第81話 雑なキャラ付けは正体がバレる

 ピラニアに噛まれた俺はスパナ片手に、真面目に戦車の強化案を考える。

 その隣で輝刃金ビキニ豹ビキニディアナストライプビキニの胸が上下に激しく揺れる。


「なんで……オレ達は……スクワット……させられてるん……だよ」

「しょうが……ないでしょ……。この方が……なんか閃く……って言ってんだから」

「それって……エンジニア……優遇って奴……じゃないのか?」


 現在魔力強化無しでスクワットしているため、彼女らの表情は苦しい。

 砂漠でスクワットはかなり過酷だと思う。


「皆でやると楽しいよね」

「「お前だけだ(よ)!」」


 なぜか嬉しそうなディアナにキレる舞と輝刃。


「しかもあいつ……真面目に……考え、始めたのか。こっち、全然見て……ねぇじゃねぇか。ふざけ……やがって」

「なんだ、見てほしいなら見るぞ」

「テメェは早く戦車強化しろ!」


 ぶち殺がすぞと怖いことを言う舞。

 なんだ、見てたら文句言うし、見てなくても文句言う。どうせーっちゅうんじゃい。

 その様子を眺めていた真島が俺に近づいてきた。


「なんか……すげぇな」

「まだ何もしてないぞ」

「いや、戦車のほうじゃなくて。あっちの……」


 揺れる爆乳6セット。

 真島は彼女らを見て鼻頭を抑えた。


「鼻血って古いな」

「うるせーな! ちょっと暑さでのぼせただけだ!」

「そうか、言っておくが誰もやらんぞ」

「くれなんて言ってねぇよ。それに俺は女より男の方が好きだからな」


 俺を持っていたスパナを取り落とした。


「えっ……お、お前……」

「ち、ちげぇよ! そういう意味じゃねぇ! ぶん殴るぞ!」

「いや、いいんだ。別に愛の形は様々だから俺はいいと思う」

「違うって言ってんだろうが! こう、女より男といるほうが気楽っていうか……安心できるっていうか……」

「そ、そうか……」

「なんで滝のような汗流してなんだよ! ちげぇからな!」


 今どき趣味趣向価値観は人それぞれだ。それを否定するのはナンセンスだろう。

 しかし冷静に考えてみるとゼルも結構怪しいか? ディアナ信教教祖だからな。

 俺はインテリ眼鏡にも話を振ってみる。


「なぁゼル、お前もしディアナが付き合ってくれって言ってきたらどうする?」

「何をバカなことを言ってるんだ、私と彼がそのような関係になるわけがない」

「あぁ、そうなんだ」

「だが仮にそのようなことになったら、多分私は彼に一生仕える存在となるだろうな。高みへと登るディアナ様を影でサポートし続ける男……。素晴らしいとは思わんか? 世界を救う存在を間近で見られるんだ。あぁメシア……メシアディアナ……あなたは美しい」

「こいつはこいつで気持ち悪いこと言ってるな」


 お前らがそんな期待寄せまくるから、メンタルやられてるんじゃないかと思う。

 ちなみにそのメシア様、そこで楽しそうにスクワットしてますが。

 これがバレたら俺ゼルに魔弓で頭ぶち抜かれそうだ。


「それでお前ら結局、迂回ルートか強行突破ルートか決めたのかよ?」

「現状迂回ルート一択だな。この晴天じゃ雨は降らないだろうし、装甲強化をしたとしても3発耐えられるのが4か5発に増えるだけだ。しかも増加装甲の分だけ速度は犠牲になるから被弾しやすい」

