第64話 多重運命交錯照準星Ⅴ

 これまでのあらすじ――


 クリスマス間近の出雲。年頃の生徒はこのカップルイベントに色めき立っていた。

 輝刃やエクレたち、他お姉様方も多分に漏れず、どうやって他の女の子を蹴落とそうかとしか考えていない。恋愛バトルロワイヤルのシーズン。


 そんな中、占いが得意な星見より受け取った、人の運命を引き寄せるラブシールを発端にトラブルが発生。

 貼った人を好きになってしまうというそのシールを、小鳥遊は誤って犬神の胸に貼ってしまう。

 眉唾だと思っていたそのシールは凄まじい効果を発揮し、犬神は小鳥遊にメロメロに。子作りまで秒読みに入りつつあった。


 星見にシールききすぎなんですけどぉ!? と尋ねると、彼女はラブシールは実はインチキ商品だったと白状。

 ただお互いの運命力をアップさせることは間違いなく、元から犬神と小鳥遊は3回くらい輪廻転生しても結ばれる、超磁力的強力運命の持ち主だったと言う。

 しかも二人の間にはトLOVEるという恋の運命が、少年誌的スケベハプニングを巻き起こすことになると。


 心を操ってしまった罪悪感に駆られ、小鳥遊はラブシールを剥がそうとするが、犬神はそれを強く拒否。

 星見もラブシールはきっかけを作っただけで、遅かれ早かれ貴方たちは結ばれる運命にあると言う。

 それならば剥がす意味はあるのか? このままでも結果が一緒ならかわないのでは? と思ってしまう小鳥遊。

 ラブシール定着期限は24時間、それまでに小鳥遊はラブシールを剥がすことができるのか――

 そして醜い足の引っ張り合いをしていたエクレ含めた他のお姉様たちは、今頃そのことに気づくのだった。


◇◇◇


 出雲公園パークエリアには、透過半球型天井装甲クリアドームパレスから見える満天の星空を見上げながら、愛を育むカップルが目立つ。ハートが飛び交うその場に溶け込む小鳥遊と犬神。それを追う死んだ魚の眼をした四人の少女たち。


「どうするんですかアレ!? 見てくださいよ、あの寄り添う熟年カップル感!」


 自動販売機の影から顔を出したエクレは、前方を歩く小鳥遊と犬神を指さす。

 二人は腕を組んでいるのだが、犬神は体を密着させ寄りかかりながら歩いている。というか寄せすぎてまっすぐ歩けていない。


「しかも……あの二人、下の名前で呼び合ってる……」


 遠くの音声をうさ耳型集音デバイスで拾う白兎。

 輝刃は腕組みして豊満な胸を持ち上げると、イラだたしげにカツカツと床をブーツで叩く。


「へ、へぇ……ま、まぁやるじゃない。あのバカまさか犬神先輩にまで手を出してるなんて思わなかったわ」

「……葵、数歩歩くごとに愛を囁いてる」

「ど、どういう言葉?」

「ん……愛してるとか、わっちは主様のモノとか」


 エクレはハート型の銃口をした拳銃に実弾を装填すると、カチャンと音を立てて安全装置を外す。


「残念です小鳥遊さん、愛の狩人ラブハンターエクレは愛憎の殺し屋ラブキリングエクレにかわったようです。あなたを撃ってわたしも死にます」

「いきなりヤンデレ発動してんじゃないわよ」

「じゃあどうするんですか!? 犬神先輩みたいにクールな人ほど、疲れて家帰ったら、ご飯にする? お風呂にする? それともおっぱい揉む? とか言って蟻地獄のように小鳥遊さんを甘やかして沼にはめるんですよ! わたしもそんなこと言える乳がほしい!」

