第7羽 Bランク試験
第67話 ランク試験
クリスマス事件も一段落し、年も明けた今日この頃。
他のチームはいつもどおり忙しなく任務に取り組んでる中、ウチのチームはお姉様方の圧倒的マンパワーで難易度の高い任務をクリアし、次の出撃依頼待ちとなっていた。
他のチームでは数週間かかる任務でも、二、三日で達成してしまうあたりやはりこのチーム戦力過多な気がする。
しかしそのおかげで他所のチームより圧倒的に余暇が多く、自己鍛錬に精を出しやすい恵まれた環境だと思う。
出雲最強と呼び声が高い我がお姉様チーム、その時間を使ってさぞかし凄まじい訓練を行っているのだろうと思われるかもしれないが――
「……王手」
「ちょ、ちょっと待たぬか!」
「待たない。……でもわっちはクソザコでありんすって言ったら待つ」
「言うかぁ!!」
「みんなークッキー焼けたわよ~」
いつもの共同部屋では白兎さんと犬神さんは将棋の勝負に没頭。
雫さんはエプロン姿でクッキーを焼き、輝刃はベッドの上でピンクのマニキュアを塗っていた。
平時はこんな感じでぬるい女子部屋的空気が漂っている。
俺は部屋の片付けをしながら一番暇そうな輝刃に声をかける。
「龍宮寺、エクレどこ行ったんだ?」
「さっき学長に呼び出されてたわよ」
「何かやらかしたのか?」
「小鳥遊君じゃないんだから。何かやらかしてもお金の力でなんとかするわよ」
フーっとマニュキュアに息を吹きかける金髪ツインテ。
ほんとこの姉妹は……。
兵器企業で出雲のスポンサーでもある
彼女たちといると金持ちは無敵であるとつくづく実感させられる。
「ユウく~ん、クッキー食べる~?」
「食べるー」
「はいどーぞ」
エプロン姿の爆乳美女。俺の従姉妹でもある牛若雫さん。一応ウチのチームリーダーなのだが、誰にでも優しく甘やかし上手。聖母のようになんでも許してしまうところから、ダメンズメーカーとしても有名。
悪友猿渡曰く、ふわふわとした雰囲気で騙されやすそうな未亡人的オーラも人気の一つだとか。
ただ、その意見には俺も賛成せざるを得ない。どこか無防備なんだよなこの人。
「あ~んして~」
雫さんは焼きたてのハート型チョコクッキーを持つと、俺の口の中に指事突っ込んでくる。
「美味しい?」
「美味しい」
「もう一個いっちゃう?」
「いっちゃう」
「はいあ~ん♡」
「あ~ん、痛っだぁぁぁ!」
俺の側頭部に何かが命中し、こめかみを押さえ、もんどり打つ。
床にコロンコロンと転がったのはマニュキュアの小瓶だった。
「なにデレデレしてんのよ、きっしょいわね」
豪速瓶を投げつけた
「ちょっとあーんされただけじゃろがい!」
「牛若先輩の指舐めながら溶け切った顔してるのがキモい。指舐め妖怪小鳥遊」
「水木し○る妖怪みたいに言ってんじゃねぇよ! てめぇの指も全部舐めたろか!」
「ちょっ、こっちこないでよ!」
輝刃に飛びかかると、そのままベッドの上でもみ合いになる。
こいつにはいい加減男の恐ろしさを教えてやらねばなるまい!
