サキュラの秘密

サキュラSIDEーーー


私は今インスマスのアジトらしいところで宙吊りにされ、でっぷりとして如何にも悪人面な男に捕まっている。


禿げた頭と口周りの髭が逆なのは中年男のお洒落なのかしら?


地球人の趣味は奥が深いわ。


「ええ最高ね貴方の臭い息がなければね」


私は言い放つ。

言い放たれた男はゆでダコのように顔を赤くして鞭を取り出して私の至近距離に脅すように叩きつけた。


「言わせておけばこのガキ!!これ以上生意気口叩いたらタダじゃすまねえからな!!!」


ものすごい剣幕、怒号が飛んでるけど動機が不純過ぎて笑えてくるわ。


「なんだこの目は!??」


男は私の髪を鷲掴みにしてきた。


(どうなってやがんだ?こいつ脅しても脅してもビビりやしねえ…!)


逆に貴方の方がビビってるわよ。

私はこれで良かったのか悪かったのか、人の感情は捨ててる事にしてるの。


相手が海溝潤実みたいな奴なら良かったでしょうね。

あの子は加虐本能くすぐる子だから。


「お前にはもっと良いことをしてやろう!宙吊りではつまらんだろうからな!!」


男は私を解放したかと思うと私を壁に突き押した。

この男、私をやる気ね。


ちょうどその時が貴方の命日よ。

私の異能が発揮される時…。


それで沢山の男は天に召されていったわ…搾り取られる時は苦しみに喘いでいったけれどね。


私は天使の皮を纏った悪魔…相手ならいつでもしてあげるわよ!


私は男から乱暴に身ぐるみ剥がされそしてのしかかられた。


汚いものが私にべとつく。

後で綺麗にしなきゃ助けられた時困った反応されたら困るわね…シャワーでも浴びれないかしら?


そもそもここは私を困らせる為に作られてるっぽいから無いと言えば当然ね。


あとこの男、女は勢いで押せば何とかなると思ってるようだけどそれは男女の気持ちが通じ合って初めて通じる概念だと教えるべきかしら?


地球人の感覚ならそうでしょうね。

でも私は違うのよ。


男は私を勢いで押し続ける。


しかし私は難攻不落の城。

如何なる兵器で破壊しようにも簡単には落ちないのよ。


しかしこの男を葬るには満足させられないと始まらないわね…。


「スピチュアルハーツ!!」


私はスキルスピチュアルハーツを放った。

スピチュアルハーツとは目の前の現実を暗転させ自分を想像上の世界に移転させるスキルである。


いわゆる人間、堕ちた人間の代表である海豹ノファンもよくする「現実逃避」を更に上級にしたのが「スピチュアルハーツ」である。


この域に達するには人間ならば気の遠くなる程の修行と苦境に身を置かねばならない。


しかし人間だとその時点で精神がぶっ壊れるのでしょうね。


スピチュアルハーツ上の世界では自分の触れたものが具現化され、何ならそこで暮らすことだって出来る。


しかし使い方を誤ると現実と空想の区別が出来なくなりありとあらゆる面で不具合をきたす。


なので極めた者は本当に必要な時だけ、このスキルを使うようにしている。



私はガニメル兄さんと海溝潤実に乗って原っぱを駆ける様子をスピチュアルハーツで見た。


私はガニメル兄さんに海溝潤実に乗せられ、ガニメル兄さんは手綱を引いて海溝潤実を走らせる。


私は落ちないようにガニメル兄さんの前に乗せられているがガニメル兄さんの温もりを感じ心地が良い。


そして走らされてヒーヒー言っている海溝潤実も私とガニメル兄さんの愛を深めるのに良い材料になってくれる。


「ヒヒンと鳴け!!」


「ひ…ヒヒーン!」


海溝潤実は鞭で打たれて泣きながら私達を乗せて走る走る。


「ほら見て、綺麗だよ♪」


海溝潤実は空を飛んでいてガニメル兄さんは私にロマンチックな夜空を見せてくれる。


「綺麗…」


地上にはゼウむすやきらきらWNIのイルミネーションが彩られる。


私はガニメル兄さんの肌の温もりと海溝潤実の苦しむ表情に次第に溢れてきた。


そろそろ現実に戻りましょう。


ーーー


「ん?何だかんだでお前もやっぱり好きなんじゃねえか♪」


男はその気になって私を責め続けていた。


私の蜜は貴方を求めたものでは無いのだけど単純な仕掛けに引っかかってくれて嬉しいわ。


「甘いわね!ライフティイート!!」


私は自分のクトゥルフの異能の真髄、ライフティイートを放った。


それは重なった相手の生命力を吸い取り、自分のものにしてしまう。


発動させるには相手が興奮を覚えていることが条件とされているの。


今、やつは猛獣のように私を攻めてきている。


それを私のライスティイートを放てば…!


