第19話 エアダクト
艦内爆発事故の報せを受け、災害救助モードに設定された30機のオートマトンが次々に起動していく。
宗形先輩の
『虎子、消火剤の準備を機械工作科でできるか?』
「できるっつか、それより良いもんが今日入った」
『まさか、もうオートマトンが動かせるのか?』
「ああ、さっきセットアップが終わった。人間にやらせるよりよっぽど確実だ」
『了解した。火災状況図を送る。お前の采配で配備してくれ』
「ってかどうなってんだよ。お前ら御剣に無理難題投げすぎてキレたんじゃないだろうな?」
『こっちでも状況がよくわかっていない。御剣がなんらかの要因で暴走状態にあることは確かだ』
「ああいう静かな奴ほどキレるとこえぇんだぞ。お前みたいに陰で動物イジメてる奴にはわからんだろうが」
『イジメとらんわ! むしろ猫飼ってるわ!』
「その猫、目が見えないとか、脚一本ないとかじゃないだろうな」
「虐待なんかしとらんわ! さっさとオートマトンを配備しろ!」
キレる大巳先輩。
あの人猫飼ってるんだな……。
ちなみにだが大巳先輩と宗形先輩は超仲が悪く、犬猿の仲ならぬ虎蛇の仲と呼ばれている。
ヤンキーと委員長が仲悪いのはいつの時代もかわらないということか。
二人が言い争ってる隙に俺と輝刃は格納庫を走る。
「すみません、宗形先輩! 俺達白兎さんを見に行ってきます!」
「あっ、おい上級レイヴン以外行くなって命令出てるだろうが!」
「ごめんなさい!」
そうは言われてもチームメイトの身に何があったか確認したい。
違うとは思うが、ストレスでプッツンきてしまったとかならジャンピング土下座しなければならないだろう。
宗形先輩を振り切って、俺と輝刃は急ぎE13区画へと向かう。
するとすぐに目の前を巨大な防火扉が塞ぐ。
「小鳥遊君、この隔壁開かないの!?」
「ちょっと待て!」
俺はRFを使い、災害時に自動で閉鎖する隔壁にアクセスする。制御システムにハックツールを走らせ、ロックを解除していくと閉じられた扉は左右に開かれた。
「やるわね機械工」
「ハッキングツール使ってるから学園には言うなよ」
「一緒にとぼけてあげるから安心して」
「悪いお嬢様だ」
金属の床をカンカンカンと足音を響かせ、俺と輝刃は艦内廊下を走り抜ける。
赤色灯と、警報が鳴りやまないので不安をかきたてられるな。
避難してくる下級レイヴンや見習いレイヴンたちの流れに逆らいながら、いくつかのブロックを移動していくと、今度はさっきより更に巨大で重厚な隔壁が俺たちの行く手を遮った。
俺はすぐさまハッキングを試みるが、さっきの防火隔壁と違い、ブロックを隔てるモジュール隔壁のハッキングはそう簡単にはいかない。
「くそ、ダメだ!」
ハッキングツールにはエラーのメッセージが並び、何度もハッキング方法を変えてトライするが結果は同じだ。
「開かないの!?」
「こっちのは出雲の制御システムと直結してて、プロテクトが硬い。開くのに時間がかかる!」
俺たちが困っていると、後ろから爆乳忍者ではなく、戦闘服に着替えた雫さんが丁度合流する。
「ユウ君!」
「雫さん!」
「E13に行きたいんだけど、周りの隔壁が下りてて中に入れないの!」
どうやら雫さんも俺たちと同じ状況に陥っていたらしい。
「E13ってここからどれくらいあるの?」
「ここがCブロックだから2ブロック先。雫さん、こう忍術的な何かでなんとかならない?」
「これだけ分厚い隔壁だと、私でも無理よ」
そりゃそうか、個人の力でなんとかなってしまう隔壁なんて意味ないしな。
ならばかくなる上は。
俺はハッキングを隔壁ではなく、空調管理システムに変更し、このブロックの空調を一時停止させる。
「何してるの?」
「空調を止めた」
空調ファンが完全に停止したのを確認してから、壁に備え付けられた、非常用換気システムと書かれた手動ハンドルをグルグルと回す。
すると天井のエアダクトがゆっくりと開いていく。
「上から行こう!」
あそこから隔壁を超え、Eブロックまで行くことは可能だ。
二人は苦い顔でエアダクトを見やる。
「どうした? 閉所恐怖症とか言わないよな?」
「「入れる……かしら(真顔)」」
俺は輝刃の尻と、雫さんの胸を見やる。
「…………大丈夫だろ……多少伸縮するし」
輝刃のケツを無理やりダクトに押し込み、次に俺が入り、雫さんを中から引きずり込む。
幸い入り口以外はそこそこ広く、四つん這いで動けるほどだ。
狭いエアダクトを輝刃、俺、雫さんの順に進んでいく。
「ほんとよくこんなこと考えつくわね」
「昔猿渡とダクト通って女子浴場を覗きに行こうとしたことがある」
「悪知恵の産物ってわけ」
「怒らないのか? 龍宮寺こういうの厳しそうだと思ったが」
「どうせ失敗したんでしょ?」
「当たり。空調とめるの忘れてて、湯気で顔面火傷して帰った」
「バカね。ってか、このダクト長いんだけど。ほんとに合ってる?」
俺はRFで自分達の現在位置を確認する。
「今Dブロックだ。ここで降りてもいいが、また隔壁が下りてたら面倒だからこのまま突っ切ろう。もう少しだ、頑張れ」
「何よ……優しいこと言うわね」
輝刃は励まされて、ほんの少しだけ声を弾ませる。
