第42話 スイカ割り

 騎馬戦の後、一番大きい貝殻探してきたペアが勝ち選手権や、棒倒しなどヒューマンスペックがあまり関係ない良いゲームが続いた。

 そして今現在海の定番的ゲーム、スイカ割りをしている最中だった。


「右右、ユウ君もっと右よ!」

「行き過ぎでゴザル、後ろでゴザルよ」

「反対反対☆」

「悠悟、もっと後ろだ。そのまま海に沈め!」

「もっとライトよ!」

「小鳥遊さん頑張って!」


 目隠しをしてバットを持った俺に、ランダムで選ばれた6人の参加者が、嘘、本当の入り混じったアドバイスをしてくる。

 この中で正確なアドバイスをしている人が二人だけいるらしく、それを頼りにスイカを割るというゲームだ。ちなみにペアの輝刃はアドバイス不可。

 俺はさっきから同じアドバイスをしている人を集中して聞きながら、砂浜をゆっくりとすり足で歩いていく。


「ユウ君そこよ!」

「そこじゃないでゴザル! もっと右右!」

「GOGO! Crack!」

「頼むから死んでくれよ悠悟!」


 一人だけスイカ割り関係なく、切実に俺の死を望んでる奴がいるな。


「どりゃああ!」


 俺が位置を決めてバットを振り下ろすと、見事にスイカをとらえビチャッと真っ赤な汁と種が飛び散る。


「よ~し」

「おめでとうございます。星とスイカをプレゼントします」


 スイカ割りに成功すると、運営から星と潰れたスイカを貰う。

 俺は割れたスイカを輝刃や雫さん達に配っていく。


「センキュー!」

「ルイスと雫さんが本当のこと言ってたよね?」

「oh、バレてしまいました」


 本当の事を言う人は運営が決めるのだが、別にスイカを割っても割れなくても他の参加者にはデメリットがないからな。純粋にスイカ割りができて楽しかった。

 次は猿渡がやるようで、目隠しをつけバットを手に持ちながらグルグルと回転する。

 運営が俺の元にやってきて「本当のアドバイスをして下さい」と耳打ちしてきた。

 俺はスイカと猿渡の位置を見ながら正確な方向を伝える。


「まっすぐまっすぐだぞー」

「左左」

「斜め右ー☆」

「ライトライト!」

「聞こえる、聞こえるぜ。オレのことを真に応援する水着ギャルの声が!」


 ギャルとは一体誰のことなのか。

 ちなみに本当のことを言ってるのは俺ともう一人、髪が寂しくなったオタクオジサンだ。

 猿渡はフラフラとした足取りで、砂浜を突き進んでいく。

 あぁダメだ、俺のアドバイスとは真逆の方向に行ってしまった。

 あいつ男の意見全く聞く気ねぇな。


「猿渡もっと右だー反対だぞ!」

「そこそこ☆ 振っちゃっていいよー!」

「ここだ間違いない! オレの心眼をなめるなよ!」


 猿渡はしほるんの声を本当だと思ったのか、何もないところでバットを振りかぶる。

 間違いしかない心眼なのだが、多分あいつには見えないスイカが見えているのだろう。


「イエース、そのままよ~。あっ! oh、ノー」


 隣で声を出していたルイスが、白熱しすぎてスイカを砂浜に落とす。

 スイカは白い砂まみれになってしまい、もう食べられそうにない。


「ミーのウォーターメロン……」

「食べる?」


 残念そうにしているルイスに、俺は自分のスイカを半分に割って差し出す。

 口を付けてない場所なので、抵抗がなければ食えると思う。


「oh、センキューボーイ!」

 

 そう言ってぐっと胸を顔に押し付けてくるルイス。

 Gアメリア流スキンシップが凄い。まさしくスイカップ。USA! USA! と連呼したくなってしまう。

 けど、視界の端に輝刃がバスケットボールみたいなヤシの実を指先で回転させているのが見えて、あっ多分あれは俺の顔面に飛んでくるんだろうなとエスパー的未来予知を行う。


「ルイス、ヤシの実汁を浴びたくなかったら離れるんだ」

「what? ボーイは誰かに狙われてるのかしら?」

「怖い金髪の殺し屋スナイパーがいてね」

「oh、ミーが守ってあげまーす!」


 更に強く抱きしめられる。これがリアルぱふぱふと言う奴か。


「ルイス、胸が当たってるというよりもはや埋まってるんだが」

「ミーは気にしないわ!」

「いや、金髪の殺し屋が投球射撃フォームに入ってるので早急に離れてほしい」

「暴れちゃダメよ。また水着がずれちゃうわ」


 アハハと陽気に笑うルイスだが、こっちは笑いごとではない。

 俺が彼女の体を引きはがそうとしていると、さっきまでバットを振りかぶっていた猿渡が急に方向転換し、まっすぐこちらに向かって来る。


「おっ、軌道修正した。猿渡そのまままっすぐ――」

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」


 奴は勢いよく俺にバットを振り下ろした。

 間一髪で躱すと、猿渡は目隠しを外し舌打ちする。


「チッ、外したか」


 完全に殺す気で来たバットは俺のわずか左に逸れる。


「あぁすまん悠悟、スイカと間違えた」

「確実に死ねって言ってたけどな」

「そんなこと言ったか?」


 白々しいが、俺レベルになると猿渡の行動など読んで――

 ゴッと嫌な音が後頭部で鳴って、俺は砂浜に倒れた。ダイイングメッセージにココナッツと残す。

 倒れたまま俺は金髪ツインテの殺し屋を見やる。


「お前避けたところ狙ってくるんじゃないよ」

「回避後の硬直を狙ったわ」


 格ゲーみたいなことを言う奴だ。

 あっちでは戦国先輩が猿渡に「次は横にフルスイングするでゴザル」と、明らかにスイカ以外の物をカチ割ろうとするアドバイスをしている。

 俺敵多すぎじゃない?

 そう思っていると、エクレがビデオカメラ片手に俺を映していた。


「カメラ借りたの?」

「はい。なんとなく夏の思い出にと思いまして。あまりこういった記録に残すタイプではないのですが、とても楽しいので」

「君は後頭部から血をたくさん流してる人を見て楽しいと言えるのかい?」

「そうですね……楽しいです」


 にっこり微笑むエクレ。

 ちょっとこの子科学のやりすぎでネジがはずれちゃってるんじゃない?


「姉さんがあれだけ堂々と人にヤシの実をぶつけるなんて、普通見られませんよ?」

「普通の人はヤシの実を誰かにぶつけないと気づいてほしい」

「姉さん人が多いところでは基本猫を被るので、素の姿を見せるというのは凄く仲が良い証拠だと思います。……姉さん、もしかしてほんとに……」



その後、スイカ割りが終わり各ペア星の変動は――


龍宮寺&小鳥遊 ☆2→☆6

牛若&御剣   ☆2→☆7

ルイス&エクレ ☆2→☆6

猿渡&戦国   ☆1→☆3

しほるん&カメラマン ☆2→☆5

その他ペア   ☆2


 雫さんペアを追いかけて、エクレペアと俺達が2番手につける順位。エクレ組はやはりルイスが強い。

 というかあの人が寝そべって棒倒ししていると、こちらの集中が激しくかき乱される。

 意外なところで言うとしほるんが健闘している。ただ、しほるんのゲームに関しては疑惑の判定が多く、審判が変に贔屓したり、スイカ割りの目隠しが皆と違ってやたら薄かったりと腑に落ちないシーンが何度もあった。


「もう、騎馬戦で勝ってたら同点1位だったのに。絶対あれ勝てたわよ?」


 スコア表を確認した輝刃が俺に批難の目を向ける。


「しょうがないだろ、ハチマキだと思ったらルイスの水着だったんだから」

「あれ、わざとじゃないでしょうね?」

「そんなうまいこと水着だけ引っ張り上げられるかよ」

「ダーリンだったらやりそう」

「お前で試してやろうか」

「変態」


 手をワキワキさせると、輝刃はさっと自分の水着を押さえる。

 一応汚名返上ではないが、大きい貝殻探してきたペアが勝ち選手権では一番大きいのを見つけてきた。

 っていうか朝食ってたビックバンサザエがそれだった。


「エクレペアとの勝負だけど、星の数が同数だったらどうなるんだ?」

「同点は負け。姉さんは引き分けを勝ちにしたり再戦にしたりしてくれないわ」

「そりゃ厳しいな。となると勝ち点になる星が欲しくなるが」


 と言っても今日が終われば残り一日。明日は多分昼に健康診断と結果発表があって終わりだ。

 そうなると今日以外に星を増やす時間がない。

 一応ノルマの星3個はキープしたわけだが、このままだとエクレペアと同点で輝刃は実家に引き戻されてしまう。


「運営の用意したゲームってもう終わりかしら?」

「最後宝さがしゲームがあるってさ」

「なにそれ?」

「地図を渡されて、それを目印に宝箱が埋まってる場所を探すんだって。大当たりの箱には星がたくさん入ってるらしいぞ」

「いいじゃない、そういう一発逆転好きよ」


 輝刃はニッと笑みを浮かべるが、空は雲が多くなり怪しくなってきていた。


「雨、降らなきゃいいけど」


 葉っぱテントで雨は地獄になるぞ。

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