第38話 こいついつも目潰しされてんな
俺と輝刃は発見した滝壺で水を汲むと、ここにキャンプを設置することに決める。
「ほんとは水場って獣が集まって来るから危ないんだけど、特にクマとかいなさそうだしな」
「クマくらい蹴りで倒せるわよ?」
「そりゃお前くらい足が太かったらな」
正直なことを言ってしまうと、輝刃は側転バク転からの流れるような動きで俺の顔をその若干太ましい脚で挟み、そのまま回転力を生かして滝壺へと放り込んだ。
その技はあまりにも美しいフランケンシュタイナーだった。
「ダーリンっていつも一言余計ね」
「ハニーの一撃はいつも強烈だよ」
アクロバットな一撃をくらい、90度横に曲がってしまった首を無理やり元へと戻す。格ゲーみたいな動きをする奴だ。
水源は確保したので、とりあえず水の心配はなくなった。
そうなると次はテントの設置と、食料の確保である。
「ダーリン、食料取りに行くのとキャンプ作るのどっちやりたい?」
「キャンプ」
「でしょうね。じゃああたし浜に戻って魚とかいないか見てくるわ」
「道具がいるだろ? ちょっと待ってろ」
俺はその辺の石を拾って、別の石へとぶつけて砕く。
破片の中から尖ったものを拾い、丈夫なツタをヒモがわりにして細長い木の枝にくくりつける。
「これ使え」
「いいじゃない、石槍ね」
「できればヤスリで削りたいところだけどな。モリ代わりに使ってくれ」
「これで十分よ。ありがと」
石槍をヒュンと回す輝刃。
「なんか原始人ぽいわね……」
「腰みのと石仮面も作ってやろうか?」
「どこかの部族みたいだからやめて。とにかく魚とりに行ってくるわ」
「期待してる。いってらっしゃい」
「いってくるわ。ダーリ――」
不意に輝刃が顔を赤らめた。
「どした?」
「いや……なんかナチュラルに夫婦みたいな会話をしてしまったと思って」
そういうこと言うな。こっちは意識しないようにしてるのに。
「い、行ってくるダーリン」
「お、おう……ケガしないようになハニー」
「う、うん」
輝刃は石槍を持って漁へと向かう。
嫁の出勤を見守る主夫みたいなことをした後、俺もテントに必要な素材を考える。
「柔らかい枝とロープ代わりのツタ、あとはヤシの葉が沢山必要だな。俺も石のナイフくらい作っておくか」
先ほどと同じ手順で、今度は短い木の枝に尖った石をくくりつける。
「輝刃の言うようにほんと原始人っぽいな……」
文明の始まりを感じながら滝壺の対面を見やると、エクレとルイスがキャンプ用の簡易テントをくみ上げているところだった。
彼女達もここをキャンプ地にするようで、順調に寝床を作り上げている。
持たざる者の俺達とは違い、ちゃんとしたテントを持っているのは羨ましい。
「日が暮れる前にテント作らないとな」
プ~ンと飛んできた蚊を叩き潰して、最低限虫よけは必須だと感じる。
それからテントの材料になりそうなものを探して島を回ると、丁度親島と子島が隣接する場所で猿渡たちと出会った。
二人は先に食料を調達していたのか、クーラーボックスと釣り具を抱えている。
「おっ悠悟ー!」
親島から猿渡が大声で叫ぶ。
「おー! お前らも食料調達か?」
「食料? 食料ならもう山ほど確保したぜ!」
「ゴザルゴザル」
戦国先輩が持っていたクーラーボックスを開けると、そこには色とりどりの魚が入っているのが見えた。
あいつらもうあんなに魚とったのか。
「悠悟、これをわけてほしいか?」
「えっ、くれるのか?」
「魚一匹につき星一つで交換してやるぜヒャーッハッハッハ」
なんという不当レート。星の重要さをわかってて煽って来てるな。
「あの世紀末野郎たち、星と釣り具を交換してるな」
どうやら猿渡ペアは食料をたくさん確保して、魚を売り歩く作戦にしたようだ。
「高いからいらん」
「食い物がなくなってひもじい思いをしちまっても知らねぇぜ? 龍宮寺さんも食料の一つもとってこれないなんて小鳥遊君の甲斐性なし! 別れましょ! って言いだすかもしれないぞ」
「ゴザルゴザルゴザル」
さっきからなんだあのゴザルゴザルって、新しい笑い方なのか。
「大丈夫だ。食料調達してるのはハニーの方だから」
「畜生
ハニーって言っただけでキレた。情緒不安定かよ。
「お前には何があっても食料は譲らん。まぁ龍宮寺さんだけはいつでも助けるから、お前は昆布でも食ってろ!」
猿渡が対面の親島から昆布を投げつけて来たので、ありがたくいただくことにした。
せっかくだし俺も交渉をやってみよう。
「猿渡ー俺がじゃんけんで勝ったらその魚一匹くれ」
「はぁ? やるわけねぇだろ」
「俺が負けたら輝刃の正確なバストサイズ教えてやる」
「…………や、やらねぇよ!」
今めちゃくちゃ目が泳いだな。
「やるやらないは自由だ。じゃーんけーん」
「お前汚いぞ!」
「ホイ」
猿渡はしっかりチョキを出していた。俺はグーなので勝ち。
猿渡の初手チョキ率は95%を越える。
「畜生持ってけよ!」
猿渡はクーラーボックスに入っていた魚を俺にぶん投げた。嫌な奴だけど律儀な奴だ。
ちなみに輝刃のブラサイズは知ってるが、正確なバストサイズなど知らん。
「まぁそれは地獄への餞別みたいなもんだ!」
「せいぜいリタイアせぬよう頑張るでゴザルな」
「「HAーーHAHAHAHAHAHA!」」
二人は高笑いしながら引き返していった。最後はゴザル笑いじゃないのかよ。
しかし負けてられんな。
俺は森の中で使えそうな木やツタ、石、流れ着いたシート等を拾い集めていく。するとその途中、浜辺に大きなテントが張られているのが見えた。
つまらなさげに折り畳み式の椅子に腰かけているのは、俺達と同じ島になったエロコスプレイヤーこと静ノ宮しほるさん。
一番恵まれた豪華キャンプセットを持つ彼女の前には、既にバーベキューセットが用意されており、謎の生物がジュージューと焼かれている。
「ナマコかあれ?」
あんなもの食べなくても釣り具セットとかあるんだから、まともな魚とってくればいいのに。
そう思っていると、カメラマンがしほるんにカメラを向けた瞬間人が変わったように騒ぎ出した。
「やーん無理無理~☆ しほるんこんなの食べられない~☆ でも~サバイバルだから、食べないと生き残れないの……しほるん頑張って食べちゃいます☆」
しほるんは焼きナマコ(?)を口に入れるとまずそうな顔をして、着ていたパーカーを脱いだ。
「や~ん、まずすぎて脱いじゃった~☆」
そうはならんやろ。
まずすぎて吐いちゃったならわかるけど、まずすぎて脱ぐことにはならんだろ。
カメラマンが「はい、OK」と言うと、しほるんはペッとナマコを吐き捨てる。
「まっず……もう最悪。マネージャー水、水持って来て。こんなの食べて腹壊したらどうすんのよ」
やばい素のしほるんが出ている。ゲテモノを食ったのは動画の撮れ高を用意するためか。
アイドルなんてまぁ裏の顔はこんなもんだろう。
あまり立ち聞きするのもなんなので立ち去ろうとすると、不意にしほるんが声を荒げる。
「マネージャー、参加者にいた乳女どもなんなの? 超下品じゃない!?」
しほるんさんブーメラン額に刺さってますよ。
「しほの信者も急に掌返しちゃってさ。カメラに絶対あの女いれないでよ! ロボットで降りて来た女が特にムカつくわ。目立とうとしちゃってさ、そんなに男にモテたい? 必死過ぎません? って感じぃ」
しほるんさんブーメランいっぱい刺さってますよ。
女の敵は女とよく聞くが、特に嫉妬は怖いものだ。
これ以上いると聞いてはいけないことを聞きそうなので、その場から早々に退散することにした。
◇
テントの素材を持って滝壺に帰って来ると、エクレペアのキャンプは既に出来上がっていた。
今は休憩中なのか、それとも食材調達に行ったのか誰もいないようだ。
俺はこっそりと彼女達のテント前を観察することにする。
「これがBセットのテントか」
しほるんのAセットテントよりかは小さいものの、二人が入るには十分すぎるほどの大きさがある。
多分これが一般的なキャンプに使用されるファミリーテントという奴だろう。
これなら蚊や虫なんかの心配はなさそうで羨ましい。
いいなーと思っていると、テントの入り口ジッパーがジーっと開いていく。
どうやら中に誰かいたようだ。
「水着なんて
自分の姿を確認しながら出てきたエクレとばっちり目が合う。
彼女の格好はセーラーカラー付きの紺色ビキニで、下は水着用のミニスカート。俗にいうセーラー水着という奴で、胸元のリボンがとても可愛らしい。
水着も良いが、彼女の透けるような白く美しい肌に、スラリとした脚。胸元もやはり着やせしていただけで、女性としての膨らみはしっかりとある。恐らく二、三年もすれば大化けするのではないかと思われる美少女と美女の中間に位置する少女。
そんな子がオタっぽい水着を着て登場したものなので、俺は咄嗟に自分に目潰しを入れた。
「秘儀盲目の術!」
「え、えぇ!? 何してるんですか小鳥遊さん!?」
「ごめん、これ以上君を直視しているとエロい体してるねって言いそうになったから」
「言ってますけど!?」
「ごめん、間違えた。可愛い水着だね」
「本音先に聞いちゃったんで素直に喜べないですよ!」
彼女はすぐにテントの中へ引っ込むと、上にカーディガンを羽織って出てきた。
「あぁ、勿体ない」
でもカーディガンを着たセーラー服っぽくてそれもグッド。
「このような粗品をお見せして申し訳ないです」
「粗品て。十分すぎるくらい可愛いと思うけど」
「姉さんやルイスに比べたら……ぺったんこですし」
「それはダンプカーとスポーツカーを比べてるくらい違うと思う。それにそのサイズでぺったんこって言うと、怒る女性も出るよ」
「そうでしょうか?」
そっと自分の胸に触れるエクレ。
「うん、やっぱりバランスも重要だと思うよ。エクレは脚綺麗で長いし」
「あ、ありがとうございます……」
「隠さずに堂々としている方がいいと思う」
そう言うとエクレは恥ずかし気にしながらカーディガンの前を開けて脱ぎ始める。
うむ、たまにいる異常にクオリティの高いコスプレイヤーっぽい。
エクレは両手を後ろで組んで、上目遣いにこちらを伺う。
「へ、変じゃないですか?」
「いいと思う。一回回ってみて」
「は、はい」
エクレはくるりと一回転すると、水着用のミニスカートがふわっと浮かび白と水色のストライプが見えた。水着なのだがパンツが見えたみたいで凄くいけないものを見てしまったような気がした。
この水着を作った会社には最大の賛辞を贈りたい。
こんな可愛い水着を着てくれる可愛い彼女兼後輩が欲しい人生だった。
「エクレ……そのまま先輩海ですよって言ってくれないかな?」
「えっ? どうしたんですか?」
「お願い」
「い、いいですけど。せ、先輩海ですよ」
「…………イイ。次は先輩、あっちで泳ぎませんかって」
「せ、先輩あっちで泳ぎませんか?」
「次はあなた達誰ですか、人を呼びますよって緊迫した感じで言ってほしい」
「あ、あなたたち誰ですか、人を呼びますよ!」
「最後に助けて先輩、センパーイ! わたしこんな人達に……って悔し気に言ってほしい」
「わたし確実にひどい目にあってますよね!?」
同人誌などでお決まりの、海行ったら陸サーファーに酷いことされる奴である。
「もう、エロ同人の読みすぎですよ」
「それをわかるってことは」
エクレの頬がカッと赤くなる。
「わ、わかりません! わかりませんから!」
なにこの可愛い生き物。
「あの……ちなみになんですが、小鳥遊さんは女性の胸のサイズはどれくらいが好みなんですか?」
「そりゃ好きになった人のサイズが好みだよ。胸の大きい小さいで女性を判断したりしないから」
「そ、そうなんですか、ちょっと安心しました」
俺の紳士的発言にホッと安堵するエクレ。
女性を胸で判断するようなクズには絶対にならないと、ここに誓いを立てよう。
「ヘイボーイ! 今から薪を取りにいくけどボーイもどうかしら?」
野鳥を手製の弓で仕留めたとおぼしきルイスが、胸をたぷんたぷんと揺らしながらキャンプへと帰って来た。
「あっ、やっぱ大きいってすっごい……」
視線がルイスの胸に釘付けになった瞬間、俺の目に激痛が走る。
目が見えなくなる直前に不機嫌そうなエクレがチョキをしているのが見えた。
どうやら彼女に目潰しをくらったらしい。
「いいですよ、わたしまだ成長期ですから……」
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