第49話「見損なったぞ!」と、言わせてしまった日

 先生の正体はここまでしか分からなかったけど、学園の中で出会う彼女とは違う姿を見せてくれた、それだけでもやっぱり自分が特別な存在なのだと理解した。


「ふふ、さて……モナカは油断をしていた」

「何がです?」


 冷静な先生にしては珍しく、申し訳ないと言った表情で俺を見ている。


「普段から気を張っていたのじゃが、今回は素を出してしまったがために、明空には申し訳ないことをさせてしまうのじゃな」

「へ?」

「忘れたか? モナカの家の回りは碓氷が囲んでいると」

「あっ! ま、まさか……」


 あざといさやめと違って、円華なら正々堂々というと意味が異なるけど、知らせてくれると思っていた。


 それなのに――


『は、は、晴馬……お、お前という奴は』


 げげっ!? さやめでもないのに何でここに円華がいるんだ。


 これは今までの言い訳が通用しないパターン!?


「ま、円華!?」

「見えていた! 私の部屋からばっちり見えていたんだ! お前という奴はどうしてそうなんだ!」


 もなかちゃん先生の家は、碓氷家に囲まれているとは聞いていたけど、ただの白い壁じゃなかったの?


「か、壁……だよね、あれ」


 思わずアホなことを言いながら、壁に向かって指を差してしまった。


「壁だ! だが私は、晴馬の気配なら感じ取れるんだ」

「マ、マジ?」

「こ、恋人なのだから当然だろう?」


 どこの刺客なんだか。


「それなのに、私というものがありながら……見損なったぞ!」

「う……ご、ごめん」

「否定しないのか?」

「してはいけないことをしたのは間違いないんだ……だからごめん」

「ふ、ふふふ……」

「え? ど、どうした?」

「見損なったのは確かだが、これは私のやる気と、本気を試すためなのだろう?」

「へ?」


 あれ? てっきり怒りまくって、別れるとか言い出すかと思ったのに。


「簡単には行かないぞ、晴馬!」

「あ、いや」

「レイケがいない今だからこそ、私は頑張る時なんだ!」

「あ……うん」


 お嬢様な円華の捉え方は普通じゃないとは感じていたけど、そう来てしまうとは思わなかった。


 愛されていると思うのは簡単だけど、お嬢様には誠意を示さないとこの先、生きていけないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る