第60話 多重運命交錯照準星Ⅰ

 星見小夜ほしみさよ。魔法支援兵科Bランク。

 彼女には変わった能力があった。それは他者の運命を見る占い能力。こと恋愛占いに関しては9割の的中率を誇る凄腕占い師だった。

 その恋占いは出雲でも評判で、彼女の部屋の前には恋を患った年頃の男女が列を成しているという。


 さて今日の御客はどのような運命をお持ちか――


「んー猿渡君、やっぱり何回占っても運命の人はいないわ」

「そんなー、まだ出会ってないだけですよね?」

「んー、わたしの占いは出会ってない人間も範疇に入ってるからリアルに運命の人がいないのかもね」

「夢も希望もない……」

「でも頑張って男を磨けば、運命は変わるかもしれないわ」

「星見先輩……」

「未来は自分の手で切り開きなさい。だから頑張……」

「オレとお付き合いしませんか?」

「わたしの運命とあなたの運命が交差したらね」

「ロマンティックゥゥ! オレ頑張ります!」


 猿渡はやる気を出して占い部屋を出ていく。


「毎度~……ほんと猿渡君ってば、毎週運命変わってないか聞きに来てくれるから、いいパトロンだわ」


 星見は猿渡から受け取った3000円占い料を指ではじく。


「あの、すみません。初めてなんですが……」


 そう言って一人の少年が部屋に入って来た。


「あら、雫ちゃんとこの」

「小鳥遊です。凄い格好ですね」


 小鳥遊は大きな目玉が描かれたローブを被り、口元にうっすらと透けるフェイスベールをつけた星見に驚く。


「あぁ雰囲気雰囲気。見た目それっぽい方がぽいでしょ?」

「はぁ、そうですね」

「ここのシステムは知ってる?」

「3000円で一回、こ、恋占いをしてもらえると」

「そういうこと。じゃあそこにかけて」


 小鳥遊は水晶の置かれたテーブル前にある椅子に腰かけると、星見と対面になった。


「あたし恋愛占いしかできないけど、それでいいんだよね?」

「は、はい」

「まぁそんな緊張しなさんなって。楽に楽~にね」


 星見は割かしサバサバした姐御肌をしているので、わりかしファンは多い。

 猿渡が毎週通っているのは運命を聞くだけでなく、星見に会いたいという下心があるからだった。

 彼女は水晶の周囲に円形になるようにタロットカードを配置する。


「それじゃあ行くわよ。アブラカタブラ~」

「随分アラビアンな占いなんですね」

「あっ、ごめん呪文は適当」

「…………」


 小鳥遊はこの人かなりいい加減なのでは? と思い始めていた。


「小鳥遊君の運命の相手が見え……見え……あれ?」

「どうかしました?」

「おかしいな……なんにも映らない」


 星見は水晶を見やるが、水晶には黒い靄がかかっていてよく見えない。


「それは運命の相手がいないということですか?」

「いやー、それとはちょっと違う色してるかなー」

「色ですか?」

「そう、運命の相手がいないなら水晶は無色透明なのよね。でもこれなんか黒い霧がかかってるみたいでしょ?」

「確かに」

「それでこの黒い霧の中に、時たま黄色い光とか赤い光とか見えるでしょ? 雷雲みたいな感じでピカピカって」

「そうですね」

「これ多分運命の相手なのよ」

「運命の相手ってそんないろんな色に光るものなんですか?」

「いんにゃ、普通は一色よ。もしかしたらだけど多重運命交錯照準星マルチプルラインロックスターかもしれない」

「な、なんですかそれ? ま、マルチ?」

「別名ギャルゲ野郎って占い師の中では呼んでるんだけど。複数の運命があなたの運命をとりあって、運命人が決定しない極めて珍しいケースなの」

「はぁ……」

「まぁぶっちゃけちゃうと、あんたちょっとは自覚あるでしょ?」

「す、少しだけ……。その、それをはっきりさせたくて」

「現状じゃなんとも言えないけど。そうだ自覚あるならこれ、いる?」


 星見は赤と青のハート型のシールを取り出す。シールは色以外に差はない。


「相手との運命の繋がりを強める赤のラブシールと、逆に弱くする青のブレイクシール」

「なるほど、好きになってもらえるシールと嫌いになるシールですね」

「まあそういうこと。もし小鳥遊君が運命の相手が誰かわかっていて、その人と関係を強めたいならこの赤のシールを使って。逆にストーカーみたいに困ってるならこの青のシールを」