「甘かったな!スキルミュート!!」


その男は何と緑色の魔力石を私に突きつけてきた!

このスキルはスキルそのものを無力化してしまうと言う。


しかし私はその事は予測ついていた。


「ミュートバリア!!」


ミュートバリア、それはスキルが無力化するのを防ぐスキル。


この男、亡くなった他人のスキルを悪用するなんて飛んだ腐れ外道ね。


魔力石、それは亡くなったクトゥルフの魔力が込められた石。


しかもそのクトゥルフはこの男に今の私のようにされて死んでいったという。


ミーナ…仇取らせてもらうわよ!


「うがああああぁぁ!!!」


男はもがきながらも踊り狂う。


「離れろ!離れろ!ぐあああぁぁ!!!」


男は離れようとしても私を床にして離れる事が出来ない。


私はライフティスキルを使いこの男の生命力を吸い取っていっている。


男のデブデブした体はどんどん痩せていく。

良かったじゃない、お陰でダイエット出来て。

その代わり貴方の体は老人化していって朽ちるけどね。


嫌いな奴に体を預けるのは嫌だけど生まれついてこのスキルになってしまったのだから仕方がない。

私は神の決められたままに甘んずるのみ。


男の体はみるみる内に萎んでいく。

肌は土気色になり生気が失われていく。


私はサキュラ、サキュバスからとったライフネーム(生まれきっての名前)よ!


「ああぁ…」


男は目が飛び出したゾンビのような風貌になり、そのまま私の上に崩れ落ちた。


「ふんっ!」


私は男を跳ね除ける。


さてと…そろそろあの子達が来る頃ね。


バタンっ!!

と言う物音と共に彩華とトラテツが入ってきた。


「大丈夫か!??」

「いけるか!??」


同時に声を放つ彩華とトラテツ、そう言う意味では息が合ってきたわね。

因みに「いける」とは徳島弁で大丈夫かと言う意味…。

最近の県民は使わないけど中年以降は使っている事多いってどうでもいい話ね…。


「大丈夫じゃないわ、潤実を助けに行きましょう」


私は彩華とトラテツに言った。


「そのまま警察に保護してもらって良いんじゃねえか?刑務所で過ごせればアイツも日頃の怠慢改めそうだし」


潤実の名が出た途端彩華はつっけんどんになる。

まあわかってたけど。


「彩華、海溝潤実が貴女に何をしたの?特に悪い事してないのに変に恨みぶつけるのはやめて頂戴」


可園彩華は仲間思いではあるけど出来の悪い子には容赦が無い。

しかし彩華の場合違う理由があるのだが。


「だってアイツのせいで奈照さんが!!」


彩華は目に涙を潤ませえる。

そう言う人間くさいところ好きだけど今は堪えましょう。


私は涙でぐしゅぐしゅになった彩華にハンカチを差し出す。


「きっと軽間奈照だって海溝潤実を助ける事を望んでいるはずよ、貴女の正義感の強さは軽間奈照の影響だって事も知ってる、貴女に正義感が無くなったら軽間奈照に申し訳が立たなくなる、それでも良いのなら…」


「…わかったよ」


彩華は涙をハンカチで拭き取る。

置いてけぼりにされてるトラテツ。


「ほなけど早よせんと奴が来るじょ!」


トラテツは急かしだす。

何かが彩華達を追っているのだ。


証拠に可園彩華とトラテツの服はボロボロで、僅かに傷がついている。


「そうだな、あのババア、無駄に強え、それに奈照さんの魔力石を持ってやがる!しかしあれを奪い返さないと!」


「今は得策では無いわ、早くここから出ましょう」


私達は汚い小屋から抜け出す。

そんな時の事、景色上が赤く染まり、そこら辺に飛んでいるカラスも空を羽ばたいたまま止まってしまう。


「結界、張られてしまったようね…」


と私。

その時の事、向こうからずんぐりした女が妙に煌びやかなドレスを纏いやってきた。


「もう逃げ場はないよ!」


ずんぐりとしてドレスを纏った女はこう言う。

江戸華喧華!