「まぁそうだよな。前回は途中で諦めてくれたけど、次は地獄の果てまで追ってくる可能性もあるしな」


 あれから何組か俺達と同じように襲撃にあったチームと遭遇して話をしたが、皆怒りを露わにしながらも迂回ルートを選択していた。

 中にはケガを負った候補生もおり、怒りが湧いてくる。

 だが悔しいがリスクをとるならば戦闘するより、迂回したほうが良いだろう。

 そうなると足回りの強化をどうするかと考えていると、砂漠へスクラップ漁りをしに行っていた土方が帰ってきた。


『ファーザ! ファーザ! 基地見ツケタ。多分物資イッパイ!』

「なにぃ? それは見に行かんとならんな。ここから近いのか?」

『アノ鉄塔ラヘン。ハヤクハヤク!』


 先程見つけた電波塔の方へ、土方は走って行ってしまう。


「すまん、ちょっと見てくるわ。もしかしたら有用なパーツがあるかもしれん」

「では我々はここを見ておこう。キャンプが空になるのはまずいだろう」

「頼むよ」


 俺達のチームだけで行こうとしたが、ペンギンガスマスクが手をあげて「わたしも一緒に行く」と言ったので、彼? 彼女? も連れて行くことに。

 多分破損したトレーラーに必要なパーツが欲しいのだろう。


 ウチの女性陣プラスペンギンガスマスクさんで土方の後を追うと、何もない砂の上でぴょんぴょんと飛び跳ねている土方がいた。


『コノ下、コノ下』

「ほんとにあるのか?」


 俺が膝をついて地面の砂を払うと、レッドランプを点す電子端末が出てきた。

 暗証キーを入力するタイプの電子ロックで、軍が使うものと同じものだ。


「地下基地への入口か?」


 俺は腕時計型情報端末RFから電子ロックにハッキングを試みるが、リモート機能が完全に死んでおり、そもそもアクセスすることすらできなかった。


「これだと暗証番号がないと開かんぞ」


 俺は電子ロックについたテンキーを眺める。


「これって前の廃村のときみたいに、どこかに暗証番号とか隠されてるのかしら?」

「そうなると諜報兵科の出番だな。鳳、解除できる?」

「は? オレにこんな難解なロック解除できるわけねぇだろ」

「暗号キーがどっかに隠されてるんじゃないのか?」

「これ本物の軍の電子ロックだろ。多分試験官が用意した補給のやつじゃねぇよ」

「諜報なら破れるんじゃないの?」


 輝刃が知らんけどと尋ねると、舞は頭をかいた。


「エリートならできるだろうけど、オレは落ちこぼれなんだよ。だからこんな難しいロックは解けねぇよ」

「困ったな。こんな分厚い隔壁こじ開けられんぞ。土方ドリルあるか?」

『アルゾウ』

「やめといたほうがいいです。この隔壁空爆に耐えるダイナモ合金です。ドリル割れますよ」


 ペンギンさんが膝をついて、見慣れぬ電子端末でハッキングをかけると電子ロックはエラーコードを吐いた。


「ダメですね……。そろもそもロックが故障しているせいで、正しい暗号キーを入れても弾か……れるペン」


 なんだその唐突で雑な語尾キャラ付け。ペンギンさんは突然語尾にペンペンとつけて喋りだす。


「どうしたんだいきなり?」

「気にしないで欲しいペン」


 変なやつだ。敬語を使うと何かまずいのだろうか?

 舞は「壊れてんのかよ」とボヤきながら電子ロックをガンと蹴りつけると、端末がピピーとエラー音を発した。

 電子ロックの画面にグリーンのランプが点灯すると、ギギギギと錆びた金属音を鳴らしながら、地下へと続く巨大な隔壁が開く。


「あ、開いたペン」

「やるな諜報」

「マジかよ、壊れたテレビじゃねぇんだぞ」

「結果オーライよ。中に入りましょ」


 俺達は鉄板で舗装された坂道を下りていく。


「暗いな」


 地下通路は当然ながら電源が全て落ちており、奥へ進むにつれて暗くなっていく。

 全員がRFの細いライトを点灯させるが、それでも暗い。

 視界が悪くなるにつれて、腰が引けていく舞と輝刃。


「多分見た感じ、戦車の緊急発進施設スクランブルベースだな」

「スクランブルベース?」

「戦時中の臨時格納庫みたいなもんだ。大規模戦闘の際戦車が足りなくなったとか、緊急で魔獣の大群が攻めてきた時、足止めする防衛ライン形成用に予備戦力を置いておく場所だ」

