第43話 ラブ&ジョーズ
時間は夕暮れ、浜辺にはキャンプファイアーが設置されており、イベントも終盤ムードが漂っている。
運営が本日最後になる宝さがしゲームの説明を行う。
「これより地図を配布します。その地図には全部で10カ所の印が付いていますが、そのうち星が埋まっているのは3カ所だけです。外れはこちらの花火セットと交換になります」
「おぉいいじゃないか。花火やりたいな」
「主旨が変わってるでしょ」
輝刃にドンと肘で突かれる。そうだ、エクレペアに勝つにはここで一山当てるしかないのだ。
各ペア×印が記入された地図を見て、どこを狙いに行くか相談に入る。
「こういうのって大概一番奥にある奴だよな」
「宝さがしの鉄則ね」
地図に記された宝の在処は浜辺を中心に分布しているが、三カ所だけ島の中心辺りにある。
俺も輝刃もこの三つのうちのどれかに当たりがありそうだと狙いをつけた。
「とりあえず早く行って探しましょ。運が良ければ二つは確保できるわ!」
「よし、急ごう」
しかし、それから約1時間後――
参加者は再び浜に戻って来ていた。はじまる前から怪しかった天気がゲーム開始と同時に崩れ、今ではゴロゴロと雷の音を鳴らしながら小雨がサーっと降り注いでいる。
そのせいで島の中は、暗いわ滑るわ寒いわで宝探しどころではなくなってしまったのだ。
「一応二つ確保できたけど」
俺と輝刃は一時間で目当ての宝箱二つを確保したが、中身はどちらもハズレのカードが入っていた。
宝さがしの鉄則とは一体なんだったのか。
運営から花火セットを二つ貰いつつ、がっくりと肩を落とす。
「残念ね。私達もハズレだったわ」
「この天気じゃ……花火もできない」
どうやら雫さんペアもダメだったらしい。
「拙者らは星2個の当たりだったでゴザル」
「これで星5個になったぜ。ピンキーちゃん(地下アイドル)のグッズと、戦国先輩が欲しがってる織田信長フィギュア両方が確保できる」
猿渡と戦国先輩はようやく目的を達したとホクホク顔だ。
当たりは猿渡たちだけかと思っていると、一人黄色い声をあげる少女がいた。
「やったー☆ しほるんの宝箱、星3個入ってた!」
なぬ? ってことはしほるんペア星8個で雫さんペアを抜いて一位か?
大喜びするしほるん。勿論その様子をカメラマンが撮影している。
最後に逆転するのがまさか彼女とは。
「凄いでゴザルな。その箱どこにあった物でゴザルか?」
「え? えぇ……っと島の真ん中にあったよ☆」
ん? 島の真ん中? 俺は違和感を覚え、話に割って入る。
「ちょっと待ってくれ。島の中心にあった奴は俺たちがとったぞ?」
「えっ? じゃあこっちのかな?☆」
しほるんが地図を指すが、それも俺たちがとった奴だ。
輝刃もきな臭さを感じて詰め寄る。
「それもあたしたちがとった奴よ」
「えぇ? じゃあこれだったかな?」
どんどん島の中心から外れ、証言があやふやになっていくしほるん。
「それ僕たちがとった奴……」
「えぇ~? しほるんよくわかんなくなっちゃった☆ どれでもいいじゃん☆」
最終的には説明を投げた彼女に、全員が懐疑的な視線を向ける。
そんな場にルイスが遅れて戻って来た。
そうだしほるんの星の数より、エクレたちが星を獲得できたかの方が重要だった。
しかし血相をかえ、慌てて帰ってきた彼女はこの場にいる全員を確認する。
「どうしたのルイス?」
「エクレアが見つからないの! ここに帰って来てない!?」
「いや、帰って来てないけど」
「島の中で宝探しをしている最中、どこに行ったかわからなくなったの!」
確かに俺と輝刃も島の中でルイス達に出合っていた。あれからはぐれたということだろうか?