「なんで途中から乳の話にかわってんのよ。我が妹ながらおっぱいへの憎悪がえぐい」


 発狂寸前のエクレを尻目に、雫はじっと悠悟の様子を観察していた。


「…………」

「雫、どうしたの?」

「うん……なんだかユウ君の顔が、元気ないなって……」

「気のせいですよ、どうせデレデレと鼻の下のばして……」


 全員が悠悟の顔を見ると、犬神に対して笑顔を返しているのだが、どこかぎこちない作ったような笑みになっている。


「なーんか困ってるって顔ね……。どういうことかしら?」

「何かあるんじゃないかしら……。突然葵ちゃんがユウ君のこと好きになるのもおかしいし」

「……葵、元からユウゴ好きだった説」

「まさか。そんなラブコメみたいに簡単に人を好きに……」


 エクレ達は自分で言って自分で気づく。

 そういえば人を簡単に好きになるアイテムを持っていると。


「もしかして」

「「「「ラブシール?」」」」

「ってことはユウ君もラブシールを持っていて、それを貼った相手が葵ちゃん?」

「最低ねシールで人の好意を操るなんて!」

「ほんとですよ! こんなのエロ同人に出てくる催眠アイテムですよ!」


 自分のことを完全に棚上げする龍宮寺姉妹。

 ようやくタネに気づいた彼女たちの前に、都合よく星見がやってきた。


「やっほー皆さんお揃いで」

「星見ちゃん?」

「ようやく争ってる場合じゃないって気づいたわけね」

「……星見、あれラブシールが原因?」

「その通りよ。でも小鳥ちゃんにはもう言ったんだけど、ラブシールってほんとはフラシーボレベルで全然効果ないはずなの。効果がある人っていうのは真の運命の相手だけ」

「じゃ、じゃあ小鳥遊さんにとって真の運命の相手って犬神先輩のこと……ですか?」

「ま、待って、それだったらあたしもラブシール貼ったらあいつの態度がかわったんだけど!」

「そ、そうだ私もだ!」


 輝刃と雫はシールを貼った後、豹変した悠悟を思い出す。確かに今の犬神と同じくらい態度が変わり、愛を囁いてくれた。

 星見はローブの中に持っていた水晶取り出すと、金、緑、紫、白の光が水晶内に灯る。


「これは?」

「小鳥ちゃんは多重運命交錯照準星マルチプルラインロックスターっていう珍しい運命を持っていて、運命人が複数人いるの」


 水晶を輝刃に近づけると水晶は金に、エクレに近づけると緑に、雫に近づけると紫に、白兎に近づけると白の光が強くなる。


「やっぱりここにいる皆が小鳥ちゃんの運命の相手だと思うわ。でも犬先輩はその中でも特に運命星の力が強かった。小鳥ちゃんは今犬先輩の運命星の引力に引れて落下していっているわ」


 彼女の水晶に、ヒヨコみたいな形をした運命星が蒼い巨星に引っ張られているのが見える。


「このトゥイッターアイコンみたいな奴が小鳥ちゃんの運命星。蒼いのが犬先輩の運命星」

「なにこれ、こんなの圧倒的じゃない!」

「太陽と地球くらい……差がある」


 エクレはふと星と星が線のようなもので繋がっていることに気づく。


「これなんですか? 赤い線が小鳥遊さんの星と、犬神先輩の星に繋がってますけど」

「これが引き寄せる運命の赤い糸ラブレッドラインよ。この赤い線が小鳥ちゃんの運命星を引き寄せてる。……ダメね、この進路だともう落下コースに入ってるわ」

「これ、このままだとどうなっちゃうの?」

「小鳥ちゃんの運命星が落下して、犬先輩の運命星と融合しちゃったら、恋愛核融合ラブメルトダウンが起こるわ」

「ラブメルトダウン!?」

「ええ、恋愛核融合が起これば、もう小鳥ちゃんと犬先輩はドロドロに溶け合うまで愛し合って愛し合って、……赤ちゃんができるわ」

「「「赤ちゃん!?」」」

「星の融合は新たな星の誕生を意味する……。この規模の融合なら恐らく新たに10の運命星が誕生するわ。つまり10人の子供が産まれるってことね」


 四人の頭に10人の子供に囲まれる小鳥遊の姿が思い浮かんだ。



 以下四人の想像――


 彩京シティの歴史あるお屋敷。犬神の実家で、狐耳をした少年少女達が、おとーたま、おかーたまと呼ぶ子宝に恵まれた家庭。

 悠悟は我が子を肩車しながらあやし、犬神はキセルから白煙をくゆらせつつ愛おしそうにその光景を見つめる。

 ただでさえ幸せだというのに、二人は子供に気づかれぬようアイコンタクトを交わす。それは今晩寝屋で愛を確かめ、11人目の子供をつくる約束。

 夫婦仲はあまりにも良好すぎて、他の誰にも付け入る隙がない。愛し愛される幸せすぎる関係。



 あまりにもリアルな光景が目に浮かび、エクレはガタガタと震え頭を抱えてしゃがみこんだ。


「そんなの嫌ぁ!! 一体何人子供作る気なんですか!? 私は一体何回出産祝いを渡せば良いんですか!?」

「お、おちおち落ち着きなさいエクレ! あんたお金は大丈夫でしょ!」


 同じく動揺を隠せない輝刃、誰も金の心配はしていない。


「きっとわたしは正月とかお盆の時だけ遊びにやって来て、お年玉を配るオタクのお年玉お姉さんだと思われるんです。そうなるとわかっているのに、小鳥遊さんへの気持ちを抑えられず毎年犬神家へと向かってしまうんですよ!」

「や、やめてよ! あたしも金持ちのお年玉お姉さんって呼ばれるでしょ!」

「お年玉ちょうだーいと言ってくる子供たち。本当は切なくてたまらないけど、小鳥遊さんの子供だからやっぱり可愛くて可愛くて……。でも犬神先輩をママと慕う子供たちを見て……本当ならわたしがママになるはずだったのにって泣いてしまうんですよ」


 想像だけで泣くエクレ。つられて涙目になる輝刃。


「や、やめてよそんなのホラーじゃない!!」

「いいじゃないエクレちゃん輝刃ちゃん……多分私はお年玉”おばさん”って呼ばれるのよ……」

「「…………」」


 雫の重い言葉に二人は沈黙する。

 雫はもし悠悟義弟に子供ができた時、伯母おばと呼ばれることに戦慄する。


 彼女たちは幸せな地獄を想像し、誰もが己のバッドエンド……金や権力はあるのになぜだか満たされない、そんな寂しい未来を思い浮かべる。

 ただその未来はあながち間違いでもなく、犬神と小鳥遊の運命が確定してしまえば誰もその仲を引き裂くことはできなくなるだろう。


「……そんな未来……僕は嫌だ」

「私も……もっとちゃんと勝負したい」

「ええ、これじゃ完全にかっさらわれたみたいなもんじゃない」

「わたしそんなことになるくらいなら、例え禁忌を犯したとしてもタイムリープマシン造ります」


 星見の持つ水晶が微かに煌めく。4つの星それぞれから引き寄せる赤い運命の糸ラブレッドラインが伸び、蒼の巨星に飲み込まれかけている悠悟の星とつながる。


恋愛運命星ラブフレームによる共振……小鳥ちゃんの運命星の軌道が明らかに変わった……。これが恋する乙女たちの意思の力……)


 星見はこれならもしやと思う。


「ならこんなところでハンカチ噛み締めてないで、小鳥ちゃんの運命星をあなたたちで引き上げてきなさいな」


 四人は深く頷くと、それぞれ譲れない想いを胸に抱く。


(私が一番最初にユウ君を好きになったんだから。この気持ちお姉ちゃんだけで終わらせたくない)


(どの段階で好きになってたなんかわかんない。だけど、この気持ちは偽物じゃないから。欲しいものは奪ってでも勝ち取ってみせるわ)


(おじいちゃんは言っていた、御剣流は人を愛することで強くなる。だから僕は強くなるために君を愛す……あれ? 愛するために強く? どっちでもいいか。とにかく愛す)


(こんな根暗なオタク女に優しくしてくれたお兄さん。あなたはわたしの中で光り輝くヒーローなんです。最悪記憶抹消装置を使って、全てなかったことに――)


 四人はお互いの手を取り、犬神葵の引力に引かれてしまった小鳥遊悠悟の運命星をサルベージすることを決める。




――――――――――――

更新遅くなってすみません。

2月にクリスマスの話してほんとすみません。


カクヨムコン5に参加しています。ヤンキー実況共々よろしくおねがいします。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054892598260

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る