第5話
「半年……か。」
新緑の輝く神社で男に出会ってからというもの、晶の人生は新緑の如く輝きはじめた。
死のうと考えていた日々が懐かしいほどだ。
男との共同生活は晶に活力と生きる希望を与えてくれた。
晶は、男が駄目な自分を立ち直らせるためにやってきた都合のいい存在であると信じたかった。
しかし、あと半年もすれば男は晶を殺す。
男の顔を見ると否が応でもそれを実感する。
能面のような顔には感情は全く読み取れない。
この男には淡々と物事をこなしていくのだろうという予感。そしてそれは晶の生死であっても例外ではないのだろうという確信だけはあった。
「なぁ、魂の収穫ってどうするんだ?やっぱり俺を殺すのか?」
晶はいつものように自身の部屋で男と向かい合いって座り、明日の天気を訪ねるような調子で問うた。
「魂とはただ其処にあるものです。それこそ石ころのようにね。勿論、人に内包されたそれを拾うためには、肉体と切り離されていなければなりません。」
男は窓の外を見ている。
空一面を覆う灰色の雲は時刻を不鮮明にしている。
もうすぐ雨が降りそうだ。
「よく分かんねぇけど、さ。要はアンタの意思で魂を身体からひっぺがすって話だよな?ならさ」
晶は言い澱む。
男の目には何も映し出されてはいない。
晶は意を決して、男の視線の先に移動した。
震える手で男の肩を掴んだ。
「俺の魂、もうちょい待ってくんねーかな。
このままいけば、俺は売れる。半年後以上に魂にも価値が出る。」
少しの沈黙。しかし晶には永遠のように長く感じられた。
外では雨が降り始めた。
「死にたいのでは、なかったのですか。」
男は口を開くが、その目の中に晶はいない。
「くだらねーって思うかも知んねーけどさ。
俺今まで何にも執着っていうの?したことなかったんだよ。なんとなーく生きて、なんとなーく歳食って死んでくんだろうなって。
ならその終わりがいつだろうと一緒じゃねーかって。」
晶は苦しそうに言葉をこぼしていく。
雨足は徐々に強まっていく。
「でもさ、最近本当に思うんだよ。俺、音楽好きだ。ステージから見る光景が好きだ。
俺、生きてる。生きてるって感じるんだ。
生きたいんだよ…。」
男は何も応えない。
「頼むよ…俺、もっと生きたいんだよ…」
晶は男に崩折れた。
男は何も応えない。
男は晶を埃のように払い落とすと、静かに立ち上がり、部屋をでた。
その日から、男が部屋に現れることはなくなった。
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