で倒しながら停船場跡の倉庫に向かった俺は十字に張られた少女を発見する。


真矢だった、彼女は制服をほぼ破かれ、半裸の状態だった。


「真矢!!」


俺は彼女を助けようとしたが真矢は「来ちゃ駄目ぇ!!」と声を荒げた。


俺が真矢を助けだそうとすると矢が飛んできた


「ふんっ!」


飛んで来る矢を棒で弾く俺。


「相変わらず姑息な手を使う、だからお前は女に相手にされないんだ!」


そんな俺の嫌味にも応じず長い銀髪で片目を覆った男が腕に氷のナイフを作り真矢に突きつけていた。


「そんな俺は悟ったのよ、異性を得るには優しさではなく勢いだとな!」


「堅物のお前でもそれなりに頭はあるようだな」


いやお前のセンスの問題だろう?


内心真矢の恐怖に突きつけられている表情を見て居た堪れなかった。


俺は氷結と武器を持ち、戦いに臨む。


氷結の基本武器はかぎ爪だが寧ろ氷結は相手を凍らせる事を重視している為使う事はあまりない…


しかし本気の戦いとなると別のようだ。


「安心しろ!お前を殺しても真矢は幸せにしてやる!!」


両手にかぎ爪をつけた氷結は俺を切り刻みにかかった。


空を切る威力、スピードは見ている者を圧巻させる。


あくまで「見ている者を」俺は何度も見ていて「寒い技だな」としか思っていなかった。


赤熊煉獄拳しゃくまれんごくけん!!!」


「フリージングエアロカッター!!!」


俺と氷結の攻撃がぶつかり合い、両者の位置が入れ替わる。


「くうっ、やるな…」


「ふ、お前も…」


俺と氷結はどちらかの息の根を止めにかかる、それ以外に戦いを終わらせる方法は無いと悟り、あらん限りの力を放った。


そんな時、一人の影が俺達の間に割り込みに入った。


「「真矢!!!!」」


俺達の攻撃を一心に受ける小さく華奢な体。

何と俺と氷結が互いのライバルにぶつけるだろう決死の技を真矢と言う可憐でいたいけな少女がまとめて受けてしまう事となったのだ。


「熊次…氷結…私の為に戦い合うのはやめて…二人ともあれだけ仲良しだったじゃない…」


そう言って真矢は地に崩れ落ちる。


「俺は…間違っていたと言うのか…」


氷結は過ちに気づき長く片目を覆った髪をかぎ爪で切る。


俺は真矢の死が受け止められず真矢の亡き骸を抱きしめて泣き崩れる。


そして俺と氷結は永遠に関わり合わないと約束しあい、そしてクトゥルフの能力も封印した。


戦いからは何も生まれないとはよく言ったものだ。


サキュラSIDEーーー


熊次さん、それは違うわ。


戦いで失うものは多いけど、戦いでしか生まれないものもあるのよ!


誰も恨まない、誰も傷つけないとあれ以来誓っていた貴方が葛子の霊から海溝潤実に濡れ衣を着させた後貴方は今日まで誰も恨まなかったのを放出するかのように海溝潤実に恨みをぶつけた。


何も生まれないのは自我の封印。

だのに解き放つと多くを失うのも今まで封印した自我なのよ!


話はさておきトラテツには地面を嗅いででも葛子の魔力石を捜してもらっている。


彼、私を訝しげに見ているけど匂いで位置をつかめる貴方の能力は買っているのよ?


江戸華喧華SIDEーーー


ふん、アイツめ、このまま手のひらで踊り続ければ良かったものを…。


「お任せください喧華様、海溝潤実の粛清には失敗しましたがこの降座氷結ふりざひょうけつ、自身の身を投げうってでも任務は完遂させてみせます!」


頼りにしてるわ氷結!


降座氷結SIDEーーー


俺は降座氷結、二度と関わる事が無いだろう男とまた会わなければならなくなるとは…。


海溝潤実…江戸華喧華様の仰った事は本当だった。

あの女はこの世から抹殺せねばならない疫病神だ!


