第21話 白兎暴走Ⅱ
「作戦ターーイム!!」
皆がシリアスな雰囲気になっているところを、ぶち壊しにする大声を上げる。
「ど、どうしたのユウ君?」
「犬神さん、雫さんお話があります!」
「後にせい。わっちらはこれから奴を止めねばならん」
「大事なことなんです!」
「くどい!」
完全に聞く耳持たずの犬神さん。
くぅこの石頭め。それだけ彼女の覚悟が本物ということだろう。
しかしここで引き下がるわけにはいかない。
仕方ない使いたくはなかったが……。
俺は
「どきなんし……。冗談も時と場合を考えよ」
「ごめんねユウ君……少しだけ待ってて」
何を言っても無駄そうな二人の顔を見て、俺は小さく息を吐いた。
彼女達は今完全に戦士の顔になっている。
物言わぬ破壊者と化した友に引導を渡す。それも自分たちの命を賭け、刺し違えてでも倒すと言う強い意志。
ある意味、仲間であり友でもある者の最大の優しさ。
しかしそんな優しさ俺は認めない。
「わかりました。じゃあ俺にも考えがあります」
「「?」」
目には目を。歯には歯を。覚悟には覚悟を。
震える手を握りしめる。
もしかしたらこれをすると俺は死ぬかもしれない。
だけど、彼女達が命を賭けて戦う決意をしたのと同じくらい、俺は仲間同士で殺し合ってほしくないと思っている。
「だからこそ俺はやるんだ!」
俺は目にも止まらぬスピードで犬神さんの着物の裾をまくり、雫さんの胸を鷲掴んだ。
淡いブルーの下着を晒す犬神さんと、呆気にとられる雫さん。
二人は時間が止まったようにシリアス顔で固まっている。
しかし3秒ほどして――
「お前お前お前お前お前お前お前お前!!」
真っ赤な顔をした犬神さんは銀色のキセルで俺をどつき回す。
「死ね死ね死ね死ね死ね!!」
なぜか輝刃が俺を蹴り倒すと、ローキックを連打してくる。
「お前関係ないだろ!?」
「牛若先輩のかわりよ!」
当の雫さんは。
「ゆ、ユウ君、ダメよそういうのは。場所を選んでくれないと……」
満更でもなさそう。
よし、俺の空気に引き戻した。
俺は蹴られながら言いたいことをそのまま叫ぶ。
「二人とも刺し違えてでも仲間を殺す覚悟があるなら、命を賭けて仲間を救う覚悟をして下さいよ! レイヴンも学園艦も人を救うために造られたものです! 俺たちが救うべき命の中にはレイヴンも含まれているはずだ!」
「!」
「だから俺は例えあなた達が諦めたとしても、白兎さんを救うことを諦めない」
犬神さんと輝刃の蹴りがピタリと止まる。
するとヤンキー先輩が口を挟んだ。
「わっち女、そいつはお前らを止める為に、無理やりピエロやってんだ。後輩の心意気をわかってやれ」
「…………」
「あと……お前に水色のパンツは似合わねぇぜ? 着物ならフンド――」
優しく諭すように言ったヤンキー先輩はキセルでどつかれて昏倒した。
大丈夫かアレ。頭蓋骨陥没したんじゃないか?
