その後の彼女たち6


「葵」


そんな私の不安を感じ取ったように由季は優しくキスをしてくれた。優しく笑うその顔は私に安心を感じさせる。


「大好きだよ。私は葵のこと一番好きだから不安にならなくていいからね」


由季にまた読まれてしまった。

また私の不安を消してくれた。私を想って言ってくれるのが嬉しくて私は由季に抱きついた。


「ありがとう由季」


「ううん。…もう抱きつかれると葵のこと離したくなくなっちゃうよ」


そうやって笑いながら言うくせに本当に優しく抱き締めるだけの由季は私に愛をくれた。


「好きだよ葵。本当に。本当に愛してるよ」

 

「私も大好き。愛してるよ。由季だけ愛してる。由季しか好きじゃないから…由季を一番愛してるよ」


由季への想いは誰にも負けない。これだけは自信がある。これだけは本当で誰にも絶対負けない。

私は由季のためなら何だってやるし何だって切り捨てる。毎日由季だけ考えて由季のために生きてる。

私は自分を宗教みたいに捧げてる。


由季はおかしいって言ってたけど私はそれでいい。

だってそれしか上手くできることがないから。

愛してるから由季には全部捧げたい。

言うことは全部聞きたいし全部やりたい。

大して何もできなくてしてあげられない私が由季に精一杯してあげられるのはこれだけだから。


私をこうやってあげるのが私の最大の愛なの。



強く抱きつく私の顔に由季が顔を寄せてきてキスをしてくれた。軽く合わせていただけなのに舌を入れてきた由季に嬉しくなって堪らない気持ちになる。

求められてる。また求めてくれる。ずっと求めて由季。絶対に応えるから。だから、だから離れていかないで。

由季が求めてくれると嬉しいけど怖いの。


「……好きだよ……葵」


「はぁ……んっ、あ……私も……」


気持ち良くなってきたところで由季に唇を離されてしまった。変に疼いてしょうがない。このまましてほしかったけど仕事がある。


「次しよっか?……したいけど、仕事あるし」


今は同じ気持ちになっている。それだけで嬉しいけれど、困ったように笑う由季にそれでも求めてしまっていた。


「……でも、もっとキスしたい……」


「葵はそろそろ行かなきゃでしょ?もう時間だし」


「そうだけど……キスしてもっと抱き締めてほしい。……じゃないと離さない……」


一回求められると離したくなくなる。私の欲望は収まってくれなくて、こんなことを言ってしまう自分に恥ずかしくなる。困らせてるよね?でも、由季が欲しいよ。


「ちょっとだけだよ?」


由季はいつものように笑って私のお願いを聞いてくれた。キスをして強く抱き締めてくれる。嬉しすぎて笑ってしまっていた。本当に由季が大好き。


「次水曜日に来るから。仕事頑張るのはいいけどちゃんと休める時は休んで仕事しないとダメだからね?」


「うん!由季もだからね?」


「うん。分かってるよ」


水曜日まで由季に会えないけどキスしてくれたし抱き締めてくれたから頑張らないと。それから由季はまたキスをして私を送り出してくれた。

今日は由季が作ってくれたサンドイッチもあるしいつもより仕事が頑張れそうだ。早く由季が作ってくれたサンドイッチが食べたい。


一人になって初めてご飯が楽しみに感じた。

忘れてしまうくらいどうでもよかったのに浮かれてしまう。撮影が終わったらサンドイッチを食べて由季に報告しないと。全部由季が好きなのだから絶対美味しいし。


その日はいつもより頑張ってにやけそうになる顔をどうにか抑えながら昼になったらすぐに由季が作ってくれたサンドイッチを食べた。

由季が言った通りアボカドや海老やトマトが沢山入っていて美味しくて笑ってしまう。全部由季が好きな物を食べられて本当に嬉しい。


お腹いっぱいになっても全部自分で食べようと思っていたのに横から手が伸びてきた。


「おっ!葵、今日サンドイッチなの?美味しそうじゃん。ごめん、いただく!」


「あ、綾香ちゃん!」


撮影が一緒だった綾香ちゃんはいつもこうやって食べてくる。自分で作ったのはいいけど由季がせっかく作ってくれたのに食べられちゃった。綾香ちゃんは好きだから許すけどちょっとムカつく。独り占めしようとしたのに。綾香ちゃんは食べながら喜んでいた。


「うまこれ!アボカド美味しい!疲れてたけど元気出たわ。葵また料理上手くなったんじゃない?」


「これは由季が作ったの!」


「え?!由季ちゃん作ったの?由季ちゃん普通に器用そうだもんね~。本当愛されてるね~葵」


「そ、そうだけど……、もう食べちゃダメだからね?!」


「はいはい。ごめんごめん」


今は二人で休憩だからいいけど綾香ちゃんは由季の話を普通にしてくるから恥ずかしい。由季の話をできるのは嬉しいけど愛されてるとか、……言われるとなんだか照れちゃう。


「…あ、綾香ちゃん」


「ん?なに?」


そういえば、綾香ちゃんに同棲の話を相談しようと思っていたのを忘れてた。思い出した私は綾香ちゃんに恥ずかしいけど聞いた。


「あの、……こないだ……言ったことなんだけど……」


「ん?こないだ?え、こないだは由季ちゃんの話しかしてなくない?」


「そ、そうなんだけど……。あの、あれだよ?あの……ど、同棲の……話……」


同棲って言うのもなんだか恥ずかしくて声が小さくなっていたら綾香ちゃんは思い出したようだった。


「あー、あれね。まだそれとなくも聞いてないの?」


「え、……うん。何て言えばいいかな?って……まだ考えてる……」


「んー……、友達が同棲始めたとか言って探り入れてみれば?」


考えてくれた綾香ちゃんに良さそうと思っても私は口下手だから自信がなかった。


「いいけど……深く聞かれたら……答えられなくなっちゃうよ……」


「あー、葵じゃそうだよねぇ…。んー……由季ちゃん絶対考えてると思うから普通に聞いてみていいんじゃない?断らないと思うけど。直接顔見て言えないなら電話とかでもいいし」


「え?でも、……本当に断らないかな?それに、…すごい、緊張するし……」


断られるかもしれない不安もあるけれど、それ以上に緊張する。ちゃんと言えるかな?ていうか緊張しすぎて言ったとしてもその後が焦っちゃってどうにかなりそう。私はよくどもっちゃうし、なんか変なこと言っちゃったら恥ずかしい。綾香ちゃんは呆れたような顔をした。


「はぁー?もうそんなこと言ってたら同棲なんかできないよ?いつまでも聞けないじゃん」


「だっ、だって、……緊張しちゃうんだもん……」


「あのね葵。そんなうじうじうじうじしてるとあっという間に一年終わるよ?来年同棲したいの葵は」


「ち、違うよ?すぐにでもしたいよ…?」


「じゃあもう覚悟決めるしかないでしょ。覚悟決めて、ばって言えばいいの」


「…言っても……断られたら……どうすればいいかな……?」


由季と同棲の話なんかしたことはない。一緒にいるけど一切話題にも上がらないのにいきなり言っていいよって言ってくれるか分からない。まだ付き合って一年も経ってないのに……由季はまだ早いって思ってるかもしれないし、同棲はそもそもしたくないって思ってるかもしれない。


だけど綾香ちゃんの表情は変わらなかった。


「別になんで?って聞けばいいじゃん。理由があるから断ってんでしょ?」


「……そうだけど……」


「はぁ~…葵?あの子は葵が言えば断らないよ」


「え?」


きっぱり断言してきた綾香ちゃんに驚く。彼女の私が全然自信ないのに何でだろう。なんで?と聞く前に綾香ちゃんは当たり前みたいに話した。


「葵も由季ちゃん大好きだけど、由季ちゃんも葵のこと大好きじゃん。葵より由季ちゃんの方が葵のこと好きそうだし。だから大丈夫だよ」


「え、そうかな……?」


どう考えても私の方が好きだと思っていたのに綾香ちゃんは疑問そうな顔をした。


「え?そうでしょあの感じは。ていうか、葵のことすごい大事にしてんじゃん由季ちゃん。はー……、もう葵は由季ちゃん大好きフィルターが掛かってるから分からなくていいよ」


「え?フィルター?……それってどういう意味?」


綾香ちゃんっていきなりよく分かんないことを言ってくる。由季大好きフィルターって……本当にどういう意味?呆れてるからかってるようには見えないし、そういうのがSNSで流行ってるのかな?でも、流行ってたとしても意味分かんない。由季は大好きだけどフィルターってなに?……コンタクトとかをそういう感じで言ってるのかな?でも、私コンタクトしてないし。


「葵は分からない話だからいいの。そんなことよりさ、聞けないなら私が聞いてあげようか?今日にでも聞いてあげるけど」


考えていたら綾香ちゃんはお兄ちゃんと同じことを言い出した。綾香ちゃんは本当にお兄ちゃんと似てて困る。私はすぐに断った。


「ダメ!絶対聞いちゃダメだからね?聞いたら怒るからね?」


「えー?私が聞いた方が早くない?葵うじうじうじうじしてて来年になっちゃいそうだし」


「すぐ聞くから!絶対聞くからダメ!」


「はいはい。じゃあ、頑張ってね?言えないんだったら私がすぐ聞いてあげるから」


笑う綾香ちゃんは本気で言ってくるからちゃんと釘を刺した。綾香ちゃんは前も由季に告白しようと思ってた時に私隣にいてあげようか?とか言ってきて本当にやめてほしかった。なんで私と由季のことなのに綾香ちゃんが出てこようとするのか分からないけど由季が驚いちゃうし雰囲気ぶち壊しだよ。しかも綾香ちゃんいたら余計な話ばっかりするから絶対ダメ。


それに由季がファッションショーを見に来てくれた時も恥ずかしいことばっかり言うから本当に恥ずかしくてどうにかなりそうだったし。

綾香ちゃんは優しくて頼りになるけどあんまり困らせないでほしい。


「それで、葵最近由季ちゃんとはしてるの?」


そう思った矢先にこれである。してるってそういうことだと思うけど綾香ちゃんはこういう話も普通に聞いてくるからやめてほしかった。綾香ちゃんは恥ずかしいとかないのかな?私は恥ずかしくてなんだか熱くなってきてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る