第18話 補給物資

 俺は犬神さんと一旦分かれ、雫さんと白兎さんに動画撮影の許可をとりに艦内を歩いていた。


「雫さんなら別に許可なくても大丈夫な気がする」


 むしろチアガールだろうがバニーガールだろうが、どんな衣装でも撮らせてくれそうだ。

 バニーガールで思い出すが、白兎さんの説得どうしよう。あの人淡々としてるから、お願いすると意外とやってくれそうな気もするが、ヤダと一言で一蹴されそうな気もするので反応が読めない。

 そんなことを考えていると、艦内放送が響く。


『学生各位へ連絡します。出雲はあと10分で陽火国、新成田国際空港へと到着。補給物資の搬入を行います。担当学生は格納庫にて受領準備を行って下さい』


「成田か。なんか面白い補給物資でもあればいいけど」


 出雲のホームとも呼べる陽火では、実験を兼ねた新装備などが支給されたりするので、何か目新しいものでもあれば見に行くのだが。

 そんなことを思っているうちに、出雲は新成田空港へと着陸。

 窓の外を見やると、通常の旅客機などは存在せず、全て軍用の大型航空艦しかない。

 それもそのはず、現状学園艦も軍もほとんど航空戦力を保有していない。

 なぜなら最も小回りが利いて、尚且つ戦闘能力の高い軍用ヘリを超える空の覇者、ドラゴンが上空をフラフラと飛んでいるからだ。

 小さい飛行機は奴らのエサと勘違いされ、あっという間に撃墜されてしまう。その為、図体のデカい大型航空艦以外空を飛べなくなってしまっていた。

 飛行型の魔獣はデカさ=強さと思うらしく、自分より巨大な航空艦を襲ってくることは滅多にない。

 武装した軍艦を眺めていると、出雲専用の補給チームが滑走路で待機しているのが見えた。


「……なんじゃありゃ?」


 待ち構えていたのは巨大なトレーラーが4台と、モスグリーンのシートに包まれたコンテナ車が見える。

 トレーラーには【叢雲重工】のロゴマーク。叢雲は出雲のスポンサー企業の一つで、主に装備の支給を行っている。

 これは多分面白いものが来たなと思い、俺は喜んで格納庫へと向かう。


 貨物ハッチの開いた格納庫では、機械工作兵科の学生たちがフォークリフトを扱いながら、補給物資の受け取り作業を始めていた。

 俺はそこで指揮をとっている機械工作科トップの宗形先輩に声をかける。


「先輩なんか新しい装備入りました?」


 作業用のオーバーオールに下は黒のブラジャーが覗く。頭にはゴーグル、手にはでっかいスパナの女性。茶髪で三白眼気味の彼女が我が機械工作科のトップ、宗形むなかた虎子とらこ先輩。

