DAY2
第41話 星違い
無人島生活二日目――
本日は少し雲多めながらも晴れ。
日中はかなり暑かったが、朝方はそこそこ冷える。
「さっぶ……」
「おはよう」
輝刃が気温の低さから、小刻みに震えながら起き上がる。
「何やってんの?」
「見たらわかるだろ、火の番だよ」
「昨日からずっとやってたの?」
「雨降ったら冷えるしな……。まぁその心配もいらなかったけど」
「えっ、もしかしてずっと起きてたの?」
「二時間くらいは寝た。多分」
本当のことを言うと、輝刃と二人きりのテントで眠ることが出来なかったのだ。
いつも同じ部屋で寝ているが、やはり二人きりは別だ。否が応にも相手を意識してしまう。
隣で水着の美少女が無防備な態勢で寝ているのだ。これでスヤスヤ寝られる奴は、前世は徳の高い僧侶だったのだろう。俗世に塗れた一般人の俺は興奮して寝られるわけがなかった。
夜中に「そこは攻めるべきだろう」と本能俺と、「やめるのですここで彼女に手を出したらあなたは出雲にいられなくなりますよ」と理性俺が対立する。
本能と理性が激しい戦闘を繰り広げ、結果「おっぱい」とダイイングメッセージを残して両者相打ちになった。
本能も理性も答えを出してくれなかったので、こうしてもんもんとしながら火の番をしていた次第だ。
全ては昨晩のクラゲの毒吸出しがいけない。クラゲに刺された輝刃の内股から毒を吸いだすという、思い出しただけで顔が赤くなる行為。
開かれた脚に口をはわせて、無意味な吸毒行為を行った。当然ない毒なんか吸い出せるわけもなく、ただただ彼女の太股を吸っただけになった。
彼女の内太股が目に入ると、キスマークみたいな痣が見える。いかん変に意識してしまっている。
しかし輝刃の方は特に気にした様子はなく、リボンを口に咥えながらいつも通りのツインテールを結んでいる。
「お嬢の考えはよくわからん」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
俺は朝食用に残されていた、拳よりでかいビッグバンサザエを焚火の中に放り込む。貝蓋からグツグツと汁が零れだしてきたのを見計らって火から上げる。
「ほい」
「朝からサザエなんてなかなか豪勢よね」
「資源が豊富で良いけど、その分星が手に入らん」
猿渡たちは星と釣り具を交換していたが、多分あれは悪手だ。
この島三日程度なら十分生き残れる資源があるし、道具も現地調達でなんとかなってしまう。
「確か今日、運営の企画したゲームで星の取り合いができるのよね?」
「らしい。何するかは知らされてないけど」
「ビーチバレーとかだったらあたし有利なのに」
「お前脚力凄いもんな」
「えぇ、ヤシの木くらい飛び越えられるわよ」
「レイヴンの能力使うと失格になるぞ」
「それも結構曖昧よね。魔力補強なしのジャンプ力でも失格になるのかしら?」
「普通の人はジャンプ一回で木の上まで登れんからな。あとお前
「そうだった。自分の体をセーブするってめんどうね」
輝刃はそう言いながら自分の脚を伸ばしてみると、昨日の吸い痣が目に入ったようで、顔をカッと赤くする。
「……小鳥遊君、絆創膏とか持ってない?」
「持ってるわけないだろ」
どうでもいいけど、マフラーとか絆創膏でキス痕隠そうとする女の子ってエッチくない?
