DAY1
第35話 うらやま死ね
ハンバーガー事件から数日。
青い空に白い入道雲が見える、日差しの強い日。
俺たち水着サマーコンテスト(サバイバル)参加者は、高速クルーザーで無人島へとやって来ていた。
「ここは一体どこなんだ……」
港を出発してから二時間後、無人島に上陸した第一感想はそれだった。
運営ガイドの話では、この島は親子島と呼ばれているらしく、大きい島の【親島】と小さい島の【子島】が並んで浮かんでいる。
真ん丸い形をした島にはヤシの木みたいな針葉樹が生い茂っており、南国感が凄い。
深い青をした海は眩い日差しを反射してキラキラと輝き、水の中にはカラフルな魚が群れをなして泳いでいる。
多分陽火領内だと思うのだが、こんなハワイアン的な無人島あったのだろうか?
俺達参加者はクルーザーを順次下りて、親島へと上陸する。
この島でオタクたちの熾烈なサバイバルデスマッチが行われるのか。
そんなことを考えていると、クルーザーからカメラマンを連れた少女が跳び下りる。
「きゃるるん☆ しほるん無人島にとうちゃーく☆」
ビデオカメラに向かってWピースする、しほるんことコスプレイヤー静ノ宮しほるさん。
アキバシティで出会ったエロコスプレイヤーの彼女も参加するらしく、随伴しているカメラマンに笑顔を振りまいている。
どうやら動画を録画し、後日サバイバルの様子を配信するようだ。
「別に録画禁止とは書かれてなかったしな」
というか、むしろ運営側も配信を推奨しているらしく、水着以外に唯一持ち込み可能になっていたのが耐水カメラだった。多分イベントが大きくなってほしいからだとは思うが、欲しい人は貸出してくれるらしい。
まぁ壊しそうなので借りないが。
それにしてもしほるんを映しているカメラマンが、クーラーボックスみたいなカメラケースやストロボ反射用のデカい傘を持ち歩いていて、いかにもプロっぽい。
しほるんはクルーザーの影に隠れて、着ていたシャツを脱ぎだす。
「や~ん、しほるんの生着替え見ちゃダメ~☆ 見たかったら~チャンネル登録してね☆」
わざとらしく恥ずかしいアピールをするしほるん。
さすがエロコスプレイヤー、お尻を少しチラ見せさせながらチャンネル登録をお願いする辺りプロ根性を感じる。
「コスプレイヤーも大変なんだな……」
あのお尻一つでさぞかし動画の視聴率も伸びる事だろう。知らんけど。
「オレああいう羞恥心のない女子ってないわ」
「拙者もでゴザル。女子は恥じらいを持ち、常に男の三歩後ろをついて行く大和撫子以外認めんでゴザル」
好き勝手なことを言う二人の眼鏡。それは出雲の悪友猿渡と、戦国先輩だった。
「なぜお前らがここにいる」
「「なぜって、そりゃグッズの為だよ」」
声をハモらせる二人
「まさかこんなところで生産終了になった、武蔵堂の織田信長フィギュアを手に入れられるチャンスが巡って来るとは思わなんだでゴザル」
「オレもピンキーちゃん(地下アイドル)のお宝グッズが手に入るとは思ってなかったっす」
どうやらこの二人も賞品に釣られて参加した口らしい。
「もう既に賞品を手に入れたような口ぶりだな」
「この賞品に集まって来るオタク共なんかに負けるかよ」
「左様でゴザろう」
巨大なブーメランが猿渡と戦国先輩に突き刺さる。
「猿渡氏のアクティブ能力と、拙者の知識があればサバイバルなど余裕でゴザル」
まぁ確かに一応この二人もレイヴンだし、一般の参加者には負けないと思うが。
「いや~んエッティ~☆」
しほるんは未だに尻を振りながらカメラに生着替えを見せつけている。
うむ、正直きっつい。ネットの噂ではしほるん35歳と聞いたが本当だろうか。
「全くお下品な女子は好かぬでゴザル」
「オレもっすよ。なんていうか自分から見せつけてくる女って全く興奮しないんすよね」
猿渡たちはストイックなことを言っているが、前屈みになりながらしほるんの生着替えをガン見している。
「お前ら……」
向こうは多分ビジネスでやってるので、下品上等と思ってそうだが。
「暑いわね」
「……焦げる」
男達の視線がしほるんに釘付けになっている中、先日購入した水着を身に着けた雫さんと白兎さんがクルーザーから降りてきた。
健康的な小麦肌に白いレオタード水着が映える白兎さんに、メタリックブラックの水着に特盛スイカップが無理矢理押し詰められた雫さん。
男達の視線が一気にしほるんから剥がれ、ウチの姉様方に集中する。
そりゃそうだ、脱ぐと凄いってレベルじゃないからな。
「いや、やっぱり御剣殿と牛若殿は反則だと思うでゴザル」
「戦闘力99、100、101、102まだ上昇していくだと? 化け物か?」
戦国先輩は震えながら眼鏡のつるを持ち上げ、猿渡はエアスカウターで胸囲力測定をしながら戦慄していた。
しかもこれで終わりではなく、更に真っ赤なビキニが眩しい金ピカツインテが登場する。
「あっつ……」
不快気に零す輝刃。先日エクレと会ってから微妙に機嫌が悪い。
「悠悟、今ここは天国に一番近い島だと思わないか?」
「無人島だけどな」
「拙者彼女達の水着姿を脳内に焼き付けるでゴザル」
「カ、カメラ、カメラ借りてこよう!」
猿渡は大慌てで運営の元へと向かう。
「ダーリン、暑いんだけど」
「我慢しろハニー。皆暑い」
輝刃は使えないわねと言いたげにツインテを弾くと、波打ち際をサブサブと歩く。
エクレとの姉妹邂逅の後、一応俺たちは付き合っているという体で
ちなみにいらぬ混乱を招かないように、雫さん達には偽の関係であると既に伝えてある。
「何も知らずにダーリン、ハニーなんて言ったら雫さん倒れそうだしな……」
ふと横目に、雫さんがバッグからサンオイルを取り出そうとして前かがみになっている後姿が見えた。
雫さんのパレオが爽やかな風に揺られ、フワフワと揺れている。
俺は悪戯心で後ろからそろりそろりと近づき、勢いよくパレオをめくった。白くむちっとしたお尻と、食いこみ気味の水着が覗き、得した気分になる。
「ひゃん!」
雫さんは顔を赤くして「もう悪戯しちゃダメよ」と優しく言う。優しすぎて全く抑止力のない注意。
男の子はいつだってスカートめくりをしたいのだ。また後で忘れた頃にしよう。
雫さんと遊んでいると、白兎さんがサンオイルを自分の体にぶちまけているのが見えた。
「あっ、白兎さんサンオイル零しちゃいました?」
「……これでいい」
「?」
白兎さんは胸元にぶちまけたテカテカのオイルを、俺の背中で拭くようにこすりつける。
「男女の体でオイルを伸ばす、これが正しいサンオイルの塗り方って爺が言ってた」
それはただのスケベ爺なのではないでしょうか?
