一次試験
第71話 チーム分け
烏丸と話をしていると、上級レイヴンの試験教官が現れ、何か話し合いをしている。
「なんや、まだ始まらんのか?」
「なんかまだ来てない生徒がいるみたいだが」
「そんなもん失格でええやろ。試験に遅刻する奴なんかロクな奴ちゃうぞ」
俺もそう思う。するとズンっと一瞬基地が揺れた。
なんだと思い振り返ると、会場の入口を蹴破り鋼鉄の塊が入ってくる。
それは中華甲冑をそのまま巨大化させたようなパワードアーマーで、全長は3.5メートル程。肩部装甲には仙華の校章である
光沢のある真っ赤な胴甲冑に、頭部アイカメラはモノアイになっている。
その姿を言い表すなら機械でできた武将。
背面には巨大な戦斧がマウントされていて、強い威圧感を放っている。
「なんじゃあの悪役ロボみたいなんは……」
「仙華の超機人だ……カッケェ」
「なんやそれ?」
「鎧の正当進化と言えば良いのかな、レイヴン用機甲重装歩兵装備って言う。陽火でも製造が検討されたんだけど、叢雲と超機人を専門に造ってる企業がコンペで争って叢雲が勝ったんだよ。だから陽火の学園艦は対○忍装備じゃなくて、バトルジャケットが主流になった」
「仙華に兵器を出資してる企業って確か【
さすがお嬢、顔が広い。
「ほー、ワイの中で金持ちって嫌な奴のイメージしかないわ」
全くだ。金持ちでいい人とか勝ち目が一つもない。
「超機人は魔力リアクターを備え、防御に特化した構造になってる。BMの重い一撃でも耐えられる設計で、面白い構造してるなって思ってたんだ」
「
「彼ロボオタだから」
呆れた目でこちらを見やる輝刃。
自分の興味分野だけ早口になる、オタクあるあるである。
超機人は周囲の注目を気にした様子もなく、悠々と会場の中へと入ってくる。
「っていうか降りろや! なんであんなライドアーマーみたいなんで試験会場きとんねん! 入り口ぶっ壊れとるやんけ!」
「超機人の操作系に詳しくないからなんとも言えんが、神経接続とかしてたら簡単に降りられないかもしれん」
「いやいや! それやったら試験始まってから乗れや! なんでわざわざ乗ってくんねん!」
「わかんないけど、輸送機がなかったんじゃない?」
俺は機体を間近で見れて嬉しいけど。
一瞬超機人と目があった気がした。目と言っても頭部のモノアイカメラ越しなので気のせいかもしれないが。
そんな様子を腕組みしながら見やる輝刃。
「とうとう出たわね。恐らくあの機人が次々に候補者を襲撃したり、試験官を襲いだしたりするのよ。そして奴はこう言うの、狩りの始まりだって……」
「お前のその謎の狂人黒幕説はなんなの?」
一言も発しないまま機体はガションガションと音を立てて、他の生徒と同様整列する。
仙華の生徒の中に超機人が普通に並ぶ姿はシュールだ。
「今回は今までで一番強い奴から変な奴まで揃っとるわ」
「仙華の虎、超人王白白に超機人、プリンスオブウェールズの聖騎士ディアナ、女殺しの川崎光牙、はみ出し物のヤンキー鳳舞」
「そんで出雲の竜やな」
確かに、バラエティ豊富だ。
超機人の登場に周囲はざわついていたが、しばらくすると上級レイヴン数人が前に立ったため会場は静かになった。
「これよりBランク昇級試験を開始する。試験の前に【総学園長】からのお言葉をいただく!」
試験教官が、立体投影装置を準備すると3Dホロスクリーンが投影された。そこには士官軍服を着た、歴戦の猛者を彷彿とする老年の男性が映し出される。
レイヴン協会のトップ、学園都市型艦1番艦ヒューストン学長グレイズ・ビクター。
元統合軍海軍将校でもあり、第一次BM大戦中イージス艦に乗船し艦隊指揮をとっていた。
大戦後はBMの驚異を全世界に説き学園都市型艦計画を発案、BMや魔獣討伐のスペシャリストを養成する
俺たちは生きる伝説を前に姿勢を正し、両手を後ろに回し足を少し開いた軍隊式直立不動の姿勢で話を聞く。
