人を呪わば穴二つ?

カーンカーンコーン…!


何かを打ち付ける音…。

皆が寝静まりかえった深夜。

犬の遠吠え以外は何も聞こえず静かである。


そんな真夜中の徳島のある神社。

一人の男が御神木を台に藁人形に五寸釘を打ち付けていた。


「よくも私の可愛い娘を…あの女は許せん!」


男は目のくまを作り目を充血させている。

呪いの為に居ても立っても居られなくなり今こうして五寸釘を打ち付けているのだ。


こうして時間を費やすより体を休めた方が健康面にも衛生面でも良いのだが人間どうしても欲や怨念があった時は寝る事も敵わず何かをして恨みや鬱憤を晴らしたくなるもの。


とは言え生半可な恨みではこのような奇行には出ない。

相当な怨念が彼の中に渦巻いているのだろう。


彼の娘とは?女とは?


どう言った因縁かは不明だがとある事情があり彼は娘の仇を討つように女の藁人形を作りこうして五寸釘を打ち付けている奇行に駆り立てているのは確かだ。


トラテツSIDEーーー


「痛た…」


何や今日の潤実ちゃん顔歪めて鳩尾みぞおちあたりをさすりよる。


「どないしたん?いける?」


「あ、大丈夫、大した事無いよ」


潤実ちゃんはほう言うけど心配やわ、潤実ちゃんの言う大丈夫って大抵大丈夫や無いし。

言ってる側からまた潤実ちゃんはみぞおちをおさえる。


「病院に診てもらった方が良えんとちゃう?」


流石に心配になってきたわいは潤実ちゃんに促す。


「大丈夫だって、心配性だなトラテツは」


ほう言うけどなぁ…。


「診てもらった方が良いわ万が一という場合もあるし」


サキュラが横やりを入れてきた。

あの冷淡なサキュラがとも思うがずっと一緒に過ごしよると心配にでもなるもんじょな。


わいもじっちゃんと心配しあいよったし。


「ほうじょじっちゃんも健康の塊や言うていけるいける言よったけんどずっとほったらかしにしとったらいつのまにか進行しとって…」


「わ、わかったよ!行くから」


行く気になってくれたみたいやな。


海溝潤実SIDEーーー


大丈夫とは言ったけどトラテツとサキュラに根負けして病院に診てもらう事にした私。


何度も病院行け病院行け言われると煩わしくなったりもするんだけど…これだけ心配してくれる人がいるって良いことなんだよね。


職場では風邪でも休めなかったし体調でも崩そうものなら「体調管理も仕事のうち」「怠けている」と散々だったからな。


奈照さんなら何て言うのかな?

私は首にかけてある奈照さんの魔力石を見つめた。


しかし奈照さんから言葉を聞く事は出来なかった。


徳島は病院の数全国一の県だ。

どんな医者がいるかはさておき、これは誇れる事なんじゃ無いかって思う。


奈照さんも看護士としてその笑顔をいつも患者さんに振りまいてた。


病院で一緒に勤めていた人達は奈照さんがいなくなってどんな気持ちで受け止めているのだろう?


徳島大学病院ーー


毎日のように混んでいる。

警備員が忙しそうに車を誘導している。

ご苦労様です。


相変わらず人混んでるなあ…。


病院の中はコンビニ、レストラン、娯楽施設が揃っている。


相変わらず受付は無愛想だが。


私はとりあえず診てもらいに手続きを行い、待機室で待つ事にした。


しかしこれが長い…。

暇を持て余した私はミケネコーン、ゼウむすなどを読み、自身の作品をちょびちょびと更新しながら待っていた。


あ、またブロックされてる…。

何がいけなかったんだろう?


ブロックされると落ち込む。

色んな人がいて受け止め方も千差万別なんだよな。


でもいざ診察するとなって「あなたは病気です」と言われたら嫌だなぁ…。


そうこうしていると『海溝潤実様、ただ今診察室が空きましたので診察室3番にお越し下さい』とアナウンスが聞こえてきた。


私は中に入り診察を受ける事にする。


何も異常が見つかりませんように!

