第36話 ランボーorコマンドー

 学園艦セントルイスは近づけるギリギリまで無人島に寄せると、エクレは甲板から飛び降りる。

 正確には誰かに抱きかかえられてジャンプしてきたのだ。

 凄い高さから飛び降りて来たな……と思いつつ上空を眺めていると、落ちてくるものが人間より遙かにデカいものだと気づく。


「あれはなんでゴザルか?」

「多分……ロボットですね…………やばいぞ! 皆砂浜から離れろ!」


 俺が叫ぶと参加者は一斉に走って逃げる。

 ヒューン……ズドンっと隕石でも落ちたような落下音と同時に、真っ白い砂が衝撃によって巻き上がった。


「ゲホッゴホッ……一体何が降って来たんだ?」


 砂煙が晴れてから見やると、そこにあったのは全長約8メートルほどの人型の機体だ。恐らく月光とほぼ同型の対BM専用機。

 ただしデザインは月光とはかなり異なり、真っ赤なボディにアメフト選手のような頭部ヘルムとデカい肩部アーマー。背中には銃火器を装備していて、見たまんまを言うならガトリング砲を背負った巨大なアメフト選手。

 もはやGアメリアの偏見の塊で出来たような機体だ。

 腕に捕まれていたエクレがペッペッと砂を吐き出しながら、ぴょんと跳び下りると俺の方へと走って来る。


「たっかなしさ~ん」


 エクレは嬉しそうに俺の腹に体当たりを入れると、俺の体はくの字に折れ曲がった。


「おごぅえ」

「すみません、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫。ど、どうしてここに?」

「あの、わたしもこのコンテストに参加することに決めました」

「なぬ?」


 ってことは遅れてきた参加者ってのは彼女で間違いないのか。

 しかしそれだと、エクレのプレゼントを得るために参加したコンテストに、本人が参加しては本末転倒ではないだろうか?

 彼女は振り返ると輝刃の方を見やる。


「姉さん、わたし小鳥遊さんが姉さんの婚約者だと信じたわけじゃないですから。今回はそれを確かめに来ました。乙姫アビス姉さんにも許可はとってます」


 彼女はWフォンをかざすと立体映像が投射される。どうやら録画した3D映像を流しているようだ。

 立体映像には背の高い女性が腕組みしている様子が映し出されている。

 しかしながらなぜか薄暗い部屋で撮影されており、シルエット以外はっきりしない。これが輝刃たちの一番上のお姉さんだろうか?


「輝刃……婚約者が見つかったそうね。おめでとうと言ってあげたいところだけど、あなたが口から出まかせを言っている可能性も十分考えられるわ」


 女性の声は低く重々しい。威圧感が映像越しに伝わり、まるで悪の首領の言葉を聞いているようだ。


「小鳥遊という男性、調べさせてもらったけど叢雲に相応しいとは思えない。あなたがこの男性を婚約者にした理由が不明瞭よ」


 言い方はそんなにきつくないのだが、トーンの問題だろうか。母親が静かな口調でキレているみたいで目茶苦茶怖い。例えるならウチの姉様が四天王なら、この人は魔王的な圧がある。


「家まで直接説明に来てほしいのだけれど、そこで愛だの恋だのが理由と言われても私にはわからないから。条件をつけるわ。その島でイベントが行われるのでしょ? ならそこでエクレールに勝ってみせなさい」


 サバイバル対決だと科学者のエクレと、レイヴンの輝刃なら明らかに輝刃の方が有利だと思うが。


「当然身体能力はあなたの方が優れているのは知っている。だからハンデとしてエクレールのペアにはセントルイスの優秀なレイヴンをつけたわ。名前はルイス【ギャラクシーオービット】というチームのリーダーよ」


 ギャラクシーオービットって確かセントルイスの看板チームだった気がする……。それのリーダーってことは多分出雲で言う白兎さんクラスってことじゃないか?


「ルイスの身体スペックはあなたを遙かに上回っている。もしエクレ、ルイスペアに勝てたら小鳥遊悠悟を正式な婚約者として認めてあげてもいいわ。だけど……負けたら大人しく家に帰って来て見合いを受けなさい。今回は無理矢理にでも連れて帰るわよ……」


 ぞわっとする威圧的な言葉を残し、通信は途切れた。

 輝刃もマジでやべぇと言いたげに顔を青くしている。


「か、勝てばいいのよ勝てば……」


 勝てばって、お前既に汗だくじゃねぇか。


「あれが一番上のお姉さんか?」

「違う、あれはママよ」


 お前の母ちゃん怖すぎだろ。冗談でもお義母さん娘さんを僕に下さいなんて言えないぞ。

 ってかなんで母ちゃんなのに愛だの恋だのがわかんないんだよ。

 まさか無人島で姉妹対決になるとは。

 対戦相手のルイスって人はどこにいるんだ?