「どこ触ってんのよ! 変態死ね!」
「うるせー! 指よこせ!」
「キャーー! こいつほんとに指なめてきた!」
「にっが! なにお前の指腐ってんじゃねぇの!?」
「マニュキュア塗ってんだから当たり前でしょ!」
この光景もいつものことである。
「……ユウゴと龍宮寺仲良すぎ問題」
「あれはちょっと目を離したら子供できてるパターンじゃな」
「……それは葵のことでは?」
そんな騒がしい共同部屋に白衣姿の少女が帰ってきた。
「じゃん! 見てください!」
白衣に切れ長の瞳、ロングストレートの髪がトレードマークの天才機械科学者、龍宮寺
それを見て、チーム一同はおぉっと感嘆の声を漏らす。
彼女がドヤ顔で見せたのは、俺たちレイヴンが持つ武器の所持や、市街地などでの戦闘を許可するバトルライセンス。
以前までは訓練生と表記されていたランクカテゴリーには、光り輝く【Cランク】の文字が踊る。
「嘘、あんたCランク試験合格したの?」
「えぇ、今まで訓練生扱いでしたけど、とうとうライセンス試験突破しました」
「あらあらまぁまぁ、エクレちゃん凄いわぁ」
「……3ヶ月で訓練生卒業? 結構早いね」
「元から筋は良かったからな。これくらいは当然じゃろうて」
お姉様方はエクレの実力なら妥当だろうと褒めてくれる。
その中で金色のツインテを震わせながら一番驚きわなないていたのは、他でもない姉の輝刃だった。
「あ、あんた……」
「フフッ、これで姉さんと同じランクですよ。どうです、盛大に褒めてくれて構いませんよ」
「あんた……いくらつんだの?」
姉は全く妹の能力を信用していなかった。
「失礼なこと言わないでください! ちゃんと正式にライセンス試験を受けてクリアしたんです!」
「嘘つかないで! あんたの運動音痴はそう簡単に直るようなもんじゃないわ! 絶対体力試験をパスできないはず! そうなると試験官か学長に金を握らせたとしか思えないわ!」
「くぅ~とことん失礼な姉ですね! わたしはそんなこと一切してません!」
ガルルルルといがみ合う龍宮寺姉妹。
毎度仲がいいんだか悪いんだか。俺は二人の間に入って仲裁する。
「大丈夫だ。エクレはなんにも不正なんかしてないって。実力でライセンスをとったんだ」
「はっ? なんであんたが……ちょっと待って、ここ最近夜になったらいなくなってたのって、もしかして」
「エクレの体力づくりに付き合ってた。俺も体力面はクソ雑魚だからな。一緒に基礎訓練をやってたんだ」
「そうですよ。スポーツエリアでランニングして、ジムエリアで筋肉作ったんですから。見てくださいこの逞しい筋肉を!」
そう言ってエクレは腕まくりをして力こぶを見せようとするが、白い二の腕には全然筋肉がついているようには見えなかった。
「ダメだなエクレ、筋肉っていうのはこいつの脚くらいついてないと」
俺はぴらっと輝刃のチェック柄のミニスカートをめくる。するとお嬢様らしいホワイトのレース下着とガーターリングの巻かれたむっちりとした太ももが露わになった。
やはり大ジャンプを使う竜騎士の輝刃は、自然と脚回りが太ましくなるのは仕方がないことなのだが、俺はこういうのも好――
俺の首筋に命を刈り取るハイキックが飛んできて、俺の意識は暗闇に落ちた。
「最近あんた堂々とセクハラしてくるようになったわよね……」
「姉さん、泡吹いて気絶してますから」
「というか話戻すけど、嘘でしょ。あんた運動するとすぐゲロ吐いて倒れる根性なしじゃない……」
「小鳥遊さんの前で変なこと言うのやめてもらっていいですか!?」
「っていうか、体力仕事なんかナンセンス。そんなものは機械や、その分野が得意な人がやればいいんです。オールマイティキャラって一番微妙な性能になるんですよ、ってゲーム脳みたいなこと言ってたじゃない!」
「言ってましたけど! ……でも体力テストパスしないとライセンス貰えないんだからしょうがないじゃないですか」
「その心境の変化はなんなのよ。あたし的にはライセンスとったことより、そっちの方が気になるわ」
「えっ、それは……」
急に言葉を濁すエクレ。
「いててて、白のパンツと同時に三途の川が見えたぞ。
意識を取り戻した俺が立ち上がると、なぜかキッとこちらを睨む輝刃。
「あんた一緒にトレーニングってなにしてたのよ」
「いや、別に何もやましいことはないぞ。二人で一緒に頑張れ頑張れって、お互いを鼓舞しながらトレーニングしてただけだし」
「あぁ……、そうそういうことね。頑張れ♡ 頑張れ♡ ってことね」
何か語尾のニュアンスがおかしい気がする。
何もやましいことはないと言ったが、ほんの少しだけやましいことはあった。実はエクレのピッチリとしたスポーツウェアを見てたら訓練が捗る捗る。