私はそう祈りながら人間ドッグを一通り済ませる。


さて結果は??


「異常は無いみたいですねぇ…」


医師からはそう言われた。

良かった…異常があったらどうしようかと思ってた。


「おそらくストレスか心理的なものが原因じゃないかと思います。ストレス社会ですからストレス軽減するなどしてリフレッシュすると良いでしょう」


とりあえず医師からアドバイスを聞いた後私は帰路につくことにした。


しばらく車を走らせていて狭い道を渡っていると二人の異様な人物がここは通さんとばかりに仁王立ちしていた。


(警察官?警備員?その割には恰好がラフだな、二人とも女の人だ…一人は異様に体が大きいけど…)


一人は180センチ程ある背丈に目が隠れる程度のショートカット、太っていて半袖シャツにサバイバルズボンにブーツを着込んでいる。


もう一人は私と同じくらいの背丈にヒョロっとしているが目つきは鋭くヒザ下くらいまでの茶色いコートに金のウエーブカットだが、その他を除けばよくいる若い女の人とそう変わらないような人だった。


「海溝潤実だな?」


「貴女達は?」


怪しげな女の人達、何故か私のことを知っているようだ。


「私は大地チク、可園彩華の高校時代の不良仲間で大地のチクと呼ばれていた」


大地チクと名乗る女の人は答えた。


「そして私は風越シンナ、同じく可園彩華の不良仲間で疾風のシンナと呼ばれていた」


次いで風越シンナと名乗る女の人が。


「アンタに話したい事がある、とりあえず車から降りな!」


二人に言われ車から降りる私。


「な、何か?」


見ず知らずの人達なので半ば戸惑いながら私は二人に尋ねる。


すると二人は戦士の姿に変身した。


「貴女達はクトゥルフ!?」


チクはカブトムシのような甲冑を纏ったクトゥルフに、シンナは翼が生え、水色の武者のような武具を付けたクトゥルフに変身した。


そしてチクは両手に大きなつちを、シンナは長い日本刀を両手に携え、私に近寄る。


この人達…私に恨みがあるの…?

私…この人達に何をしたの?


私に恐怖感が襲う。

思考、体が硬直し嫌な汗が肌を濡らす。


命を狙っているかのように二人は薄ら笑いを浮かべ、武器を構えて殺気を沸き立たせる。


「海溝潤実、姉御の仇を取らせてもらう!」


彩華さんの事?私あの人に何もしてない!!


「私は彩華さんを殺してなんかいません!」


私は潔白を恐怖で裏返った声で放つ。


「とぼけるな!!」


チクの怒号が響く。


「姉御は私達を実の妹のように接してくれた…そんな姉御を死に追いやったのはてめえだって事はわかってんだ!!」


チクは涙を滝のように流しながらも表情は殺気に覆われており大槌を太い腕で持ち構え、闘気を全身から放つ。


「そしてお前は私の同じ不良仲間の武斉葛子をも死に追いやった!こないだの報復にしに来たという事はわかっている!!」


シンナも同じく日本刀を構え殺気を沸き立たせながら私に近づく。


濡れ衣よ!私は彩華さんや葛子さんに何もしてない!してないよ!


私は後ずさりする。


その時シンナが日本刀を私めがけて振るう。

少なくとも距離は離れており空振りするだろう距離に思われたがなんと空がかまいたちとなって私に襲ってきた。


「きゃっ!?」


私は後ずさりしたが足元に石があったのか、私はつまづいて尻餅をつく。


尻は痛いがそれが功を奏したのか負傷は免れたようだ。


かまいたちは私の頭上をかすり、私の車に傷がついた。


しかし私はその威力に震え、命を狙われていると改めて知る事によって更に恐怖に身が縮こまる思いをした。


「運が良かったな、次は確実にお前をズタズタにしてやる、そこの車のようにな!」


本当なら保険屋に訴えて車の費用とかこの人らに払わせるなどと言う手続きが出来そうだがその前に私が殺されたらそれこそ終わりだ。


「今度は確実に殺す!真空烈斬!!!」


シンナは今度は幾箇所か空を斬り裂き、そこからかまいたちを出現させて私に襲わせた。


生身のままだと絶対に私は助からない!