「こ、このシールでそんなことが……」

「あら、なんか信じてないって顔してるわね」

「いや、ごめんなさい。あんまり占いとか当たった記憶がなくてですね」

「そう? じゃあこれ1枚1万円なんだけど、買ってくれたら良い恋愛運気ポイント教えてあげる」



「買ってしまった」


 俺の手にあるのは赤のハートの形をしたシール。その名をラブシール。正直星見先輩に乗せられた感が半端じゃない。

 あの人占い師と言うより商人としての才がある気がする。

 このシールを相手に貼ると、貼った相手が自分のことを好きになってくれるらしい。


「ほんとにぃ?」


 買っておいてなんだが、眉唾だと思っている。

 星見先輩が「グラウンドの端で、北側を向いてなさい。そこにいると恋愛運気が上昇するわ」と言っていたので、言われた通り俺はスポーツグラウンドの端で突っ立っていた。

 すると犬神さんと雫さんが、グラウンドを並んで横切っていくのが見えた。

何の気なしに彼女たちの方向を見ていたが、突然突風が吹いた。


「「キャッ!!」」


 悲鳴とともに、彼女たちのスカートが捲くれ上がり、 青と紫のスケベな下着がちょうど俺の方に見えた。


「ほ、本物や……あの人の力は本物なんや……。教祖様やで!」


 一瞬で俺は星見先輩の信者になってしまった。


「となるとこのシール、誰に貼るべきか」


 シールを気づかれないように貼り、相手が24時間そのシールを貼り続ければ俺のことを好きになってくれるらしい。


「輝刃か、雫さんか、エクレ、ルイス、白兎さん、犬神さん。悩むなぁ」



 その頃――


 星見の前に、マスクとサングラスをかけた金髪ツインテの少女の姿があった。


「あの……運命の相手を占ってもらえると聞いてきたんですが」

「あなたは 龍宮寺さん、姉の方ね」

「しーっ!」

「あら、別に個人情報はもらさないわよ」

「そ、そうですか」


 輝刃は星見の前の椅子に腰かける。


「別にあなたは占わなくても、自分から運命を引き寄せられる人じゃない?」

「いや、そのなんと言うか、ままならないと言うか。引き寄せたら取り返されるを繰り返して延々終わらない綱引きをしているというか」

「じゃあ一応運命の相手調べときましょうか?」

「お、お願いします」


 星見は小鳥遊に行ったのと同様の占いを行う。


「見えてきたわ、あなたの運命の相手が。相手はとてもかっこいいわ。俳優みたいよ」


 その時点で輝刃は首をかしげた。


「あの他に特徴は?」

「背が高くて、金運も高くて、知性的で、誰もが羨むお似合いのカップルになるわ。あなたにちょうど釣り合いのとれた人物ね」

「いや、多分それ違う人ですね」

「え?」

「いや、それは私の運命の人じゃないですね」

「運命の人よ。かなりはっきり見えているわ」

「いえ違います」

「違わないわ」

「いいえ違います。多分なんですけど私と同い年だと思うんですよ」

「違うわ、二つ年上よ。とても包容力があって、美しいアメジストのような光を放つ男性ね。ガーネットのような光を放つあなたとお似合いよ」

「あ、やっぱ違いますね。多分もうちょっと冴えない感じだと思うんで。たぶん光ってもない泥岩みたいな色してると思います」

「あなた自分の運命のわりに無茶苦茶言うわね……。ともかく占うことは占ったわよ?」

「あの、その運命って変えられないんですか?」

「できなくはないけど、並大抵の努力じゃ無理よ。わたしの占い的中率は高くて、あなたは近くこの運命の人に引き寄せられると思う」

「何か方法ないですか?」

「本当は面白い客、じゃなくて常連にしか出さないんだけど、ラブシールっていうのがあるの」


(効果説明中)


