修羅の罠
軽間奈照 SIDEーーー
私は徳島の上勝の正木ダムに向かっている。
かなり遠くにあり山の中にあり見晴らしはとても美しいのだが…正木ダムはなんでも霊現象が起こるようで立ち入り禁止区域に指定されて鉄条網に囲われている場所だ。
誰にも入って来られないと言う事でおそらく何かが目的で潤実ちゃんを
罠かも知れない、でも潤実ちゃんを見過ごすなんて正義のヒロインのする事じゃない。
咳き込む度に肺辺りは痛むけど心配いらない。
私はまだ戦える!
私はもう長くない、自分でもそれはわかっている。
なら死ぬ前にせめて…皆んなを笑顔にしてあげたい!
私は車を走らせ、霧が多く立ち込め、蔓が建物にこびりつき、不気味な静けさと寒気を覚える箇所に車を停めた。
バタンとドアを閉めて正木ダムの東舎を睨む私。
そこに海溝潤実ちゃんが囚われている。
待っててね、潤実ちゃん!
誰もおらず薄暗い東舎の階段を登る。
静かで、恐しい空間だ。
少し前まで心霊スポットとして徳島の若者の好奇心を刺激していたのもわかる…。
そして階段を登っていくと白い少し錆びたドアが待ち構えるように備えられている。
私は取っ手を握りそれを開ける。
キーッと言う金属音が響き、無機質な光が差し込む。
どうやら電気が点いているらしい?
ドアを開けると一人の青年がニヤリとした表情で立っていた。
でも潤実ちゃんの姿は見当たらない?
「久しぶりだな軽間奈照!」
口元は笑い目には殺意が込められている。
この男、なんらかの恨みが私にあるのだろうか?
「約束通り来たわ、海溝潤実ちゃんは無事なのでしょうね?」
私は自分を睨む対象に睨み返し、放つ。
「その前に昔の話でもしようじゃないか、お前は私の事は覚えてないだろうが俺はお前の事を一時たりとも忘れた事はない」
「私の事をずっと覚えてくれて嬉しいわ、で、私と貴方はどう言った因縁があるの?」
嬉しいとかは無いが交渉には隙を見せてはならない。
大文字修羅 SIDEーーー
俺は弱い者から金を巻き上げる不良を成敗していた。
「ゆ、許してくれ…ギャアァ!」
不良は泣いて謝るが不良という輩は精神を追い詰めるまで痛めつけてやらないとわからない。
「一度や二度の体罰でお前らが懲りるとは思えない!地獄の淵に追い詰めるまでお前らを徹底的に痛めつけてやる!」
俺は不良共の頭をハサミで切り、服を剥がして手を縛りあげた状態で徹底的に蹴り続けていた。
「良いぞ兄ちゃんもっとやれ!!」
「修羅くんステキー♪」
ほら、観客も俺を応援してくれている。
ギャラリー達も老若男女が集まり、悪が成敗されているのを見て喜んでいる。
そうだ、悪者にはそれなりの報いを与えてやるのが道理というものさ。
「貴方達やめなさい!!」
そんな時女の叫ぶ声が聞こえる。
その女、不良達に駆け寄ったかと思うと不良に縛りあげられた縄を解き、「大丈夫?」と語りかけているではないか!
「お前、なんの真似だ?」
俺は何故か悪者に優しくする女に聞く。
「相手が悪い事してるからってこんなになるまでいじめ続けるなんて最低の人間のする事よ!!」
その女は俺を睨み、そう怒鳴ってきた。
は?何で俺がそんな事言われないといけないんだ!?
俺は間違った事などやっていない!
俺は弱い者いじめする奴を徹底的にいじめ返しているだけだ!
「俺はこいつらが二度と弱い者いじめしないように徹底的に罰を与えてやっているだけだ!」
俺は言い返す。
「だからって悪い人には何しても良いと言うわけでは無いわ!」
現に他の奴らも俺を応援してくれてるじゃないか!