そう判断した私もクトゥルフに変身する。


「ウォーターバリア!!!」


私はウォーターバリアを張って辛うじてかまいたちを防いだ。


かまいたちが私のウォーターバリアを弾く音が向こう側からするが大丈夫、私に傷はいってない。


「戦う気になったか海溝潤実!」


戦うというより貴女達が私を殺す気でいるんだから変身するしかないでしょう!


…というような言葉も思考も出来ない私はウォーターバリアからメイルストロームを放ち、奴らから逃れるというシュミレーションを展開させていた…が…。


地割噴出砕じわれふんしゅつさい!!!」


チクはその前に大槌で大地を地鳴りが轟く程に叩き

、そこから地割れが私めがけて走りだし、地割れから出来た幾メートルかある深い谷底に私を落とした。


「キャアァ!??」


私はチクの大槌からの地割れで出来た谷底に落ちる。


どこまで落ちるのっと思った所で全身を強く打った。


クトゥルフに変身しているから致命傷には至っていないが脳しんとうでも起こすんじゃないかと思うほどの衝撃を受けた。


気がつくとそこは暗く、天上から光が差し込む程度

、幅は2メートル程だが深さはざっと建物の3階分はありそうである。


「ハハハ!文字通り地獄に落ちたな!しかしこれから本当の地獄を見せてやる!!」


上からチクとシンナが顔をだし私を罵る。

声は深く響き渡り聞こえ方は地上にいる時とはまるで違う。


勿論そんな悠長な事考えられる事態では無いが。


その時、地割れが狭まりだす。


「フハハハハ!この地割れは時間が経てば確実に閉ざされる構造に出来ている!お前はこのまま生き埋めになるのだ!!」


「お前は姉御、そして親友の葛子を殺したんだ!それなりの報いは受けて貰わないとな!!」


二人は事実無根な事を言いたい放題罵る。


「違います!私は殺していません!!」


「自分が助かりたいからって嘘こいてんじゃねえ!!」


私は潔白を訴えるが二人は聞く耳持たない。


「ゆ、許して…許してよ!私は殺してません…助けてぇ!!」


必死の命乞い、濡れ衣を着せられ死ぬ間際のどうしようもない心境に私は泣いてでもプライドを捨てざるを得なかった。


そうしている間にも地上はゴゴゴと音を立て狭くなっていく。


どうしようどうしよう…!


私は焦る。

その時、首にかけられている奈照さんの石が白い光をたたえていた。


奈照さんっ!


私は地に膝をつき、奈照さんの魔力石を握り、祈った。


奈照さんっ!

私を助けて…!


その時だった。

私の脳裏に奈照さんがワルキューレ姿で現れる。


(奈照さん!)


『潤実ちゃん!とんだ濡れ衣着せられてるわね、でも大丈夫!私が助けてあげるわ!』


奈照さん…!

こんな私にも味方はいる…!


私は奈照さんの暖かい声に励まされる。


その時、私の背中に白く輝く鳥のような羽根が生え出した。


「な、何だあれは!?」


二人の呆気に取られたような声が放たれる。


これは…奈照さん…!?

奈照さんの魔力石から出せるのは傷を癒す力だけだと思ってた…翼まで出せるんだ!


その時、私の脳に羽根の羽ばたかせ方、空の飛び方がインプットされだした。


奈照さんが助けてくれるんだ!

凄い!私の頭に奈照さんが羽ばたく姿が映し出される。


私は見よう見まねで翼を羽ばたかせる。

すると私は宙に浮きだした。


『さあ私についてきて!!』


奈照さんが空を飛びながら私を誘う。


「奈照さんっ!」


私は奈照さんの後を追うように空を舞う。

大地は閉ざされたが私はこうして何とか脱出出来た。


後はここから逃げるだけ…!