今や古代徳島より伝わる秘伝書を手に入れ、強大な力を手に入れている。


戦った所で私達に勝ち目は無さそうね。


「くっ!」


彩華はトンファーを構えてトラテツはシャーッと唸りながら爪を剥き出しにする。


「サキュラにトラテツ!お前らは海溝潤実を助けに行け!!」


「あかん!わいも戦う!!」


彩華が放つとトラテツも残ると言い出した。


「トラテツ!サキュラと海溝潤実の事を守ってやれるのはお前だけだ!サキュラは戦闘では殆ど何も出来ねえ!だからお前がついててやれ!!」


可園彩華…軽間奈照と共にいる気ね。

一方トラテツは男の意地から残ると言っている。


私の取るべき行動は…。


「トラテツ…海溝潤実を助けに行きましょう」


私はトラテツの手を引く。


「あかん!女の子一人残す事は出来ん!!」


地団駄を踏むトラテツ。


「頼むトラテツ…海溝潤実の事を受け止められるのはお前だけだ、アタイは体はおんなでも心はおとこ!こんな奴なんかアタイの手で…」


「何言ってんスか姉御ぉ!!」


そんな時、向こうから化け物のような顔をした武斉葛子が大粒の涙を流しながら走ってきた。


「お前…何故…?」


彩華は突然葛子が走ってきたのに目を見開き、聞く。


葛子はハァハァと息を荒げている。

風の噂を聞いて可園彩華の後を追ってきたのだ。


「あっしは姉御の行くとこなら何処までもついていくと決めてたんです!あっしも姉御と一緒に戦います!」


葛子は目前にいる江戸華喧華に向かうように構える。


「葛子…お前…」


彩華は目を潤ませる。

彩華、葛子もまた、体は倭でも心はれっきとした不良おとこなのよ!


「私を差し置いて好き勝手にダベってくれてるねえ!覚悟は出来てんだろうね?」


江戸華喧華は不機嫌そうに拳を鳴らしながら前に出る。


「アタイらは不良だ!命捨てるのを恐れては不良とは言えねえ!命張ってでも義は貫き通す!これがアタイらの不良魂だ!そうだろ葛子!!」


「おうよ!あっしも姉御の為ならどこまでもついていくと決めてた身!どれだけ年は重ねても善良な不良魂は死んでも手放す気は無え!!」


彩華と葛子は闘気を放ちながら喧華の前に立ちふさがる。


「不良…私の一番嫌いな種族だねえ…」


喧華はそう漏らすとドレスを投げ捨てる。


「良いでしょう…アンタ達が不良を手放すつもりが無いのならこの江戸華喧華がアンタ達を更生させてあげましょう!!」


江戸華喧華の体がグングンと変化していく。


「アレは何ですか?気持ち悪い!!」


葛子は喧華の体が変化していっているのを見てあざける。


「気持ち悪いのはお前の顔だ!アイツは漢体化なんたいかしているんだ!」


彩華は真顔で放つ。

そう、喧華は体を男にする事が出来るのだ。


喧華の体は筋肉質の厳つい顔をした男に変化した。


「さあ不良の皆さん、覚悟は良いですか?」


声も野太くなる、喧華は指導員口調になり態度も指導員が生徒に対してするように拳を鳴らしながらも足を彩華達に近づける。


「油断するなよ…コイツ…滅茶苦茶強いぞ!」


「わかってまさぁ!!」


彩華と葛子は身構え、喧華を睨む。


「では行きますよ!!!」


「うおりゃーーー!!!」


彩華、葛子VS喧華の戦いの火蓋は切って落とされた。


ーーー


潤実を助けに向かう私とトラテツ。

トラテツは私から聞かされた事実に驚愕の色を見せていた。


「えぇ!?潤実ちゃん警察に捕まったんと違うん!??」


トラテツの鼻を持ってしてもわからなかったようね…まあトラテツは鼻は利いても頭は猫だから仕方がないわね。


「ええ、潤実は警察に化けたインスマスに捕まったのよ!」


インスマスはここの所至る所に現れては罪のない人を騙したり何処かに連れ去ったりしている。


海溝潤実もそれに巻き込まれただけ。


「くっそインスマスの奴らは許せんな!!」


けれどおかしい、何故インスマスの動きがここまで活発になってきているのか…私達クトゥルフも切り札を用意しないといけないわね、でもその切り札がインスマスに捕まっている。


早い所助けに急がなきゃ!


海溝潤実SIDEーーー


「ですから私インスマスと戦っていて…!」


「何を訳のわからない事言ってるんだ!!」


ああ何を言っても信じてもらえないよ!

今度こそ私の人生はおしまいだ!

私がどれだけ話しても信じては貰えず、そのままパトカーに乗せられる事になった。


「さあ乗れ!」


やや高圧的に警官に乗せられる私。

人生って何が起こるかわからない…子供の頃はきっと素敵なお嫁さんとか、スーパースターになれると信じてきたけどいざ大人になると上手くは行かず自分の理想も打ち砕かれ、地道にならざるを得なくなる。


私は一度殺人を犯した…その時点で本来ならこうなるはずだった…この後サキュラという女の子に助けられてクトゥルフになったんだけど…。


でもね…クトゥルフになって沢山のかけがえの無い思い出は出来た気がする。


ずっとあのままの生活だと意味のないまま、ただ怒られてばかりのまま年を取って意味のない一生で終わったんだから。


でも…もっと素敵な夢見たかった…。

そんな私って贅沢かな?


もうすぐ娑婆ともしばらくはお別れ…。

刑務所ではどんな生活が待っているのか…。


そう思っていながらパトカーに揺られて走っている時の事だった。


目前に大きな物体が横たわっていた。


「全くなんだこれは!通行の邪魔だぞ!!」


パトカーを降りて大きな物体をどかそうと警官達が駆け寄るとその大きな物体が起き上がってきた。


「なんだこれは!??」


熊??違う、鎧を纏っていて豚のような顔にずんぐりとした体型。


『グクク、俺はオーク族のゾリア、その娘貰い受ける!』


娘って私の事?


「くっ、コイツ!」


警官は拳銃を構え発砲する。

オークの図体に警官の発砲した弾がめり込む。


しかしオークは涼しげな顔をして前に一歩出る。

そして大きな斧で一振り。


ズドオン!!


オークの一振りの斧で警官の一人の身体は真っ二つに裂かれ、中身が飛び出した。


「ひっ!」


私はショックで膝を落とした姿勢でそのまま動けなくなる。


「この野郎!」


他の警官も鉄砲を撃ち続け応戦するもいずれもオークの斧の一振りで後の数人の警官の首がはね飛んだ。


「ひ、ひえぇ!」


残りの警官は逃げ出した。

私は膝を落としたまま動けなく、ただその場で震えていた。


オークが手を伸ばした途端私はショックで倒れ込み、そのままオークに何処かに連れ去られた。


ーーーとある岩山の都市。


黄土色の岩山には掘られたように穴が空いている。

人々には入って来れないような地形にあり、下を見れば底知れない谷底。


ちょうどそこにその都市は平然と存在していた。


私が目覚めたのはちょうどその都市のとある広い部屋だった。


私は白い薄手の布を羽織わされ、鎖で宙吊りにされていた。


「ここは…どこなの?」


私はキョロキョロと辺りを見渡す。

その時、電気の灯りが点きだした。

このような所にも電気があるらしい。


『目が覚めたかね?人間…』


太い声がしたかと思うとそこに私達を襲ってきたオークが突っ立っていた。


「ひっ!」


私は一度オークを見て恐怖体験をしたのかその場で固まってしまった。


『敵意は無い、安心しろ』


オークは私をなだめに入る。


『我々は探していた、お前のようなクトゥルフの戦士を…』


オークの温かみのある声で少なくとも私は揺らいだ。


この人は悪い人ではないかも知れない。

それにサキュラやトラテツはこんな私に幻滅してしまい味方になってくれないかも知れない。


だとすると私は今度こそ一人ぼっちだ。


と考えるとオークは何故か泣き出した。


「泣かないで、私で良かったら、話してごらん」


私はオークから話を聞こうと吊るされていながらも話を聞くことにした。


『すまぬ人間よ、我々オーク族は人間から住処を追われ、このような絶壁の岩山に追いやられた、それで我々は人間と戦えるクトゥルフを探していた』


「わ、私は戦う事なんて出来ないよ、インスマスと戦っても勝てなかった…」


『そう言う事ではない』


どう言う事だろう?実力不足の私が人間と戦える条件なんて…。


『お前は隠している…人間への怒りをな…』


怒り…?私は怒ってなんかないよ…そりゃ人として認めて貰えなくて歯痒い気持ちになった事はあるけど。


『我々オークはお前のような悩める娘の味方だ、だから我々につけ、共に人間を殲滅しようじゃないか!』


私はオークに催眠にかかったように新たに人間に向かうクトゥルフとしてオーク側についた。


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