俺はギャラリー達を見るが
「あの姉ちゃんの言う事も一理あるかも知れんなあ」
「お姉さんカッコいい!」
とその女にギャラリーはなびきだしたじゃないか!
俺はこの女の為に大恥をかかされた。
この女…いつか復讐してやるから覚えてろよ…!
俺は何も言えずにいたがずっと憎悪の炎をこの時になるまで燃やし続けていた。
軽間奈照 SIDEーーー
「貴方…そんな事をいつまでも根に持ってなんになるの?」
この男…可哀想過ぎる…正義の為にやってきた事なのかも知れないけどやっている事が間違っている事に気付いて欲しい。
「まだわからないのか!お前のせいで俺からファンは去って行ってしまったのだ!俺の人生を台無しにしやがって!お前は許せん!!」
修羅は悪に取り憑かれたような顔を見せ私に声を上げる。
「人は誰にも人権はあるわ!」
「お前のような奴が悪をのさばらせている事をその場で証明してやる!!」
修羅は私に殴りかかってきた。
私は良いけど…男性が女性に暴力を振るって良いと思ってるの?
私は修羅の攻撃を避ける。
中々技のキレは良いけど所詮は喧嘩の戦い方。
私には彼の動きが読めてしまい避けるには苦労をしなかった。
「成る程…簡単にはやられてくれないと言うわけか…ならこいつはどうだ!」
そう言うと修羅は側にある天井から吊るされている紐を下に引っ張りだす。
するとゴーンという音がなりシャッターが開きだした。
シャッターが開いた先には暗闇の中に一人の少女が瞳に光を失った状態で突っ立っていた。
「潤実ちゃん…?」
そう、彼女は私が助けに来た潤実ちゃんだった。
その潤実ちゃんに修羅は命令口調で言い出す。
「さあ、この女をやれ!」
修羅に言われると潤実ちゃんはクトゥルフ姿に変身して槍を構えだした。
この男、弱い者をマインドコントロールしてまで私に憎悪を抱いていると言うの?
無言のまま私に攻撃を繰り出してくる潤実ちゃん。
彼女の放つトライデントは技のキレが良く、腕を上げたと感心させられる。
強くなったね、潤実ちゃん、でも悪い人に操られては駄目なのよ、まだまだ貴女は強くなれる、自分を信じなさい。
私は潤実ちゃんに心の中で問いきかせる。
潤実ちゃんに私の心の声は届く事は無いがせめてそう念じる事で潤実ちゃんが救われるのなら。
「ハハハ!いくらお前が強くても知り合いに攻撃されては根っから甘い貴様には手も足も出せまい!!」
修羅…貴方のようなのを卑劣と言うのよ…!
「本当に甘いのはどっちの方かしら?」
私は攻撃を繰り出してくる潤実ちゃんを見据えたまま修羅に放ち返す。
「この期に及んで負け惜しみか?」
修羅はニヤける。
余裕そうだけどまだまだお子様ね、策士になったつもりだろうけど私は看護師である以前にクトゥルフの戦士、貴方の想像以上に修羅場を潜り抜けてきたのよ!
私は潤実ちゃんの背後に回り、セラフィニドル(注射器状の武器)で的確に潤実ちゃんの神経を刺す。
すると潤実ちゃんは地に崩れ落ち寝息を立てて眠り出した。
「ぐぬぬ…」
悔しそうに歯軋りをする大文字修羅。
「お遊戯はここまでかしら…!?」
突然私の体の内部が暴れだし私に激痛が襲いかかってきた。
グフッ!
お願い!もう少し持って!こんな事になってる場合じゃないのに!!
私の願いに反して私の体の内部は音を立てて崩壊を続け私は大量の血を吐き出した。
地面に崩れる私。
もう駄目だ…私が死ぬ前に潤実ちゃんだけは…!
「ククク…神は俺を見捨てていなかった!」
修羅は手元にある鉄の棒を持ち私に歩み寄る。
神よ…貴方は私よりこのような男を味方するおつもりですか!?
