第72話 置いてけぼり
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「それじゃあ自己紹介しようか? ただの自己紹介だと人となりをつかみにくいし、意気込みや、長所短所を一緒に教えてくれたら嬉しいな」
ハニーフェイスを作るのは、確かプリンスオブウェールズ所属のディアナ・マーキュリー。烏丸から一緒になるとラッキーと言われていたイケメンで、聖騎士の称号を持っているとか。
雪のように白い肌に整った顔立ち。長い睫毛と金色のショートの髪型は、女性と言ってもわからないくらい中性的な美貌を放っている。
服装は紺色の詰め襟の特注制服で、デザインは軍服に近い。右肩に真っ赤なマントをかけており、英国貴族という感じでカッコイイ。
彼が一言しゃべるだけで背景に薔薇や星が浮かびそうな、The少女漫画の白馬の王子。
彼に答えるのは仙華所属の
こちらはディアナとは対象的に荒々しい
その鋭い目つきは荒々しい鷹のようで、20代後半くらいと言ってもわからないくらい大人びている。
完全に俺の偏見だが、箸でハエを捕まえたりできそうな男だ。
「我が名は王白白。兵科は格闘強襲科だ。長所は戦闘、短所はチームワークだ。意気込みについては我は武を究めし者。我について来れぬものは置いていく」
見た目通りストイックな自己紹介を終えると、次は胡散臭さが凄い糸目の少年烏丸が自己紹介する。
「ワイは蒼龍所属の
あれ、烏丸って衛生だったんだな。情報通だからてっきり諜報かと思っていた。
次いで俺が少しどもりながら自己紹介する。
「えっと、俺は機械工の小鳥遊悠悟。出雲所属だ。長所は……サポートというか身の回りの世話というか……。短所は戦闘面はほんとからっきしだ。意気込みは足を引っ張らないように頑張る……かな」
「最後だね。ボクはディアナ・マーキュリー。兵科は強襲だよ。長所は戦闘技術。短所は体力が低いことかな。あとちょっとメンタル弱いかも。ここで組んだのも何かの縁だ。皆で頑張ろう」
既にリーダー的ポジションを獲得したディアナ。メンタル弱いって自分で言うのがちょっと意外だった。
「この班には諜報がいないから情報伝達が弱い。その辺りは機械工の小鳥遊君に任せようと思うけど大丈夫かな?」
「お、おう」
いきなり仕事を任されドキっとする。というかこのイケメン、男なのに色気があると感じてしまう。これが魔性の男というやつか。
あれだ、マンガとかだと「こんなに美しい……だが男だ」とか言われる類のキャラ。
「まずルートに関してなんだけど、多分これ最短距離でも3500~4000キロはあるよね?」
「せやな。まともに歩いていくのはアホらしいぞ」
「となると何か乗り物が必要だよね」
「せやな」
俺たちチームがブリーフィングをしていると、試験官の上級レイヴンがやってきて一人一人にリュックを渡していく。
中を確認すると、そこには10日分の
「10日以内に走破せーっちゅーことやな」
「そうなのか? 現地で調達とかできないか?」
「アホ言うな。ここは
「そ、そうか」
「いや、場所によってはなくはないと思うよ。PC兵器は土壌汚染をしないから、野生の生物がいたら捕まえることも不可能じゃない」
「せやかてこんな土地にいるのなんか魔獣くらいなもんやろ。後はサソリみたいな毒虫か」
なるほど。調達できなくはないが見つけること自体が難しいってことだな。ってことはこの食料が尽きれば、そこでリタイアになる可能性は非常に高い。
「あれ?」
ディアナが渡された支給物資の中から何かを見つける。
鞄から取り出したのは、番号付きのタグがついた小さな鍵だ
俺はそれを見てなんの鍵か察しがつく。
「
「28?」
「軍用バイクKz-28、通称28だ」
「ほー、なんやバイク用意してくれてんのか。そらそうやわな、こんな距離歩いて行かれへんし」
俺達と同じように鍵に気づいたチームは、皆基地の車両庫へと向かう。
予想通り、そこにはサイドカー付きの軍用バイク【Kz-28】が並べられていた。
試験用で使われているらしいその車両は、どれも砂で汚れており状態としてはあまりよくない。
ただ、このだだっ広い砂の大地を走るには必要不可欠なものだろう。
ディアナはタグに書かれた番号のバイクの前にやって来ると、そのまま鍵を刺して回す。
するとルルルルと音を立ててエンジンがスタートした。
