第82話 人差し指の代償
軍事基地からパーツを持って帰ってきたその日の夜。
俺とペンギンさんは、とある装置を造っていた。
それは軍事基地内にあった削岩機をドリルとモーター以外解体し、フィンをとりつける作業。
このフィン付きドリルが回転すると、凄まじい強風を起こすことができる。
こいつを使って何をするかと言うと、雨が降らないなら風を吹かせばいいじゃない作戦である。
ようは敵のまとっているジャミングガスを吹き飛ばし、雨の代わりに砂煙を巻き上げれば、相手の不可視システムを無効化することができるだろう。
ちなみにこれを思いついたのは、スカートの下から扇風機当ててみてぇなというスケベ心から閃いた。
彼女たちのスクワットは決して無駄なものではなかった。
『ファーザ、戦車ニブースター取リツケタゾ』
戦車の後部には2基のジェットブースターが取り付けられ、一時的に超加速ができるように強化が完了。
「よーしいい感じだ、作戦準備はほぼ完了に近いな。お前は充電に入っていいぞ」
『オウ、後ハシッカリヤットケヨ』
土方は現場監督みたいなことを言うと、戦車の中で充電モードに入る。
「こっちも終わりですペン」
巨大扇風機作成を手伝ってくれていたペンギンさんが、最終チェックを終える。
「削岩機のモーターのリミッターを解除して、フィンを高速回転させてますので10分くらいが稼働限界だと思いますペン」
「その間に敵の
かなり無茶な注文を数時間でやってのけたペンギンさん。
彼女の中身は軍事基地で見たとおり、エクレで間違いないと思う。
「どうかしたペン?」
ついじっと彼女の方を見てしまっていた。
「いや唐突で申し訳ないんだけど、ペンギンさんって男、女?」
「男だペン」
即答するペンギンさん。
俺はペンギンさんの正体に気づいているが、彼女は俺に見られたかはわかっていない。
つまりまだ正体がバレてないと思っている。なのでシラを切って、自分の本当の情報から遠ざけようと嘘をついているのだろう。
「そうか、男なんだ」
「そうペンよ」
「てっきりそんなファンシーなコート着てるから女かと思ってたよ」
「違うペン」
「なら気楽に話せるな。ペンギンさんって華奢だよな。筋肉ついてるのか?」
俺はペンギンさんの胸を人差し指でブスリと突くと、ぐにゅりとした感触があった。
「…………」
「どうしたんだ固まってるけど?」
「べ、別にペン。ちょっと驚いただけペン」
「そう?」
間違いない、この胸の大きさはエクレだ。俺ぐらいの
俺がもう一度ペンギンさんの胸を突こうとすると、彼女はさっと自分の胸を両腕で抑えた。
「や、やめるペン」
「えっ、どうしたの? もしかして君女だからやめてほしいの? だとしたらやめるけど……」
あまりにもピンポイントすぎる理由を聞くと、ペンギンさんは声を荒げる。
「ち、違いますペン! そうじゃないペン!」
「じゃあいいペンね?」
「真似しないで下さいペン。……い、いいペンよ」
両腕をおろすペンギンさん。
まぁ普通男でも胸突かせてくれって言われたら嫌って言うけどな。
俺が無抵抗なペンギンさんの胸をツンツン突いていると、輝刃が戦車の装甲板で俺の頭をぶん殴った。
「頭蓋ぃぃぁぁぁぁ! 割れちゃうのぉぉぉぉぉ!」
のたうち回る俺を、汚物を見るような目で見る輝刃。
「何他校の生徒いじめてんのよ」
ちなみに輝刃はペンギンさんの正体に気づいていない。
さすが姉、本能的に妹を守りに来たか。
「相変わらず仲いいなお前ら」
真島が殺害未遂現場を見てふざけたことを言う。
「ってか完成したんだな」
真島とゼルは完成した旋風装置【
「ほんとにでかい扇風機だな……」
「まさか、たった半日で造るとはな」
「軍事基地にドックがあったからな、そこから道具含めていろいろ使わせてもらった」
というか
「でもこれ、いい的じゃね? 敵は遠くから撃ってくるんだろ?」
「それに関しては問題ない。作戦開始と同時に、軍基地にあった電波塔から
「そうするとどうなるんだ?」
「火器管制システムには、ターゲット補正機能がついてるんだ。簡単に言うと下手くそが撃っても、システムが当たるように
「でもまぐれで当たることはあるんだろ?」
「まぁ宝くじレベルではな……。もしくは凄まじいくらい射撃の腕がある敵だと当ててくるかもしれないが、基本は接近してくるはずだ。そこをこの台風リポートで砂煙を起こし、相手の
「なるほどね。いくら透明でも、砂煙が起きたら砂が付着して位置がわかるわね」
「その通りだ。ただジャミングを行うには電波塔の修理が必要なんだ」