 元ヤンキーで父親が暴走族(×)機械工(○)だったことから、ヤンキーを卒業して機械工作科に入ったらしい。

 口調はきついが、姐御肌なので慣れるとあねさんと呼びたくなる人物。

 かくいう俺も機械工作科ではこの人にいろいろとお世話になった。


「あぁ? 悠悟。テメー面白い玩具が入ったと思って来やがったな」

「はい」

「正直すぎんだろ。最近ちっとも顔ださねぇと思ったら……。まぁいい、テメー手伝え。機械工が足りてねぇんだよ」


 宗形先輩は俺にタブレットを放り投げた。


自律型支援機オートマトン30機に、騎甲甲冑アーマーギア1機、BM殲滅用爆雷S9……」


 俺が叢雲重工からの受領書を読み上げると、機械工作科の生徒が搬入された巨大なシートを取り払う。

 そこには6メートルほどの人型ロボットが、正座するように両膝をついていた。

 頭部には一本ヅノ、鎧武者をモチーフとした真っ白なボディ。腰部に装備された巨大な刀。胸部のハッチは開いており、操縦席が見える。


「叢雲重工製、対BMビッグモンスター白兵戦用人型アーマーギア【月光】」

「かっこよすぎて漏らしそうです」

「うれションすんな。犬か」


 呆れる宗形先輩だが、こんなものを見せられて尻尾振るなと言う方が無理ってものだろう。

 俺は陽火の魔科学の粋を集めて作られた機体を見て、感嘆の息を吐く。

 凄い芸術だ。この重厚な装甲。この威風堂々感。

 ロマンに溢れすぎている。


「これ、どこに配備されるんですかね?」

「知らん。学長か眼鏡に聞け」


 虎子さんの言う眼鏡とは大巳先輩のことである。

 月光は多分どこかのチームに配備されることはなく、式典用に使われそうな気がする。理由は壊すと高いから。

 それでもアーマーギアが出雲に配備されたというのは嬉しい。

 そんな感動に打ち震えていると、格納庫に金髪ツインテのあいつがやってきた。


「あっ、やっと見つけた」


 輝刃は俺を見てツインテを後ろ手に弾きながら、優雅なお嬢様歩行ウォークでこちらに近づいてくる。

 宗形先輩は輝刃を見て、なんじゃあの金ピカと呟く。


「龍宮寺家のお嬢様ですよ」

「なんだ悠悟。お前二次元信仰やめて三次の女に手を出したのか?」


 宗形先輩は小指を立てる。


「それなら良かったんですけどね。あいにくこっちです」


 俺は両手の人差し指を頭につけて、鬼をアピールする。

 人前では猫を被る輝刃は俺を見てニッコリとほほ笑む。


「艦内中探し回ったわ。やっと出会えた」

「運命の相手?」

「ふふっ、面白い冗談ね。小鳥遊君の顔ぐらい」


 切り返しの毒が強すぎる。


「何か用か?」

「あたしの腕時計型生徒手帳RFがおかしくなったから見てほしいのよ」


 俺は輝刃からRFを受け取ると症状を確認した。


「なんだアダルトサイト見て、ウイルスでも踏んだのか?」

「ぐっ、あたしは見てないわよ! ただ、その……なんかそういう広告でいっぱいになってて」


 予想通りこいつのRFは犬神さんから送られてきたウイルスメールによって、アダルト広告だらけになってしまっている。

 事情は知ってるが、しかしここはあえて知らないふりをする。


「…………」

「そ、そんな目で見ないでよ! ほんとにあたしアダルトサイトとか見てないし!」

「見てなかったらこんなことにはならんだろ……」

「ち、違うから……」


 輝刃は顔を真っ赤にして、スカートの裾を握りしめる。


「悠悟、お前好きな子をイジメるタイプか?」

「違います。顔面面白いって言われた報復です」


 しかしこれ以上いじめると宗形先輩に変な勘違いをされるので、本当の原因を教えてやる。


「――というわけで、今犬神さんのメールを開くと自動的にウイルスに感染する」

「…………ほぅ、ということは貴様、原因がわかっていてあたしを煽ったわけね」

「そういうことになりますかなぁ」


 輝刃のショートエルボ―が俺の顔面にめり込む。


「開き直んじゃないわよ。早く直して」

「はい」


 その様子を見て宗形先輩はヤレヤレと息を吐いた。


「なんだ悠悟。やっぱ女じゃねぇか」

「「違います」」


 声がハモる。


「お前と猿渡サルは一生童貞かと思ってたが、まさかこんな上玉見つけるとはな。雫は気が気じゃないだろう。いや、あいつはママだから息子に彼女が出来て喜んでるのか? 複雑な親心だな」


