第54話 出雲学園祭Ⅳ

 売上ランキング一位のメイド喫茶が、まさかのぼったくりからの営業停止で波乱が起きた出雲学園祭。

 くじ入りお茶でジャブジャブお金を使った男子生徒たちが、猿渡に対して集団起訴を起こそうとしたらしい。

 しかし大巳先輩が、猿渡の程度の低い罠にひっかかた己の無能を晒しても良い奴だけ起訴しなさいと言うと、全員猿渡にしてやられたというのはプライドか許さなかったのか起訴を取り下げた。


 時刻は午後7時――日の沈みも早くなり、出雲から見える空には星が瞬き始めていた。

 学園祭の模擬店は6時をもって全店営業終了、既にランキングの集計に入っている。

 出雲のスポーツエリアにある運動トラックでは、【わたしは詐欺をしました】と書かれたプレートを胸に下げた猿渡が十字架に張り付けにされ、その下にキャンプファイヤーが焚かれている。

 火あぶりにされている罪人の周りを、生徒たちが定番のBGMと共に楽しそうにフォークダンスを踊っている。

 和やかなんだか宗教染みてるんだかよくわからん光景だ。


「しかし疲れたな……こう波乱が多くては身が持たん」

「あたしは何があったらそんな格好になるのか聞きたいわ」


 輝刃はメイド服姿の俺を見て呆れた息を吐く。

 俺も結局あの後大巳先輩に捕まって指導されるハメになったのだが、一応主犯が既に制裁を受けているので、メイド服で奉仕活動をすることで恩赦を受けることができた。

 学祭が終わるまでメイド服でゴミ拾いや他の模擬店の手伝いをしていると、下級生、上級生問わずクスクスと笑われてしまう。恥ずかしさのあまり新たな性癖が開花しそうになって困った。

 その後こうして運動トラックの脇で、体育座りをしながら後夜祭を眺めている次第だ。


「猿渡君も大概だけど、あんたも酷い制裁受けてるわよ」

「せやろか。はりつけ火あぶりよりマシだと思ってるんだが」

「精神的制裁か、肉体的制裁ね。ってかあれは大丈夫なの、半分燃えてるんだけど?」

「指導だからな」


 大巳先輩含む執行部が使える便利な言葉。

 その時パシャッとシャッター音がする。反射的に振り返ると、エクレが笑顔で腕時計型電子情報端末RFのカメラを構えていた。

 彼女レイヴンになったからRFが支給されたんだな。


「メイド服良いですね。あると思います」

「お願いだからその写真消してね?」


 さもないと社会的に死んでしまう。


「わかりました。わたしのSNSに上げてから消します」

「それ絶対やっちゃダメな奴だよ? ネットの海に流した黒歴史はどんなことしても消えないんだよ?」

「炎上怖いですよね」


 写真ライター片手に怖いこと言わないでほしい。


「というかわたし達もくじ入りお茶販売に加担したわけですが、お咎めなしだったんですけど」

「主犯と共犯が捕まってるからね。従業員に罪はないよ」

「100%あんたと猿渡君、大巳先輩のブラックリストに入ってるでしょ……」


 しかし最後までバタバタしたまま今年の学園祭も終わりか。忙しかった分、凄く早く感じたな。

 軽く感傷にひたっていると、ウチの姉様方とルイスたちがメイド服とカウガール衣装のまま俺の前までやって来る。

 彼女達は俺が奉仕活動をしている間、他の模擬店を見て学園祭を楽しんでもらっていた。

 

