迫る毒蛾

軽間奈照SIDEーーー


「貴女…なんて事言ってくれたのよ…!」


許せない…今回は流石に…。

無表情でツンとした態度…反省が見られない…!

どこまで冷酷な女なんだろう。


私なら躊躇して言えなくなるだろう言葉をこの子は平然と放つ…前々から冷めた所はあったけど…もう堪忍袋の尾が切れた。


「何って、私は自覚してもらおうと言ったまでよ…」


目の前の女はこんな事を言うのだ。


「貴女の言葉がどれだけあの子を追い詰める事になったのかわかってるの!?」


私は大声で放つ。


あの子は私やこの女みたいに強くは無い。

それを無視して追い詰めた結果あの子は…。


「良いじゃない、あれで本腰になってくれたのなら」


「貴女と言う人は!」


私はサキュラの胸ぐらを掴む。


グフッ!


発作が起こり、私はうずくまって咳き込んでしまった。


それをサキュラはじっと佇み、無表情と言うのか何を考えてるのかもわからない表情で私を見下ろしていた。


江戸華喧華 SIDEーーー


私は江戸華喧華、いや今は江戸華喧太郎と言って貰おう。


私は銀行で人質になっていた女を助け、家に連れ込んだ。


「お前は料理もろくに出来ないのか!!」


なんとこの女、料理が出来ない。

俺もだが料理出来ない女は女じゃねえだろ。

料理作れると期待していたのに!


「別れたい」


「お願い!別れないで!料理作れるようになるから!なんでもするから!」


女はすがってきた。

そうそう、こいつは結構操りやすい奴だな。

奴は俺の思惑通り必死になっていた。

因みにこいつは紅薔薇胡蝶べにばらこちょう


俺は正義の味方だが家の中まで正義の味方やってると疲れてくる。

だから家の中では好きにやりたい。


「疲れた寝る」


「私ご飯の段取りとか寝ずにやってたのに!」


「誰のおかげで生活出来てると思ってるんだ!!」


それさえ言えば胡蝶は黙る。

「ここにぬいぐるみ置くなよ!」

「塩と砂糖を間違えてるぞ!」

「掃除ちゃんとやったのかよ!」


俺は胡蝶を良い女にする為に一杯指導をしてあげた。

以前、職場のお局として働いてた時も海溝潤実にやってたからこう言う指導は上手いんだぜ!


しかし海溝潤実もそうだが、紅薔薇胡蝶も全ては俺の期待通りにしてくれなかった。


馬鹿にしてるのかと思い俺は大声でまくし立てる。


「おい聞いてんのかよ!!」


胡蝶の髪の毛を上にあげる俺。

その時、胡蝶が真っ赤な薔薇を口に咥えているのが目に見えた。


何薔薇を咥えてるんだと思ったら、胡蝶は口から発射するようにその薔薇を横にシュッと俺めがけて飛ばした。


「くっ!」


俺は避けて胡蝶から手を離す。

胡蝶は体勢を俺に向けて何処に忍ばせていたのか薔薇をもう一本取り出し、口に咥える。


「お前、タダの人間じゃないな!」


俺は見切った、この紅薔薇胡蝶がタダの女で無いって事を!


紅薔薇胡蝶 SIDEーーー


銀行強盗から救ってくれた江戸華喧太郎に一目惚れし、ついていく事を誓った私。


私は彼の期待には何でも応えようと、料理も学んだし、掃除、洗濯、風呂沸かしなど彼の身の周りのお世話を散々焼いた。


しかし彼は毎日私を罵倒してばかり。

彼は日頃正義の味方をやっていて忙しいのはわかるけど鬱憤を私にぶつけないでほしい。


私だって頑張っている。

なのに彼はそんな事御構い無しに自分の思い通りにならないと散々罵ってくる。


もう我慢出来ない!


私の実家は花屋さんだった。

私も好きな花屋さんを守ろうと後を継ごうと思っていた。


しかしその花屋さんは私の隣に建てられた店屋に越されて花屋は廃業となってしまう。


それから私は紅薔薇拳と言う拳法を使う拳法家に覚醒した。

私は花屋の仇を取ろうと隣の店の主人を紅薔薇拳で殺害した。


私は少女感化院に三ヶ月服役し、外に出た。

私は紅薔薇拳の腕を磨くためあらゆる試練を乗り越えて来たが銀行強盗に戦いを挑んで逆に捕まってしまう。


そこで今の彼氏、江戸華喧太郎に出会ったのだ。

しかし喧太郎は今は私の彼氏では無い!


