第73話 懲罰学生
「待たせたな」
「待ったわ」
デートの待ち合わせをして、もう30分も遅刻してるんですけど。
あの野郎なんて言い訳してくれるのかしら、と怒りすぎて段々笑顔になってきた感のある金髪ツインテの少女。
正直待ってくれてるとは思ってたが、ほんとに待っててくれてホッとする。
「あんたが来る前に何回も勧誘受けたわ」
「お前はモテるからな」
「当然じゃない」
自信満々にツインテを後ろ手に弾く輝刃。さすがお嬢。
「もう結構な人数”気づいてる”わよ」
「そりゃ早くしないとな。ってかお前優秀なのに仲間に置いていかれたのか?」
「置いていってもらったのよ。むしろ一緒に来てくださいって泣きつかれたわ」
「でしょうな」
輝刃がチームにいて置いていくメリットは毛ほどもない。というか、こいつならジャンプ連発で砂漠越えられるのでは? と思ってしまう。
「それよりあんた、食料盗まれて待ってくれぇぇって情けない声出してたわね」
「うぐ、見てたのか……」
「見てたわ……ずっと。それで勝算はあるんでしょうね?」
「ある」
「そっちの子は?」
輝刃は無理やり引っ張ってきた舞の方を見やる。
燃えるようなオレンジの長い髪はところどころ外ハネしており、あまり髪に気を使っているようには見えない。
美人系で気の強そう顔をしており、目尻はツリ上がっていて威圧感がある。
路地裏に連れ込まれたら、要求されてなくても財布を差し出してしまいそうなヤンキー。
服装は、蒼龍の制服であるブルーのブレザーの前を開き、中のブラウスはボタン3つ開きで、黄色のパンサー柄の下着が覗いている。
豊満な胸の北半球が露出しているので、正直目のやり場に困る。
スカートはヤンキーらしく極小のカットで、腰にはでかいハートのバックルがついたベルト。これだけ派手な見た目をしているのは候補者の中で彼女くらいのものだろう。
「目が死んでないから気に入った」
「格好がエロいから連れてきたのかと思った」
正直それもある。
「鳳、紹介する。こちら出雲の竜こと龍宮寺輝刃――」
そう言うと、舞が俺の胸ぐらを掴んで凄んできた。
「そんなこと聞いてねぇんだよ。さっきから意味わかんねぇことばっかり言いやがって。……あんま舐めてると、テメーの顔焼くぞ」
彼女は掌にボンと炎を纏わせる。
その様子を見て、冷静に腕組みする輝刃。
「彼女イキがいいわね」
「だろ? 烏丸の言ってたイメージとかなり違う」
「烏丸……あのコウモリ野郎のことか」
「コウモリと言うか泥棒野郎なんだが。一応順を追って説明するが、俺たちはこの砂漠横断試験でチーム内で不要とされ、切り捨てられた負け犬側の人間だ」
「あたしは違うけどね」
「だがこの一次試験、恐らく仲間を切り捨てることが目的じゃない。なぜなら切って捨てるなんて簡単な判断、試験にならないからだ」
体力が必要な耐久レースで切り捨てるなら、そりゃ戦闘能力が低い兵科が優先的に切られるに決まっている。
絶対そんな単純な話じゃない。この厳しい砂漠地帯を3500キロ走破しろという試験。
全てが足りていない物資、2人しか乗れないバイク、野ざらしの
「試験官は兵科を生かして走破してみせろと言った。その真の意味は、どうやって戦闘職以外の兵科を連れて行くかを考える試験だと思う。そもそも4人一組で行動するのに、ゴール地点についた2000人が合格という条件はおかしい。普通チームで協力してゴールを目指す場合、先着2000人じゃなくて先着500チームと言うはずだろう?」
「そりゃ確かに……」
「つまりゴールした時、フォーマンセルの形をしてなくてもいいってことだ。だから皆チーム内で優先順位をつけられ、
俺は今まさにバイクで砂漠へ出ようとしているチームを指差す。
バイクに乗る方も、基地に置いていかれる方も複雑そうな表情を浮かべている。
それは恐らくこれでほんとに合ってるのか? と自分たちの決断に疑問を持っているからだろう。
だがその疑問は間違ってない。多分仲間をこの基地に置いていくのは判断ミスだ。
せっかく4人割り振られたチームを、自ら戦力半減させてしまっているのだから。
「バイクに乗れた奴は残った奴らを切り捨てて、自ら4人チームから
「……言わんとする事はわかるけどよ。なんでオレなんだよ……」
「多分だが、この試験いろんな兵科が必要になる。もしくはいたほうが有利になる試験だと思う。俺は君がなんの兵科かは知らないが、多分強襲でも機工でもなさそうだったから目をつけた」
「い、一応諜報だけどよ……」
「丁度いいじゃない。陽火の諜報ってことは忍者よね?」
「そ、そうだけど諜報の訓練は赤点連発してっから……仲間内じゃ炊き出し科とか言われてるし……」
「炊き出し?」
「
「ま、まぁ……そこそこ。わ、悪いかよ!」
舞は恥ずかしそうにするが、何を恥じることがあるのか。
ギャルで料理得意とはなかなかギャップ萌えの奴だ。いや、意外とヤンキーで家事できる人多いな。出雲のヤンキー先輩も宗像先輩も女子力高かったし。
「
セガー○みたいな奴だ。
「でも最高だ。君さえよければ来てくれ」
「…………な、なんかそんなこと言われたことないから調子狂うぜ」