私は命を狙う二人組から逃げようと翼を羽ばたかせ空の上を進む。


「あいつ…姉御だけでなく奈照さんまで…!」


一方、二人はワナワナと更に怒りを増幅させている。


シンナが日本刀で空を羽根を斬るように斬り、空の上にいる私めがけてかまいたちを放った。


ザンッ!


私の背中の翼が斬られる。

すると地の重力が働き、私は地上に落下した。


「きゃあああ!!」


私の悲鳴は虚しく響く。


ドサリ!!


翼を裂かれた私は地に崩れ落ちる。

クトゥルフだから軽い傷程度だが生身なら少なくとも骨折はしているだろう。


しかし翼をもがれた今走って逃げなくては…!


私は震える足を立たせて走ろうと地を蹴る。

しかし私の腕に大きな手が掴まれた。


「ヒヒヒ、逃がさねえぞ!」


後ろにはチクとシンナがにやにやと笑いながら私を地獄に引きずり込もうとしていた。


心臓が止まるんじゃないかという程の恐怖が私を襲う。


ピカライオン、助けて!


その願いも虚しく私は思い切りチクに引き寄せられたかと思うと抱きしめられる、いや締め付けられる。


これは抱きしめると言った形上はそれだが、体が圧迫され、握り潰されてしまう程の痛みと苦痛が伴う。


「ガガガ…や、やめて…!」


私はチクに締め上げられ、もがく。


「ヒヒヒチクはこうして何人もの不届き者を締め上げ、病院送りにしてきたのだ!」


ご親切にシンナが説明をする。


グリグリグリ!!


イ…イタイイタイイタイ!!!


体が締め上げられ私の口からは泡が出始め、目は上を向き殺すなら早くしてくれと思うようになる…丁度そんな時…。


「いつまでやってんだ!」


シンナがチクの足を蹴り、私を締め付け地獄から解放してくれる。


チクから手を離された私は地に崩れる。

しかし私は助かった。

シンナさんが救いの神に見えてしまったがそれもまた私の間違いだった。


「おらっ!地面に這いつくばれ!」


私はシンナに足で蹴られ、仰向けに地に転がった。

仰向けになった私にはシンナとチクの地獄の鬼と思わせるような姿が見えた。


「ドスッ!」


チクは私の両手を広げた形で押さえつけ身動き出来なくする。


シンナは何と日本刀を私の腹に突きつけるような形で立っている。


刀の先のチクリとした感触が私の腹に襲いかかる。

これはこの人らの拷問法の一つなんだろうか?


「奈照さんまで殺してやがったとは…これからジワジワとなぶり殺しにしてやる!!」


シンナは私の下から上を刀で線を入れようとしている。


「ち、違います私は殺してない殺してない!!」


「うるさい黙れ!姉御も奈照さんも殺した罪はただじゃ気が済まねえ!!」


駄目だ何言っても通じやしない。


「やめてやめてやめて!!」


日本刀が私の腹から上に線を入れようとする所にシンナのポケットの携帯の音が鳴り出した。


「良いところだったのに、何?」


電話に出るシンナ。


『いつまで遊んでいる、海溝潤実という女を可園神社にまで連れて来い!!』


男性の声だった。


「わかったよ!」


電話を切る。


「命拾いしたな後は神主様に可愛がってもらえ!」


「お前は二度の罪を犯したんだ5回死ぬほどの罰を受けて反省しているんだな!」


「だだからあれは…」


ドスンッ!


