過酷な戦い

私は奈照さんからインスマスを退治したご褒美に行きつけのレストランに連れてってもらった。


入口付近には図書館があり、レストランが向こう側と言う随分変わったレストランだ。


「図書館?」


「…に見えるでしょう?実はレストランなのよ♪」


奈照さんと手を繋ぎあっている私は囁き合う。

そんな時ぬっと大きな体が私達に影を覆った。


「ようこそようこそいらっしゃいました♪」


そして出迎えた店主はクマのぬいぐるみを着たおじさんときた。


そして「梅子さんLOVE」とエプロン付近に書かれた三つ編みのメイドの女の子のぬいぐるみや白い猫がレストラン内にいて客を和ませていた。


私は奈照さんとレストランのお品書きを見てご注文を決める。


「伊勢海老とラーメンのハーフ3000円?」


「ふふ、頼んでみる?」


じゃあ頼んでみようかな?

そして押し出しボタンを押すと「ミケネコーンミケネコーン♪」と音楽が流れだした。


「はい♪」


またクマの着ぐるみを羽織ったおじさんがやってきた。


「いちごバナナのロテールと冷たいくまさんミルク多めで♪」


奈照さん随分変わったメニュー注文してるじゃないの。


しかもそれは伊勢エビとラーメンのハーフより更に2000円も高いと言う代物。


私は先ほど話題に上がっていたそれを注文した。

それより良いんだろうか?こんな値段の高い料理注文したりして…。


「どうレイ新しい家族増えたみたいで楽しくなって来たわね♪」


「そうですね♪入鹿と言う霊も気になります!」


私達がどうレイの話で盛り上がっている時、


「貴女様!ここに武器の持ち込みは禁止しております!」


と入口側の図書室で言い争う声があった。


「大変!行ってみましょう!」「はい!」

騒ぎを聞きつけ、行ってくる私と奈照さん。


「うるせえっ!」


甲高い女の声が聞こえ何事かと思うとくまのぬいぐるみを着たおじさんは二丁のトンファーを持った若い女性と押し問答をヤッていた。


「何をヤッているの!?」


私はクトゥルフ戦士姿に変身しトライデントをその女に向ける。


「海溝潤実…見つけたぜぇ、よくも軽間奈照さんを殺してくれたな…」


少女は恐ろしい形相をし低い声で私に歩み寄る。

その目…あの時の!?


「奈照さん?何を言ってるの?奈照さんはそこに…」


私が奈照さんに目を向けるとそこには白い石のようなものがまばらに散りばめられていて奈照さんの姿はそこに無かった。


そんな…奈照さん…ふとそんな時、私と対峙していた赤毛の女は私に手を伸ばしてくる。


「奈照さんの魔力…アタイがいただくぜえ♪」


ブチッ!私の首にかけていた奈照さんの魔力の込められた石が赤毛の女に奪い取られる。


「駄目ぇ!!」


ーーー


私はベッドの上にいた。

夢か…あの赤毛の女の子…彼女が昨日私を睨んでた人…?


まだ辺りは暗く、時計を見てみるとまだ朝の4時だった。


私は眠れなかったのでコミックの「えんげきっ!」を読むことにする。


えんげきっ!とは鹿児島を舞台に高校生の演劇部に所属する男女が城東高校に起こる怪奇現象に挑む話だ。


怪奇現象といってもホラー要素は無く青春と恋愛、友情が主となっている。


ああ私が城ヶ崎李奈ちゃんみたいな性格だったら誰にも恨まれずに済むしひょっとしたら奈照さんも助かってたかも知れないのに…。


色々な個性のある子達が登場して私もいつのまにかその中に入り、気がつくと李奈をはじめとする演劇部のキャラ達に慰められていた。


ーーー


「…み!潤実!!」


二度寝してしまったようだ。

目を覚ますとそこには相変わらず無機質な表情のサキュラが。


「インスマスが暴れているわ、支度なさい」


こう言い出すサキュラ。


「…はい」


私はこう答え、外出用の服を羽織り、身支度をする。


そして朝食を摂ったり髪をかしたりレタスにミニトマト、ハムとマーガリンを乗せたトーストをかじり、洗顔、メイクをして一通りの作業を終えるとサキュラを乗せて車を走らせる。


江戸華喧華SIDEーーー


私は江戸華喧華、勧善懲悪事務所を構えており当てにならない警察の代わりに徳島の治安を守り悪を成敗している。


私は依頼がありここ、あすたむらんど徳島に来ている。


かなり広い公園で子供の遊ぶ場も充実しておりかなり規模の大きい「徳島タワー」と言う施設は所謂子供の「ダンジョン」だ。休みの日には家族連れやカップルで賑わう。


この子供や家族の為の場所にいるべきものでない者がいると言うので私、江戸華喧華がそいつをそこから追い出すと言う依頼を受けたのだ。


どちらにせよ公共施設を汚す奴は許しては置けないわね。


そして広い駐車場に車を停める私。


私はそこで男性に変身する。

男性としての仮の名前は江戸華喧太郎。


「あ、徳島のヒーローだ♪」


子供の声がしたかと思うと家族連れが私、いや俺に手を振ってくれる。


子供の笑顔を守るために、俺が公園を汚す「悪」を成敗せねば!


海溝潤実SIDEーーー


「あそこよ、急ぎましょう!」


「うんっ!」


私は騒ぎのあると言う場所までサキュラに導かれる形で走る。


サキュラちゃん、本当に何考えてるんだろう?

奈照さんがいなくなっても悲しむ様子は何も無かったけど、代わりに私に奈照さんの魔力の込められた石を手渡してくれた。


それと、マッドサイエンティストと戦っている時の「敵の言葉と味方の言葉どっちを信じるの?」と言う声には感情が感じられた。


「潤実…」


そんな事を思っているとサキュラが口を挟んできた。


「余計な言葉かも知れないけど、人を信じ過ぎない事よ」


「………」


サキュラの今の言葉で私の思考は止まった。


今は余計な事は考えずインスマスを倒す事を考えよう!


私は気を引き締めた。


やがて私はその騒ぎのある箇所でギャラリーの歓声を耳にする事になる。


「もっと痛めつけろ!!」


「汚物は消毒だ!!」


ヒーローショーでもやっているのだろうか?


江戸華喧華SIDEーーー


俺が依頼されたのは「公園にエイリアンがいるから追い払って欲しい」と言うものだった。


『エイリアンが公園に来て何が悪い!!』


「その見た目から不愉快なんだ!早くこの公園から去れ!」


緑色の肌にギョロっとした目、ボロボロの服、奴は家族連れだったが地球外の奴が公園にいられちゃ人間様が迷惑する。


『貴方!』『お父さん!』


奥さんと子供らしいのが俺の前の父親らしいのに呼びかける。


『お前達は下がっていなさい!』


エイリアンの父(以降チッチー)は8つの腕を出現させる。


「ほお?やる気か?」


俺は生意気にも俺と戦おうとするチッチーに歩み寄る。


宇宙八手拳うちゅうはっしゅけん!!!」


チッチーは俺の頭上まで飛び上がり、その8つの腕で俺を打ちのめそうとした。


「ぬんっ!」


俺も逆に8つの拳で応戦する。

するとチッチーは口を尖らせ、そこから数本の針を俺めがけて飛ばす。


「スッ!」


俺は逆にチッチーが噴き飛ばしてきた針を指で挟んで受け止める。


『何!?馬鹿な?ではコイツの腕は!??』


チッチーはギョロっとした目を更にギョッとさせる。

どうやら8つの腕を使い切って腕は塞がれたと思ったようだ。


まあ人間の腕は二本だから8つの腕を受ける事態無理があるがな。


「愚か者!俺は闘気で幻覚を見せる事が出来るのだ、おりゃー!!」


俺はチッチーを徹底的に痛めつけた。


『貴方!』『パパ!』


チッチーの妻と子供が駆け寄るがその場を数人の人間の男が立ちはだかる。


「汚物はさっさと消毒しねぇとなぁ♪」


海溝潤実SIDEーーー


私が見た光景は人間と言う生き物のおぞましさを感じる光景だった。


筋肉質な男の人が緑色の肌をした宇宙人のような人を痛めつけているのとそれより体のサイズの小さな宇宙人が数人の人間の男に滅多打ちにされている所。


それを、何十人もいるギャラリーは止める事もせず「もっとやれ!」と喜び、まるで娯楽もののように人間の子供に宇宙人をいじめさせると言うショーだった。


「ははは!心配いらん!相手は公園の公共を乱す悪だ!悪相手なら何をやっても良いのだ!!」


その筋肉質の人…ひょっとして江戸華喧太郎さん!?