朝食が済むと、運営が拡声器を使いゲーム大会参加を呼びかける。
参加する俺たちは、運営のクルーザーで子島から親島へと移動すると、熱い砂浜には参加者ほぼ全員が揃っていた。
やはりサバイバル自体は温い難易度なので、食料に困っている参加者などはおらず、ほぼ全員が星を求めてゲームに挑戦するようだ。
「ユウく~ん!」
親島に到着して早々、雫さんの熱烈なタックルを受ける。
「もう無理よ、ユウ君のいない生活なんて!」
「し、雫さん、たった一日だよ」
「無理、もう無理よ。だから……お願い、これに名前を書いて判を押して……」
婚姻届と書かれた恐ろしい紙を、俺は紙ヒコーキにして海に投げ飛ばした。
「ユウ君のばかー! 可愛いラブレターなのに!」
そんな重いラブレターあってたまるか。
胸を揺らしながら、慌ててとりに行く雫さん。
「白兎さん昨日雫さんどうしてたの?」
「……大体寝かせてた」
白兎さんはシュッと手刀を振って見せる。
大丈夫? 人間ってそんな頻繁に気絶させて。
そのうち記憶障害とか起こしそうで心配だ。
そう思ってると、白兎さんがいきなり俺の頭を抱き、大きく息を吸い込む。
「あの……なにしてるんですか?」
「……充電」
言葉数は少ないが、白兎さんももしかしたら寂しいと感じてくれたのかもしれない。
そうだとしたら心が暖ま――
「おごぇ!」
ヒュンと風切音をたてたヤシの実が、俺の側頭部に綺麗に命中する。
「あらダーリン、あたしの前で堂々と浮気とはやってくれるじゃない」
怒筋を立てた輝刃がにこやかな笑みを顔に張り付け、ヤシの実を指先で回転させていた。
「俺はハニー一筋だよ」
「あら良かった、あたしもよ♡」
ハートの後ろに
運営は参加者が集まったのを確認すると、拡声器を使いゲームの発表を行う。
「これより皆さんに行ってもらうのは水中騎馬戦です。ルールはペアで肩車を行い、身に着けたハチマキの取り合いを行います。ハチマキをとられる、もしくは騎馬が崩れ上に乗っている人物が落下したら失格です。一番最後まで生き残ったペアに星を一つプレゼントします」
騎馬戦か。ちょっと意外なのが来たな。
「また騎馬戦は二回行いますので、その時上下を入れ替えても構いません。二回星を手に入れるチャンスがありますのでご健闘ください」
なるほど、二回とも優勝すれば二個も星が貰えるのか。それは美味しい。
各ペアが一斉に海へ入り、肩車を行っていく。
俺と輝刃も海の中へ入ると肩車を行う。
「よし、重いから気をつけろよ」
俺は輝刃の肩に足をかける。
「って、なんであたしが下なのよ!? こういうのは普通男の子が下でしょ!?」
「何言ってんだ。力があって機動力を出せる方が下になるだろ?」
「あっ、そっかあたしの方が力強いわ。じゃないわよ! ダーリンが下になりなさいよ!」
良いノリツッコミするな。
「別に下になっても構わんが、ルイスや雫さんのペアに囲まれたら確実に逃げられないぞ。ハニーの脚力なら水の中でも逃げられるだろ?」
輝刃はぐぬぬぬと拳を握りしめると、水中に潜った。
聞き分けの良い奴だ。
俺は輝刃の肩にまたがり、肩車してもらう。
「最大の敵は牛若先輩と白兎先輩ペアよ」
「ルイス、エクレペアも強いぞ」
「あそこはルイスが絶対下だし、上がエクレなら別に怖くないわ」
「お前どんだけ妹の運動神経信用してないんだ」
ふと隣を見ると、猿渡と戦国先輩がどっちが上になるかで激しく揉めている。女の子に合法的にタッチできるとスケベ心でいっぱいなのだろう。
他の対戦者を見渡すと、輝刃の予想通りルイスが下になってエクレが上になっているのが見えた。
雫さんチームは白兎さんが下で雫さんが上の高機動型か。
そっちの方が助かる、雫さんが楽なわけではないが白兎さん相手にハチマキを奪える気がしない。
猿渡ペアもどうやら決着したようで、猿渡が上になっており、戦国先輩が畜生と男泣きしている。
「そんな泣くほどのことか……」
全騎馬の準備が整うと、運営は「それでは用意スタート!」とホイッスルを吹き鳴らす。
「みんなー☆ いってきてー☆」
むっ、この作った声は……。
しほるんの号令と共に名も知らぬオタペアが二騎、結託してこちらへと向かって来る。
「我らしほるん親衛隊! しほるんの為にそのハチマキを頂戴する!」
「大人しくせよ!」
「堂々と談合宣言してんじゃねぇよ!」
頭が薄くなった中年のオタクが手を伸ばしてくるので、それを躱し、逆にハチマキを奪い取る。
更に死角から襲って来たもう一騎を突き飛ばして落馬させる。
「やるじゃない」
「ぃよっし。でも下がった方がいい。この騎馬戦ハチマキをいくつ奪ったかじゃなくて、最終的に生き残ってたペアが勝ちだからな。つぶし合ってもらおう」
「ほんとそういうとこクレバーね」
輝刃が呆れた笑みをこぼす。
他のチームの出方を伺いながら、隙を探っていこう。するとちょうどぼっ立ちしている猿渡たちが見えた。
「ハァハァハァ、凄い揺れっぷりだ……戦国先輩、早く牛若先輩に突撃しましょう!」
「ダメでゴザル。牛若、御剣ペアは恐らくこの騎馬の中で最強。拙者らが手を出しても負けるだけでゴザル」
「勝ち負けなんていいんすよ! あの胸に飛び込めれば!」
「ダメでゴザル、他ペアとつぶし合ってもらい、その隙に背後からハチマキを奪う。それしかないでゴザル」
「いいから行って下さいよ! もうこの際牛若先輩じゃなくて爆乳Gアメリア人の方でもいいっすから!」
「ここは動かざること山の如くでゴザル」
完全に仲間割れしている。昨日の理性俺と本能俺を見てる気分だ。
すると――
「あ、あのごめんなさい」
「イエース、油断大敵よ!」
エクレ、ルイス騎馬が後ろからそっと近づき、猿渡のハチマキを奪い取った。
今さっき言っていた作戦を見事に実施されてしまったわけだ。
「あ、あぁオレのハチマキがぁぁ! まだなんにもしてないのにぃ!」
あんだけ無防備に突っ立ってれば、そりゃ取られるだろう。
猿渡たちに呆れていると不意に婚気がした。
※(婚気:結婚したいという気配、願望)
「ユウく~ん、はちまきちょ~だ~い♡」
手をワキワキしながら近づいてくるのは、参加者最強と名高い雫さんペア。
「だ、ダメかな」
「おねがい」
手を合わせて可愛らしくおねだりしてくる雫さん。
「ハニー、タイマンは分が悪い。逃げよう」
「わかってる」
輝刃が海底を蹴って大きく後退するが、白兎さんの動きが超早い。まるで魚雷のようなスピードでこっちに接近してくる。
「なによ白兎先輩、水中でどういう動きしてるの!?」
「雫さんを肩車したままバタ足で泳いでるだけだ」
「はぁ!? それであのスピード!? っていうか人間を肩車したまま泳げるものなの!?」
事実泳いでるので泳げるのだろう。
ほぼゼロ距離まで接近され、雫さんの伸ばしてくる手をさばいていく。
速い! でも明らかに手加減されてる。
「小鳥遊君、守ったら負けるわよ!」
「わかってる!」
グイグイと体を押し付けながらもハチマキを奪おうとしてくる雫さん。俺も必死に雫さんのハチマキに手を伸ばす。だけどギリギリ届かない。
こうなったら雫さんを押し倒して騎馬崩しを狙おう。
そう思い俺は両手を突き出して雫さんの体を押す。
が……。
ぶにゅんと俺の掌で柔らかい巨大水餅が潰れる。
完全なる不慮の事故で、雫さんの胸をがっちり鷲掴んでしまった。
「あ、あらあら、ユウ君大胆ね……」
押せば押すほど指がどんどん沈み込んでいく。なにこれ凄い。
しかしこれはチャンスだ。胸を触っていると雫さんは完全に止まる。今のうちに俺はスパっとハチマキを奪いとった。
「あっ……とられちゃった」
なぜか艶めかしい声を漏らす雫さん。
「よし大金星だ」
「最低な勝ち方ね」
「勝ちは勝ちだ」
「まぁ多分小鳥遊君以外に牛若先輩は倒せなかったからいいわ」
その後順当に騎馬は減り、名も知らぬオタクチームは壊滅。しほるんは波にさらわれて勝手に自滅。
残りはエクレペア、俺と輝刃の2騎に絞られる。
「よっし、小鳥遊君後はエクレだけ。いくらルイスが強いと言ってもあの子が上なら優勝は貰ったようなものね!」
「果たして本当にそうだろうか」
ルイスに肩車されたセーラー水着のエクレ。やはり運動神経に難ありなのか、必死にバランスをとりながらも俺達と向かいあう。
「た、小鳥遊さん、ハチマキください……」
「だ、ダメだ、これはあげられないんだ……」
「ダメ……ですか?」
エクレの悲し気な表情が俺の心臓に突き刺さる。
「……ハニーすまない、ここは降参しよう」
「何言ってんのよこのアトミックバカ」
「だって可哀想だろ……」
俺には怯えた子犬から無理やりエサを奪い取るようなことなんてできない。
「もう皆一等でいいじゃないか……」
「ダーリン定期的にバカになるのやめてもらっていい!?」
するとエクレからすっと手が伸びてきた。俺が無抵抗を貫いていると、輝刃が後ろに下がって腕をかわす。
「小鳥遊さん、なんでかわすんですか……わたし悲しいです」
「俺も悲しいよエクレ……ハニーかわさなくていいじゃないか」
「あんたこのまま海に沈めるわよ!」
争いは何も生まないよと、俺が平和の尊さを訴えていると、輝刃があることに気づく。
「ダーリン、あの子ハチマキ持ってない」
「ぬ?」
俺もエクレを見やると確かにハチマキがどこにもない。彼女猿渡の分を手に入れていたはずだが、一体どこにやったんだ?
そう思って注意深く観察すると、
「あれ、なんであんなとりやすい位置に」
ハチマキは高くにあればあるほど取りにくいが、逆に下にあるのは手が届きやすくとられやすい。
「多分エクレだとすぐとられるし、後ろからの奇襲を警戒してよ」
「なるほど。確かにあの位置にあると正面以外にハチマキを奪う方法がない」
しかも胸に近いから男は手を出しにくい。考えたな。
「小鳥遊君、そのまま戦意喪失したふりをして、あの子が近づいてきた瞬間ハチマキの束を引っ張り抜いて」
「それ卑怯じゃない?」
「雫さんに小鳥遊君が結婚を考えてるって言うわよ」
「遺憾ながら協力しよう」
さすがにまだ妻帯者になるつもりはない。
作戦通り戦意喪失したふりを装い、エクレたちが近づいてくるのを待つ。
ルイスは多少の波などものともせず力強く泳いできて、丁度俺の目の前に差し掛かる。
チャンスは一度。この不意打ちにかける!
「もらったぁぁぁぁ!!」
俺はルイスの肩ひもに挟まれた、ハチマキの束を掴み掲げ上げる。
確かな手ごたえ。
「あ、あの小鳥遊さん……」
「オー、ボーイそれはミーの水着よ」
「えっ?」
俺は掲げたハチマキだと思っていたものを見やる。それは星条旗柄のビキニだった。
ルイスの方を見やると、水面にプカプカと胸が浮かんでいる。
「う~む、星は星でも星違いだな」
「そぉぉぉぉいっ!!」
輝刃はバックドロップするように後ろに倒れ込み、俺を海中に沈めた。
「龍宮寺、小鳥遊ペア落馬! 叢雲ペアの優勝!」
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