江戸華喧太郎 SIDEーーー


こいつ…生意気にも薔薇で俺と戦うつもりらしい。

飼い犬に手を噛まれた気分だぜ。


面白い、どちらが上か体でわからせてやろうじゃねえか!


「おりゃーー!!喧嘩百法!!」


俺は無数の拳を胡蝶に放った。

女に放つのは不本意だがあまりにも生意気なのでこれくらいはやらないとわからんだろう。


俺の拳が胡蝶に当たると胡蝶の身体は弾け飛ぶ…

何!?これはいったい…!?


なんと胡蝶の身体は白い薔薇の花びらとなり分散した。


何!?消えた?


しばらくするとドンドンドンとドアが叩かれる音が!


バコンッ!!

やがてドアが破かれる。


「警察だ!現行犯の疑いで逮捕する!!」


くそっ、あの女嵌めやがったな!!

俺は男から女の姿に戻った。


警官は俺…いや私を見て唖然とした。


「何ですの貴方達は!いきなりドアを破るなんて不躾ではなくて!??」


私は怒鳴る。


「すみません、さっき若い女性の方が男に襲われたと訴えてきてですね…」


警官達はしどろもどろになる。


「何の事かわかりませんがここには私しかおりません、全く警官は役立たずな上間違った取り調べしか出来ないのかしら!!」


「す、すみません!」


警官は去っていった。


あの女…恩を仇で返しやがって…。


心底腹わた煮えくり返るも結局あの女は見つからず、私は当てにならない警察の代わりに正義の味方に没頭した。


トラテツ SIDEーーー


奈照さんもちょっとおかしいや言よったけどわいもおかしいと思うわ。


何かって海溝潤実ちゃんの事じょ。


アニメ見とる場合や無いや言うて訓練に最適な場所教えてくれて言うて今連れて来とんやけど…。


休み休みやらんと身が持たんと説得しても聞かんし今も潤実ちゃんはでっかいドラゴンと戦おうと槍を構えとんじょ。


ほなけど潤実ちゃんボロボロになっとって見とれんわ…。


「ハァハァ…」


潤実ちゃんはドラゴンから散々攻撃受けて体力の消耗と怪我で地に足膝ついて槍を杖代わりに体を支えとる状態じゃ。


「潤実ちゃんもう止め!その体じゃ持たへんじょ!!」


わいはこのままじゃあかん思うて潤実ちゃんに逃げるよう言うけんど


「私はいつも奈照さんやサキュラちゃんに迷惑かけてばかりだから…私だってもっと強くならないと…!」


潤実ちゃんはやっと立ち上がって槍を構え直す。

目の前は4メートルあるドラゴンが雄叫びを上げて潤実ちゃんとわいにここから去れと言わんかのように脅しをかける。


海溝潤実 SIDEーーー


私はドラゴンと戦っている。

私は自分の出せる技という技を出しきり、精一杯戦ってきたのだけれどドラゴンの堅い鱗は破れず、逆に私はドラゴンからもろに攻撃を受ける。


それと、気のせいかも知れないけどスキルが出しにくく、発動に時間がかかり、あと威力が弱くなっている気がする。


でも、こうなってるのは私のやる気が足りないからだ。


心のどこかで甘えがあってそれが私のスキルを弱めている。

こんなじゃいけない…。


私は奈照さんの負担をかけないようにしなきゃいけないしサキュラを見返さないといけない。


強くならなければ…強くなるんだ…。

でも体が動かない…こんなじゃ駄目なのに…。


「潤実ちゃん!バリア張りない!!」


トラテツ君が大声を張り上げる。

ドラゴンを見るとドラゴンは口を大きく広げ、そこから光が放たれる。


いけない!火を吹くつもりだ。


「ウォーターバリア!!」


私はバリアを張り、火を防ぐのだけれど…。


「発動しない!?」


私はバリアを張ったつもりだがバリアは発動せず私はポーズを取っていただけの状態だった。


「潤実ちゃん!!」


トラテツ君は見ていられなくなったのか、人間になり、身を乗り出して私を直撃する火から離してくれる。


ドサリと勢いよく地に滑り込む私とトラテツ。

ああ結局守られてばかりだ…。


「潤実ちゃん早よ逃げ!もうあかんて!!」


トラテツは私をおんぶしてドラゴンから逃げ去る。

ドラゴンはギエーッと吼え、私を負ぶさったトラテツを追う。


「わいの俊足について来れるか!?」


トラテツは走る速度を上げる。

しかしドラゴンはトラテツと同じ速さでどこまでも追ってくる。


そして目前には崖が。


「向こう岸まで5メートルてとこか!何とか飛べそうじゃ!」


トラテツは猫な為運動神経は抜群に良い。

私を負ぶさった状態でもかなり速い。


どこまで頼もしいんだろう。

何も出来ない自分自身が歯痒い。


「おりゃーー!!じっちゃんの名にかけて女の子は最後まで守ってみせるじょーー!!」


トラテツは助走をつけて向こう岸までジャンプする。


しかし…向こう岸まではあと1メートル足らず、トラテツと私はそのまま谷底へと落下していってしまった。


ーーー


私…死んでるかな?生きてるかな?