私は目を疑った。

憧れのヒーローの江戸華喧太郎さんがこのような事をして、また人にさせるような人だとは…!


「さあ潤実!変身よ!!」

「うんっ!」


サキュラの言う通り、私は走りながらクトゥルフの戦士姿に変身した。


「何をヤッているの!??」


私はトライデントを構え江戸華喧太郎めがけて言い放つ。


「俺は公共の場を汚す悪を成敗しているのよ!お前もやるか…!?」


喧太郎は私の顔を見やると目をギョッとさせて体をピクンとさせるのが見えた。


「お、お前は…!」


この人、私の事を知ってるの?


「私の事を知ってるのですか!?」


私は喧太郎に尋ねる。


江戸華喧華SIDEーーー


忘れもしない!

あいつは私の人生を狂わせた女…!


そもそも私はやっと大文字修羅と言う素敵な、しかも若い彼氏に娶られる事が出来たのにそもそもこの疫病神がいなければ私は修羅君と結婚出来たかも知れないしインスマスにもならずに済んだんだ!


そもそもあの男をメッタ刺しにして捕まっていたはずなのに何で奴がここにいる!??


大人しそうな風貌して油断ならない女だわ!

職場でも足を引っ張って私の幸せからも足を引っ張ってどうしようもない疫病神!


こんな奴といるとロクな事にならないのよ!!


私は正義の味方!正義の味方は何をやっても許されるのよ!それにこんな女のせいで皆んなが私のような不幸に陥らなくて済む!!


そう、私がやるべき事…。


それはあの「疫病神」を徹底的にぶちのめす事よ!!


私はチッチーから海溝潤実やくびょうがみに標的を変えた。


「くたばれ疫病神ーー!!!」


私は疫病神に殺気を放ち、拳を前に突き出した。


海溝潤実SIDEーーー


何故か私に向かって殺気を放ち、喧太郎が襲いかかって来る。


喧太郎の無数の拳が目の前に飛んでくる。

何この無数の拳は!?


私は咄嗟にウォーターバリアを張る。

ドドドド!!!


喧太郎のウォーターバリアを叩く音が鈍く鳴る。


「え…?そんな!!」


ウォーターバリアがなんと破壊されてしまった。

ウォーターバリアは破られ、私は喧太郎から無数の拳を浴びせられる事になる。


「潤実!!!」


サキュラの声が虚しく響く。


私は宙を舞い、地に叩きつけられた後、意識を失ってしまった。


サキュラSIDEーーー


潤実は喧太郎から無数の拳を浴びせられ、三メートルは弾き飛ばされる。


倒された潤実はバリアで防いだにも関わらず全身がボロボロとなり白目を向き、ビクビクと痙攣していて下が濡れていた。


そんな姿を楽しむように喧太郎が下衆な笑みを浮かべて潤実に歩み寄る。


いけない!このままだとあの子が…!

今ならあの娘に入っていけるはず!

私は潤実の体に「憑依」した。


私は潤実に憑依するが体が動かない…いけない!神経もやられてしまってる!


そうだ!軽間奈照の魔力で海溝潤実の体を治療するのよっ!