 宗形先輩はブツブツと言いながら、制服姿の輝刃を上から下まで見下ろす。


「先輩、何か勘違いされていますが、自分は小鳥遊君と同じチームなだけですから」

「ただのチームメイトがそんなじゃれ方するかよ。お前多分だけど自己完結型だろ? 人を頼るタイプじゃない」


 宗形先輩が見透かした笑い方をすると、輝刃は虚を突かれたように固まる。その後すぐにカッと顔を赤くした。


「なんだ自分でも気づいてなかったのか」

「うっ……あれっ? ……あたしって……」


 なにか気づいてはいけないことに気づいてしまったような表情をする輝刃。


「?」

「おい悠悟、先に搬入やれ。こっちは時間決まってんだよ」

「うい」


 俺は他の機械工作科と一緒に、オートマトン30機とアーマーギア一機を出雲の格納庫へと搬入する。

 輝刃はその様子を腕組みしながら眺めていた。


「搬入終わったら人形マトン初期設定セットアップやるからな!」

「「ういっす」」


 宗形先輩の指示に低い声で答える機械工作科たち。

 アーマーギアのチェックをしている俺に、輝刃がススっと近づいてくる。


「なんか機械工作科って独特な雰囲気ね」

「別に隠さず言っていいぞ。オタク臭いって。ここにいる全員機械オタ、ゲーオタ、アニオタの集まりだからな」

「オタクっていうか職人っぽい。寡黙に作業進めるとことか」

「単にコミュニケーション能力のステータスが著しく低いだけだ。とりえずアーマーギアはOK。後はオートマトンの方だな」

「ねぇ、このロボットなんなの?」

「陽火の軍用アーマーギア。正式名称は対BM白兵戦用二足歩行型騎甲甲冑月光壱式。魔導コアを核にするロボット兵器」

「軍用アーマーギア? そんなの聞いたことないけど」

「陽火くらいにしかないからな。対BM用兵器として造ったはいいが、コスパが超絶に悪い。こんなもん量産したら国が傾く。一発何百万もするミサイルなんか怖くてなかなか撃てんぞ」

「じゃあなんでそんなコスパ悪いもん造ったのよ?」

「カッコイイだろ?」

「いや、まぁ……そうね」

「…………」

「えっ、終わり!? もっと合理的な理由ないの? お金かかってるんでしょ!?」

「あったらこんなアニメロボみたいなボディしてるかよ。試作機プロトタイプだからって理由で完全に開発の趣味入ってるぞ。こんな採算度外視したロボット作るの陽火ぐらいだ。多分こいつ一機動かすより、Bロシア製の戦車10両動かした方が安くつくし戦果も高い」

「なんで陽火はこんなのウチに送りつけてきたわけ?」

「送りつけてきたのは叢雲重工だから、多分税金対策じゃね? 出雲への寄付は税制優遇対象だし、こいつが活躍すれば叢雲にとってもメリットになる」

「CM兼税金対策で造られたって、見た目に反して世知辛すぎるロボットね……」

「世界的にも陽火はアーマーギアの技術が進んでるって”見栄”にもなるしな。陽火の昔からあるロボットアニメ。あれは実はフィクションじゃなくて、裏で政府が秘密裏に開発していたアーマーギアのことじゃないのか? って各国が疑心暗鬼になる」

「深読みもいいとこね」

「秘密なのにアニメ化してるところが最大の矛盾だな」


 俺は月光のチェックを終えて、次は小さなコンテナに入ったオートマトンのセットアップに入る。

 コンテナから取り出されたのは、人間より少し大きめの真っ黒い長方形の箱。


「箱の中から箱が出て来たわよ?」

「まぁ見てろ」


 金属の箱にしか見えないオートマトンを起動させると、下部から格納されたローラー付きの足が四脚現れる。胴体部についた青いセンサーが光ると『オハヨウゴザイマス』と丁寧にあいさつをした。