『諸君、多忙のため録画映像で失礼するが、私はグレイズ・ビクター学園艦隊総司令。君たちの搭乗する学園艦のトップ学園長を束ねる人間だ。君達若いレイヴンが、こうして昇級試験を受けることを嬉しく思う。それだけ世界を守る優秀な戦士が増えるということだからだ』
ビクターの重々しい言葉に、全候補生が背筋を伸ばし緊張した面持ちで耳を傾ける。
『現状この世界には敵が多い。
ホロ映像が途切れると、今度はこれまたいかつい士官服を着た男性教官が前に出る。
「私は今回の試験委員長を担当するセルゲイ教導官だ。総学園長はああおっしゃられたが、私は実力不足のレイヴンを合格にするつもりは一切ない。生半可な人間がリーダーになれば死ぬのは仲間だ。無能に大切な命を預けさせるつもりない。そのことを肝に銘じておけ!」
ここにいる誰もが、こりゃ鬼教官来たなと悟る。
「これよりBランク昇級、第一次試験を行う!」
セルゲイがそう言うと、上級レイヴンたちが候補生に四角折にされた紙を配布してくる。
「一次試験の内容は二次試験会場へと行く。それだけだ。ただし、我々が割り振った
その言葉に俺は苦い顔をする。2000人と言うと多そうな感じがするが、5000人が一気に半分以下にまで減るわけだ。
なんだかんだで一次くらいは通るんじゃないかという甘い希望があったが、恐らく一次の時点で運による合格はないと思い知らされる。
そこにセルゲイは更に付け加える。
「2000人もゴールできればの話だがな」
「…………」
こりゃただ目的地に向かうだけの試験じゃないな……。恐らく何かギミック的なものがあるのだろう。
一気にテンションが下がっていると
「…………えっ、遠っ……」
マップを見てちょっと引いてしまった。今現在いる位置がオーストリア大陸の最北端。
ゴールポイントが最南端で、内陸を通った最短ルートでも恐らく距離にして3500キロほどある。
それは陽火で言えば、陽火本国の列島を横断する距離と同等。
「わかっているとは思うが、この場所に公共の交通機関等は存在しない。また、この地には未だ魔獣の残党が確認されている。力がなければ生き残ることすら難しいだろう。”各々の兵科を生かして”走破してみせろ」
そういやこの試験受けるに当たって、死んでも文句言いませんって誓約書を書かされたのを思い出す。
これだけ過酷な試験内容なら、そりゃ上級レイヴンが簡単に推薦状書かないわけだと悟る。
「チームに分かれ1時間のブリーフィング後、各チーム移動を開始せよ!」
俺はペラりと紙をめくると、そこにはG-10と書かれている。輝刃の方を見ると、彼女はA-3と書かれた票を見せる。
ほんの少しでも一緒のチームになれるかもと思ったのが悲しい。
「Aグループはこちらへ!」
「Bグループはここに!」
「Dグループ集まってください!」
全候補生がそれぞれのグループへと分かれ、そこから更に自分のチームを探す。
「えーっとG-10は……」
俺は同じようにG-10の票を持った面々と顔を合わせる。
「えぇ……嘘やろ……」
俺は集った面々を見て苦い顔をする。
それはなぜか。
目の前にいるのは全員野郎。一人はさっき話していた烏丸と、後は――
ミュージカルスターみたいなイケメン、プリンスオブウェールズのディアナ・マーキュリーに、仙華の超人、王白白。
合格を確実視されている二人だ。
「悠悟、お前ここか? 奇遇やな!」
「お、おう」
「メンツもやばいくらい強い奴やぞ! こら勝ったな!」
「そ、そうだな……」
やべぇ……。俺は烏丸が言っていたことを思い出す。
『実力ない奴はチーム内ですぐに切られる。ゴミに足掴まれる』
「この中で一番実力ないの俺だろ……」
いや、どこのチームでも俺が最下位なのは間違いないとは思うが、まさか候補生の中のトップ層と組まされることになるとは……。
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