「お主は黙っておれ。白兎がこれ以上誰かを傷つける前にわっちらが止めてやらねばならん。それが例え奴の命を奪うことになったとしても。それが仲間の務めじゃ」
「そんなの違う!」
「なにがじゃ」
「そんなの正義の味方じゃない! 俺たちは正義を行う為にレイヴンになったんだ! 自分に胸を張って言える正義の為に! 苦しんでる仲間一人救えない正義の味方が一体誰を救えるって言うんだよ!」
自分でも青臭いことを言っているのはわかっている。
しかしそれでも伝えなければならない。
「犬神さんには聞こえないのか!? 白兎さんの苦しむ声が! 助けを求める声が!」
俺は破壊活動を続ける白兎さんを指さす。
「…………」
近づくもの全てを斬り伏せる獰猛な肉食獣と化してしまった友を見て、犬神さんは一瞬固まる。彼女は悲し気な目をして俯いた。
そして過去を反芻するように瞳を閉じる。
「あ奴は……口数は少ないが、正義にはこだわる奴じゃ。わたしは……祖父と交わした約束の為、正義を行うものになると」
犬神さんは大きく深呼吸すると目を開く。
「きっと今の姿は無念じゃろうな……」
「白兎さんを救えるのは俺達レイヴンしかいないんです! 俺は誰かを終わらせる人間じゃなく、救う人間になりたいです!」
「…………小鳥遊。そなたにとっての正義はなんじゃ?」
「俺の正義は白兎さんを元に戻し、また皆でレイヴンとして活動することです」
「正義というわりには小さいな」
「今の俺にできる精一杯の正義は、チームを守ることです」
俺は白兎さんを救いたいのと同じぐらいの気持ちで、犬神さん達に仲間殺しの十字架を背負ってほしくない。
きっと仲間をその手で殺めてしまえば、その後の人生で心から笑うことができなくなってしまうから。
人を救うことは人の幸せを守ることに繋がる。助けを求める人も自分より悲しみを背負っている人に助けられたくはないはずだ。
俺はただただ強く犬神さんを見据える。
それで意図を汲んでくれたのかはわからないが、彼女はここで初めてキセルに火をつけ煙を吐いた。
「小鳥遊。お前は戦士には向かんな」
「すみません。足手まといのくせに勝手なことばかり言って。でも、自分を曲げたヒーローにはなりたくありません」
「ヒーローか…………奏……すまんな。もう少しだけ足掻かせてもらう」
話を聞いていた大巳先輩は、小さく息を吐くと厳しい目つきになる。
「最悪私はお前らごと討つぞ」
「構わん。どのみち刺し違えるつもりだったから一緒じゃ。好きにしなんし。雫、お前もそれでよいな?」
「ええ勿論大丈夫よ。頑固な葵ちゃんを動かしたんだから。ねっユウ君?」
雫さんはニッコリとほほ笑んで、俺の肩を叩いた。
「して、策はあるか?」
「勿論」
「ならその策、申してみぃ」
犬神さんがそう言うと、昏倒していたヤンキー先輩が復活し、話に割って入った。
「オイ、俺様が作戦時間稼いでやる」
「ありがとうございます、でも大丈夫ですか?」
「後輩がパイセンの心配してんじゃねぇよ。なに、あの死んだふりしてる筋肉ダルマどもを起こせばなんとでもならぁ」
「ほうっておけ、そ奴はただ単にカッコつけたいだけの阿呆じゃ」
「うるせー青パン」
「あ、青パ――」
「オラァかかってこいや御剣! テメーを倒して出雲最強の看板いただいてやるぜ!!」
ヤンキー先輩は金属バットを振りかざして時間稼ぎをしにいってくれた。
「小鳥遊。わっちに変なあだ名をつけてくれたお主の罪は重いぞ」
猫なで声の犬神さん。それが逆に地獄の果てまで追っていくからなと言っているように聞こえる。
「……は、はい、頑張って贖罪いたします」
ヤンキー先輩のくれた余計な一言(×)貴重な時間で全員に暴走の正体と作戦を話す。
◇
俺の話を聞いて雫さんと犬神さんは大きく呻る。
「主の話を信用するなら、白兎はウイルスに犯された
「いくつかあります。白兎さんは普段使わないバトルジャケットの機能、パワーアクセラレーターによる筋力強化、
ヤンキー先輩に出来るだけ距離をとって戦って下さいとお願いした。
