第89話


「おめでたいね透。おめでとう。赤飯でも炊いてあげようか?」


私はからかいながら言うと透は呆れたように酒を飲みながら言った。


「いや、もう由季まで勘弁しろよ。朝起きたら一緒に寝てたんだよ」


「それはもう黒でしょ。ねぇ、由季?」


口を挟んだ堀ちゃんは愉快そうに笑っている。まぁ、その流れだと堀ちゃんの言った通りだろう。


「そうだね。それは、もう言い訳できないね。透好きなら好きって最初から言いなよ」


「だから好きじゃねーよ。あいつ、あの日からもう付き合ってるみたいになっててベタベタしてくるしどうしたら良いか分かんねーよ」


「だから付き合えば良い話だろーが。てか、ぶっちゃけヤった時どうだった?アケミちゃん超巨乳じゃん?揉んでみてどうだった?」


堀ちゃんはそれはもう興味津々ににやにやしながら透に詰め寄っている。堀ちゃんって本当誰にでも何でも容赦ないよね。そこが笑えるけど私もアケミちゃんとどうなのか少し気になった。だけど、ここは堀ちゃんの事情聴取に任せてとりあえず私がいつも飲んでいる酒を出してくれた翔太に話しかけた。


「翔太ありがとう。今日、思ったより混んでるね。レイラは?」


「これでもちょっと引けたよ。レイラはまだ来てないけど、由季と一緒に来るかと思ったよ」


「え?そうなの?……レイラ、今年何着て来るんだろう…」


「それな……」


私達は忠告はしたけど、どうだろうか。いつもイベント事だと先に来ていることが多いのに準備に時間がかかっているのか。


「由季、今日はお祝いだから好きな酒飲みな?」


隣にいたよっちゃんは私にメニューをくれた。よっちゃんって本当に懐がでかくて驚く。透を追い回していた過去がなければ本当にただのイケメンだ。


「良いの?」


「あぁ。さっき入れたシャンパンまだ余ってるからそれも飲め」


「ありがとう、よっちゃん」


私は早速またお酒を注文して翔太に作ってもらいながら余っていたと言うシャンパンを貰った。よっちゃんもこないだ堀ちゃんと飲んだ以来だ。


「あー、美味しい。ありがとう、よっちゃん。よっちゃん翔太とはその後どうなの?上手くいってるの?」


「普通だな」


「ってことは順調ってことだね」


「まぁ、そうだな。由季はどうなんだ?」


よっちゃんの質問にはドキッとさせられた。人の心配をしといて私は上手くいっていない。一瞬黙ってしまったけど私は笑顔で答えた。


「……私は、まぁまぁだよ。皆と飲んで遊んでるだけ」


「そうか。じゃあ、今日は沢山飲め。僕が奢る」


「よっちゃん何かいつもありがとうね」


よっちゃんはいつも優しいけどちょっと焦ってしまった。今は葵と離れているからか、私らしくない。


「由季、そういえば葵ちゃん今日来るって?」


翔太は作った酒を私の前に置くと触れられたくない話題に触れてきた。あぁ、何て答えようかな…。私は苦笑いしながら曖昧に答えた。


「どうだろ?仕事が忙しいから」


「なんだそうか~。新しいドラマも始まったからそれの話したかったのに。俺、葵ちゃんが出てるドラマめっちゃはまってんだよ」


「ん?そうなの?」


私はあれから葵の雑誌もテレビも見なくなったから分からないけど、たぶん恋人役のやつなんだろう。内心複雑だったけど、葵は仕事を頑張っているみたいでどこか安心する。


「あー、由季に話しても無駄か。レイラとよく話てんだけど、今回も先が気になるんだよ…」


「うん。私はパスだわ。それよりさ、翔太の仮装本格的だね。どこで買ったの?」


私は忘れていたけど一番ハロウィンっぽい仮装をしている翔太の格好を見て言った。仮装をするとは言ってたけど顔にもペイントしてるし何か海賊の格好がリアルでコンセプトバーのようだ。