「少し用があるからって分かれた後戻ってこなくて。おかしいと思って探したけど見つからないの!」
「まずいわね。あの子どこかで滑ってケガでもしたんじゃない」
この島変に崖とか溝とか多いからな。滑落して身動きがとれない状態になってたら最悪だ。
「とにかく全員で探そう!」
運営にも話を通すと、参加者、スタッフ全員で親島を捜索することになった。
だが、木々が鬱蒼と生い茂る暗い森の中、いくら探してもエクレの姿は見つからない。
「エクレー!」
「エクレアー!」
「ちょっとあんたどこにいるのよ!」
「えくれあ殿ー!」
「こっちにはいないよー☆」
「エクレアちゃーん!」
「どこだー! 返事してくれー!」
俺達の心配とは裏腹に、雨は次第に強さを増しスコールとなっていた。
ズドドドと、バケツの水をひっくり返したような豪雨が降り注ぐ。
視界も0に近く、雨が葉っぱを打つ音がうるさくて、大声を出しても全然声が通らない。
これじゃ俺たちの声もエクレの声も拾えないだろう。
「エクレー! どこにいるの!」
「エクレアー!」
「み、皆ー☆ こっち来てー!」
しほるんに呼ばれ、全員が浜の岩場付近に集まる。
するとビーチサンダルを持ったしほるんが深刻な表情をしていた。
「これ……あの子のじゃない?☆」
ルイスはサンダルを確認すると、オーマイガッと小さくこぼし膝から崩れた。
悪天候により岩場には激しさを増した、高い波が打ち付けている。この近くにいると波に足をとられ、そのまま海に引きずり込まれてもおかしくないと思えるほどだ。
「龍宮寺、エクレって泳げるのか?」
「平泳ぎくらいなら……あの子バタ足すると3秒でバテるから……」
それは体力なさすぎでは?
つまり荒れた海に飲み込まれたら、もう帰ってこれないってことだ。多分俺もこれだけ荒れてたら、まともに泳ぐことはできないだろう。
白い閃光が輝いた直後、ガラガラピシャッと雷鳴が轟き、近くで雷が落ちる。
絶望的な空気に誰もが黙り込むしかない。
その上――
「おい……あれなんだ?」
猿渡が暗い海の中、不自然に動く三角の背びれを見つける。
波の影響を全く受けていないその不気味な背びれは、海原を滑るようにして泳ぐ。
「……サメだ。それもバカでかい……」
輝刃が昨日見たと言っていた奴と同じものかもしれない。
悪天候、砂浜に残されたビーチサンダル、激しい波、サメとか最低すぎるコンボだ。
あまりの豪雨から、運営が拡声器を使って捜索の中止を促す。
「これ以上の捜索は二次遭難に繋がりますので、参加者の皆様は各自テントへお戻りください! また現在クルーザーを出すのが困難になっています。子島でサバイバルをされていた参加者につきましては、無償でテントを貸し出しますので親島にて待機してください!」
そりゃあんなバカでかいサメがいたら船は出せないだろう。体当たりされたら終わりだ。
「……ミーの責任よ。探してくるわ!」
そう言って海へダイブしようとするルイスを全員で止める。
「ダメだ、こんな暗い海に入っても絶対見つからない!」
「サメもいるでゴザル!」
皆言いたくはないが、最悪奴の腹の中という可能性もあるのだ。
「離して、ミーが行かないと!」
「落ち着きなさい、死にたいの!?」
「無茶しないで!」
「……冷静に」
ルイスは全員に止められると、声を震わせて泣き崩れた。
全員が一旦各々テントへと戻り、子島でサバイバルをしていたしほるん達は運営の用意したテントへと入る。
この雨がやんでくれなければ島内の捜索はできないだろう。
運営数人はまだ探しているようだが、多分この状況で見つけるのは難しいだろう。
一応俺と輝刃も貸してもらったテントを組み上げたが、中には入らず島の中を見やる。
「さてレイヴンの出番だな」
「ええ、行きましょう」
輝刃が俺に並んできたので、俺は肩を掴んでテントへと押し返した。