「じゃあこの先にあるのは戦車か、よ――ひっ!」


 舞が悲鳴を上げかける。見ると、彼女のライトの先に白骨化した遺体があった。

 軍服を着た兵隊らしき死体は、マガジンが空になったライフルを抱き、壁に持たれるようにして死んでいた。


「ね、ねぇ、実はここやばいとことかじゃないわよね? 実は生体実験をやってた施設とか」

「そんなわけあるか。BM戦争があった場所だからな。仏さんも珍しくないだろ……ってビビりすぎだろ」


 完全に腰が引け、くの字で歩いている舞&輝刃。


「ビビってねーよ! オレはちょっと物理で殴れねぇ奴が嫌いなだけだ!」

「そうよそうよ! 小鳥遊君早く前歩いてよ!」


 コイツラ……。

 それからしばらく歩くと、兵隊や軍関係者と見られる死体がポツポツと転がっている。

 地上で出た犠牲者は手厚く葬られたと聞いたが、やはり地下基地の死体は放置されているのか。

 いや、もしかしたら遺体を探しにきたけど、上のロックが壊れてたせいで回収部隊が中に入れなかったのかもしれないが。


「ね、ねぇ長くない。地下長くない? 地下長いよね?」

「なんで強襲と諜報が機工の後ろに隠れてんだよ」

「う、うるせーよ。早く先進めよ!」


 そんな全力で両腕を固められると、いきなり魔獣とか出てきても俺何もできんのだが。

 でも巨乳が潰れるくらい押し付けられているので良しとする。

 全力で怖がる舞と輝刃、それを見てディアナはそんなにくっついていいんだと間違った理解をすると、背中から抱きついてきた。


「怖いねー(棒)」

「絶対そんなこと思ってないだろ! お前ら少し離れろ動きにくいだろ!」

「嫌よ、離したら先に走っていく気でしょ! わかってるのよ!」

「そんな子供みたいなことするか!」


 見ろペンギンさんを、全く動揺してな……。

 ペンギンガスマスクさんは、しゃがみガード状態で動かなくなっていた。


「ダメだこりゃ」


 このチームゴーストタイプに弱すぎる。


「土方、ペンギンさん背負え」

『アイ↑アイサー↓』


 結局全員肉団子状態で地下へと降りていく。

 カタツムリみたいな速度で地下通路を歩くと、予想通り格納庫へと辿り着いた。

 開けた空間に整備用のクレーンアームなど整備機具が見えるが、戦車は一両も見つからない。


「やっぱ全部出払っちまったか」


 ここで待機していた戦車達は、皆外でスクラップと化してしまったのだろうか。

 予備パーツでもないかと探し回ると、いくつか使えそうなものが見つかった。

 加速用の外付けジェットブースター、戦車用リアクター、魔力砲弾エーテルバレット1発、最後は――。


「これ動くのか?」

『動クゾー』


 俺の目の前で回る大型ドリル。恐らくこの基地を造るにあたって使われたと思われる旧式の削岩機だ。

 見た目は戦車の正面に巨大なドリルをくっつけたシンプルなもので、構造的にはかなり原始的。


「ねぇ、これ使って地下から穴掘って襲撃者のいる場所抜けるってどうかしら?」

「無理だ。ドリルのヘッドが折れてるし、これじゃ穴は掘れない。もしドリルが使えたとしても、地中走行中は時速5キロくらいしか出ん」

「遅すぎるわね、じゃあスクラップばっかりってこと?」

「まぁそうでもない。外付けブースターがあったし、これを使えばもしかしたら迂回ルート通らなくてもいいかもしれないぞ」

「強行突破するの?」

「戦車にこのジェットブースターをとり付けて超加速で突っ切るって手もある。こいつは一時的にだが戦車を約300キロまで加速させてくれる推進機なんだ」

「へー、そんな良いパーツが残ってるなんてラッキーね」

「……良いパーツではないんだよな」

「違うの?」

「特攻用ですからペン」