私は海溝潤実に軽間奈照の回復の光と言うスキルを貰っているのを確認し、海溝潤実の壊された神経組織などの治療に試みた。


海溝潤実に軽間奈照の魔法をあげたのは正解だったわね…。


しかしそんな思惑を他所に江戸華喧太郎は私が海溝潤実に憑依し、海溝潤実の体を治療している様子を訝しげに見る。


「この女の体から光が…コイツ自分の体の傷を修復させようとしているのか!?」


しまった!喧太郎に見切られた。


「そうはさせるか!!」


「ぐはっ!!」


私、潤実は喧太郎から脇腹を蹴られる。


「相変わらずわかりやすい女だ、てめえのやろうとしている事はお見通しなんだよ!」


そんな時、それを見かねた男が呼び止める。


「お、おい!その子は女の子だぞ!いくら正義の味方でもやって良い事と悪い事があるんじゃないのか??」


顔に恐怖の色が見えるが良識のある男の人のようね。


逆に喧太郎は男に目を向き、ありもしないでっち上げをする。


「何言ってんですか、コイツは可愛い子の皮を被った悪魔なんですよ、コイツのせいで人生ボロボロにされた奴は山ほどいるんです♪」


この女…海溝潤実に対して相当な憎悪を持っているわね…。


それにしても肝っ玉の小さい奴だわ。

弱い者に憎悪を向けても何のメリットも無いのに。


「成る程…正義の味方様が言うのなら間違っていないかも…」


善悪の区別も特に付けずに強い人の言う事に簡単になびいてしまう男も男だわ。


しかし多少は喧太郎は手を止めてくれたので時間稼ぎは出来た。


体はほぼ修復したけれど動けるほど回復するまで間に合うかしら…。


「さあ続きだ、たっぷりなぶりながら殺してやる…!!」


喧太郎は拳を鳴らし下衆に笑いながら私に寄ってきた。


「どうせならとっておきのお願いするわ、さっきまでのじゃ全然足りないもの」


修復で喋れるようになった私、潤実は喧太郎に挑発して見せた。


それを聞いた喧太郎の顔はゆでダコのように真っ赤になり、体の至る所に血管が浮き出る。


「言わせていけばこの小娘!!いっそ全身不随にしてやる!!!」


私に挑発されるがままノッてしまう喧太郎。

喧太郎は空高くジャンプし、膝を下に向け、私の体の内部をひと思いに潰そうとする。


「死ねえ!!!」


単純な女だわ、私はまた1、2秒は時間稼ぎ出来たと思い、海溝潤実の体を動かせるようにする。


完全と言う訳では無いけれど、これなら戦闘から逃げるくらいには出来そうね。


しかしそんな時、別の赤い物体が飛んでくる。

何なの?あれ…!


私は目を見開く。

何と赤い物体は人のようで、喧太郎に殴打を放ち、弾き飛ばしたのだった。


「ぐはっなんだ!??」


地面に叩きつけられた喧太郎は何が起こったのかと戸惑う。


一方喧太郎にぶつかった赤いオーラを纏った人は赤い衣を纏ったうら若き女になる。


うら若き女の瞳は射るように鋭く、いくつかの修羅場を潜り抜けてきたと見える。


「抵抗も出来なくなった奴を更に面白がるようにいじめたり、相手をそそのかして気に入らない奴をいじめるように仕向けるのが正義の味方のする事かよ」


先程の熱気の為か、ユラユラと揺らめく空間から赤髪の女は髪をユラユラさせながら歩み寄った。


あの子は…可園彩華!


何故あの娘がここに…それに海溝潤実には敵意を向けているはず…!


私はあの子の心理を更に深く探った。

するとあの子の真意が見えてきた。


成る程ね…。

私は立ち上がる。


「ありがとう、可園彩華!」


「勘違いすんなよ、馴れ合いに来たんじゃねえ!」


私は礼を言うが彩華はふんっとつっけんどんに返事をする。

まあこの態度も想定済みだけどね。


彩華は今度はギャラリーに向け、大声で放った。


「てめえらっ!大の大人が善と悪の区別も付けずに強いだけの奴になびいてどうすんだ!!あすたむらんど徳島は子供の遊技場以上に子供に健全な心身を養う場だ!!大人なら責任持って子供に自由に考えられる教育をしやがれ!!」


彩華の怒鳴り声はギャラリー達に響いた。


「おいデクの棒!」


彩華は喧太郎に鋭い目線を向ける。


「アタイは海溝潤実とは違う、このアタイとタイマンしてみるか?ん?」


まるで凄むように喧太郎に低い声で挑発を仕掛ける。


彩華の威圧に押された喧太郎は今は男であるのを忘れているのか「お、覚えてらっしゃい!!」とオカマのような声を上げて逃げていった。


おっと、そろそろ本物の海溝潤実が目を覚ます頃だわ。


私はサキュラに体を戻す事にしましょう。


海溝潤実SIDEーーー


可園彩華…一体どう言うつもりなんだろう?

私に恨みを抱いているはずなのに私を助けてくれた…?


ひょっとしたら悪い子では無いのかも?

でもトラテツは疑ってるみたいだしサキュラも


「敵には違いない、貴女を助けたのには理由がある、でも今は知る必要は無いわ」


と言う。


可園彩華…敵なの?味方なの?私の疑問は深まるばかりだ…。

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