軽くセクハラチックな視線で彼女を見ていたのは内緒だが、心なしかエクレはその視線に気づいていた気がする。
なぜならトレーニングウェアが、日を追うごとに布面積が少なくなっていってたから。
「最後の方はほとんど水着でトレーニングみたいになってたからな……」
「あんたから何か
「気のせいだ」
エクレのことが話題になっていたが、ここで犬神さんが輝刃に自分のことを尋ねる。
「龍宮寺、妹のことより主はどうなんじゃ? 主、もうBランクへの受験資格は持っておるじゃろう?」
「う……」
「そうね、私も学長から輝刃ちゃんは一体いつBランク試験を受けるんだって催促が来てるの」
そうか輝刃の奴優秀だもんな。任務もちゃんとこなしてるし、戦闘技術もCランクレイヴンの中では頭ひとつ以上抜けている。そろそろBランクに上がってもおかしくない頃合いだ。
「雫さん、Bランクの受験資格ってなんなの?」
「えっとね、チーム内の上級レイヴンつまり私と葵ちゃん、白兎ちゃん全員分の推薦があること。戦闘任務を10回以上クリアしていること。Cランクの学科試験、
「それなら全てクリアしておるじゃろう。なぜ受けんのじゃ?」
「え、えっと、あたしまだ学科の単位いくつか足りなくてですね……」
「なにが足りんのじゃ?」
「え、えっと……倫理教習」
「あんなもの寝てても取得できるじゃろう」
倫理教習とは困ってる人は助けましょうねという、徳の高い道徳の授業で、学科の中では
「そ、そうなんですけど……なかなか授業時間と任務の折り合いが」
「…………カグヤ、何かBランクに上がりたくない理由ある?」
煮え切らない輝刃に白兎さんが核心をつくと、彼女はビクッと肩を震わせる。
「お主はCランクに上がった時点で既にBランク並の能力があるのじゃ。むしろ去年のうちに合格していてもおかしくなかったはず」
「そうね、何か理由があるのかしら?」
「えっと、その……あの……」
お姉様全員が聞くと、輝刃はどもりながら俺と目と目があう。
あっ、なんか嫌な予感。
「だ、だって小鳥遊君だってまだCランクですよ!」
「主とこ奴を比較するのは
「そうよ、ユウ君はまだまだできないダメな子なんだから。私達がしっかり育ててから推薦を出すわ」
「……バカな子ほど可愛い」
なぜだろう、フォローされてるのかけなされてるのかイマイチ判別がつかない。
3人のお姉様の見解は、俺にBランクはまだ早いということらしい。
俺もそう思う。特に戦技試験は毎度赤点スレスレだしな。
そこに切れ長の鋭い目をしたエクレが、さっきまでの借りを返すと言わんばかりに差し込む。
「姉さん……もしかして小鳥遊さんと同一ランクでいたいから試験避けてるんじゃないんですか?」
「バカなこと言わないで。小鳥遊君を待ってたら一体いつBランクに上がれるかわからないじゃない。そんなわけないでしょ」
そう言いつつ手にしたミルクティーをびちゃびちゃと飲みこぼす輝刃。
「いや龍宮寺、ほんとに俺なんか待ってたら何年先になるかわからんぞ?」
俺はそう言いながらこぼれたミルクティーを拭き、輝刃の着替えを用意する。
「だから待ってないって言ってんでしょうが! ほんっと自意識過剰。ちょっと皆からモテてるからってそういう考えやめた方がいいわよ。あたしマジであんたのそういうとこ嫌い。あとさらっとあたしの下着出してくるとこも嫌い!」
「す、すまん。そういうつもりじゃなかったんだが」
下着まで汚れてしまったんじゃないかと思った配慮だったんだが、凄い剣幕で怒られてしまった。
だが疑わしい……と言いたげなエクレは、RFの3D画面に何かのデータを映し出す。
「これ直近3ヶ月の小鳥遊さんと姉さんの受けた授業の単位データなんですけど、これを合わせてみると兵科違いによる学科授業を除く、小鳥遊さんの出席した必修科目、選択系、全ての授業に姉さんが出てます」
「つまり?」
「姉さん、小鳥遊さんのその週の授業日程を見てから、自分の授業日程組んでるんですよ」
それは、その……言い難いが。
「この人小鳥遊さんに授業合わせてるんですよ。同じ授業受けたいから」
「……ちょっとなに言ってるかわからないわ」
いや、わかるだろ。
「あぁ、道理で座学はよく会うなって思ってたんだ」
「姉さんが本気でキレる時って、大体図星突かれたときなんですよね……」
「…………」
「龍宮寺……お前、俺のこと好きすぎない?」
可愛い奴めと微笑むと、顔を赤くした輝刃の伝家の宝刀ハイキックが俺の首筋に炸裂し、俺は再び昏倒した。
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