何ともいえない感じ…。


あれ?何かに縛られているような?

これは…縄?

何故私縛られてるの?


私は目を開けてみる。


「起きたようだね♪」


私の目の前には黒髪の爽やかな感じの青年が私に微笑みかける姿があった。


あれ?私この子に見覚えがある。


ーーー9年前


そう、あれは私が10歳の時、親子でバーベキューしてる時の事だった。


その時私はお気に入りの人形を持ち歩いてたがその人形が川に落ちてしまう。

人形は何とか取れそうな位置で木に引っかかっていた。


私は慎重に身を乗り出し、その人形を取ろうとする。


その時の事だった。


「キャアァ!!」


ドボンと言う音と共に私は人形ごと流されてしまう。


その時のこと、ある男の子が飛び込み、私を助けてくれる。


その時の彼の微笑む顔が今でも忘れられないが…。

彼はなんとその後暴力事件で捕まってしまうのだけど。


ーーー現在


もしかしてこの子はあの時私を助けてくれた人?


「大文字修羅…くん?」


「海溝潤実だね?」


フランクな感じで話しかけてくれる修羅くん。

やっぱりそうだ。


「ところでなんで私手足を縛られてるの?」


「今にわかるよ」


修羅くんは私に聞かれるや否や少し陰りのある表情をして言ってみせる。


トラテツ SIDEーーー


「い、痛た…」


あかんわいとした事が向こう岸まで届かんで落ちてしもたわ、でもドラゴンは何とか撒いたようやな。


あれ?潤実ちゃんは?

わいはキョロキョロするが潤実ちゃんの姿が見えん。


どっか行っとんかな?

わいは鼻をすんすんさせて潤実ちゃんの居場所を調べる。


わいは猫やけん遠くの人や物は匂いでわかるんよ。


鼻すんすんさせるわいやけんど潤実ちゃんの匂いは全然せぇへん。


おかしいな、わいの鼻は半径10キロくらいまでは匂い嗅ぎ分けれるんやけどな…。


何辺なんべん鼻すんすんさせても潤実ちゃんの匂いは嗅ぎ分けれなんだ。


あかんどないしよ…。

こんままほっとこうかな?

でもそんなんしたらKEIさんとか幻滅させられるわ…折角アレンと同じ一人称キャラとして登場したのにわい…まあメタな話題は置いといて…。


奈照さんとサキュラちゃんに協力してもらうしか無いわな!


ーーー奈照のアパート


「奈照は何処かに行ったわ…」


無機質な声で答えるサキュラ、やっぱりこの子顔は可愛いけど何考えとるんかわからへん。


あの巫女さんとは違うけんどある意味怖い子やな。

まあテレパシー能力あるけん猫のわいと意思疎通は出来るけんど…ルルイエと言う何処にあるからわからん国出身やけんか日本人とは感性が大分かけ離れとる…。


「その何処かにってどこかわからへんで?」


わいはサキュラに聞く。

するとサキュラは「これを…」と言いわいに紙みたいなもんを見せてきた。


「どれどれ?君の大事な仲間は私が預かっている、助けたくば正木ダムの東舎に来い」


正木ダム言うたら上勝にある曰く付きの湖じょ。


規模はすごい大きいけんど古いけんあちこちが草で覆われとって外観は廃墟とかお化け屋敷言う表現がよう似合う。


そこはごっつい壮大な自然がある山の中、普通に上勝とか勝浦は結構見晴らしの良い自然観光地なんやけど正木ダムは寄ったらあかん言うて鉄条網が張ってあったり木と木の間に立ち入り禁止テープ貼られとるんよ。


何故か言うたら寄ったら心霊現象があったり不吉な事がよう起こる言うて立ち入り禁止箇所に指定されとんじょ。


まあ、秘密の取引とか闇の待ち合わせ場所にはうってつけ言うたらうってつけやな。


「正木ダムか…またえらいとこに指定しとんな…」


あそこは行く必要も無い思っとったけど行かん事には始まらんでな。


旅行や無いけんど潤実ちゃん救出したいし奈照さんも心配やしほな行ってくるわ。

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