でも爺ナイスと言わざるを得ない。
二つの褐色スライムが背中を這いずっていると、他の参加者の視線が集中してしまい、凄まじく照れる。
その様子をじっと見ていた雫さんが、わざとらしくサンオイルのボトルを零そうとしているのが見えて慌てて止めた。
散々オイルを塗り終わった後、白兎さんにそれは間違った知識だよとコンコンと説明し、最終的には出雲の風呂場で二人きりのときならOKという結論に至った。
「ふぅ、説得も大変だぜ」
ヤレヤレと息をつくと、猿渡と戦国先輩が俺の肩をガッと掴んだ。
「なぁ悠悟、正直に話してほしい。呼び方がダーリンとハニーになってるが、お前は龍宮寺さんと付き合ってるのか?」
「ツ、ツキアッテルヨ(棒)」
「では牛若殿とは一体どういう関係でゴザルか?」
「イ、イトコダヨ」
「じゃあ御剣先輩とは?」
「仲良シチームメイト?」
「ほう、ではまとめると出雲人気ナンバー1を誇る龍宮寺殿と付き合っていて、出雲姉ランキングナンバー1の牛若殿にセクハラし放題で、出雲最強ランキングナンバー1の軍神御剣殿に体でオイルを塗らせる間柄と」
「まぁ……そういう見方もあるんじゃないでしょうか」
俺が濁して言うと、猿渡はすさまじくキレの良い下段蹴りを入れこちらの体勢を崩すと、戦国先輩と一緒に俺をタコ殴りにする。
「オレは自分の子供を虐待する親と、龍宮寺さんと付き合ってる男は殺しても良いと本気で思ってる」
「左様、拙者も並の彼女ができたくらいであれば、男として涙をのんで祝福するでゴザルが、龍宮寺殿や四天王のお方たちはギルティでゴザルよ」
猿渡と戦国先輩は清々しいほどの嫉妬心で俺を蹴って来る。
「いやちょっと待って君ら! 本気で蹴らないで!」
「「死ね、うらやま死ね!」」
じゃれているというより本気で傷害事件になりつつある。
ドタバタしている俺たちを無視して、コンテスト運営が拡声器を持って声をあげる。
「すみません、遅れてくる参加者がいますので、しばらく島内でお待ちください!」
無人島に遅れてくるとかできるのか?
すると不意に島に影がさした。何だ? と思い空を見上げると、そこには巨大な航空艦の姿があった。
艦にはいくつもの砲塔が装備されており、武装航空母艦かと思ったが、よくよく見るとその正体が学園艦であることに気づく。
「マジかよ……」
「フリーダム級学園都市型艦セントルイス。Gアメリアの最新鋭学園艦でゴザルな」
「道理で良いエンジン音してると思った」
学園艦特有のターボエンジンのキーンという音が耳に響く。
一体どんなバカが学園艦で乗り込んできたのか? 少なくともまともな頭の構造はしていないだろう。
そう思っていると、艦の甲板で少女がこちらに向かって手を振っていた。
「小鳥遊さ~ん!」
「…………」
俺と輝刃の顔が同時に引きつる。
甲板でピョンピョンと飛び跳ねる少女。それは輝刃の妹エクレで間違いなさそうだった。
「なぁ龍宮寺、お前の妹学園艦持ってるのか?」
「持ってるわけないでしょ。あの子一応技術協力者としてセントルイスに所属してるの。まぁ研究者だから体力面とか全然ダメだけど、科学者としては本物の天才だから
「学園艦をタクシー代わりにするとは恐れ入る……」
「あの子たまに目的の為に常識が吹っ飛ぶことあるのよね……」
「あぁマッドなサイエンティストにありがちな奴だな……」
「たっかなしさ~ん」
笑顔で手を振るエクレ。
するとまた背後に殺気が立った。
「なぁ悠悟……まさか、あれもお前絡みなのか?」
「拙者そろそろ本気でキレてしまいそうでゴザル」
まずい、このままだとサバイバルが始まる前に私刑にされそうだ。
しかし彼女がこの島に現れたということは……。
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