「やっぱりこれの鍵みたいだね」
「せやな。しかし……これ一台だけか?」
俺たちの支給物資の中にこの鍵は入っていなかった。つまり4人でこれ1台ということになる。
「サイドカーがあるし二人は乗れるやろけど、後の二人どうすんねん?」
「我には不要だ。この程度の距離、自力で走りきれる」
「本気か白白の兄さん!?」
「我は気功術、剛体、神速の使い手。このような機械は不要」
「ほぁーさすが仙華の虎やで。そんじゃ白白の兄さんは乗らんでええとして、あと一人どうするんや? ワイは走って砂漠横断するなんか無理やぞ」
「お、俺も無理だ」
3500キロの砂漠を走り切るなんて、人間やめてるとしか思えない。
「ディアナの兄さんもなんかすごい技使えんのか?」
「いや、そんなすごい人と一緒にしないで。脚力強化なんかできても一時だよ」
「そらそうやわな……。しかし困ったな」
周囲を見渡すと、同じような感じでどのチームも口論になっているのが見える。
これ、多分わざと人数より少ない車両を渡して、チーム内でぶつかるように仕向けてるな……。
それから様々意見を出し合うが、結局一人は残るしかないという結論に至る。
「悩んでいても時間の無駄だね。この先有用な人が乗ることにしようよ。言いたくはないけど、多分これは誰かを切り捨てなきゃいけない試験なんだと思う」
ディアナが皆気づいているが、言いにくいことを言う。
「王君は抜きにしてボクたち3人。一体誰が二次試験に進むべきだと思う?」
「ワ、ワイはキズの手当ができる! ワイを連れて行って損ないぞ! クスリもいっぱい持っとるからな!」
「小鳥遊君は? 君機工だから、ボクの心情としては君を連れていった方がいいんじゃないかと思ってる。と、言ってもボクもこのバイクを譲る気はないけど」
ディアナがそう言うと、超人王白白も口を開く。
「我も機工を連れて行くべきだと思う。衛生はケガをしない限り機能しない兵科。機工は地形測量や、ドローンを使えばルート管理が有利になるであろう」
「な、なんでや! そんなこと言わんといてくれや! ワイかて役に立つさかい、いきなりのけもんにしやんといてくれ!」
チームを組んですぐに、役割を切られかける烏丸は慌てて俺にすがる。
「なぁ悠悟、さっきあった仲やけどワイとお前の仲やんけ! 頼むわ、ワイもう今回で試験4回目なんや! 言うてへんかったけど仲間から結構白い目で見られてんねん。それが今回も一次で落ちたなんて知られたら爪弾きもええとこなんや!」
「いや、あの……それなんだけど。実は俺
「は?」
28はオフロード用でサスペンション、馬力ともに優れた軍用バイクなのだが、欠点がいくつかある。
まずひとつは旧式のガソリンエンジンであること。
魔力バッテリーを積んでいれば充電しながら走ることが出来るが、ガソリン車だと絶対に燃料補給がいる。
しかもサイドカーと軍用装甲を使用しているせいで、車両重量が重く燃費が悪い。
補給無しでの最大航続距離は、恐らく330キロ程度。全速で走らせれば、その日のうちにガス欠だ。
そして何より危険視しているのが、外は気温40度を超える熱砂。そんなところに屋根のないバイクで走行するなんて自殺行為だ。
「俺はバイクで走行する案は悪手だと思う」
「お前悪手言うても、これしかないんやったら使わなしゃーないやろ……」
「外は熱砂だ。日中走ればオーバーヒートですぐにエンジンが焼ける」
「それやったら、夜走らせたらええんちゃうんか?」
「砂漠の夜を走るとか正気か? バギーならまだしも、2輪なんか砂で滑ったら一瞬で事故るぞ。おまけにバランスのとりにくいサイドカーまでついてるのに」
「んなこと言うても、走るかバイクかやったらバイク使うしかないやろ」
「いや、手段はあるんだよ」
「手段とは?」
ディアナに聞かれ、俺は外を指差す。
「外にある兵器の山。あれで使えそうなのを探して修理する」
外には軍用のトレーラーや、戦車なんかが転がっている。熱砂を10日間も移動するなら、絶対屋根のある車両にしたほうが良い。
「アホ言うな。あんなもん何十年も前のガラクタやぞ。機械に知識ないワイでもわかる無理や。というか万が一直せたとしても修理に何日かかんねん」
「破損具合にもよるけど3日……ぐらいでできたらいいな」
「話にならんわ。リミットの10日のうち3日もここで足踏みしとくんか? その頃には先行組は遙か先。最下位争いすることになんぞ」