すると、白兎さんはあろうことか、バトルジャケットの脚部に装備された拳銃を使い始めたのだ。
タンタンタンと連続で銃声が響く。ヤンキー先輩は弾丸をキンコンカンと鉄琴のような音を響かせてバットで弾いた。
「なっ!? 白兎さんが銃を使ってる!?」
「やっぱり」
彼女が今まで銃を使っているところは一度も見たことがなく、皆驚いている。
しかもかなり狙いが正確だ。恐らくシステムによる射撃補正がかかっているのだろう。
輝刃は眉を寄せて腕組みする。
「これはどういうことなの?」
「多分だけど、白兎さんを乗っ取ったヘルムは彼女の体を使いつつ、敵に対して最善の戦闘方法を選択するようになってる。いわば格闘ゲームのAIが白兎さんの体を使って戦ってるのと同じなんだ。AIにはポリシーなんてものはないから、遠くの敵には距離を詰めるより遠距離武器を使う」
「遠距離攻撃は反撃を受けるリスクが少ないから。ってわけね」
輝刃の言葉に頷く。
「その通り。奴は常にリスクとリターンの管理をしていて、リターンが大きい方の選択肢を選び続けるんだ」
「小鳥遊君の言うことが正しいなら、遠距離攻撃を続けて、弾切れを狙えばいいってこと?」
「そうなると選択肢が消えて、スピードマニューバを使いながら接近攻撃が増える。もしくはさっき雫さんに使った龍を飛ばす技を使うと思う」
「ならどうするのじゃ? ヘルムが弱点とわかっているなら魔法や銃で狙撃するか?」
「やめといた方が良いと思います。多分ですけど、もしこちらがヘルム狙いの遠距離攻撃に切り替えたら、奴は弱点がバレたと気づき、最優先で銃持ちや術式詠唱を行っている人間を殺すようにパターンがかわると思います」
「賢い奴じゃな」
「はい、あのAIは戦いながら定石に乗っ取りつつ学習しています。ただそこに弱点があります」
「と、言うと?」
「あのAIはまだうまく白兎さんの体をコントロールできてません。
上級レイヴンを仕留めきれずにいるのはそこにある。
あのウイルスAIは白兎さんのポテンシャルを持て余しているのだ。
俺たちの話に雫さんはう~んと首を傾げる。
「ユウ君、根本的なことを聞くんだけど、そのウイルスって普通はコンピュータに感染して機能障害を起こすのよね?」
「うん、そうだよ」
「それは人間にも効果あるものなの?」
「基本人間の脳って電気信号を送り合って、知覚、認識、記憶、再生、再認、命令を行ってる。
「目が見えなくても、あのヘルムを被れば目で見たものと同じ情報が頭の中に入って来るってことよね」
「そう。本来はそういった知覚補助的な機能しか持ってないんだけど、このウイルスはBDTを介して脳に悪質な電気信号を流し、脳の中枢機能を麻痺させるんだ。ウイルスAIはその間に脳の命令機能を乗っ取って白兎さんの体をコントロールしてる」
ブレインジャックと呼ばれるテクノロジーで、勿論このようなウイルスプログラムを組むこと自体犯罪だ。
「つまり本当の白兎ちゃんは悪いウイルスが身動き取れないようにしていて、その間ウイルスが脳の役割をしてるってこと?」
「うん、今現在白兎さんの意識があるかまではわからないけどね。まぁざっくばらんに言えば電子寄生虫だよ」
「BDTの機能を悪用されてるわけね」
「そういうこと。それで最初の話に戻るんだけど。俺が白兎さんの攻撃を全部引き受けて動きを止めます。その間に龍宮寺と犬神さんでヘルムを狙撃して下さい」
そう言うと輝刃は「は? バカなの? 死ぬの?」と言いたげな表情を浮かべる。
「そんなことできるわけないでしょ? 白兎先輩の射程に入ったら上半身と下半身が真っ二つに分かれるわよ? 上級レイヴンですら凌ぐのがやっとなのに」
「逆に聞くが、なんで真っ二つに分かれるんだ?」
「なんでって、あの”刀”の切れ味を見たらわかるでしょ?」
俺は輝刃に
「あんたまさか……」
「ありったけの土と砂、鉄を集めてくれ。俺のコレクションの化石も使おう。相手が最強の攻撃力ならこっちは最強の防御力で行く」
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