頑張りは必ず報われる?

トラテツSIDEーーー


わいはトラテツ、トラ猫なんじょ。

家族には虎徹頼太郎言う飼い主おったけど今は墓で眠っとるんじょ。


わいは頼太郎をじっちゃんと呼んどった。

もっともあの人は「にゃー」としか聞こえとらんかったみたいやけどな。


わいはじっちゃんが死んでから生前じっちゃんに恨み持っとった連中が墓を壊しに来んようにずっと守んりょったけど奈照言う姉ちゃんの知り合いの巫女さんが結界張ってくれる言うて墓守りの必要のうなって自由に動けるようになったんよ。


結界が薄うなったらお札貰いに行ったら良えけんどわい…あの巫女さん苦手やなあ…。


とても奈照ちゃんの友達や思えれへんわ。

潤実ちゃん会ってみたいや言よったけどあの子は会わん方が良えや思うわ。


わいでも怖い思うけんあの子やったらチビる思うわ。


まあ美人っちゃ美人やけどな。


まあ結界薄うなってからどうするか考えようや。

ほなけんわいは文化の森言う公園行ってブラブラしよるとこなんじょ。


ブンモリ(文化の森)はわいら野良猫のスポットで餌貰いに行ったり日向ぼっこしにブンモリに来る野良猫は多い。


中でも人間がタダで餌くれるけんそれが目的でブンモリに来る野良猫もおる。


最近はわいもブンモリ気に入ってなあ、人間が餌くれるけんタダ儲けや思うて今はしょっちゅう貰いに来よんよ。


じっちゃんみたいなヨボヨボの爺さんが餌くれたりおっさんだったりくれる人は大体そんなんやけんどわいはオスやけんたまに来る女の人から貰う事が多いなあ。


あんまり美人ちゃうけんど贅沢は言よれんわ。

その人可愛い可愛い言うて餌くれるんやけん。


家で飼ってもらえって?

そうしても良えけんど束縛は好かんしこうして野良猫として気ままにやる方がわいの性分に合っとるけんな。


そんな平和なブンモリやけど今日はある事件が起こる事を今のわいはまだわからんかった。


ーーー鉄巨神亜馬てつきょしんあーまSIDE


俺は鉄巨神亜馬てつきょしんあーま窓際社員の38歳だ。

俺は努力と根性を信じてこの歳まで頑張ってきた。


努力すれば必ず報われる、根気よく働けば幸せになれる。

それを信じて遊びもせず地道にコツコツと頑張ってきた。


知恵袋と言う悩み相談で人生に悩み投稿する事があるが、頑張ってる貴方は素敵、貴方ならきっと幸せになれる、その回答を見ては感動を覚えていた。


頭がハゲても、皆に出し抜かれても、俺は努力と根性と言う単語を大切にして頑張ってきたのだ。


しかしそれで得たものはリストラ…。

人から頭が禿げてると指を差され笑われる視線だった。


俺と同じ年の奴らが出世して、幸せになっているのに俺は窓際にいて毎日怒られ堅物と陰口を言われ、それでも頑張ってきたのに…。


こうなったら今まで頑張った分何もかも滅茶苦茶にしてやる!!


海溝潤実SIDEーーー


「やーーー!!!」


私はサキュラの作った空間内で稽古を受けている。

相手は模擬用に作られた魔神マシンと言う稽古ロボで、それは精巧に作られており、実際に戦っている相手であるように動き、早い身のこなしを見せる。


私はこうした相手と訓練をしてきて、大分腕を上げた。


これでもう奈照さんの手を煩わせずに済む。

奈照さんには出来るだけ戦いには出向いて欲しくない。


サキュラちゃんが言うには、奈照さんは魔力を使う度に病状が悪化しているとのこと。


奈照さんは私にとって初めて出来たお姉さんのような人。


だから奈照さんにはずっと…私やサキュラちゃんとずっと一緒にいて欲しい。


彼女がいてくれたから私達の日常は平和になったんだ。

奈照さんがいなくなるのは…嫌だ!


パチパチ…!


奈照とサキュラが拍手をする。


「凄い!潤実ちゃん腕を上げたわね!」


満面の笑顔で激励をかける奈照さん。


「貴女にしては頑張ったわね」


真顔棒読みで気持ちだけ褒めるサキュラちゃん。

顔は可愛いのにその仏頂面さは毎度ながらだ。


「これだけ強くなったらもうどんな相手も怖くないわね!期待してるわ!」


奈照さんはまるで病気とは思えないくらい明るい声で励ましてくれる。

でも…彼女は無理をしてるんだ…。


「はい!だけどもっと強くならないと!早く皆んなの助けとなるように!」


私は奈照さんが病気である事を知ってると悟られないようになるべく元気に答える。


しかし元気良すぎだろうか?

でも、最近明るくなったと褒めてくれるからそれで良いんだと思う。


悲しい顔なんかしちゃダメだ!

本当は不安で仕方ないけど私もクトゥルフの戦士なんだ!


少なくとも、奈照さんの前では涙を見せてはいけない!


いけないんだ…!


軽間奈照SIDEーーー


やっぱりだ…。


潤実ちゃんはどこか無理をしている。

一体何が彼女をそんなに焦らせてるんだろう?


確かに潤実ちゃんは最初と比べて強くなったし逞しくなった。

それはとても嬉しい事だけど…。


そんなに無理してたらいつかは必ず壊れるよ?


そう言ってあげたいけど…なんだか言えない雰囲気だ。


その明るさもどこか不自然で、何かが違う…。


サキュラに無理をさせないようにお願いした方が良いかしら?


海溝潤実SIDEーーー


稽古を終えた後、私達は昼食がてらテレビを点ける。


テレビ点けてないと落ち着かない…一家団欒にはテレビは切って外せないものだよね。


テレビではサキュラの好きなニュースが放送されていた。


『急遽速報が入りました、徳島県文化の森総合公園にて岩に覆われた巨人が現れ、公園を荒らしに回っています!』


!!!


映像には岩の塊のような巨人が公園を荒らしまわり、人々が逃げ惑っていた。


こうしてはいられない!助けに行かないと!

私は椅子から立ち上がる。


「潤実ちゃん!私も行くわ!」


と奈照さんも立ち上がろうとするが奈照さんには負担をかけて欲しくない。


「奈照さんには負担を…いやこれは私の腕試しのチャンスです!必ず戦って帰ってきますからここでまっててください!」


私はそう奈照さんに言ってみせる。


「そう…?危なくなったらいつでも呼んでね?」


奈照さんは少し勘ぐるように私を覗き込むがとりあえずは待っててくれるようだった。


私だけでも…戦って勝ってみせなければ…!


トラテツSIDEーーー


なんやSIDE SIDEてしつこいけど勘弁したってな。

ブンモリって割と広いけんどわいは騒ぎのある所に走んりょったんよ。


そしたら人がようけ鬼気迫ったように逃げて行っきょってな、ブンモリ広場に何や岩に覆われた巨人が暴れよったんよ。


巨人は岩作ってぶん投げたり大声上げたり公園の至る所滅茶苦茶にして行っきょった。


わいはこのまんまやあかん思って人間モードに変化してなんとしても岩巨人倒そうと挑んだんよ。


「公園滅茶苦茶にする奴は許さんじょ!!ライジングボルト!!」


わいは実は得意技は電気なんよ。

WNIのナツが使いよる属性と同じやわ。


それとわいはスピード自慢で素早さにも自信がある。


ライジングボルトが巨人に炸裂するけんど巨人は何知らぬ顔して腕を振り上げる。


ドゴオンッ!!


巨人の腕で地面にクレーターが出来る。

わいは辛うじて避けたけんど…あれまともに食らったらわいも無事で済まなんだな。


「ライジングスタースマッシュ!!」


わいは流星みたいに飛んで巨人を翻弄した。

ほなけど巨人は足踏みを鳴らして地震を起こしよった。


「あわわっ!!」


わいは地震で足元のバランスを崩す。

その時巨人が腕をぶん回してハッとした時にはもう遅くわいはそれに叩き飛ばされた。


建物にぶつかる衝撃を食らってわいはつい舌を切ってしまった。


痛た…くっそあの巨人防御も堅いしなかなか倒されへんわ…。


でもせっかく見つけた縄張りなんや、ここは死守するじょ!!


わいはライジングブローを巨人にかました。


一発だけじゃ効かんのはわかっとる。

ほなったら連続攻撃じゃ!!


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!」


わいは元猫やったけんか連続攻撃する時つい猫語になってまう。


わいは少なくともダメージを与えれるように巨人に攻撃を繰り出しまくった。


ほなけど巨人はうんともすんとも言わずわいを腕で叩き潰してきた。


「うごぉ!!」


地面と一緒にのめり込まれるわい。


海溝潤実SIDEーーー


今地鳴りがしたけどあれも巨人が暴れているからなのかしら!?


このままにしていては危険だわ!


岩巨人は私だけでも倒さなきゃ!

と私は公園に着いたのだけど、私の他にクトゥルフ戦士が岩巨人と戦っていた。


あれは…トラテツ君!?


トラテツ君は昨日トラテツ君の飼い主である虎徹頼太郎という人の墓で出会ったトラ猫だ。


トラテツもクトゥルフの戦士でバトル時は人間になれる。


しかしトラテツ君は電撃が得意技だったんだ。

でも戦況はお世辞にも良いとは言えない。


トラテツ君は稲妻や雷撃で応戦しているけど巨人には全く効いていないみたいだ。


そしてトラテツ君は怪我を負っていて苦戦しているのが表情や戦い方からしてわかる。


私も手伝わなきゃ!


「トラテツ君!」


私はメイルストロームを放ち岩巨人とトラテツ君の距離を離した。


「潤実ちゃん!他の仲間はどないしたん!?」


トラテツ君は声を荒げる。


「大丈夫だよ!私だって戦えるから!!」


私は勇んでトライデントを構えて岩巨人に突っ込んで行く。


「あかん!潤実ちゃんが勝てる相手とちゃうじょ!!」


トラテツ君は足は既に挫いていて動けず呼ぶ事で私を止めようとした。


だけどトラテツ君、私はもう君の知ってる私じゃないんだよ!

訓練の成果、ここで見せる時!!


「喰らいなさい!槍百烈突き!!」


私は新しく編み出した必殺技を岩巨人に繰り出す。

それを見たトラテツ君は呆然と私の戦いぷりを見る。


「潤実ちゃん…昨日とは動きのキレが違うわ…」


見たでしょ!私は強くなってるのよ!!

しかし岩巨人は漏らした。


『グフフ、気持ちが良いな、もっと突いてくれ♪』


え?効いてない!?

私は岩巨人の余裕の言葉に戸惑いを覚えているうちに衝撃を覚え、気がついたら建物の壁まで飛ばされていた。


「う…くっ!」


痛みを覚え立ち上がるのもままならない私…でも戦わなきゃ!


私はメイルストロームのゲージを溜めるが隙を与えてくれず巨人は岩を投げつける。


「くっウォーターバリア!!」


私はウォーターバリアを放つが岩巨人の投げた岩には効果が無いらしく、バリアはすぐに解かれてしまう。


「きゃあっ!」


私は危険を感じて滑り込む。

岩巨人…強い!

しかしゲージは溜まった!!


「メイルストローム!!」


私は溜めに溜まったメイルストロームを岩巨人にぶつける。


しかし岩巨人は腹に鏡のようなものを出現させ、私の放ったメイルストロームは反射される。


そ、そんな!?


岩巨人の腹から出た透明な鏡で反射されたメイルストロームは私めがけて飛んでくる。


「危ない!」


トラテツは痛む足を振り絞って走り出し、私を手で突き飛ばす。


その時の事だった。

トラテツは私の代わりにメイルストロームを食らってしまい、重傷を負った。


「そんな!トラテツ君!!」


私は慌ててトラテツ君に無事を呼びかける。


「良かった…潤実ちゃんが無事で…」


トラテツ君は全身に怪我を負い息絶え絶えで私に微笑んでくれた。


岩巨人…もう許さない!!


私は破れかぶれにトライデントを構えて岩巨人に突進した。


「ロックストーム!!!」


!!!


岩巨人は特殊な技でブラックホールのようなものを私の頭上に出現させたかと思うと、そこから岩の雨が私の頭上に降ってきて、私は地面に埋もれるように岩に押しつぶされる結果となった。


助けて…死にたくない…。

私は戦いに行っておきながらこう言う状況になり、何かに命乞いをしてしまっていた。


その時の事だった。


光明が放たれ、私を押し潰していた岩は消え、そして私、トラテツの全身の傷もいつのまにか癒えていた。


そこにいるのは…そんな…奈照さん!


「やっぱりこう言う事だと思っていたわ、貴方達はじっとしていなさい!」


奈照さんはこう放つ。


「奈照さん!無茶しないでっ!!」


私はつい叫んでしまう。

一瞬、しまったと口を手で覆ってしまう。


奈照さんは少し表情をひきつらせるがまた元の表情に戻り「何言ってるの?無茶してるのは貴女でしょ?」と苦笑いして言い放った。


そして奈照さんは武器である大きな注射器を構えて岩巨人を見据える。


そして奈照さんは優しい眼差しを岩巨人に送り、静かにこう言った。


「可哀想に…貴方…身も心もカチコチに凝っているようね、人はね…体中にいくつかの「ツボ」があるの、それはありとあらゆる神経に繋がっていて、固くなったり、血流が悪くなったりする原因になったりもするの、でも、そのツボを指す事で体は元に戻るわ」


そう言い終えた後奈照さんは翼を背から広げ、空高く羽ばたいた。


その姿は優雅で、白鳥が舞っているかのようだった。


奈照さんの飛んだ先から白い羽が落ちてくる。


白い羽は私の涙で濡れたほおに貼りつくが、私はただ奈照さんの優雅に舞う姿を見ているしか出来なかった。


そして岩巨人の頭上に来ると奈照さんは身を翻し、注射器を下に向ける。


そして奈照さんは注射器を岩巨人の背に一思いに刺しこむ。


岩巨人は微動だにしなかったが奈照さんは1回転して優雅に着地する。


するとどうだろう…。


岩巨人の様子に異変が見られた。


岩巨人の体にヒビが入っていき、それは地面に崩れ落ちる。


その三メートル程の巨人の岩からは、中年の男性が現れた。

上の頭皮は禿げているが、人の良さそうな人だった。


亜馬と言う名前のようなので亜馬さんと呼ばせてもらおう。


「あれ…俺…」


亜馬さんはこれまでの事はまるで記憶に無かったらしく、所々荒れた公園を見渡す。


「これは悪夢…貴方はきっと無理をし過ぎたんだと思います」


奈照さんは亜馬さんの心を見透かしたように微笑みながら囁く。


「そうだ…俺は努力と根気をずっと信じて働いてきた…でも全部が馬鹿馬鹿しくなって…」


身を震わせる亜馬さんの手を奈照さんがギュッと握る。


「頑張るのは大事…でも頑張り過ぎるとガタは来ます…頑張らざるを得ないけれどどうしても疲れた時は自分を大事にしてみても良いのではないでしょうか?」


奈照さんは亜馬さんを元気づける。

ここまでの事…私に出来るだろうか?


荒れた公園は復旧作業中の看板が貼られ工事が始まるがとりあえず公園はいつもの平和を取り戻した。


「さあ私達も戻りましょうか♪」


奈照さんは私に背を向け、歩きだす。

私には、何故かその姿が天国へと奈照さんが向かって行く姿に見えてしまう。


嫌だ…行っちゃ嫌だ!


私は奈照さんが天国に向かうのを引き止めるようにすがってしまった。


今思えば、凄く恥ずかしい事をしたと思うが、その時は奈照さんを引き止めたい気持ちでいっぱいになってしまっていた。


「嫌だ!何処にも行かないで!ずっと側にいて!!」


奈照さんの体が弱っていく焦りと哀しみで、私はわんわん泣きながら奈照さんの両足にしがみつく。


「ど、どないしたん潤実ちゃん…?」


トラテツは怪訝な表情で私を見る。


奈照さんは少し混乱したように私を見下ろし、そんな私をなだめる。


「何言ってるの?何処にも行かないわよ、ずっと一緒よ?」


周りの人は避難していなかったが、いたらおそらく大変な事になっていただろう。

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