「ユウ君、搾られるのお疲れ様」

「自業自得じゃな」

「全くでもってその通りです。せっかくルイス達に手伝ってもらったのに、あんなことになって申し訳ないです」

「面白かったから許すわ!」


 フランクフルトと綿菓子を持って、全力で学園祭を楽しんでいるルイスたち留学生。

 彼女たちが楽しければなんでもいいというマインドで助かる。


「今年は一層賑やかだったわね」

「……ウェイトレスとか……初めての経験」

「まぁ結果は残念だったけど、仕方ないわね」

「あんたのせいで変な爪痕残すことになったじゃない」


 雫さんや輝刃たちが学園祭を振り返っていると、出雲の学祭売上ランキングが艦内放送で発表される。1位は戦国先輩の【秘宝館:出雲女子青春記録】らしい。

 あれ絶対盗撮写真売ってるだけだろ。

 後々優勝取り消しとかになりそうな内容である。

 ちなみに優勝賞品は最新のゲーム機だとかで、普通に欲しいものだった。


「っと、小鳥遊さんどうかしました? 何か元気ないですけど」

「いや、今年は店が忙しくて、他の店舗見て回れなかったなって思っただけだよ」


 そこだけが若干心残りではあるが、まぁメイド喫茶で働くのも楽しかったし良しとしよう。


「あっ、そっか、あんただけ休憩とか行ってないもんね」

「ご、ごめんねユウ君……ご飯も食べてないよね?」

「いや、全然謝らなくていいよ」


 全て身から出た錆である。


「どこか今からでも入れるお店ってないですかね……」


 あのキャンプファイア猿渡が燃え尽きたら学園祭は終わりなので、さすがにもう開いてるところはないと思う。


「また来年があるからね」

「む~ミーに良い考えがあるわ!」


 そう言ってルイスは俺たち全員を連れて、メイド喫茶ウェスタンへと戻った。

 営業停止をくらった西部劇風喫茶店には当然誰もおらず、ガランとして寂しい空気が漂っており、祭りの終わりを感じる。

 俺は店の前でそのまま待ってろと言われたので、服を着替えながらしばらく待つことに。


「OK、ボーイ! 入って来ていいわよ!」


 そう言われて俺が中へと入ると、メイドとカウガールが列を作り、出迎えをしてくれる。


「「「Welcome to WesternCafe!」」」


 全員が声を揃えたことに驚く。


「本日はご主人様の貸し切りとなっております。席へご案内しますね」


 俺はエクレと輝刃に両腕をとられて席まで案内される。


「御主人様、メニューはこちらです」

「お、おう」


 メニューにはメイド料理フルコースと書かれてる。


「じゃ、じゃあフルコースで」

「フルコースオーダーでーす!」

「「「はーい」」」


 メイドたちが引っ込むと、しばらくして自分の作った料理を持って厨房から出てきた。


「ハ~イ、ミーたちの愛情バーガーよ!」


 ギャラクシーオービットのメンバーが作った、隕石メテオをイメージしたハンバーガー。相変わらず素材はチキンナゲットやビーフなどの肉主体。


「はーい、ユウ君の大好きなカレーですよ~」


 雫さん特製ビーフカレー200%美味い。


「フルーツ……切って来た」


 ドラゴンの形にカットされたフルーツ盛り合わせ。刃物を扱わせたら世界一とも呼べる白兎さん匠の技。


「わっちだけ料理できんと思われるのも癪じゃから作ってやった。感謝せい」


 犬神さん特製の白玉ぜんざい。疲れた体に甘い香りが染みる。


「はい、小鳥遊さんじゃなかった、御主人様の為に作った特製オムライスですよ」


 エクレ特製おえかきオムライス。本来はケチャップで猫が描かれているのだが、薄焼き卵の上に描かれているのはハートマークだった。見た目だけは100点だが、多分味ないんだろうな。


「はい御主人様、愛情たっぷりのラブランチよ。残さず食べてね。っていうか食えよ」


 オチ担当の輝刃が取り出すダークマター(以下説明略)


「食材残ってた?」

「他の飲食店をやってたグループから余りを貰ってきたわ」

「なるほど」


 俺は皆の料理に手をつける。初めに隕石バーガーを食ってみると、肉だらけで胃に重そうに見えるが意外とガツガツいけて美味い。

 雫さんのカレーはもう何も言わなくてもいい。俺の舌を知り尽くした母の味と言う感じだ。

 白兎さんのドラゴンフルーツは食べるのが勿体ないが、せっかく作ってくれたので竜の頭からまるかじりする。

 デザートに犬神さんのぜんざいをいただく。甘さ控えめ、白玉モチモチ美味也。

 さて残りは……。

 龍宮寺姉妹がズイっと皿を俺に寄せる。


「はい、召し上がって下さい御主人様。それとも先輩の方がいいですか?」

「お、おう」


 比較的被害が少なそうなエクレのオムライスに口をつける。


「あっ……ケチャップの味がする」


 何を当たり前のことを言ってるんだと思われるかもしれないが、エクレの料理は基本味がしない。全ての食材の味と味がぶつりかりあい、味が消滅するという奇跡の料理なのだ。

 それに味がついていることに驚く。


「わたしだってやればできますから」

「凄いよエクレ! 感動した」

「ケ、ケチャップなんてそんなのさじ加減一つでしょ!」


 妹のオムライスが褒められて嫉妬する輝刃


「えっと姉さんそれなんでしたっけ? 毒沼ですか?」

「ラブランチ! ラブランチよ! なんでメイド喫茶で毒沼出てくんのよ!」

「姉さんの妄念にも似た異常な愛情が表現されてると思います」

「あんた喧嘩売ってんの!?」


 ダメだぞエクレ。本当のことを言われると人は怒るんだからな。

 俺は毒沼じゃなくて輝刃のラブランチの皿を手に取る。

 あーこら凄い、なんか紫のガス出てる。どうやったらこんなことになるんだろ。見てるだけでHPゴリゴリ減っていきそう。


「べ、別に嫌なら食べなくていいわよ。どうせ他の皆のに比べたらあたしの下手だし……ダークマターだし、毒沼だし」


 涙目になんなよ。可愛い奴だな。

 俺はラブランチを一気にかきこむ。

 おぉおぉ口の中で核融合おきてら。


「うん、悪くない」

「む、無理しなくても……」

「いや、良かった。美味かったよ」


 俺もラブランチ美味いって言ってた下級生バカにできんな。

 輝刃は「そ、そう……無理しちゃって」と嬉しそうに頬を赤くする。

 美味しく全ての料理を完食すると、エクレが悪戯猫のような瞳でこちらを見ていた。


「どうかした?」

「小鳥遊さん、どうですこのくじ入りお茶、今ならタダですよ」


 彼女が取り出したのは、我が喫茶店を営業停止に追い込んだくじ入りお茶である。


「な、なにが書いてあるの?」

「それはもう、勿論楽しいことですよ」


 俺はくじ入りお茶を受け取り、くじを開いてみる。

 すると中から【Westernメイドチケット】と書かれた、可愛らしいメイドさんのイラスト付きチケットが出てきた。


「これは……」

「この場にいるメイドさんに一つだけなんでも命令できちゃう凄いチケットですよ」

「それって」

「出雲チケットは貰えなかったけど、これならあたし達であげることができるから」

「ユウ君の頑張ったで賞ね」

「ミーたちのセンキューの気持ちも入ってるわよ!」

「あ、ありがとう」


 いや、これはもう実質出雲チケットと言っても過言ではないだろう。


「さっ、何を命令しますか?」

「「「御主人様」」」


 クスクスと楽し気な笑みを漏らすメイド&カウガール。


「そうだね……とりあえず………………胃薬かな」


 俺はうなりを上げる腹と共にその場にバタンと倒れた。ダイイングメッセージにデスランチと残す。




 出雲学園祭             了

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