 ペンギンさんが答えると輝刃は「あっ」と察する。


「大量の爆薬を積んで、ブースターで加速、BMに突撃して玉砕をはかった……俺達機械工としては欠陥としか言えない兵器だ」

「…………人類ってかなり追い詰められてたのね」

神話ソロモン級のBMが、このオーストリア大陸に巣を作ったらしいからな。そりゃ魔力核弾頭も使われる」


 俺達はまだ遭遇したことはないが、神話級と呼ばれる他のBMとは一線を画すほどの力を持つ魔獣。

 その別名をドラゴンと呼ぶ――。


「ほんと魔獣ってなんなんだろうな」


 舞の呟きにディアナが答える。


「一説によれば隕石とともにやって来た外部生命体。またとある学者によれば地底に眠っていた地底生命体。ある国の大統領は某国が開発していた戦闘生命体が独自進化を繰り返した結果暴走した。他には神が遣わした救済を執行する天使なんて言う宗教家もいるよね」

「バカげてますね。魔獣が救済だなんて。死に救いはありません……死は死です……ペン」


 語尾の使い方がかなり下手くそなペンギンさん。


「こんな感じでいっぱい説はあるけど、どれも確証はない。その中でボクが少しだけ興味がわいたのは、魔獣は星の崩壊因子じゃないかって話」

「星の崩壊因子?」

「科学者や学者でもないただのお医者さんが言った説なんだけど、奴らはガン細胞みたいなもので、増えすぎた星を壊す生命体じゃないかって」

「なんだ、この星はもう生活習慣病で手遅れってことか?」

「人間が星のエネルギーを吸い上げすぎて、星の免疫力が落ち、魔獣というウイルスが弱った星を破壊している」

「面白い話ペンですね」


 もう語尾ぐっちゃぐちゃ。


「なら魔獣を倒す俺達は免疫細胞ってところか」

「でも星の生命を吸い上げているなら、どっちが癌細胞かはわからないわね」


 地球にとっての本当の悪性細胞は人なのか魔獣なのか……。

 まぁそんなことを言ったところで答えは出ないし、地球のために人類を滅ぼすなんてラスボス地味たことを言うつもりもない。

 魔獣は魔獣。人類の敵でしかない。


「よし、じゃあパーツを持って引き上げるか」

「小鳥遊君、この戦車の弾も持って帰るの?」

「勿論だ。運び出してくれ」


 輝刃は戦車用の砲弾を持とうとすると、誤って倒してしまう。


「あっ」

「やべぇ伏せろ!」


 俺が叫ぶと、倒れた風のエーテルバレットが破裂し地下格納庫に強い突風が吹く。

 整備用のクレーンがギシギシ揺れるほどの暴風。砲弾内に封じ込められていた風のエーテルが暴走する。


「キャアアッ!!」


 風は2,3秒でおさまったが一瞬台風を超える風が吹き荒れ、ふっとばされるかと思った。


「あぁ、お前気をつけろよ。これが火のエーテルバレットだったら俺たち焼け死んでたぞ」

「わ、悪かったわ」


 まぁ多分経年劣化で砲弾ケースが傷んでたんだと思うが。

 普通転がっただけで破裂はしないからな。

 危なかったと思い俺は振り返ると、そこには尻もちをついたレオタード型の水着を着た女性の姿があった。


「びっくりした~。ほんとこういうとこドジなんですからペン」


 なかなかカットの鋭いブルーの水着を着た少女。視線を上に上げると、ペンギンフードが剥がれ長い髪が露出している。

 顔は勿論ガスマスクのままだが――俺は彼女の脚にタトゥーシールを見つける。

 それは太ももの付け根あたりに貼られた、ファミオンのコントローラーイラスト。


 あれ、あのゲームハードタトゥーって……。

 ペンギンさんは自分の姿を確認すると、慌ててコートの前を閉じ、フードを目深に被った。

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