ーーー一週間前


俺は江戸華喧華様に呼ばれ、女王室にやってきた。

豪華な装飾に彩られた部屋だ。


海外のブランド物を部下達に盗ませて持って来させているからな。


俺はそんな江戸華喧華に海溝潤実の粛清を命ぜられた。


写真でみたところ初めは中学生位じゃないかと思ってしまった。まだ19歳になったばかりのうら若い女性では無いか!


喧華様程のお方が何故ここまで可憐そうな海溝潤実に激しい憎悪を燃やし続けるのか?


喧華様曰く、あの女のせいで私の人生は狂った。


私はどうしようか歩いていたら黄色い魔力石が寂しそうに落ちているのを見かけた。


何だこれは?俺はその魔力石を拾いあげた。


(…して…)


魔力石からは寂しげな声が響いた。

俺は耳をよく済ましてみせる。


(可園彩華に会わせて!)


俺はその魔力石と交信する事にした。


その魔力石は生前、武斉葛子と言う女だった魔力石。


武斉葛子は可園彩華と運命を共にして散ったと思われたが可園彩華だけが江戸華喧華の手に渡り、私は可園彩華と離れ離れになってしまったと嘆いた。


更に、何故そのような事になってしまったか交信を続けていると江戸華喧華に殺されたと言っていた。


私はどうしようか迷った。

江戸華喧華を非難しようものなら私が粛清される。


私だって命は惜しい。


私は海溝潤実について知っているか彼女に聞いてみた。


黄色い魔力石は点滅する。


彼女はクトゥルフ闘技会で初対面で出会いそこから可園彩華に再会したと言っていた。


更に可園彩華は海溝潤実が恩人である軽間奈照を殺したと思っていると言っていた。


私はチャンスだと思った。


この魔力石に責任を全て海溝潤実のせいだと言う事にして可園彩華とは血縁の可園熊次に対して、海溝潤実に可園彩華は殺されたと吹き込むように揺さぶりをかけた。


武斉葛子は見事に私のでっちあげの事実を信じてくれた。


後は可園熊次と言う男に海溝潤実の粛清を任せれば良く、自身の手は穢れずに済むと思ったのだが、事もあろうか可園熊次が寝返ってしまい、間接的な粛清は失敗に終わった。


しかも俺は可園熊次と再会せねばならない事態に直面している。


私はカメラで見た。


一人は可園熊次、一人はルルイエ人か?水色の髪に黄色い瞳、ヒレ耳をしたまだ年端もいかない少女、一番前にトラ猫…そして自信なさげに歩いているのは海溝潤実!


彼女が私の災厄の元凶!

私はボタンを押す。


「お呼びでございましょうか降座長官」


猿座飛助さるすわりとびすけ、直属の部下で忠義者のしのびスパイ活動、拉致はこの男に任せている。


「海溝潤実と言う女をこっちまで攫ってこい」


「わかりました」


飛助はテレポートするかのようにその場から姿を消す。


さてと…海溝潤実…我がものにしたくなったわ…。


さて高見の見物としてやるわ。


10数人の忍者が熊次達を取り囲む。


「しまった!取り囲まれた!!」


武器を身構えても忍術の手練れの忍者からは逃れる事は出来まい。


そして江戸華喧華様は言っていた。


『特にサキュラと言う少女には気をつけな!あの小娘は心が読めるらしい』


との事なので我々、いや全員が心を読まれない訓練し、それに成功したのだ!


今や奴らはただ任務に忠従する殺人マシーンよ!



サキュラSIDEーーー


私の読心術を持ってしても奴らの考えが読めないわ。


相当な訓練を積んでいるのね。

別に驚きはしないけど…今まで通りには行きそうにないわね。


どうしたものか。


忍者のような者達は刀剣、手裏剣、くないなどを構えて私達に襲いかかる。


「ライジングブロウ!!」

「見えるわ!避雷拳!!」


トラテツがぶっとばされたわ!