翔太は得意気に言った。


「そうだろ。その手の通販で折角だからしっかりしたやつ選んだ」


「凄いね?銃もあるし。私と透とか仮装雑過ぎて何も言えないわ」


今日私は律儀に葵との約束を守ってポリスのシャツと帽子を被ってきた。下はミニスカートみたいなのがセットになってたけど、そんなの履けないのでただの黒いパンツを履いた。適当かなと自分でも思ってたけど上下ボーダーの服を着ている透がいたから安心していた。こいつも私と一緒だった。私より酷いけど。


「透は確かにな。囚人らしいけどパジャマで来たのかと思ったよ。でも、由季はましだろ?しないって言ってたわりには良いじゃん」


翔太のフォローは有り難かった。透より良いなら何でも良い。


「うん。透と同じだったら帰ってたわ」


「はは、ここでこんだけ下げてんだからレイラは映えるぞ」


「だねぇ。そのうち来るだろうけど、とりあえず乾杯しよう。よっちゃんも、ほら、堀ちゃんも」


私は笑いながらグラスを持つと皆に話しかけて乾杯をした。

それから皆で楽しく話ながらお酒を飲んだ。ある程度酒が回ってくると皆声が大きくなってきて、話も盛り上がってくる。


「俺のタイプはAV女優の青井クララなんだよ!」


「はぁ?現実にそんな女いる訳ないだろ。何夢見てんの?おまえのタイプはアケミちゃんだろ!ヤったくせに何言ってんだよ!!」


「だから本当に寝てただけなんだよ!たぶん!俺は何もしてねーよ!」


堀ちゃんと透の話はまだ尽きなかった。

堀ちゃんは早いピッチで酒を飲みながら透の話に答えているけど今日も変わらずに声がでかい。堀ちゃんは透とは違って本当に楽しそうに笑っていた。


「それで、デートはしたの?」


「はぁ?しねーよそんなん。でもずっと誘ってくるんだよ。俺、本当にどうしよう…」


「デートすれば良いだろうが。思い出作れよ。付き合ってんだろ?由季も何とか言ってやってよ、この幸せ野郎に」


堀ちゃんはある程度透を苛めて満足したのか私に笑いながら言ってきた。堀ちゃんが散々透で楽しい思いをしただろうけど私も楽しもう。


「デート内容一緒に考えてあげようか?」


「由季……。皆して俺の悩みをバカにしやがって…」


悔しそうに呟く透に楽しくなってしまう。


「何回かヤってみたら分かるんじゃない?付き合ってるんだからヤってみたら?」


「俺は付き合ってる気はないんだよ!本当に俺は無実なんだぞ?俺はな、何もやってないんだ。本当に…」


「おい!くどいんだよ!いい加減認めろ」


また説明しようとした透に堀ちゃんは強気で言った。本当に楽しいけどうるさくなりそうだ。堀ちゃんは透のグラスに透のボトル焼酎から焼酎を注いだ。

あれは濃いと言うよりほぼ酒だろと思うくらい注ぐと透の目の前に置く。


「あんたうるさいから、とりあえず飲みな?刺激的なの作ってやったから」


「おまえ、これほぼ酒じゃね?」


透が引いたように言うと堀ちゃんはまるで挑発するように言った。これは、堀ちゃんは今日透を潰す気みたいだ。


「お?何々?飲めないの?さっきから言い訳しかしないしどうした?やる気ないなら帰っても良いよ?」


「俺が飲めないはずがないだろ!俺のやる気を見せてやるよ」


透は分かりやすい挑発にまんまと乗ってほぼ焼酎のお酒を一気飲みした。

こりゃ酷く荒れそうだ。アケミちゃんが言ったことは本当だろうけど認めたくない透を堀ちゃんは酒で捩じ伏せるみたいに透を煽りながら酒を飲ませた。透も早く認めたらいいのに。


「ほらほら、やる気もっと見せろよ?飲め飲め早く」


「俺はな!簡単には潰れないんだよ!おまえも早く飲めよ!」


透が逆に煽っても堀ちゃんは涼しい顔をして笑った。


「はぁ?もう飲んでるわ。あ!コールしてほしかったもしや?もうめんどくさいなぁ。ちょっとだけね?透が飲みたい騒ぎたい!胃腸に関して自信があるある…早く飲め?早く飲め?コールをする手がめんどくさい」


堀ちゃんは手を叩きながらそれはそれは大きな声でコールをするけど本当に愉快で私も同じように手を叩いて笑っていた。


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