あぁ、可能ならばこのダクトが永遠と続いてほしいと願う。
「意外と小鳥遊君って根性あるし、そこそこ機転も……」
輝刃は振り返って、ようやく自分の短すぎるスカートのせいで、ずっと俺の顔の前でパンツ晒しながら四つん這いになっていたことに気づく。
「バカ、アホ、変態! 死ね! スケベなのが全てを帳消しにしてるわ!」
後ろ蹴りを連打してくる輝刃。
「お前がスカート短いくせに先頭行くのが悪いんだろうが!」
「気づいてたなら言いなさいよ!」
「おやおや龍宮寺さん、おパンティーが丸見えですよって言ったら、それでも怒るだろうが!」
「言い方が変態臭いのよ! 場所がえして! 牛若先輩と入れかわって!」
「この狭いダクトでそんなことできるわけないだろ! 雫さんの体を考えろ!」
そう言うと、後ろの雫さんはなんとか俺を追い越そうと、俺の体に覆いかぶさりながら無理やり前に出ようとする。
「雫さん無理だって!」
「ふ、太くないもん」
「そういう意味じゃない! 物理的に二人は通れな――」
「太くないもん!」
雫さんの変な勘違いと意地が出てしまった。いつもは人妻的雰囲気を纏う雫さんだが、たまに子供っぽくなったりする。
俺の体を雫さんの爆乳が撫でて行き、頭の辺りで完全に詰まった。
「「助けて」」
「バカ姉弟……」
ダクト内で肉の塊となり身動き不可となってしまった俺と雫さん。
完全密着状態で全く動くことが出来ない。
「ぐっ、苦しい……」
「ごめんねユウ君」
「牛若先輩、そんな嬉しそうにしてる奴に謝らなくていいですよ」
柔らかい肉に圧迫されて身動きができない……。
幸せ(×)苦しさ(○)を感じていると、突然エアダクトが大きく揺れ、ベキベキと音を立てて折れていく。
「うわ、落ちる!」
「ちょ、ちょっと!」
俺たちの体はそのままダクト下に放り出された。
「「キャアッ!」」
「うわっ!」
一番最初に落下した俺の腹の上に、輝刃と雫さんがドン、ドンっと降って来る。
「おごっ! おごっ!」
「ユウ君、私が重くて落ちちゃったんじゃないからね!」
「あたしも違うから!」
「うるせぇいいからどけ!」
両方重いんじゃと二人を振り落とす。
なんでダクトが崩れたんだと天井を見上げると、俺の真後ろの壁が豆腐みたいに細切れにされ、バトルジャケット姿の白兎さんと押されるようにして後退してくる犬神さんの姿があった。
二人は既に交戦中で、白兎さんの刀を犬神さんが鉄扇で弾き返す。
多分犬神さんが一番に白兎さんと接触し、戦闘になったのだろう。ダクトが壊れたのも、恐らく戦闘の衝撃と思われる。
犬神さんは式神符を放り投げると、下半身のない鬼が現れ白兎さんの刀を受け止める。
多分、
「嘘、犬神先輩式神使うの!?」
「一旦ぶん殴って動きとめないと話にならんって判断したんだろ」
「とめないと! 話せばわかってくれるかもしれないし!」
輝刃は既に殺し合いになりつつある二人の間に割って入ろうとするが、それより先に白刃が煌めきギンッと鈍い金属音が鳴る。
一瞬で犬神さんの前まで詰めた白兎さんが刀を振るが、犬神さんがキセルでそれを受け止めた。
「下がっておれ龍宮寺! このバカ聞く耳をもたん!」
犬神さんの式神が叩き潰す勢いで拳を振るう。
しかし白兎さんは既に居合の構えに入っていた。
マズイ! あれはかわせないぞ!
「ちぃっ!!」
雫さんが間一髪犬神さんの間に割って入り、忍者刀で白兎さんの居合を弾く。にも拘らず犬神さんの首の薄皮が斬られ血が一滴流れる。
やばい。今の一撃、マジで犬神さんの首を狙ってた。
「白兎ちゃん、何があったの?」
「…………」
白兎さんは雫さんの問いかけにも答えず刀を振るう。
なんでこんなことに。
俺が驚いていると、白兎さんのバトルジャケットの関節部が赤く輝く。
「まずい、
バトルジャケットの機能の一つで、自身の筋力を一時的に増幅させる。これを使えば
「ちぃっ! お主いつもそんなもの使っておらんかっただろう! 雫、手加減したら死ぬぞ!」
犬神さんの舌打ちと同時に、強化された斬撃が、出雲の隔壁ごと式神を斬り裂く。
やばい。この狭い空間だと、どうしても刀の間合いに入ってしまう。どうにか場所替えをしないと。
しかしどこに……。
俺はRFで出雲のマップを映し出し、どこか広くて戦いやすい場所を探す。
「上しかないか……龍宮寺、この区画の真上がショッピングエリアになってる。戦場を上に誘導するぞ!」
「わかってるけどどうやって上まで連れて行くの!? エレベーターなんか乗ってくれないわよ!」
「穴開けちまえよ!」
俺は天井を指さす。
「後であたしがやったっていわないでよ!」
「一緒にとぼけてやるから安心しろ!」
輝刃はパンと手を打つと手のひらから真紅の魔槍を取り出し、天井に向けて投擲する。修理など知ったことかと投げられた槍は天板を突き破ってショッピングエリアへと道を繋げる。
「犬神さん雫さん! 上に!」
輝刃は俺の襟首を掴み、大ジャンプで上に上がる。
二人も後退しながら穴の開いた天板から上へと上がる。白兎さんはそれに追撃を仕掛けてきた。
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