トラテツに一撃を加え、更に刀でトドメを刺そうとした忍者を熊次さんが棍棒で叩きのばしてくれる。


忍者はノックアウト。


「大丈夫か?」


熊次さんが助けて起こしてあげるけど「お前の助けなんか借りん!」と突っぱねる。


まだまだ若いわトラテツ…あれ?潤実は?


いた!


彼女も必死に戦ってるけど忍者達はからかうように避ける。


「えい!やー!ハァハァ…」

「そこまでか?それぇ!」


潤実が背後を取られ後ろから羽交い締めにされた。


「く、離して!」


潤実は抵抗するけどそれも虚しく向かいにいる忍者が笑いながら叩きのめそうとする。


ドカッ!!


忍者達は倒れ助けられる潤実。


「ありがとう」

「どうやらここの連中はこれまでのようにはいかないようだ、潤実さん、側を離れるな!」


一方出遅れたトラテツは悔しそうに潤実が熊次に助けられているのを見ていた。


「やいやい何潤実ちゃんにちょっかい出しとんじょ!?潤実ちゃんは元々わいのパートナーなんじょ!」


「パートナーならもっとしっかり守ってもらわないと困る」


「二人共やめて!喧嘩してる場合じゃないでしょ!」


この子達の心はわかるのにね。

雑把に言えばトラテツは嫉妬とか憎いとか熊次に抱いていて熊次さんは悔恨の念を持っている、潤実は私がもっとしっかりしないとと思ってる。


「ライフティイート!!」


忍者は私のライフティイートでゾンビと化して果てる。

幸せな夢みてね。


「ふふふ、流石は可園神社の神主」


「何者だ?姿を見せい!」


棍棒を構えた熊次が吼える。

影からは青白い肌にクマの出来た男がやってきた。


「我は猿座飛助さるすわりひすけ今度は我が相手になろう」


こいつ、出来るわね…油断しちゃダメよ!


「しゅおー!!!」


飛助の電光石火が冴える。

トラテツより素早いわ。


「くっそーわいやってやるんじょ!!」


ドサリ!トラテツが倒れた。


「やるようだな!赤熊煉獄拳!!」


熊次が炎を纏った棍棒での奥義を飛助に放つ。

飛助は空高くジャンプし、天井に逆さにして手足を引っ付ける。


天井に重力が働いているかのようにしっかりと手足両方貼り付けている飛助。


「見たか!これぞ忍法、天遁てんじんの術、忍法をマスターした者の奥義中の奥義よ!!」


「そうか、俺の火の異能はこう言う使い方もあるのだ、破ー!!」


熊次は手を突き出して手のひらから炎を飛ばし飛助を焼き尽くそうとする。


飛助は天井を後方に蹴り上げ炎を躱す。

飛助は地に着地し、かぎ爪を両手にはめた。


「やるな、だがこれはどうだ!」


飛助は分身しだした。


「分身の術か、だがこんなもの俺の赤熊火回旋しゃくまひかいせんで!!」


赤熊火回旋とは自身の周りを火で覆い尽くし数人の敵に回り込まれた時に有効な技。


しかし飛助の目的は熊次達の暗殺だけでは無かったようだ。


「甘いわ、ハァー!!」


飛助は更に熊次の向こう側に高くジャンプする。

飛助の目的は…しまった!潤実だ!!


飛助は潤実の背後に周り、気絶させて潤実を抱き抱えた姿勢で私達を罵った。


「ハハハこの小娘は貰って行くぞ!!」


飛助はテレポートするように姿を消してしまう。


「くそ、読みが甘かった!」

「おっさんもっとしっかりせい!」


私は喧嘩になりそうな熊次とトラテツをなだめてあげる。


「喧嘩はやめて潤実を助ける事を考えましょう」


はてさて、潤実にはどんな試練が待ち受けているのかしらね?

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