「喋るのね」

「アーマーギアと違って、自律稼働型だからな。艦内の整備からパトロールまで自動化できる」


 特に艦外装の修理を行う時はとても頼りになりそうだ。

 俺はオートマトンの機能をチェックしていくと、箱型のボディから作業用アームや整備用のバーナー、対人用のガトリング砲など様々なものが出てくる。


「なんかこっちはさっきのアーマーギアと違って無駄がない感じね」

「本当は美少女メイド型ロボットの登場を願ってるが、実際修理や防衛機能を備えた自律マシンとなると道具が入った箱に手と足とセンサーをくっつけた奴が一番合理的だ」


 オートマトン30機の初期設定セットアップが終わり、俺は輝刃のRFのウイルス駆除を行っていた。


「あのオートマトンこれからどうなるの?」

「多分管理科にわたって、どこに配置するか決めると思う。気をつけろ、これから消灯時間後に部屋の外に出たらあれが巡回してるぞ。あれは陽火製じゃなくてGアメリア製だからハローの代わりに鉛玉の一発でもぶち込んでくるかもしれん」

「アメリアに偏見持ちすぎでしょ」


 そんなもしもの妄想話をしているうちに、RFのウイルス駆除は終わる。


「よし直った。あっ、そうだ龍宮寺、お前にも見てほしいものがあるんだ」

「なに?」


 俺は犬神さんにも見せたチアガールの動画を見せる。


「これを着て踊ってほしい」

「小鳥遊君、竜騎士って本気でキックすると人間の体を半分に千切ることができるらしいの。試していい?」

「待って! これは別に俺の趣味をおしつけてるわけじゃなくてだな――」


 かくかくしかじかでと学長の話を伝える。


「プロモーション?」

「そう、ウチのチームは出雲一美人揃いだろ? だからそう言った宣伝活動には協力しなきゃいけないと思うんだ」

「そのことに関しては反論の余地がないから、協力はするけどさ」


 こいつさらっと出雲一美人ってのを認めやがったな。


「それに犬神さんはこの案に賛同してくれた」

「えっ、犬神先輩が?」

「ああ」

「……あんた、まさかとは思うけど、さっきのウイルスメールとその話繋がってないわよね?」


 鋭すぎる。


「やだな。俺は出雲の為を思ってだな」

「急に胡散臭いこと言い出したわね」

「失礼なことを言うな。地元密着型の政治家と同じくらい、誠実で堅実なマニフェストを掲げてるのに」

「違法献金の臭いがするわ」

「とりあえず今から白兎さんに話通しに行こうと思う」

「あなたが無茶苦茶言わないようについていくわ」

「別に構わんが」


 そう言った直後だった。

 一瞬出雲が変な揺れ方をして、格納庫内のそこら中に工具が散らばる。

 艦内に赤色灯が点灯し、非常警報が鳴り響く。


緊急警戒警報エマージェンシーコール発令。艦内にて爆発事故が発生。上級レイヴン及び、消火班は第二種戦闘配置。速やかにE13区画へ急行せよ。繰り返す。艦内にて爆発事故が発生。上級レイヴン、及び消火班は速やかにE13区画へ急行せよ』


「爆発……事故?」


 輝刃みたいな奴が料理を爆発させたのだろうか。

 しかし宗形先輩は深刻な表情で首を振る。


「……事故じゃねぇ」

「えっ?」

「事故なら上級レイヴンに出撃スクランブルはかからない」

「!」

「チッ、なんだってんだ」


 宗形先輩は舌打ちすると、3Dモニターを目の前に表示させる。

 モニターには爆発を起こしたE13区画が映し出されていた。あそこは訓練場で、もしかしたら銃火器に引火したのかもしれない。

 そう思ったが、煙の中から出てきた人物を見て、俺と輝刃は言葉を失った。

 真っ白なバニーガールのようなコンバットスーツにミリタリーヘルム、長刀を持った女生徒が手当たり次第に艦内を斬りまくっているのだ。


「「は、白兎さん!?」」

「なんだ御剣の奴ご乱心かぁ? 全員人形マトンの電源を入れな! モードを災害発動に設定。こいつらに消火活動をやらせんぞ!」

「了解です」

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