第90話
透の飲みっぷりに大いに笑いながら楽しんでいると堀ちゃんは益々テンションが上がったのか透と一緒に飲みながら透の肩をバシバシ激しく叩きながら言った。
「透!飲みっぷりは見直した!でも、私は透から彼女ができたって報告はされてない!まだ?まだなの?彼女できたら一番に教えてくれるって言ったじゃん!」
「そんな約束した覚えないぞ?何言ってんだおまえ!おい!由季助けろ!こいつを引き剥がしてくれ!」
約束してないにしてももう正直に認めたら良いのに。透にもプライドがあるみたいだけど、私は笑いながら堀ちゃんに一応声をかけた。
「堀ちゃん!そんなに叩いてると肩にアザできるよ?透か弱いから止めてほしいんだって」
透の助けを無視しておもしろく言ったら堀ちゃんはもっと笑いながら肩を叩き出した。
「はっはっは!透いつからか弱くなったの?あ!アケミちゃん呼んだあげようか?アケミちゃん透のこと守ってくれるよ!いやもう、想像しただけで熱々。おまえら何だよ、どこまでやったんだよ、ん?ほら早く教えろ!」
「もう勘弁してくれないか?付き合ってさえもいないし告白とかもしてねーよ。……ん?でも、あいつから何か告白じみたこと言われたんだよな…」
がっつく堀ちゃんに透は思い出したように言った。それは美味しそうな話だ。透とアケミちゃんはもしかしたら相性良いんじゃないの?私がそう思ってたら堀ちゃんは本当に楽しそうに笑いながら叩くのを止めた。
「由季、これは全部聞くまで帰れないよ」
「だね。私も気になるわ。堀ちゃんカツ丼
でも頼んどく?」
やる気をさらに出した堀ちゃんにふざけてしまう。透のおかげで今日は楽しくなりそうだ。どんな話なのか気になって仕方ない。
「そんなもん食わせたらこいつ吐くから、酒だけで良いよ。酒だけ飲ませよ?」
かっこよく言う堀ちゃんに私は頷いた。
それから堀ちゃんを筆頭に私達は透への尋問を始めた。透は、最初は否定的に声をあげていたが私達の強烈な責めに最終的には悔しそうに辛そうにして全部話し出した。それはやっぱり思った通りな内容で本当に笑えて楽しかったけど私よりも堀ちゃんは大爆笑していて、そんな堀ちゃんを見てるのも楽しかった。
久々に笑いすぎて涙が出るくらい笑っていたら急に誰かに目隠しをされた。
「だーれだ?」
その声に、香水の香りに、聞かなくても分かる。やっとレイラのお出ましのようだ。
「レイラ?やっと来たの?遅かったじゃん」
私が振り向くとレイラはにっこり笑っていた。服装を見れば遅くなったのはよく分かるけど露出はまぁまぁ控えたようだ。今回はバニーガールか。しかも、一緒に来たであろう葵とお揃いで着ている。こんな形で会うとは、笑っていたけど内心動揺してしまう。葵は気まずそうに私を見ていた。
「うん!準備に時間かかっちゃって。由季も仮装したんだね!それより可愛いくない?葵ちゃんとお揃いなんだよ?」
レイラはくるっと回って私に衣装を見せてきた。黒と白のバニーガールの衣装は上はノースリーブの襟のついた胸が強調されるような可愛らしいシャツに下は黒のショーパンにウサギの尻尾がついて黒のタイツを履いている。おまけに頭にはウサギの耳のカチューシャをしていて本当に可愛らしい。
「そうだね。可愛いよ。去年より良いんじゃない?」
「でしょ!でしょ!葵ちゃんも可愛いでしょ?二人で化粧とか髪型も頑張ったんだよ」
レイラはそう言うと恥ずかしそうな葵の肩を後ろから押して私の方に近寄らせる。確かに化粧もハロウィンっぽくしてるし髪型も長い髪をアレンジしていて綺麗だ。
でもそれよりも、胸が見えそうな際どい服とかじゃないから今回は良いけどモデルの葵がバニーガールでこんなに化粧とか髪型を頑張ると話が別だ。本当のバニーガールみたいでいつも以上に魅力的に見える。今は距離を置いているけど少しだけ胸が高鳴った。
「…うん。髪も服も…全部可愛いよ」
「……ありがとう」
正直に誉めると葵は控え目にお礼を言った。あの日以来、もうしばらくは会えないと思っていたけど葵は変わらずに綺麗で可愛らしい。でも、少し元気がなさそうだった。私を見る目は不安そうで切なげだ。そんな葵を見ているだけで私は気まずくて辛くなる。葵に会えて嬉しいけど、何を話せば良いのか分からない。
お互いに少し黙っているとカウンターから翔太が声をかけてきた。
「葵ちゃん久しぶり!今やってるドラマ見てるよ。今日来ないかと思ったけど良かった。ドラマの話したかったから座って座って?」
「…う、うん。ありがとう」
ああ、良かった。私は翔太の言葉にホッとしながら元々座っていた席を葵に譲った。葵のことは翔太に任せよう。
「ここ座りな?私はあっちに座ってるから」
私は笑って言うと返事を聞かずに自分の酒を持って店の奥の方にあるダーツができるスペースに逃げた。一緒にいても今は困るだけだ。
「ねぇ!由季!」
逃げた私にレイラは後ろから声をかけながら付いてきた。怒ったような声に私は反応することもなく備え付けられている小さな椅子に座る。
「由季!何でこっちに行くの?あっちで一緒に飲めば良いじゃん!」
付いてきたレイラは顔もやっぱり怒っていて反応に困る。レイラは葵にわざわざ声をかけて連れてきたんだろう。私も葵に会いたかったし、もしかしたら会えるかもしれないと今日は期待をしていた。だけど実際は、あの日のことを思い出して葵の目を見ているのが耐えられなかった。要は私は情けなく逃げたんだ。
「……私は、そろそろ帰るから良いよ」
「帰るって、まだ時間あるじゃん!折角葵ちゃんも来たのに…。話してあげなよ」
私の下手な言い分にレイラは隣に座って私を説得するように言ってきた。
「葵ちゃん…ずっと元気なくて…悩んでたよ?今日も本当は行くか行かないか直前まで悩んでたから私が連れてきたの。何か事情があるのは分かるけど今日くらい話してあげなよ」
「……何話したら良いか分かんないし、別にいいよ」
私が目を逸らしながら言うとレイラは腕を引っ張って私の目を逃げられないように見てきた。
「ねぇ!話さなくても良いから一緒にいてあげてよ!……あんな葵ちゃん、私見てられないよ!私が悪いからって…泣いてたよ?喧嘩したんじゃないんでしょ?だったら一緒にいるくらい良いじゃん!」
レイラがこうやって私に怒るのは初めてだった。怒ってはいるけど辛そうな顔を見ると申し訳なくなる。葵を気にかけてくれたレイラは本当に優しいし私達を本当に心配してくれている。
「……うん」
「あのさ、余計なお世話かもしれないけど、私は嫌なの。二人のこと大好きだしこのままずっと仲良くしてきたいし、応援もしたい。……二人が仲良くないと、私まで悲しくなっちゃうよ。……まだ仲良くするのに時間がかかるかもしれないけど一緒にいてあげてよ。一緒にいないと葵ちゃんは……だめなんだよ」
静かに言ったレイラに私は胸が苦しくなった。いつも能天気そうなのにちゃんと回りを見ていて友達思いで、レイラの気持ちが嬉しかった。こんな風に言ってくれたのに情けなく逃げてる場合じゃない。
「うん。……ごめん、そうだね。ごめんね、心配かけて」
立場は
「ちょっと由季みたいにお節介かもしれないけど、いつも由季は私を心配してくれてたし私もそれで心配になったから言っちゃった」
「ありがとう。助かったよ」
「ううん!仕方ないよ。それよりね、今日は葵ちゃんと二人ですごい気合い入れてきたから、もっとちゃんと誉めてあげてね?さっきの適当すぎ!」
いつもみたいに笑うレイラに私は頷いた。私もへこんでたけど葵の方が色々思っているに決まっている。レイラの言う通り、あの子は不安定だから一緒にいてあげないと。
今だけなら別に問題はない。
私は立ち上がるとレイラに背中を押されながらカウンターの方に戻った。葵は奥から戻ってきた私に気づいて様子を伺うようにちらちら見ている。まだ私達は依存しているのかもしれないけど、私は葵の横にレイラの分も小さな椅子を翔太に用意してもらった。
客席が埋まっている時の臨時の椅子だ。
そこに座って気まずそうにしている葵に話しかけた。
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