新たなる敵

目前に微笑みかける奈照さんの遺影。


『私は先に行くけど…元気でね…』


と言っているように。

こんな爽やかで、明るくて…優しい笑顔の人が先に行ってしまうなんて。


奈照さんの遺影の前にお坊さんが木魚の音を奏でながらお経を唱えている。


沢山の黒い服を着た人達がすすり泣きながら奈照さんを見送っている。


そして私もその一人…。

私が奈照さんを殺してしまったんだ…。


その現実はずっと私の胸の奥にのしかかっていた。


ーーー


葬儀を終え、皆が散り散りになっている時、私とトラテツは外に出ていた。


私が足に顔をうずめる形でじっとしていて、それを心配そうに見つめてくれるトラテツ。


「元気だし、潤実ちゃんのせいちゃうって…」


トラテツは歯切れ悪く私に言い聞かせてくれる。


「………」


私は何も言えなかった。

ただ、奈照さんの心地よい声がもう二度と聞けないと思うと…。


その時の事だった。


私に鋭い気配が襲いかかってくる。


!!!


私はビクンとして顔を上げた。


「ど、どないしたん?」


トラテツが聞いてくる。


「なんか…誰かが私を睨みつけているような気がして…」


私はキョロキョロとする。

私達の周りは誰もいない。

そこは人目につかない広場のはずだ。


「サキュラちゃうの?気にせんで良えよ?」


トラテツは戸惑ったように慰めてくれる。

違う…何だかそれは赤い瞳をしていて…。


私は寒気でぶるっと身を震わせた。


「お祓いした方が良いかな…?奈照さんの知り合いに可園さんて巫女さんいたよね?」


私はトラテツに言うがトラテツはそれを聞いて苦い顔をしてボツリと言った。


「こう言う時はあの娘に会わん方が良えと思うわ…」


「どう言う事?」


私は正直、可園と言う女の子の事はよく知らない。

何だかトラテツはあの人に良い印象を抱いていないみたいだけど…。


そして暫くは嫌な視線はずっと私からは離れなかった。


???SIDEーーー


あいつが海溝潤実か…どんな奴かと思ったら如何にもいじめられてますよってつらじゃねえか。


わかってんのかよ?

お前のせいで軽間奈照さんは死んぢまったんだ。


メソメソ泣いて悲劇のヒロイン面してるんじゃねえよ。


あとサキュラから奈照さんの光の魔力のこもった魔法石貰ったみたいだが…お前のような小娘に奈照さんの力使われてたまるかってんだ。


クソが…。


「貴女!タバコ吸ってちゃ駄目じゃない!!」


そんな時、中年のババアがアタイに説教タレて来やがった。


「あぁ!?」


滅茶苦茶不愉快だったアタイはそいつをギョッと睨む。


「な、なんでもないです…」


アタイに睨まれた瞬間そのババアは去って行きやがった。


チッ!こんなだから日本人は嫌いなんだ。

軽間奈照、アイツだけだよ、こんなアタイに向かってくれてたのは…。


3年前、アタイは卒業間近の高校生だったがそこらじゃ札付きのスケ番だった。


猫柳やどうかわに出てくる中村だか東村だかわからねえがミサって女ポジションだ。


アタイは時たま授業サボったり不良仲間と階段に座ってとうせんぼして談笑したり

後はカツアゲしたり…学校が終われば家にも帰らずに夜の仕事で親父タカりながら過ごしてたっけな…。


とにかく馬鹿な事を散々やってた。


でもそんなアタイに文句言ってくる奴は誰もいなかった。


ある日ここに特別授業で一日教師に訪れたアイツ以外には…。


アタイは適当にそこいらにいる弱い奴から金を巻き上げようとする。


「そこの赤毛の生徒!ちょっと止まりなさい!!」


そんな時後ろから女の声がしたんでアタイらは振り向いた。


そこには黒髪の清楚系といった感じか?特別に医学の一日教師に来ていたアイツがいた。


そう、彼女が軽間奈照だ。


「あぁっ!?」


アタイと他三人の取り巻きは奈照に向き直る。


「教師や生徒からは話を聞いています、可園彩華かえんさいか!万引き、暴力沙汰、カツアゲ、窃盗、恐喝など問題行動多し!」


何だコイツは?