「でも
「どっか廃墟に使える燃料があるかもしれん。というかお前が使わんのやったら、ワイとディアナの兄さんの二人で使うたらええやないか」
「ボクとしては車両のメンテナンスをしてほしいから、小鳥遊君に乗ってほしいんだけどね……。ただ3日ここで足踏みってのはボクも容認できないかな……」
同じく王白白も首を振る。
「3日待つのであれば、我は先に行かせてもらう」
「せやろ? それやったら決まりや。ワイらでもう行きまひょ」
ディアナは苦い顔をしつつもバイクに跨ると、ハンドルにかけられていたヘルメットを被る。
「悪いけど、ボクらは先に行かせてもらうよ。君も追いつけるなら追いついて」
「俺は……車を修理してから行くよ」
「そうか。お前は己の道を征け。では……我らは征くぞ」
王白白は音もなくダッシュすると、一瞬で俺たちの前からいなくなった。
ディアナもエンジンをスタートさせ、アクセルグリップを回す。
サイドカーに乗り込んだ烏丸もヘルメットを被ると「悪いな。席奪って」と謝罪する。
ドルルルルと音を立ててバイクが発進して俺から遠ざかっていくと、烏丸は振り返り大声を上げる。
「ほんますまんな!」
「気にすんなー!」
あいつやっぱ良いやつなんだろうな。本気で合格したくて、ちょっと意見が衝突してしまったが、それも本気だからこそだろう。
俺だって3日もここで修理するのが正しいかはわからない。でも後のことを考えれば、バイク以外の足を調達したほうが良いのは明白なんだ。
「悠悟! お前の物資もういらんやろうから、ワイが貰っといたわ!」
「は?」
烏丸は食料が入った2つのバッグを掲げる。
えっ、待って、それ俺の……。
「ほんまおおきに悠悟! じゃーな盟友!」
「ま、待て! おおきにじゃない! 返してくれ!」
そんなことを言ってももう遅い。バイクは熱砂を疾走していく。
「オワタ……あいつほんとに新人潰しじゃねぇか……」
なんやかんや胡散臭く見えても、実はいい奴なんだろって思ってたけど、ほんとに悪い奴とは思わなかった。
「ダメだ。車両を修理できても食料がないならどうしようもない」
いや、諦めるな。外で食料を探しつつ、車両の修理を……。
……無理だ。ただでさえ修理に時間がかかるってのに、そんなことしてたら1週間経っても修理が終わらない。
「ダメだこりゃ……」
もうリタイアしかねぇ。
クソ……。ごめん雫さん、犬神さん、白兎さん、エクレ……。
俺は持ってきたブラスターアーマーのコンテナに触れる。
「ごめんなエクレ。使うことなく終わっちまったみたいだ」
エクレとこの中で眠る機体にも謝罪する。
「…………ちくしょう」
きっとこのまま帰っても雫さんは怒らない。しょうがないね、まだ早かったんだよと慰めてくれるだろう。だけどそれじゃ――
「それじゃいけないんだよ!」
いつまでも甘えててどうする!
がむしゃらにでもやらなきゃ! やる前から折れてどうする!!
この試験はリーダーシップを握らなきゃいけないんだ。
なのに俺はディアナにずっと握られっぱなしだった。それじゃいけない。やるんだ。俺が!
そうだ、これで終わりじゃない。誰も”チームを再編してはいけない”なんて言っていない。
俺は後ろを振り返る。そこには俺と同じように仲間に置いていかれ諦め状態に入っている候補者。その他にまだ揉めているチーム。
ダメだ、こいつらじゃ。始まる前から死んでる。
俺は死んでない人間を探し、周囲を走る。
そして俺は見つける。オレンジ髪のギャルなのかヤンキーなのかよくわからない少女。鳳舞。こいつは目が死んでない。
「お前、来い!」
「はっ!? なんだテメー!?」
ここで一人でポツンとしているということは、俺と同じく負け組。だから遠慮する必要はない。
「うるせー! お前も仲間に見捨てられたんだろうが!」
「ぐっ……仲間が捨てたんじゃねぇ! オレが捨てたんだ! 勘違いすんな!」
いいぞ鳳舞。イキが良い。よく働いてくれそうだ。
「お前なんなんだよ!?」
「お前を俺のチームに入れる!」
「はぁ!!??」
意味がわからず素っ頓狂な声を上げる舞。
「事情は後で説明する!」
この一次試験の仕組に気づいてるなら、あの金髪ツインテも絶対残ってるはず。
あいつもチームに加えて、俺の
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