その後の彼女たち7


「そ、そんなの、あの……付き合ってるんだから、そういうのは……その、するでしょ?普通に……」


「そうだけど葵のことだから心配なの。レスになってたりとかしたら尚更心配だし」


「れ、レスとか……、由季と私はならないよ。由季とは……その、ずっと仲良しだし、……ちゃんとそういう話もしてるもん……」


心配してくれるのは嬉しいけど恥ずかしくて堪らない。そういう話を由季としてからできる時はいつもしてるし、一昨日もしたし……。

居たたまれなく思っていたら綾香ちゃんは普通に笑っていた。なんかすごく笑顔だったから余計恥ずかしくて目を逸らしてしまった。


「…そっか。うん。それなら全然いいんだけど安心したわ」


「……う、うん……」


「あ、あとさ、話変わるけどずっと言いたかったんだけどさ……」


「え?なに?」


急に近づいてきた綾香ちゃんに何だろうと思って自分からも近寄ると綾香ちゃんは耳元で小声で言った。


「髪上げると首の後ろにあるキスマーク見えるよ」


「…えっ?!!」


一気に顔が熱くなって首を抑えた。

…え?嘘?気づかなかった。由季昨日寝てる時につけたのかな?それとも一昨日の?いや、でも由季はいつもつけてくれないし、でもついてるってことは由季しかいないし。……つけてくれたのはすっごく嬉しいけど綾香ちゃんにバレてるってことは他の人にもバレてるよね?さっき髪上げて撮影してたもん。本当に本当に嬉しいけど恥ずかしくて死にそうだよ。由季なんで教えてくれないの?

もう綾香ちゃんの顔が見れなくなっていたら綾香ちゃんはおかしそうに笑っていた。





「葵、ごめん嘘」


「え…?」


「いや、本当にごめん。ふふふふ、本当にごめんね?まさかそんな反応するとは思ってなくて。本当にごめん。出来心だったの許して?」


「……綾香ちゃんもうやめてよ…!本当かと思ったじゃん…!」


笑いながら謝る綾香ちゃんに心底安心するけど恥ずかしい。綾香ちゃんすぐからかうんだもん。ていうか、これじゃ私由季としたって言ってるみたいで恥ずかし過ぎる。もう恥ずかしくて泣きそうだった。



「いや、ごめんごめん。もうしないから。本当にごめんね?……でも、それにしても葵ラブラブなんだね?すんごく仲良しなんだね?しっかり教えてくれてありがとう。ふふふ、……本当によかったわ。もうすっごく安心しちゃった私」


「…綾香ちゃん本当にもう怒るよ?!なんでいつもからかうの?!」


「え、からかってないじゃん。私は軽く冗談言ってみただけだよ。ていうか、葵が勝手に自爆したんじゃん」


「だって…綾香ちゃん冗談じゃなさそうだったじゃん!」


確かに自爆したけど嵌められたからだもん。

私悪くないし、綾香ちゃんがからかうからだもん。

もう恥ずかしさがなくならないから熱くて熱くて堪らなかった。


「も~ごめんって。もうしないから許して?」


「そう言っていつも変なこと言ってからかってくるじゃん…!」


「大丈夫!次はもうしないから!それにしてもあの葵がねぇ……。まぁ、さぞ熱い夜を過ごしたんだね葵。葵由季ちゃん大好きだし、由季ちゃんも葵大好きだから当たり前かぁ~。あぁー、もうやだ!なんか熱すぎて困るわー。私まで熱くなってきちゃう。葵も熱そうだしクーラーつけよっか?」


「……綾香ちゃん……!」



わざとらしく手であおぎながら聞いてくる綾香ちゃんはにやにや笑っていてムカついた。

でも、ムカつくよりも恥ずかしさが勝っていて綾香ちゃんに怒っといた。


怒っても終始笑っている綾香ちゃんはたぶん次もやってくるはずだ。ていうか、いつもからかってくるから次はちゃんと気を付けないとまた自爆させられちゃう。

もうこの恥ずかしさは耐えられない。



その後の仕事は順調に予定通りの時間に終わった。

由季にサンドイッチの話をしたら由季は良かったって言ってくれてまた作ってくれるとも言ってくれた。

それにまた浮かれてしまう。

由季はなんでこんなに優しいんだろう。嬉しくて笑っちゃう。私も由季に何かしてあげたいなぁ。次会う時に由季にサプライズプレゼントみたいな感じで渡そうかな?

由季は私が考えたデートの時にプレゼントをくれたし。でも、何がいいかな?


タクシーに乗ってちょっとにやけながら考えていたらもう家に着いてしまった。

部屋に入ると分かっていたけど由季はいなくて寂しくなった。由季がいないと異様に静かに感じて嫌だ。

次会えるまで長いよ。思わずため息をついて軽くご飯を食べて寝る準備をした。


それから一人だと寂しいから由季に貰ったプレゼントを眺めるのが私の生活の一部になっている。

私は由季がいない静かな部屋でいつもみたいに由季が前にくれたガラスの靴とブリザードフラワーを眺めた。


お姫様みたいに綺麗なガラスの靴は由季が私にぴったりだって、特別だって言ってくれて嬉しかった。

あれはいつも由季は言ってくれるけど可愛いって意味もあったのかな?それに、特別って……今思い出しても嬉しい。由季にとっての特別に私がなれているのが今でも信じられないみたいに嬉しい。

ガラスの靴に触りながら私は由季の想いに触れた。


由季はガラスの靴に私の名前とメッセージを掘ってくれていた。英語で掘られたそれは私の愛をあなたへって書かれていて思わず微笑んでしまう。

くれた時は何も言ってなかったのに由季はよくサプライズをしてくれるからそういうことなんだろうけど、見つけた時は本当に嬉しかったのを今でも覚えている。いつも沢山私にくれるのに由季の気持ちが嬉しくて泣いていた。




今も変わらず私を愛してくれる由季は王子様みたいだ。女の子で男っぽいところなんて全然ないけど王子様みたいに優しくてかっこいい。それに、可愛いから大好き。私によく可愛いって言ってくれるけど、私よりも絶対由季の方が可愛い。


由季はいつも綺麗で可愛いけどたまに幼いところがあって凄く可愛い。お酒を飲んだ時とか、テンションが上がるといつもしっかりしてるのに急に幼くなって可愛くて堪らなくなってしまう。それに由季は寝覚めが良いからすぐ起きちゃうけど寝てる時はにやにやしちゃうくらい可愛い。寝てる時は幼い顔をしていてちょっと口が開いてる時とかもあって、由季もこんな顔するんだって思うと先に目が覚めると起こさないように眺めている。可愛くてしょうがないんだもん。


由季を考えていると寂しさが薄れてきた。

次は寝顔見れるように頑張って早く起きよう。それでこっそり見てよう。由季起きちゃったら楽しみ減っちゃうし。ふふふ、楽しみだなぁ。


私の名前にちなんだブリザードフラワーにも触れてちょっと笑っていたら、由季へのプレゼントを思い出して何にしようかまた考えた。

あんまり高いものはダメだよって由季に言われてるけど、由季にはちゃんとしたものをあげたいから悩んでしまう。それに、嫌だなって思われたくないから由季が絶対喜ぶやつがいいけど……そうだ、これなら喜んでくれるかな?貰ったプレゼントを眺めていたらふと思い付いて、でも不安になった。

…本当に、喜んでくれるかな?嫌がられたらどうしよう。でも、次会うまで時間がないし、早く決めないとサプライズできなくなっちゃう。


そうやって由季のことを考えていたらちょっと寝るのが遅くなってしまった。


そうして翌日からまた仕事を頑張った。休養をしたけどドラマも映画の撮影も決まって最近は忙しい。それに本業のモデルの方も写真集を発売することになってそっちも色々忙しかった。というか、私の一番苦手な仕事が写真集のせいでもうすぐ来るから忙しいけど憂鬱だった。

私が一番避けたいけど避けられないあれは本当に申し訳ないけど一生慣れないし苦手だと思う。

私は事務所でサインを書きながらカレンダーを見てへこんでいた。


「葵。次の握手会頑張ってね?抽選だったけど女性の応募が圧倒的に多かったらしいよ?葵本当に女性人気高いよね」


「……何でなんですかね…」


山下さんはパソコンを打ちながら言った。もうすぐ写真集の発売記念でファン交流イベントとして握手会をするのだ。私は女の人に人気みたいだけど前に握手会をした時に来ていた人は皆可愛いくて緊張した。正直ファンの人の方が可愛いと思うんだけど、なんで私は女の人に人気なのか分からない。山下さんは普通に言ってきた。


「えー、そりゃ葵可愛いもん。それより、テンパり過ぎないようにね?緊張し過ぎなのファンにもバレてるくらいなんだから落ち着いてよ。まぁ、SNSではそこが可愛いって言われてたけど」


「……そんなとこ可愛いって言われても嬉しくないです。それに、緊張しないとか……無理です……」


「うん。分かってる。葵なら仕方ないけど、せめてテンパってるのはバレないように頑張ってね?ファンの皆も楽しみに来てるし、楽しく会話しないとでしょ」


「……はい」


どうしよう。あれすっごく緊張するから変な汗かいちゃうのに。ていうか緊張してるとこが可愛いって……絶対変だったと思うのに何が可愛かったんだろう。

私も応援してくれるファンの人とは話したいけど緊張して上手く話せないよ。

もう日が迫ってきていて山下さんは握手会の話をしてくるけどプレッシャーだった。

前からファンの人との交流は私が緊張しすぎて散々だったから今回も酷い結果に終わりそうだ。頑張るにはいつも頑張ってるけど全く慣れないし、変なことを言わないように祈るばかりだ。


握手会の話をしてへこんで沈みながら家に帰るも、今日は由季が来てくれる日だから家に着いてワクワクした。やっと由季に会える!部屋に着くまでのエレベーターでそわそわしてしまう。忙しさもあったけど寂しくて沈んでもいた。でも、もう由季に会えるから今日はずっとくっついていようと思う。


私の階に着いて急いで部屋に入ると由季は奥から出て来てくれた。


「葵、お帰り」


「うん!ただいま由季」


やっと由季に会えた!由季はいつもみたいに笑ってそばに来てくれたから由季にしっかり抱きつくと由季も抱き締め返してくれた。暖かくて安心する。


「先にお風呂入る?ご飯も作っといたけど」


「え?今日は私が作るって言ったのに作ってくれたの?」


作ってくれたのは嬉しいけど早く終わる日だったから私が作ってあげたかった。由季はあの一件から私のためによく作ってくれる。私がやると言ってもこうやってやってくれる時があったけど、由季は笑って頷いた。


「うん。葵頑張って疲れてるだろうし、二人の時間を長く取りたかったから」


「…じゃあ、…由季も、寂しかった?」


由季は寂しいとか言わない人だから聞いていた。

最近は料理をしてる時もそばにいたり、抱き付いたりしながらしてるのにこういう風に言われると一緒の気持ちなのかなって嬉しくなる。

由季は微笑みを深めた。

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