思いきり腹に拳を入れられる私。


「人殺しが安易に口聞いてんじゃねえよ!」


「は…はい…」


とりつく島もなく何も言えない私を二人は乱暴に自分達の車に乗せ、可園神社にまで走らせた。


可園神社…?神主…?まさか…。


可園神社ーーー


火を纏った獅子の像が中心の大きな鳥居を守っているように佇む。


山にあり上まで登ると可園神社という神社に辿りつく。


徳島に伝わる赤熊しゃくま神が祀られている。

徳島の火の神で彩華の火を基調とした異能もおそらく赤熊から頂いたものだろう。


「さっさと歩けよグズ!」


車から引きずられるように降ろされる私。

逃げられないように腕を痛くなる位掴まれて神社まで歩かされる。


シンナが後ろから罵声を上げて私を蹴り強制的に歩かせている。

この二人には抗えず言う事を聞くしか出来ない私。


こうして後ろの二人に両手を固定された形で神社の中に入れられた。


「連れて来たよ神主さん」


「全くこの娘に恨みを持つのは良いが本来の目的を忘れられては困る!」


少し長めの黒髪に道着を羽織り、口髭を生やした男は呆れたように漏らす。


「彩華のお父さん!?貴方まで私を疑ってるの??」


「無実ならそれらしい証拠を見せられる筈だ!」


ギロリと睨まれる私。

流石彩華の父とだけあり目力が半端ない。


「二人は何をしている、任務は終わったんだから今すぐ帰れ!」


神主、彩華の父はチク、シンナを帰す。


神社には私と、彩華の父だけが残った。


「そう言えばお前とは顔を合わせるのは初めてだったな、私は可園熊次かえんくまつぐ、可園彩華の父であり可園神社の神主だ」


「う…海溝潤実です…ひょっとして貴方も私を疑ってるんですか?」


熊次は黙って私を睨んでいる。


「…でなければ誰がいる?」


この人まで…一体どうなってるの?


「信じてください!娘を亡くされたのは気の毒だと思います!でも私は娘を殺してはいません!!」


「まだこのような絵空事を言うか!!」


熊次は怒声を放ち私に掌底を放つ。


「あぐっ!」


私は何故か壁方向に引力が働いたかのように壁に叩きつけられ、体の姿勢まで大の字となってしまう。


そこで巨大な釘が私の腕や足、計4本が突き刺さり私は固定されて動けなくなる。


「これが何なのかわかるか?」


熊次は着物の袖からあるものを取り出した。

取り出したもの、それは藁人形だった。

藁人形は大の字にされている。


「こ…これは…?」


恐る恐る私は聞く。


「そう、これはお前だ、これを火に近づけると…」


そう言って熊次は藁人形の足部分をろうそくの火に近づける。


「あっ、熱っ熱つ!!」


私の足部分に急激な痛みが走り私はもがき苦しむ。


「お前が潔白ならこれから私が与えるお前への苦しみも耐えられる筈だ!私や娘が味わった苦痛はこんなものじゃない!」


そんな滅茶苦茶な…。


サキュラSIDEーーー


もう日が暮れると言うのに潤実はどこで道草くってるのかしら。


いくらあの子が方向オンチでも徳大病院の位置くらいは知ってると思うんだけど。


「サキュラ、大変なんじょ!」


トラテツが切羽詰まった様子で迫ってきた。


「どうしたのトラテツ?」


私は聞いてみる。


「彩華の魔力石がなんか変なんじょ!」


トラテツが首輪にかけてある彩華の魔力石を見せてきた。


赤かったものが黒くなり始めてる。

これは…なんとかしないといけない状況なのかもしれない!


「これは…彩華が泣いているのだわ!」


「泣いとる?」


何かが原因ね…でも彩華は亡くなっているし声を聞くことも出来ない。


でも彩華の事は供養してあげたい。

何とかしないと…。


霊感のあるら神主かお坊さんなら何かわかると思うのだけど…。


海溝潤実SIDEーーー


私は大の字の姿勢で五寸釘を手足に打ち付けられ、身動きが取れない。


因みに腕と足が五寸釘に打ち付けられてたら死ぬだろうと言う話だが、巫力が働いているため身動きが取れない程度で済んでいるとの事。


彩華のお父さんは一方的に私のせいで娘が亡くなったと言って私と神経が通った藁人形に火を焼き付けたりしてくる。


痛い…熱い…助けてえみりん…。


ザクッ!