舞はさっきのトゲトゲしい空気が引っ込み、恥ずかしげにしている。
いい感じに新チーム結成だなと思っていると、全く見知らぬ男子生徒が声をかけてきた。
「そいつ懲罰学生だから気をつけたほうがいいぜ」
男子生徒の格好は蒼龍の制服なので、多分舞のことを知ってるんだろう。
長髪で頬に吹き出物をたくさん作った男子生徒は、ニヤついた笑みを浮かべて舞を見やる。
「懲罰学生?」
「任務中に問題を起こして、観察処分をくらったんだよな」
「…………」
「問題行動って?」
「放火だよ放火。任務地の山に火を放って山火事を起こしたんだ」
「……あれはオレじゃねぇ。証拠もねぇくせにでっちあげやがって」
「証拠がなくてもお前以外にありえないんだよ。能力もロクにコントロールできない爆炎女」
「爆炎女ってなんだ?」
「そいつは火影の血を強く受け継いで炎系のチャクラが活性化している。だけどコントロールが下手くそで爆発ばっかりおこしてるから、ついたあだ名が爆炎女なんだよ」
なるほどな。いきなり火影とかチャクラとか言い出すから、NA○UT○始まったのかと思った。
「放火魔がBランク試験受けるなんて
イヤミな学生はネチネチと舞を責め立てる。
それだけで烏丸が言っていた、前回のBランク試験中に舞が仲間を殴り飛ばしたという理由がわかってしまった。
多分こんな感じで、根も葉もない事でイジられてキレてしまったんだろう。
実際粗暴ものと聞いていても、どちらに原因があるかはわからないものである。
彼女は唇を噛み締め、拳を握りしめる。手が出るまで5秒前ってとこか。
「まぁ大方この女の見た目にでも惑わされたんだろうけど、君らセンス無いよ。ちなみにこの女、今回試験落ちたら蒼龍退学になるんだよ。だから仲間に置いていかれても必死こいてなんとかしようとしてたんだろ?」
「ぐっ……」
「君等ももう一度考え直したほうが良い。こいつはサークルクラッシャーみたいなもんで、何かあるとすぐ暴力を振るう。クズオブクズ。KOKさ」
なんで略したんだろうな。
「悪あがきしてないでさっさと退学になっちまえよ。それでそのエロい体でも売れば? このビッチ女! アッハッハッハッハ」
「テメェこの野郎!!」
舞がプチっときてしまい。拳を振り上げる。
「やめなさい!」
輝刃の制止を無視して殴りかかると、その拳は割って入った俺の頬に命中する。
「あ……」
舞の拳が突き刺さると、俺は宙空を錐揉しながら舞って、地面にビターンと落ちた。
その拍子に周囲がざわつくと、試験官の上級レイヴンが駆けてきた。
「おい、お前ら何をしている!」
「こ、こいつがいきなり僕を殴ろうとしたんです!」
蒼龍の男子生徒が言うが、実際殴られたのは俺である。
上級レイヴンもイマイチ状況を把握できていないが、舞を見た瞬間態度を変える。
「またお前か……。問題ばかり起こすやつだ。別室に来い。場合によっては失格扱いに――」
彼女が処分されかけた時、俺は上級レイヴンの肩を掴んだ。
「ちょ、ちょっと待って」
「君、大丈夫か? 鼻血が出ているぞ。医務室に……」
「そうじゃなくてですね。俺が悪いんです」
「どういうことだ?」
「ヤれそうな女の子がいるから、おっぱい触らせてよって言ったらぶん殴られて……」
「…………そりゃ殴られるだろう」
試験官の冷たい視線が痛い。
「レイヴンは品格も問われる仕事だ。くだらない問題を起こすな。このことは報告しておくからマイナス評定は避けられないものと思え」
「すみませんでした」
ペコペコと頭を下げて試験官にお帰り願う。
試験官が帰った後、俺は即座にイヤミな蒼龍の男子生徒に向き直るとキスするくらいの至近距離で凄む。
「コイツに恨み持ってんのかしんねーけど、今は俺のチームだ。そしてチームリーダーは俺だ。あんまり俺の仲間に好き勝手なことガチャガチャほざくなよ」
「き、君は後で後悔するぞ」
「汚い言葉で女の品格落とそうとする野郎に説得力なんかあるかよ。あって大して経たねぇが、お前より鳳の方がよっぽど真っ直ぐだと感じるね」
俺がそう言うと、蒼龍の男子生徒は舌打ちして去っていった。
その様子を見て、舞は顔をしかめる。
「なんなんだこいつ……」
「彼”そういう人間”なのよ。弱いくせにメイン盾やりたがるの」
呆れた表情の輝刃。
「よーし、これでOKだな。そんじゃブリーフィングやるぞー」
「お、おい。本気でオレを入れるきなのか? あいつも言ってたが懲罰学生ってのは本当のことだぞ!」
「なんだお前。ほんとに放火したのか?」
「してねぇ!」
「じゃいいだろ別に。やってねぇことにビクつくな」
「……でも、またさっきみたいな奴らにからまれるかもしれねぇぞ……」
「大丈夫だ。お前がやってないって言うなら俺はお前を信じてやる。ガチャガチャ言われんのは無視しろ」
「うっ……あっ……」
舞は何か言いたげにしていたが、それ以上言っても無駄ということに気づいたようだ。
俯いてベルトのハート型バックルを指でいじりだした舞を見て、輝刃は小さく舌打ちする。
「早速フラグ立ててんじゃないわよ」
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