それが奈照への第一印象。


「何だアンタは?正義の味方のつもりかあ?」


奈照に脅しをかけるアタイら不良。

しかし奈照は物怖じする様子なく凛とアタイらを見据える。


「正義の味方?そうね、私は一日教師とは表向きで本当は貴女達のような不良生徒の取り締まりに来たのよ!!」


奈照は堂々と放つ。


「それなりにやるようだな、だが4対1ではこのような文句は言えまい!!」


アタイらはインスマス能力でそれぞれの武器を持ち出す。


アタイの武器はトンファー、琉球武術から伝わった打術兼防御に使える武器だ。

そして火使いの彩華と言われ火を操る事が出来る。


「でやあああ!!!」


取り巻きのターン。


一人は斧、一人は日本刀を持って奈照に襲いかかってくる。


奈照は手慣れたように斧、日本刀での攻撃を軽々と避ける。


「ちい、喰らいやがれ!大地噴出撃!!」


斧使いのチクは斧で大地を割るように振り下ろす。

すると振り下ろした先から岩が奈照に飛んでくる。


「フッ!」


奈照は翼を広げて空高く舞う。


「させるか!旋風剣!!」


日本刀使いのシンナはかまいたちを作り、遠距離で奈照を切り裂こうとする。


しかし奈照はシールドを持ちだし、それを防いだ。

奈照の空を舞う様子は天使が舞うように美しく、他の連中も見惚れてしまうものがあった。


その隙に奈照はセラフィニドルと言う注射器のような武器を弧を描くように振るう。


その途端アタイの他の三人は地に崩れ落ちる。

一体どうしたんだ?と戸惑うアタイ。


「お、お前ら…てめえ!何しやがった!!」


「心配ないわ、峰打ちよ」


優雅に着地し、翼を背に折りたたんだ奈照はそう放つ。


残るはアタイだけとなってしまった。


「畜生!百戦百勝のアタイがお前のような一日教師に負けてたまるかー!!」


アタイはトンファーから火を噴出させ、奈照めがけて叩きつけようと振るった。


しかし奈照は軽々とそれを避ける。


「良い腕ね、それをもっといい方向に使ったらどう?」


「うるせぇ!!」


奈照が偉そうに説教してくるのもうぜぇ。

とにかくアタイは説教されるのが大嫌えな不良なんだよ!


打撃戦ではスタミナが切れるだけ無駄と悟ったアタイは奈照から後方に飛び、遠距離に持ち出した。


「喰らいやがれ!馬忍苦放出波バーニングバズーカ!!」


アタイの交差に構えたトンファーからは巨大な火炎が渦を巻いて奈照めがけて飛ばされた。


すると奈照はセラフィニドルを回旋させて針先から液体を放ち、そして翼を羽ばたかせて強風と雨が降り注がれるようにアタイに飛ばされる。


ブオオオオォ!!!


すると雨と風の効果でアタイの放った火炎はかき消された。


「火気は無闇に乱用しちゃダメよ!草や木に火が燃え移っちゃったらどうするのよ!!」


奈照は強く言い放つ。


「うるせぇ!一日くらいで教師になった気でいんじゃねえ!!」


アタイは破れかぶれのトンファー攻撃で奈照を滅多打ちにしようとする。


しかし奈照はそれにも動ずる事なくセラフィニドルを前に向けたまま突進する。


そして奈照とアタイは瞬間移動で交互で位置が変わり、互いに背を向けた状態となる。


奈照とアタイの戦いを見ていたギャラリー達はおぉっと感嘆を上げる。


奈照の戦い方には優雅さが見られるしアタイの戦い方もがむしゃらだが派手だ。


しかしアタイのがむしゃらさは奈照との戦いではタダの致命傷にしかならなかった。


アタイは所々に急所を打ち据えられたらしく、アタイは地に膝をついてしまった。


奈照はアタイに向き直る。


「可園彩華、貴女の家は代々神社を継いでいるらしいですね?」


「そんな情報、何処から知ったんだ?」


強い目線でアタイを見下ろす奈照を見上げ、強がりで喧嘩腰で聞くアタイ。


「貴女のお父様つてに便りが届きました、娘は本来卒業後巫女職をついで行く行くは宮司となる大事な跡取り、しかし肝心の娘は日頃非行に明け暮れ、巫女を突っぱねて好き放題だと」


奈照は喧嘩腰に対してやや対抗するように放つ。


「巫女なんて堅っ苦しい事なんてやってられっかよ!」


アタイはケッと知らんぷりするポーズを取るが奈照は言う。


「あら、巫女は最近文化産業でブームとなっているのよ?」


奈照の目がキラキラしたと思うのは気のせいか?

声も爛々としているようだった。


「巫女さんかあ、羨ましいな♪巫女さんと言えばお祓いとか悪霊退散とかするんでしょー?やーんやってみたい♪」


いかんこの女すっかりアッチの世界に行ってやがる。


因みに巫女は神社周りの掃除をしたり御守りを売ったり舞を踊ったりはするが奈照の言うような仕事はあまりしない。


霊を退治と言うより神に仕える仕事だ。

あと年齢制限もあって…リアルな話はここではやめておこう、あくまでフィクションで海豹ノファンは他にどうたぬきの巫女とかブラマンとか色々やらかしてるからな。


ともあれアタイは神社を継ぐ形となる。

今までいい加減に過ごして来たから始めは慣れなかったが最近は神社の掃き掃除や御守りの販売くらいは出来るようになった。


たまにヤンチャしたくて物陰に隠れてタバコ吸ってみたり外をブラついてゲームセンターに行ったりするけどな。


あと奈照は色々親身になってくれてこんなアタイと仲良くしてくれるからアタイにとってかけがえの無いダチとなった。


そんな奈照がもう…いなくなるなんて…それとよりにもよってあの軟弱そうな女に魔力を託すとか…奈照の魔力を使うのは長年奈照と親しかったアタイこそ相応しい筈だ。


そもそも何日いたかもわからねえ、何処の馬の骨ともわからねえあの小娘に奈照の魔力が使える筈が無え!


トラテツSIDEーーー


奈照さんがおらんくなってから潤実ちゃんの味方が今度こそおらんくなった。


奈照さんはホンマに潤実ちゃんのおかんみたいに優しいにしてくれたのにな。


ほなけんわいがせめて潤実ちゃんの支えにならんとあかん!


可園はおっかないしサキュラは冷めとるしな。


ほなけど奈照さんおらんくなってもサキュラのあの冷めた表情には寒気がしたわ。


わいやじっちゃんおらんくなってから随分泣いて食事も何日か喉通らんかった言うのに…あの娘感情通っとるんかいな?


逆に可園は奈照への思いが強過ぎて奈照おらんくなったん潤実ちゃんのせいにしとるしな…。


あの娘も荒れとるけん潤実ちゃん会わせたら色々まずい事になるんは目に見えとる。


でもいずれは潤実ちゃんと可園は対峙し合わんくなるかも知れへん。


そんな気がするんじょ。


潤実ちゃん、出来るだけわいが側におろう思うとるけんどお前も強くなりよ。

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