 周囲を見渡してもエクレしかいないし、学園艦ももう高度を上げて帰投している。

 残っているのは空から降ってきた、あの真っ赤な機体だけだが。


「エクレ、あの機体はなんなの?」

「すみません、ご紹介が遅れました。あれはセントルイスで試験運用されていた月光の兄弟機に当たる、対BM専用試作人型機【スターチャリオット】です。ルイスはそのパイロットでもあります」


 Gアメリア産の機体か。あんな酔狂な物造るのは陽火だけだと思ってたが、他国も裏で開発してたんだな。


「ルイス、出てきてください!」


 エクレがスターチャリオットに声をかけると、真っ赤な機体の胸部がプシューっと音を立てて開く。

 その様子を参加者全員が固唾を飲んで見守る。


「多分凄まじいガチムチが出てくるぜ」

「拙者アーノルドシュワルツビネガーみたいなコマンドーが出てくると予想するでゴザル」


 残念ながら俺も猿渡と戦国先輩の意見に賛成だ。

 多分バンダナにタンクトップ、迷彩ズボン、アサルトライフルを持ったルイス・スタローンさんだと思う。

 勝手な予想を立てていると、スターチャリオットから人影が姿を見せる。


「ハローボーイズ」

「えっ……なにそれ……」


 コクピットから出てきたのは、星条旗ビキニに腰にガンベルトを巻いたブロンド美女。

 ウェスタンハットにシェリフブーツと、格好はセクシーカウガールと言ったところか。

 さすがGアメリア刺激的な姿をしてらっしゃると思うが、特筆すべきはそのあまりにも巨大な胸である。

 その圧倒的なボリュームに夢を詰め込んだ膨らみ。その威圧感に戦国先輩は腰を抜かし、猿渡は顎が外れたのかと思うほど口を開いている。


「な、なんでゴザルか。あのダイナマイトガールは!?」

「さ、猿渡、戦闘力を測れ!」

「あ、あぁ……」


 猿渡がエアスカウターを構え、ピピピと口SEを発しながら女性レイヴンを見やる。


「戦闘力103、104、105、ぐあっ!」


 エアスカウターはあまりの戦闘力に耐え切れず爆発を起こした。


「か、怪物でゴザル! 例えるならば15世紀に陽火に来訪した黒船! 当時その巨大で威圧的な船を見た住民たちは、あまりの恐ろしさに裸足で逃げ惑ったと言われているでゴザル!」

「こ、殺される……みんなあの乳に飲み込まれて死ぬんだ……」

「何バカなこと言ってんのよ」


 輝刃が俺たち3バカの頭をサンダルでパーンパーンパーンとはたく。

 ルイスはスターチャリオットから飛び降りると、男達の顔が胸のバウンドに合わせて上下する。

 彼女は人懐っこい笑みを浮かべながら、俺たちの元へと走ってやって来た。

 その時の揺れが凄まじい。


「ハーイボーイ、ミーはルイス。ボーイがフィアンセかしら?」

「ま、まぁはい……」


 ダメだ胸から視線が外れねぇ。畜生、白兎さんみたいな魔眼がついてるんじゃないのか? なんだよこのふてぶてしい胸は。星柄のビキニがUSAですが何か? って顔してやがる。

 ルイスは俺を頭からつま先までを見やると、小刻みに頷く。


「ふんふんいいんじゃない? エクレア、お似合いだと思うわよ!」


 ルイスは俺の顔を抱きしめると、良いねとエクレに親指を立てる。

 俺はルイスの乳に顔を挟まれ、ぐにゃりと腰砕けになった。畜生力がでねぇ……これが大国のボディか。


「ル、ルイス! 小鳥遊さんはわたしのフィアンセじゃなくて、姉さんのフィアンセなの!」

「えっ、そうなの? 話を聞いてたらてっきりエクレアにボーイフレンドができたんだと思って――」

「「「違います」」」


 声をハモらせたのは雫さん白兎さん、輝刃だった。

 雫さんは無理矢理俺を引きはがすと、ウチの子とらないで! と俺の顔を胸に抱く。

 俺は雫さんの乳に顔を挟まれ、ぐにゃりと腰砕けになった。畜生力がでねぇ……これが大和の大艦巨乳の力か。


「OKOK、とてもモテモテね。でも最後に勝つのはエクレアだから。今は預けておくわ」


 ルイスは投げキッスとウインクをこちらに寄越して、エクレの元へ戻る。

 あの人Gアメリア人特有のカラっとした明るさがあるな。

 あんな格好をしていても恥ずかしがるどころが、どうわたし綺麗でしょ? と言わんばかりの自信に満ち溢れている。

 これはかなりの強敵になりそうだ。

 そう思っていると、ガルルルと敵意をむき出しにしているのは雫さんと白兎さんだった。

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