「ちょっ、何すんのよ?」
「お前さっき滑って足打っただろ」
こいつエクレを探してる最中、ぬかるんだ泥に足をとられて転倒したのだ。痛そうと思ってたが、案の定くるぶし辺りが腫れている。折れてはないと思うが、捻挫くらいしてるだろう。
「お前はここで待ってろ」
「嫌、あたしも行くわよ」
「その足でぬかるんだ斜面を上り下りできんだろう」
「できるわ」
足引きずってるくせによく言う。
「残ってろ。っていうか残れ」
「命令しないで」
「命令じゃない」
「じゃあ何よ」
「頼んでる。俺が絶対連れ帰るから待ってろ。絶対だ」
彼女の目を見て力強く言う。
「…………ごめん感情的だった」
「妹のことだ、そりゃ感情的にもなるだろ。悪いが龍宮寺、お前は家で見合いを受けてもらう」
「?」
俺はクルーザーに戻り、保管されていた自分の
「レイヴンの力を使って捜索する」
この島のルールではレイヴンの力を使うと失格となる。せっかく上位に食い込んでいるところだが、この状況でそんなことは言ってられない。
そう言うと輝刃は運営の元へ行き、何か道具を持って俺の元へと帰って来た。
「これ、持っていって」
輝刃から手渡されたのは懐中電灯とロープ、携帯食料、サバイバルナイフ、それに医療キットだった。全て運営が用意したもので、使うことはないだろうと思っていたサバイバル用品。
「リタイアするからくれって言ったらくれたわ。星は全部回収されちゃったけど」
「そうか。お前はいい姉ちゃんだよ」
勝負を捨てて妹を助けることを選んだんだから。
「ごめんね、付き合わせたのに……」
「気にすんな。お前が悪いわけじゃない」
俺はRFを身に着け、懐中電灯を点灯させる。
「じゃあ頑張って探しましょうか」
「うん……」
雫さんと白兎さんが俺達の後ろに立つ。
振り返ると、彼女達も星と交換してきたのか、俺達と同じセットを持っていた。
「いいの?」
「勿論よ」
「……有事の為のレイヴン」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
俺と輝刃は深く頭を下げる。
「よし、探しに行こう」
「ええ」
「僕たちは……海側を重点的に探す」
「了解。俺は島の中を探すよ」
探しに出ようとすると、今度はルイスがその前に立ちふさがる。
「ミーも行くわ」
「大丈夫? 凄く気負ってるけど」
「絶対絶対ミーがエクレアを探し出すわ!」
力強く言うが、逆に危うさも感じる。彼女がエクレに対して責任を感じてしまうのは当然とも言えるだろうが、無茶しないかと心配になる。
しかしこの様子だと、多分止めたところで無駄だろう。
「無理しないように」
「イエス」
俺たちは大雨の降る中、エクレの捜索を再開する。
◇
「…………よいでゴザルか。龍宮寺、牛若ペアは勝負を捨ててえくれあ殿の捜索に行ったでゴザルが」
「……いいのかって、オレたちせっかく賞品ゲットできるとこまで行ったんすよ。牛若先輩と御剣先輩が動いたならオレたちがいなくたって」
「拙者らレイヴン諜報支援兵科は強襲、機械工作兵科より捜索能力に優れているでゴザル」
「…………牛若先輩は諜報でしょう。オレたちより何倍も優れた」
「一刻を争う事態であれば、一人より三人いた方がよいのは自明の理でゴザろう」
戦国がチクチクと責めると、猿渡は「あーもう!」と頭をかきむしる。
「…………わかった、わかりましたよ! 行きますよ! 畜生、悠悟の奴に後で賠償請求してやるからな覚えてろ!」
「うむ、いくら大事なグッズであろうと人命優先。拙者らは別の形でアプローチしていくでゴザル」
戦国は大きく頷くと、猿渡と共にエクレールを最後に見たものが誰かを探す方向で捜索を開始する。
出雲レイヴンズ総動員の救助活動が開始された。
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