「それはわたしが引き受けます。見た感じ綺麗に残ってるので、修理に時間はかからないと思いますペン」
ペンギンさんが手を挙げるとゼルと真島は頷く。
「じゃあおれたちは電波塔の護衛だな」
「ああ、だが修理するなら明日だな。夜は魔獣がうろついているだろう」
「よし作戦を確認するぞ」
俺は全員の前で実行する作戦を説明する。
「1、電波塔からジャミングが発信されたら作戦開始。2,戦車が囮になって不可視の敵をジャミングエリア圏内に誘導。台風リポートが設置されている地点までおびきよせる。3、台風リポートを起動し襲撃者に風を照射。4、敵の姿が確認できたら仕留める。以上だ」
単純な作戦ではあるが、それぞれタイミングが重要で連携が必要になるだろう。
「役割の内訳だが1の電波塔修理兼ジャミングをゼルチーム、2の
「了解。楽な役だ」
「鳳が一番状況を把握できる位置にいるから、不測の事態が発生したらすぐ連絡してくれ。一応台風リポートが動かないとか、有事の際の為に土方をつける」
「わーったわーった」
「最後の敵を仕留める
「OK、一撃で落とすわ」
「おれらも電波塔修理したらそっちに向かった方がいいか?」
「いや、ジャミング効果を消しに電波塔が狙われる可能性がある。ゼルチームは電波塔を防衛してくれ」
「了解した」
それぞれの役割分担が決まるが、ディアナが不安げな表情で俺の袖を引く。
「ね、ねぇ、ボクだけなんにも言われてないんだけど」
実は彼女の扱いは困っていたのだ。下手に能力を使うとゼルたちにバレるし、あまり何かをさせて目立たせたくないというのが本音。
「ん、ん~……
「ボクもアサルトに回ろっか?、ボクの技なら多分龍宮寺さんより早く仕留められるよ」
それを聞いてカチンとする輝刃。
「へー、あたしの
「まぁ速いし正確かな」
「は?(威圧)」
おい煽るんじゃない。そいつはお嬢でキレやすいんだ。
「へー言ってくれるじゃない。あんたのクソザコメンタルだと、手が震えて外しちゃうんじゃないの?」
「君こそ加減知らなそうだから、ゴリラムーブで彼を巻き込みそうだけど?」
「「フフフフフ」」
お互い乳を突き合わせ笑顔でにらみ合うと、どんどん顔を近づけていく。
俺はその間に割って入ってブレイクさせる。
「喧嘩すんな」
「「胸触らないで!!」」
おっと失礼。割って入る時つい触れてしまった。
「仲間内で張り合うなよ」
「「だって彼女が!」」
「俺が輝刃をこの役にしたのは、プロミネンスの一撃必殺の威力とジャンプ能力で敵がどこにいってもすぐに捕捉できる
「フフッ、まぁそういうことね。地を這うあんたとは信頼度が違うのよ」
「ぐぅぅぅぅボクだってできるのに……酷いよ小鳥遊君……」
勝ち誇りながらツインテを弾く輝刃と、悔しげに唇を噛むディアナ。
役割か、そうだな……。
「じゃあ……ティアは俺と戦車乗るか」
「えっ?(歓喜)」
「はっ?(威圧)」
火器管制システムが死んでるから、こっちも戦車砲を撃てないので装弾役はいらないと思ったんだが。
輝刃と同じ位置においておくと喧嘩しそうだし、他の位置におくと不貞腐れそうだし。
「ウンウンそれいいね! 囮役を護衛しないといけないし」
「…………」
「じゃあ龍宮寺さん、アサルトよろしくね」
ディアナはご機嫌でポジションを譲ると、今度は輝刃が彼女の肩をつかんだ。
「…………ちょっと待って。やっぱりアサルトはあたしよりティアの方がいいんじゃないかしら? よくよく考えたらあたしのプロミネンスって威力高いけど、命中率イマイチだし。あんたの方が精密射撃できそうだし」
「やだなぁ龍宮寺さん、リーダーが決めたことにいちいち異議を唱えてたら話が進まないよ?」
「3分前のあんたに同じこと言いたいわ」
フフフと再び乳合わせをする輝刃とディアナ。彼女たちの背景にドラゴンとライオンのスタンドが見える。
もう知らん好きに争え。
二人の
「お前結構苦労してんだな」
「攻撃力が高すぎる駒が二人いるとな……喧嘩するんだよ」
しかも両者強襲と役割も被っている。
「なるほど、だから君が制御してると。女性にだらしない男かと思っていたが、少しだけ見直した」
ゼルがメガネを光らせる。
「制御できてないけどな」
◇
さて、後はエクレだな。一応バレてるぞという話はしておくか……。
でもそれだと
『小鳥遊さん、わたしの正体知ってて胸突いてきたんですか?』
とか笑顔で聞かれそうで怖い。
しょうがない、人差し指一本へし折られるくらいは覚悟しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます