第37話 サバイバル開始

「それでは皆さん、揃いましたので細かなルール説明をします」


 運営はエクレの乱入後も、何事もなかったかのように進めていく。


「本サバイバル期間は三日です。三日間この場所で生き残ることを大前提にした上で、皆さんには星を集めていただきたいと思います」

「星?」


 運営は星型の小さなピンバッチを取り出す。


「これを各ペアに2個配布します。最終日に所持していた星の数だけ、好きな賞品と交換できる仕組みです」


 運営はテントに設置された賞品を指さす。

 そこにはグッズの種類によって違った星の数が書かれている。どうやら交換するにはそれに対応した星が必要なようだ。

 俺たちが狙っているケミカルの限定フィギュアには星3と書かれている。


「最初に貰える星が2個で、フィギュアを貰うには更にもう1個星が必要ってことか……」

「星の入手に関しましては、他ペアに食料や道具を譲るなど物々交換を行う際に使用してください。星のタダでの譲渡、または奪うなどの行為は反則となります」


 つまり星はお金のかわりってことか。食料がとれなかった人とか、水がない人に星と交換しようって交渉するわけだな。

 俺は気になったことを手を挙げて質問する。


「星の無償譲渡禁止はわかるんですが、食料や道具を無償で譲渡、もしくは貸与するのもダメですか?」

「それは構いませんが、星と取引した方が最終的に得られる景品が多くなりますので、できるだけ取引をお勧めします」


 なるほど。協力してもいいけど、ちゃんと恩を売って星集めないと最後景品もらえないぞってことだな。


「物々交換以外にも、星を得ることが出来るゲームを企画していますので、是非ともご参加ください。また星はそれ以外にも、運営が用意したサバイバルグッズと交換することも可能です」


 そう言って運営はシートに並べた道具を見せる。

 そこには懐中電灯、サバイバルナイフ、斧、ライター、燃焼材、虫よけスプレー、医療キット、釣り具、防寒具など、参加者が島の中では用意できない道具が揃っていた。


「あの道具と交換して、早めに食料を調達して他のペアに交換を持ちかけるとか、そのへんは駆け引きだな」


 道具はどれも中途半端に数が少なく、迷っているうちに他のペアにとられる可能性もありそうだ。


「また告知していた通り、特殊技能及び、魔力の使用全てを禁止とさせていただきます。例えば魔力を使用して火を起こす、泥を水に浄化するなど、一般の方にできないことは全て禁止です。不正は見つけ次第強制退去処分とさせていただきますのでご注意ください。あくまでこの島にあるものを使用してサバイバルを行ってください」


 それもホームページで確認した通りだ。マラソンで車使うようなもんだし当然だろう。


「また最終日に健康診断を行いますので、その時に健康状態が悪い方も失格になります」


 つまり飲まず食わずで三日間耐えるのもダメってことだな。

 ルールをざっくりとまとめると。


 ・サバイバル期間は三日。

 ・参加者には最初星が二つ配られる。

 ・賞品を獲得するには賞品に応じた星が複数個必要。(エクレに勝つためにはエクレペア以上に星を集める必要がある)

 ・星を増やすには他のペアに食料や道具などで交換を持ちかける。もしくは運営の企画したゲームで勝つ。

 ・星は運営が用意したサバイバル道具と交換することもできる。

 ・星の略奪、無償譲渡は禁止。あくまでギブ&テイクが必要。

 ・一般の参加者ができない、魔力による支援禁止。

 ・最終日に健康診断があり、その時に健康不良の参加者は失格。

 ・他ペアとの協力行動は禁止ではないが、あくまで他の参加者はライバルである。


「参加者を親島と子島で分けます。島分けは既にこちらでさせていただきました。シートを配布するのでご確認ください」


 配布されたシートを見やるとそこには

 親島――牛若&御剣ペア、猿渡&戦国ペア、他3組。

 子島――静ノ宮&石井カメラマンペア、龍宮寺&小鳥遊ペア、叢雲&ルイスペア。

 と記載されていた。

 大きい方の親島には雫さんと猿渡、その他名も知らぬオタクペアがいくつか。

 小さい子島は俺とエクレ、しほるんの3チームだ。


「リタイアの場合は発煙筒を用意していますので、これを目立つ位置に設置してください。スタッフが駆けつけます。それではサバイバルパックを配布します。各ペアくじを引きに来てください」


 くじ? くじとは一体何なのか? と思うと、スタッフが用意したサバイバルパックの種類を見て愕然とする。

 パックはA、B、Cと分かれており、セット内容は――


Aセット(豪華キャンプセット)

 Lサイズテント

 折り畳み式デスク&チェア

 サバイバルナイフ

 バーベキューセット

 各種調味料

 ガスバーナー

 防寒具

 釣り具

 ビーチボール

 浮き輪

 水12L


Bセット(キャンプセット)

 Mサイズテント

 折り畳み式チェア

 サバイバルナイフ

 調味料

 フライパン

 鍋

 ライター

 水4L


Cセット(遭難セット)

 塩

 砂糖

 鍋

 水2L


 こんなもんA引いた奴勝ち確じゃねーか! 水も三日分あるし、完全に遊びに来たとしか思えん。

 それに比べてCセットはテントすらない。セット名も遭難セットて……。


「ダーリンくじ運は?」

「Cを引く自信ならある」

「ダメじゃない」

「運のステータスは多分最下位を争うからハニーが引いてくれ」

「まぁ自慢じゃないけどそこそこ運は強い方……」


 輝刃がボックスくじを引くと、ばっちり【C】と書かれていた。


「…………ごめん」

「大丈夫、俺が引いても多分Cだったから」

「やったーしほるんAセットだー☆」


 Aセットが当たったのはコスプレイヤーしほるんペアだけだった。

 ちなみにエクレや雫さん達、ほとんどのペアがBセットでCは俺達だけ。

 皆Bセットで良かったんじゃないの? と思わずにはいられない。

 雫さんたちとも別の島になってしまったのもがっかりである。親島と子島の間は潮の流れがかなり激しいので、ボートでもないと遊びに行けそうにない。

 残念だなと思って、雫さんたちの方を見ると。


「やだ、ユウ君と三日も離れるなんて! 嫌よお願い離して! ユウ君! ユウ君! ユ――」


 暴れる雫さんに白兎さんが手刀を叩きこんでいた。


「ユウ、また後で……」


 白兎さんはズルズルと雫さんを引きずっていく。


「牛若先輩のムスコンっぷりやばくない?」

「何にも悪いことしてないのに、児相が虐待の疑いで無理やり子供連れて行くみたいな感じだったな……」


 まぁ運営が用意したゲームもあるので、まるまる三日間会えないってことはないだろう。


「さっ、行くわよ」


 俺と輝刃は軽いサバイバルバックを持って、割り当てられた場所へと向かう。



 俺たちは子島へと場所を移し、どこかキャンプしやすそうな場所を探していた。


「テントがないから雨を防げる場所が良いわね」

「洞窟とかな」

「そうね。水の確保もしなきゃいけないし」


 浜をぐるっと回ると漂着物のゴミや流木が多くみられる。


「浜はやっぱり何もないし、島の中に入るしかないわね」

「そうだな」


 俺たちは島の中へと入っていくと、針葉樹が鬱蒼と生い茂っており、足元も石やトゲのある草が多くて歩くのがかなり困難だ。

 ナイフか斧でもあればいいのだが、与えられたサバイバルパックにはそんなものは入っていない。

 早速だが星と道具を交換したくなってきた。

 そんな中、輝刃はズンズン前へと進んでいく。

 多少のツタ如き引きちぎって進んでいくので、俺の方が「男らしい……素敵」と言いたくなってしまう。


「よくこんなとこ歩いて行けるな」

「あら? こういう探検みたいなのワクワクするんだけど」


 わんぱくかよ。

 彼女の後に続いて歩いていくと、俺の足からパキッと変な音がする。枯れ木にしては少し違和感があった。

 足をどけてみると、砕けたのは何かの頭蓋骨だった。


「うぉおあっ!?」

「なによ」

「い、いや、なんかの骨を踏んだ」

「動物の骨でしょ? ネズミか鳥じゃないの」

「かもしれない」

「もう、そんなので狼狽うろたえないでよ」


 ヤレヤレと言いたげに前を歩いていた輝刃がピタッと止まる。


「どした?」

「…………」


 彼女は自分の足元を凝視していた。

 そこには地獄からの使者みたいなカラフルムカデが、足を蠢かしながら鎌首をもたげていた。


「キャアアアッ!!」


 慌てて、俺に飛びついてくる輝刃。

 水着で飛びつかれると、柔らかさがやばい。


「落ち着け、ただの虫だ」

「わ、わかってるわよ!」


 わんぱくもムカデはダメらしい。かくいう俺も毒虫は怖い。

 ムカデは悲鳴に驚いたのか、すさまじい勢いで走り去っていった。この分じゃ他にもクモや蛇とかいそうだな。

 ある程度島の中を歩き回ってみたが、危険な虫がいるのと、申し訳程度にヤシの実があるくらいで資源が乏しい。


「ダメね。これ以上行っても収穫なさそう」

「元からこっちの島は狭いからな」


 狭いわりには起伏が激しく、崖みたいになってる場所や、深い溝があったりする。

 歩き続けて段々喉が渇いてきた。気温は36度越え。針葉樹が直射日光を遮ってはくれるが、逆に湿度が高く蒸し暑さとじめッとした空気が漂っている。

 僅か2時間程の探索で、ペットボトルの水は既に半分を切ろうとしていた。


「やばいな半日もたないぞこれ……」

「水の減りが思った以上ね」

「最悪あれを飲むことになるかもしれんな」


 俺は近くの地面を指さす。そこには紫色に変色し不気味な泡が立つ泥水があった。

 泥水の中には蛍光紫色のキノコが生えている。


「嘘でしょ、あんな毒沼みたいなの飲むなんて嫌よ……」

煮沸しゃふつすればなんとかなるだろ。それに食料もある」


 俺は毒沼に生えていたキノコを千切ってみる。すると触った手がピリピリとして痛い。


「あっ、なんか皮膚かぶれてきた……」

「100%毒キノコじゃない! 捨てなさいよ!」

「何かに使えるかもしれん。不思議なダンジョンマスタートルネオの大冒険でも、空腹状態なら腐ったパンを食ってたからな」

「ゲームと一緒にしないで!」


 俺たちは島をウロウロしてみるが、キャンプを設置できる場所がなかなか見つからない。


「これだと浜に戻った方がいいかもね」

「浜は夜冷えるぞ」


 俺達の装備は水着しかないので、夜中気温が下がると体調を崩す可能性がある。しかしかと言って毒虫のいる森の中で寝るってのも危ない。

 俺はなにかサバイバルパックの中に入ってないかと漁ってみると、バッグのサイドポケットに紙切れを見つける。


「なんだこれ?」


 紙切れはどうやら子島の地図らしく、森の真ん中くらいに×印が記されていて、その脇に【水】とメモ書きが入っていた。


「なにそれ?」

「水があるんじゃないか?」


 俺たちは地図を頼りに先へと進んでいく。すると地図に記されていた場所には小さな滝があり、綺麗な水が湧き出ていた。

 水をすくって飲んでみると、海水ではなく真水だ。

 雨水がたまっているのか、島の地下から湧き出ているのかはわからないが、何にしてもラッキーだ。


「水源だ。やったな」

「そうね。ここをキャンプにしましょうか」

「そうだな。それにこの水を配れば星貰えるんじゃないか?」


 水場独占を考えていると、丁度対面からエクレとルイスペアが姿を現した。


「あっ、小鳥遊さん!」

「エクレ。もしかして君も水を?」

「ええ、サバイバルパックに水の場所を書いたタブレットが入ってました」


 エクレは俺たちに携帯タブレットWpadを見せる。そこには水源まであと何メートルか詳細に表示された地図が映し出されていた。


「俺たちは手書きの地図だったのに……」


 多分運営から水の場所だけは教えといてやるよっていう、最低限の計らいだな。

 さすがに炎天下の中、脱水症状で参加者がぶっ倒れたら企画中止になってしまうだろうし。

 しかし一番最初にこの水場に到着したのは俺達だ。

 水場独占権は俺たちにある。

 俺と輝刃は視線を合わせて頷き合う。


「この水場を使わせてほしければ食料を持ってくるんだな! さもなければさっき拾ったこの毒キノコを水の中にほりこむぞ!」


 俺は危険な毒キノコを取り出し、エクレとルイスに見せつける。


「いいわよダーリン、サイコな感じが出てて!」


 そう褒めるなよ。


「小鳥遊さん、そんなことしたら誰もこの水場を使えなくなりますよ!」

「んなこと知ったことじゃないね! さぁエクレ、いいから早く食料を持ってくるんだ!」

「くぅ、小鳥遊さんが錯乱したモブキャラみたいに……でもそんな小鳥遊さんも悪くないと思うわたしがいる」

「何をブツブツ言っている! 早く食料を出すか、身ぐるみ置いていくんだな!」


 俺と輝刃が一瞬でやられるザコ役みたいなことを言っていると、ルイスがサバイバルナイフを抜いて、こちら目掛けて放り投げる。

 投擲されたナイフは正確に毒キノコを射抜き、後ろの木にビーンと突き刺さった。

 あっ、凄い命中率……。


「あれ……」

「水場は皆仲良く使いまショー」

「「……はい」」


 結局全員で仲良く水場を使うことになった。

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