二章:妹とライバルの影
第38話「泣いてたりする?」と謎なカノジョに声かけられた件
泉ちゃんの家から出た直後、さやめはカイに説教をするだとかで、どこかに連れて行ってしまう。
一人取り残された自分は途方に暮れ、迷いながら見つけた公園の片隅でしゃがみこんでいた。
『キミ、泣いているの?』
そんな時に声をかけられた。またもさやめかと思って、チラッと腕の隙間から見上げてみると、見知らぬ人が心配そうに顔を覗かせていた。その人の顔は夕陽の光と重なっているせいか、よく見えない。
「な、泣いてなんかいないです……」
「そうかな? その声といい、表情といい……困ってたでしょ?」
まさに図星。誰でもいいのでこのエリアから連れ出して欲しいと思っていただけに、誰か分からなくても声をかけてくれたのは嬉しすぎた。
「あの、こ、ここから表通りに出たくて……でも道が分からなくて」
「ふぅん? 見た感じ高校生だけど、迷子になっちゃったんだ?」
「え、えと……」
迷って帰れないんですとか、恥ずかしすぎる。
「いいよ?」
「な、何がですか?」
「大きな通りに出たいんでしょ? そこからならキミは一人で帰ることが出来る。違う?」
「そ、その通りです! 見たことがある景色にさえ戻れれば、自力で帰れます」
「だよね。キミはあの学園の子?」
どの学園のことを言っているのかなんて、そもそも学園はここだけのはずなので、恐らくあの学園のことだろう。名乗っておかないと多分、失礼になりそうなので素直に名乗っておくことにした。
「俺……僕は、ひととせ学園に通っています。晴馬です」
「……学園の晴馬くんね。そっか、あの学園か……」
「あの、お姉さんは?」
長身で色っぽい雰囲気が出ているこの人は、恐らくお姉さんに違いない。どう見ても妹には見えない。
「お姉さん……? あ、そっか。年上に見られるのかー」
「ち、違いましたか?」
「まあまあ、それは後で教えるとして、名乗っておこうか?」
「あ、いえ、道さえ分かれば大丈夫です」
「そう? じゃあ後ででいいか。それじゃあ、こっち」
「は、はい。付いて行きます」
「キミ、可愛いね。気に入ったかも」
「へっ? 可愛いって……」
お姉さんなのか、そうでないのか、そんなことを考える余裕もないまま謎のカノジョの後について歩いて、何とか見知った道に出ることが出来た。
「な、なるほど。角をいくつか曲がればいいんだ……」
「難しくないよね? 今度は大丈夫かな?」
「た、多分」
「よしっ、いい子だね!」
「なっ!? なななな!? 何を」
「あれっ? 嫌だった? 可愛い感じだし、弱そうな子に見えたからしてあげたんだけど、嫌かな?」
「びっくりしただけで……ごめんなさい」
見た目お姉さん兼態度もお姉さんな彼女は、突然頭を撫でて来た。こういう行動はどう考えても年上のような気がしないでもない。
「こ、この辺までで」
「あ、そう?」
「あの辺にいたってことは、近くだったんですか?」
「んー……どうかな。むしろ、この辺りが近いよ。晴馬くんもこの辺りかな?」
「そ、そうです」
「おけおけ! あたしもだよ。奇遇だね! じゃあ、気を付けて! またね、晴馬くん」
「ありがとうございました」
その場に立ち尽くす俺を見ながら、ブンブンと豪快に手を振って謎なカノジョは帰って行った。またねと言っていた言葉の意味なんて分かるはずも無ければ、聞く暇も無かった上に、まともに顔を見ることが出来なかった。
『あはっ! へたれ馬くんが自力で帰って来てるとか、奇跡ですかぁ?』
親切なお姉さんの余韻を残して歩き出そうとすると、背後から奴の声が聞こえて来ていた。ここで振り向くといつものパターンになりそうなので、どこかに寄り道をしてから帰ることにする。
「おいっ! シカトすんな!」
優しいお姉さんの言葉と姿を反芻しながら、気持ちよく歩き出そうとしたのに、ソイツは許してくれないらしい。
「何だよ、さやめ」
「晴馬はいつから偉くなったんですか? あ、エロくなった、のミスだった」
親切なお姉さんのことがあったせいか、どうにもさやめの奴がいちいち絡んで来るのが腹立たしくてしょうがなかった。
「あーうるせー! 何だよ、お前! 俺にばっかり絡んで来て、他にいないのかよ? いや、いるわけないよなー。レイケ様は特別すぎて、学園の男は相手になんかならないもんな」
「……悪い?」
「え、な……何で」
「さやには、はるくんしかいない……何で分からないの? どうしてそんなに意地悪ばかりするの……」
いつも通りの対応で、てっきり猛反撃な口撃をして来ると睨んでいたのに、これはいつものさやめではなく、さやめちゃんになっていた。
「時間が無いの。もうすぐ来るのに……あんなのが来たら、ますますはるくんが遠のいちゃう……」
「あんなの? ど、どんなのだよ」
「言いたくない……」
「お、落ち着いて。と、とにかく、帰ろう。さやめちゃん」
「ぐすっ……おんぶ」
「わ、分かったよ」
これは完全に思い出のさやめちゃんモード。さっきまでとは全然違ってしまった。さやめちゃんの言うあんなのとは、一体どんなモノなのだろうかと気になりつつ、力の抜けたさやめちゃんを背に乗せて寮に戻ることにした。
「チョロ馬……」
「え? 何か言った、さやめちゃん」
「ううん、優しいなって」
「は、はは」
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