私は最期の最期に神への恨みを抱いた。
私らしくない…私も所詮は一人の弱い女ね…。
修羅は私めがけて鉄の棒を振りかざす。
今度ばかりは避けられない…。
私の意に反して身体の内部から激痛が襲い私は動けずにただ血を吐き続けた。
「ギャハハ!死ねえ!!」
鉄の棒を振り下ろす修羅。
神よ、これが正義なの!?
私のやってた事は間違ってたと言うの!??
私に救われた人達の笑顔はみんな幻だったと言うの!?
私は心の中で神に怒声をあげるが神は何も答えてくれなかった。
神よ…これが神の思し召しと言うのならば…私は貴方がたを許さない…!
その時、あるものが修羅の胸わたを突き破る。
「な、何だ…これは…」
修羅は手に持っていた鉄の棒を地面に落とす。
カランコロンと無機質な堅いものと堅いものが重なり合う音が狭い部屋の空間内で響く。
修羅の胸を突き破ったもの、それは水色に光る三矛の刃がその姿を覗かせていた。
「ゴホッ」
修羅の口から飛び散る血。
槍が修羅から離され、修羅は糸を切られたマリオネット人形のように地面に仰向けに崩れ落ちた。
修羅の背後に立っていたのは瞳に光を取り戻した潤実ちゃん。
ごめんね…こんな私の為に手を汚させる事になってしまうなんて…。
「奈照さん…!」
潤実ちゃんは瞳をうるうるさせて私に寄り添う。
こんな頼りなさそうな感じだけど私は知っている。
この子の本当の強さを…。
「潤実ちゃん…貴女は本当は強い子…サキュラに何かまた言われても惑わされちゃ駄目よ…」
そう、サキュラなんかに負けてはならない。
あいつは人を弱らせるのが好きな外道だから…。
「うん…私…負けないよ…!サキュラがああいう子なのは知ってるから…!だから…死なないで…!」
潤実ちゃんは声にならない声で私に訴えかける。
ああこんな顔をくしゃくしゃにして…。
私の手を掴んでスリスリしてくれる潤実ちゃん。
「大丈夫よ潤実ちゃん…私はずっと貴女の側にいるから…何かあっても支えてあげるから…正しい心を持ち続ける限り負ける事は無いのよ…」
そう…潤実ちゃんみたいな子がサキュラなんかに負けるものですか!
正義は裏切らない…裏切らないのよ!
でも良かった…潤実ちゃんが強い意志を持ち続けてくれたら…私は何もいらない…。
トラテツ君だっけ…?
これからも潤実ちゃんを守ってあげてね…?
それと可園ちゃんとも仲良くしてあげてね…?
私は潤実ちゃんに見送られ、手を振り返すようにそっと瞳を閉じ、笑ってみせた………。
海溝潤実SIDEーーー
「奈照さんっ!奈照さん!!」
奈照さんはピクリとも動かなくなった。
嫌だ…嫌だよ!奈照さんがいなくなるなんて…!
「う…うわあああああああーっ!!!」
私は奈照さんの胸に自身の顔を埋め、大声で泣き喚いた。
なんであんな良い人に限ってすぐにいなくなってしまうのだろう?
その時、白いドアが開かれ、氷のような少女とトラテツがやってきた。
氷のような少女、サキュラは朽ちるのを待つ人形となった奈照さんを目で射抜く。
「奈照…いなくなったのね…」
ただ、そうボツリと呟くサキュラ。
そして何も言えない私の元に歩み寄り、サキュラはある物を私に手渡してきた。
それは白く輝く宝石だった。
「これは奈照の魔力よ、大事に使いなさい…」
「奈照…さん…!」
この石より奈照さんの肌が愛しかった…!
奈照さんの優しさが愛しかった…!
しかし奈照さんはいなくなったんだ…!
私はサキュラから手渡された石を奈照さんだと思い、それを卵を温めるようにひたすら肌で温め続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます