第63話 多重運命交錯照準星Ⅳ
カンカンカンカンと連絡通路の鉄床を鳴らしながら、二人の少女が駆ける。
「
先を行く白衣の少女が己の
「
エクレの号令と共にガトリング砲が火を吹き、轟音と共にマズルフラッシュが光り輝く。
「ちぃっ!」
対する金髪ツインテの少女は、真紅の魔槍を回転させ弾丸を全て弾いていく。
「くぅ、姉さんアニメキャラみたいな動きしますね!」
「あんたは小賢しい手ばっかり使うわね!」
「この艦の防衛システムは既にわたしが掌握してますから!」
「何気に恐ろしいこと言ってんじゃないわよ!」
輝刃が槍を投擲すると、ガトリング砲を貫通し爆発が巻き起こった。
「はっ!」
残るもう一門のガトリング砲は、爆炎でセンサーが遮られた瞬間輝刃が天井まで跳躍し、飛び膝蹴りを入れて破壊する。
「なんなんですかその身体能力、ゴリラじゃないですか! ゴリラ!」
「誰がゴリラよ! ほらあんたに勝ち目なんかないわよ!」
輝刃は再度魔槍を出現させると、エクレに向かって投擲する。
「D37隔壁閉鎖!」
今度は隔壁が瞬時に下り、鉄板が魔槍を防ぐ。
「ほんとめんどくさいわね。なんでクリスマス近くに妹と追いかけっこなんかしなきゃいけないの、よ!」
輝刃は自分の脚に魔力を込めると、塞がった隔壁を蹴り破った。
ガランガランと音を立てて吹き飛ぶ隔壁。全力疾走で逃げるエクレが「げっ」と言いたげに振り返っていた。
「ほんとゴリラじゃないですか! レイヴンって皆人間やめてるんですか!?」
「はぁ!? こんな美少女がゴリラなわけないでしょ!」
「あぁもう自分で自分のことを美少女って言いきるところが姉さんの痛さですよ!」
「自分の能力を正確に見れないのがあんたの弱さよ! ライオンが自分は弱いですって言ってたら反感買うでしょ!」
「それは驕りですよ! 人は慎ましく生きるべきなんです!」
「あんたの胸みたいにかしら?」
「あー殺す殺す! あの美少女ゴリラ絶対殺します!」
「一瞬で発狂してんじゃないわよ!」
エスカレーターの手すりを滑り下りていくエクレ。決して遅くはないのだが、輝刃はジャンプ一回で階段下へと先回りする。
「ほら捕まえ……」
ツインテを後ろ手に弾き、勝ち誇る輝刃の背に影が差す。彼女はそこが機械工作科の特殊装備
「甘いですよ姉さん。この艦にある機械は全て私の味方なんですよ。ねぇ
輝刃が振り返ると、対BM専用人型アーマーギア月光のグリーンのアイカメラが光っていた。
◇
その頃、出雲操舵室――
ブリッジには最新鋭の電子機器が並び、複数の透過フロートウインドウが中空に浮かんでいる。
中央の一段上がった
「大巳君、クリスマス時期に仕事だからって機嫌が悪くなるのはどうかと思うよ」
くたびれたサラリーマンのような雰囲気を持つ、出雲学園長の佐々木がコーヒー片手に大巳をなだめる。
「別に私はクリスマスだから機嫌が悪いわけではありません」
「そんなことないでしょー、クリスマスといえばカップル、カップルといえばクリスマス。見てごらんよ、この愛で溢れた出雲を」
学園長は出雲内部の監視カメラを操作して、複数のカップルを透過ウインドウに映し出す。
「プライバシーの侵害ですよ学長」
「硬いこと言わないでよ、これくらい学長特権でしょ~。おっ、これ小鳥遊君? へー正妻戦争は犬神君の勝ちかぁ、これは意外だね……」
「だからプライバシーの侵害ですよ」
「いやいや、彼みたいなハーレム系主人公は基本こういうイベントはヘタレて皆で過ごすっていうのが普通なんだよ。僕はラブコメに詳しいからわかるんだ」
「その歳でラブコメに詳しいと豪語するって結構痛いですけどね」
「辛辣だね大巳君は~。しかし……おかしいね、他の女の子はどうしたのかな? もう滑り台いっちゃったのかな?」
「なんですか滑り台って……」
「僕としては輝刃君とくっつくか、なんだかんだで牛若君でバブっちゃうかと思ってたんだけどねぇ。こんな大きなイベントをインターセプトせずに犬神君をフリーにするなんて勝負を捨てたとしか思えないよ」
学長がっかりと佐々木はニヤけたため息を零すと、操舵室にけたたましい警報が鳴り響く。
「なんだ!?
大巳が声を荒げると管制官の生徒が否定する。
「いえ、レーダーにBMの反応ありません」
「じゃあこの警報はなんだ!」
「艦内
「なに!? どういうことだ格納庫に通信を繋げ!」
「了解!」
すぐさま操舵室のコンソールに通信ウインドウが開き、機械工作科のトップ宗形寅子が映し出される。
「宗形、何が起きてる!?」
「あぁ……姉妹喧嘩だよ姉妹喧嘩。龍宮寺の姉と妹が男取り合ってバチバチやってるんだってよ」
宗形の後ろに事情を知っている猪瀬とミーコがイェーイとピースしていた。
「はぁ?」
「鳥を追いかけて竜二匹が暴れてるんだよ」
「あぁライバル同士でつぶし合ってるせいで犬神君がフリーになってるわけね、オジサン納得」
ウンウンと頷くラブコメ学長。
「何を言ってるんですか学長は。ちょっと待て、まさかそれで月光を勝手に使っているのか?」
「あぁ、なかなかいい勝負してるぜ。姉は元からすげぇが妹もなかなかやる。出雲最強の
「誰が実況しろと言った、いいからそのバカどもを止めろ!」
大巳が苛立たし気に言うと、学長がストップをかける。
「いやぁ、ケガ人が出ないならそのままでいいよ。叢雲さんにはお世話になってるし。ぶっちゃけ月光もエクレール博士の私物みたいなとこあるし」
「学長は権力に弱すぎます!」
「権力というか、このまま犬神君を泳がせると最後まで行くのか見てみたいんだよね」
「余計悪いです! 艦内マイク回せ!」
「は、はい!」
『格納庫で騒いでるバカども! 至急操舵室前まで来い!』
「ダメです龍宮寺姉妹戦闘をやめません!」
「あのバカども、正反対の性格をしているように見えて本質は同じなんだろうな」
「そこで潰し合ってる場合じゃないよね~」
「学長は黙っていてください!」
大巳はもう一度放送を流す。
『お前らが無駄な争いをしている間に葵と小鳥遊がデートしてるぞ』
「龍宮寺姉妹戦闘停止し、移動を開始しました!」
「あ~あ言っちゃった~。それこそプライバシーの侵害じゃない?」
「いいんです。クリスマスを楽しんでる奴なんか皆爆発すれば」
「やっぱ私怨じゃん」
◇
その頃、ショッピングエリアにて
「残念だよ雫。君にこの技を使わなくてはいけないなんて」
「白兎ちゃん……」
対峙したA級レイヴン二人。こと戦闘に関しては機動強襲兵科の白兎と、諜報兵科の雫では白兎に分がある。
その上白兎の右目は金色に輝いており、魔眼の怪しい魔力に満ちていた。
「君は僕のお義姉さんになってくれる人かもしれなかった……」
「そんな優しい未来があってもよかったかもしれないわね……。どうしてこうなったのかしら」
「運命……かな」
「悲しいわね」
雫は手印を結ぶと、その姿が三人に分身し、三人が六人に、六人が十二人に増えていく。
「多重残像分身……。これほどの分身をコントロールできるのは君だけだと思う」
「ユウ君がハーレムを作りたいよ雫さんって言ってきた時の為に習得しておいた、魔力実体を持った分身……。いつかユウ君をたくさんの分身でもみくちゃにしてあげるのが夢だったの」
「雫……いい夢だね……」
※ツッコミ不在でお届けしております。
「偽物を増やすっていうのは単純だけど魔眼にはとても有効だ」
「ええ、軍神と呼ばれている戦いの天才に挑むのだもの」
「ならばこれ以上語る必要はないね」
「お互い死力を尽くし」
「譲れない物の為に」
「戦うのみ!」
「勝ち取る!」
「守って見せる!」
二人の戦姫に戦いの焔が灯る。
するとちょうどそこに狐耳の少女と、冴えない少年が通りかかった。
「主様、わっちがよい食事を作ってやろう。期待しているがいい」
「はは、そう言ってダークマターを作った女を知ってるんですよ」
やる気満々だった白兎と雫は、すぐさま近くに転がっていた雪だるまの着ぐるみに着替えた。
(なにあれ? なんで葵ちゃんとユウ君が一緒にお買い物を?)
(わかんない……でも腕組んでた)
(嫌な予感がするわ。一緒に見に行きましょう!)
(うん、そうだね。嫌だよ僕、葵まで殺したくないよ……)
(私もよ……)
サイコパスな二人は雪だるまの格好のまま、ショッピングセンターの中に入っていた小鳥遊と犬神を追いかける。
◇
買い物が終わって、俺と犬神さんは共同部屋へと帰って来ていた。
そこで犬神さんは鼻歌を歌いながら夕食の準備を始めていく。
「♪♪♪」
今のところウチのお姉様方の作る食事で良い思いのない俺は、どんな恐ろしいものが出てきても待ち構える所存だった。
「あの、葵さん手伝いましょうか?」
「構わぬ。
「今どきそんなどっちがお世話するかとかそういうのは」
「なんじゃ主様は男女平等がどうとか言うのか?」
「ま、まぁ、はい」
「男女が対等でいるというのはとても大切なことじゃが、それはあくまで一般論でありそれを強制される謂われはない。わっちは一緒になるのであれば主に仕える関係でいたい。それで時折功を労い愛でてくれればそれでいいのじゃ」
「それが葵さんの恋愛観という奴ですか?」
「恋愛観というより結婚観かもしれんな。母様が嬉しそうに父様に尽くす姿を見て、わっちもそうありたいと思った」
「なんか葵さんに甘やかされてたらダメ人間になりそうです」
「ククク、二人で甘く溶けていくのも良かろうて」
そう言って犬神さんはドンっとテーブルの上に大きな鍋を置く。
「食べなんし」
「あら、意外にもまともな……」
俺はぱっと見水炊きに見える鍋に驚いた。どうやら牡蠣鍋らしく沢山の牡蠣がぐつぐつと煮立っている。
「美味しそうだ。葵さん料理上手なんですね」
「この程度は嗜みじゃ」
「どっかのダークマター製造機に聞かせてやりたいですよ」
俺は美味しそうな牡蠣を小皿に移し、ポン酢でいただく。
「あぁ、ダシがなんか独特ですね。ちょっとカッカするような味で」
「唐辛子が入っておるからな」
「なるほど、でも別に辛すぎってわけでもなくて、丁度いい感じです」
「じゃろう」
「ええ、寒い季節には凄くいいですよ」
「そうじゃ、もっと食べなんし」
料理を褒められて嬉しかったのか、犬神さんの巫女服の下から出てきた狐の尻尾が右に左にフリンフリンと揺れる。
俺も完食する勢いで食べようと思い、鍋に箸を突っ込む。
「おっ、なんかおっきいのがありますね」
「それが良いダシが出る奴じゃ」
「なんだろう。鴨ダシとかかな?」
箸に引っかかったものを引っ張り上げると、それは大きな甲羅だった。
「…………葵さん、これは一体」
「すっぽんじゃ」
ニコニコ顔の犬神さん。
まさかと思い、俺は鍋を漁る。すると今度は細長いウナギのようなものが出てきた。
「ま、まさかこれは……」
「マムシじゃ。それも良いダシがでおる」
俺はこの鍋のテーマがわかってしまう。
「葵さんもしかして……他にマカとか鹿の角とか」
「よくわかったな。さすが主様じゃ」
ダメだこれ、精力マックス鍋だコレ。
あかん、このままでは本当に犬神さんとの子がデキてしまう。
「そ、その犬神さん、俺ちょっとお腹いっぱいになっちゃったんで外出ませんか?」
「外、構わぬが? まぁ初が野外というのも乙であろう」
「ごめんなさい返って来る答えが怖いんでツッコミませんよ」
俺と犬神さんは二人出雲の公園エリアへと出かける。
そこに光る四人分の瞳――
彼女達はようやく本当の敵が誰かを理解したのだった。
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新年あけましておめでとうございます。
今年も真面目にバカバカしいお話を書いていこうと思います。
新年からいきなり下ネタ多めなありんすを見捨てないで下さい。
どうぞ本年もよろしくお願いいたします。
カクヨムコン5に参加しております。
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『ヤンキーゲーム実況者はお嬢様のゲーム教師にされました』の新作も投稿しておりますので、そちらもあわせてよろしくお願いいたします。
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