「ぎゃあっ!」


更に熊次さんは五寸釘を私の藁人形の心臓辺りに刺して、グリグリしてくる。


火で焼きつけてもグサグサ刺しても私自身には傷がつかない。


しかし神経は藁人形と通っているらしいので痛覚は襲ってくる。


「良い表情だな、貴様のような悪人がこうして白目を向いて汗びっしょりになって苦しみに喘いでいる姿は見ていて爽快だよ」


私は散々詰られ責められいたぶられ心は傷だらけで神経も何もされてなくても過敏になっているようだった。


その為表情にはそれが現れ、全身も汗で塗れて下はチルチルと出して床が濡れないように用意されていた桶はぬるま湯が溜まっていた。


「私が悪かったです…おうちに…帰してください…」


私は悪くは無いけど認めるしかなかった。

いや私がいる時点でいけなかったんだ…。


そのせいで奈照さんも…彩華さんも…。


「まだまだだ!お前には娘を亡くした私の苦しみ、そしてお前の為に亡くなった娘の分まで苦しんで貰わねばならない!!」


熊次さんは足、腕、お腹などに釘を刺しグリグリしだす。


「うああああああ!!!」


私の悲鳴は神社中を轟いた。


バンッ!!


その時神社の引き戸が勢いよく開かれた。


「むん?」


私の藁人形をグリグリしていた熊次さんは引き戸の方を見る。


「熊次さん!彩華を殺したのはこの子ではありません!今すぐその子を解放しなさい!!」


そこにいたのは年端のいかない少女と一匹のトラ猫。


サキュラとトラテツだった。


サキュラSIDEーーー


「何だと?私は夢で見たのだ!醜女が現れて娘を海溝潤実に殺されたと!!」


「夢…?」


「私は神主故霊感を高める修行を経て夢を見て霊との交信が出来るのだ!確かに醜女は言った、海溝潤実が娘と自分を殺したと!」


読めたわ、彼女は何かの目的で潤実に濡れ衣を着せて、暗に助けを求めているのね…。


醜女とは武斉葛子の事で、彩華さんを姉御と呼び慕い、高校時代を共に不良として過ごしていた仲間だ。


だから葛子の魔力石が彩華の魔力石と一緒になれず、それを証拠に彩華の魔力石が泣いているし葛子の魔力石も彩華と一緒になりたいと何処かで泣いているのだ。


「叔父様、きっとその人は彩華と一緒になりたいと何処かで泣いています。だから海溝潤実に暗に助けを求めていたんだと思います」


「助け…だと?」


「はい、トラテツ、彩華さんの魔力石を叔父様に渡しても良い?」


「にゃあ(うん)」


私はトラテツの首輪にかけられた魔力石を取り出す。


「これが叔父様の娘、可園彩華の魔力石です、元々は赤く輝いていたのですが今は随分と黒ずんでいる、きっと彼女もその人と一緒になれなくて泣いているんだと思います」


私は熊次に彩華の魔力石を手渡す。


「彩華…う…うう…」


熊次は彩華の魔力石を握りしめ、泣き崩れた。

やっぱり親子、手塩にかけて育てた娘ともなると親の悲しみも相当なもの。


彼女を殺したとされている海溝潤実に怒りをぶつけるのはもっともな気がする。


しかし彼女は直接彼女らを殺してはいない。

もっとも彩華や葛子はその原因が海溝潤実であると思っているようだけど。


「海溝潤実を解放して」


「わかった…ヨセウホイカ・ソワカ…」


熊次は呪文を唱えた。

すると潤実に固定するように手足に打ち付けられていた五寸釘は自動に抜き出て潤実はドサリと地に身を任せる。


五寸釘に打ち付けられていたはずの手と足は無傷で済んでいるが潤実の精神的ショックは大きい事はうなされていることから想像出来た。


私は人の精神的ショック、トラウマとなる記憶を消すことが出来る。


私は潤実の額に手を置き、念じた。

手から放たれる発光。


潤実は穏やかな表情になり、スウスウと眠っていた。


とりあえずは一安心ね。


「あの…」


熊次が聞いてきた。


「娘とその武斉葛子と言う人と会わせてあげたい、ご一緒しても良いですか?」


「ええ、貴方のような大人がいると心強いわ」


そして熊次、私、トラテツ、そして海溝潤実は彩華と葛子を会わせる為に葛子の魔力石を奪還しにまたインスマスのアジトに向かった。

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