「という感じよ」

「そのシールあるだけ全部下さい」

「そんないっぱい好きな人いるの!?」

「いえ、全部同じ奴に貼ります」

「残念だけどこれは一人一枚しか効果がないわ。いくつ貼っても同じよ」

「じゃあ一枚ください!」

「まいど~」


 輝夜がラブシールをもらって、足早に去っていくと、それと入れ替わりで白衣の少女が部屋に入ってきた


「あのすみません、ここで運命占いをしていただけると聞いたのですが」

「ええ、 あなたは龍宮寺さんの妹さんね」

「はい、どうして笑ってるんですか?」

「ちょっとね、さっきのお客さんが面白くて。運命占いでいいのよね?」

「はい、お願いします」


 再び水晶がぼんやりと光りだす。


「あなたの運命の相手は、そうねまだ出会って――」

「出会ってると思います」

「出会ってないわ」

「多分それ違う人ですね」

「…………」


 星見が姉妹揃って同じこと言うなと思っているのは言うまでもない。


「あの会ってる人限定で占うってできないんですか? できれば一つ年上で機械工作兵科の方限定で」

「これ運命占いだから、そういうマッチングアプリみたいなんじゃないから」

「そうですか……。あの運命って変えられるんです、か?」

「まあ変えられるけど、並みの努力じゃ無理よ」

「そうなんですか、何か方法ってないんでしょうか」

「ラブシールって言うのがあるんだけど、それを使うと(以下略)」

「すごいですね。えっとおいくらなんですか?」

「そうね、だいぶ少なくなってきちゃったから」


 星見は指を2本立てる。


「2億ですが……それくらいなら」

「億!?」

「億超えると、会社の承認とかがいるんで」

「シールが利かなかったら命狙われそうだから1万円でいいわ」

「いいんですか?」

「持って行って」

「ありがとうございます!」


 また彼女と入れ替わりに二人の女性が入ってきた。


「あのーここで運命占いをしてもらえるって聞いたんだけど。ここでいいかな?」

「あっ雫ちゃんと犬先輩」

「犬先輩言いなんし」

「葵ちゃんには付き添ってもらってるだけなんだけど、せっかくだから一緒に占ってもらって大丈夫?」

「構わないわ」

「わっちも陰陽術で占いの真似事をすることもある。参考にさせてもらうぞ」


 星見は占いを開始すると、まず雫の運命の相手を占った。


「雫ちゃんの運命の相手は 、年下で、機械の扱いに長け、 可愛い一面のある」

「うん、それでそれで♪」

「つい手助けしてしまいたくなる男性でしょう」

「なるほどなるほど♪」

「その人は身近な存在かもしれません」

「当たってるー♪」

「ただ、この男は変な女性にモテる傾向にあります。なのでこのままいくと数々の浮気を繰り返し、あなたは愛人の一人にされてしまうことでしょう」

「あ、当たってるかも……」

「そんな雫ちゃんに朗報。もしこのクズ男と出会ってしまった時、ブレイクシールと言うこの青いシールを相手に貼りましょう。そうすれば相手と自分の運命を離すことができるわ」

「ありがとう、でもいらないわ。最終的に私の元に戻ってきてくれればそれでいいから……」

「ダメよ雫ちゃん、こんなクズと別れよう!」

「いいの愛人でも二号でも、一緒にいられるなら。それよりその運命の相手と私を深くくっつけることってできないかしら? そうすれば私を見てくれて浮気が減る……かも?」

「あるにはあるけど、こいつかなりクズよ?」

「いいのそれでも」


 星見は遠い目をした雫にラブシールを手渡す。


「雫ちゃん、運命は変えられるからね! 運命人は一人じゃないから!」

「良いの、運命の人がユウ君ってだけで、私は幸せだから……」


「じゃあ次は犬先輩を占うわね」

「頼む」


 星見は続けて占いを行う。


「見えたわ。犬先輩の運命の相手は年下で、冴えなくて、ちょっとクズで、でも頑張り屋で、とても幸せな家庭を築ける人よ。あれ、なんかさっきの奴と似てる気がする 」

「……………(怨嗟の目)」

「雫目が怖い。わっちのせいじゃない」

「なんで私は愛人で葵ちゃんは幸せな家庭なの……」

「し、知らん! お主がダメンズ製造機じゃからじゃろう!」

「この運命はかなりはっきりしてるわ。おそらく前世から結ばれていた可能性もあるわね」

「人違いじゃ!」

「いいえ間違いないわ。犬先輩の身近な存在で、もう出会ってるわね」

「知らん!」

「おそらく、この運命は何千回切り裂かれたとしても元に戻るくらい強力な運命よ。さらに子宝に恵まれ、犬先輩は彼の子供を10人出産するって出てるわ」

「「呪い生きてるー」」


 そのことを聞き、雫は心底不安そうな目で犬神を見やる。


「葵ちゃん」

「そんな目でこっちを見なんし。人違いじゃ」

「いいえ人違いなんかじゃない。これだけはっきり見えるのは数年に一度あるかないかよ」

「お前も余計な事を言うな! おいさっきのブレイクシールわっちによこしなんし!」

「構わないけど、これだけはっきりした運命だとシールを貼っても効果はないと思う」

「いやじゃいやじゃいやじゃ! わっちの運命の相手があんな男とは思いとーない!」

「私は常々運命は変えられるって言ってるけど、この運命だけはおそらく変えようがないわ。運命の赤い糸レッドプロミネンスと言っても過言じゃないわね」

「そんな絶望的なことを言うな!」


 雫はラブシールをもらい、犬神はブレイクシールを貰って星見の占い所を後にした。


「いやぁ、今日は売り上げがいいなぁ」

「あの……占いを……」

「いらっしゃーい。どうぞどうぞ、兎ちゃん」


 星見、本日大繁盛であった。





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