北の猫又街 に

 碁盤の目状の街並み。川を渡って南東に行くとそこはよく見る観光地だった

「二条市場...?」


 昼とは違い夜も更けたこの時間、朝に新鮮な海鮮が食べられる市場だけあって街灯も暗く通る人たちも少ない

「そうそう」我聞は相変わらず飄々とその中の1本の裏路地をいく


 街灯もない中、古い飲み屋やスナックをいくつかとおりすぎ、錆びて落ちそうな階段を昇って1軒の店に入る


 店に入ると洋風の佇まいのレストランの中で2人の中年女性が瞳を閉じながらバンドネオンを弾いている

 不思議なことに料理の匂いと鍋の煮立つ音はしても入ってきた我聞とナオ達は全く気付かれていないようだ、まるで透明人間にでもなったかのようだ


 我聞はこっちこっち、客席側の奥にひっそりとある古びた暖炉を指さすとその脇の大きめな板をスライドさせた

「この中がナオに見せたい場所だよ」板の向こうには空間があるようで、なにやら物音が聞こえてくる

 狐、もといカッパにつままれっぱなしのナオは我聞の後を追ってその空間に身を滑り込ませた


 なにやら賑やかな場所だ。例えば修学旅行で行った京都の夜の市場のようだ

「だかーらあんた...」「でぇーもそれはサァ」それに生き物が沢山いて妙に高い声が耳に入ってくる。目を凝らしてみるとそれは二本足でしゃんと立ち上がり二股のしっぽでバランスを取っている...どう見ても猫達だ

 人間よろしく紺の前掛けをかけた猫、蕎麦のおかもちを持った猫、猫猫猫猫、猫だらけ


 後ろを見ると我聞が丁寧に入口の板をはめ込むところだった。相変わらずあちらの店内の女性たちは音楽の響に身を向けて全くこちらは見えていないようだ


「さてナオ、少し小さくなろうか」と我聞は言うと懐から札を1枚出した。

 頭の皿から水分を少しとるとナオの額にべたり、と貼り付ける

 すると猫だらけの空間がぐっと広がり猫たちが大きくなった

 いや違う、ナオが縮んだのだろう

 さっきまで立ち上がっても太ももくらいまでだった猫たちといつの間にか身長が並んでいる!

 我聞の方を助けを求めるように振り返ると我聞も縮んでいた。さっきまでより顔が緑がかり、口が突き出ている

 まるでと言うより、まさにカッパ。

「我聞...これって...?」と質問しようとした所

「なァんだ、我聞さん、今夜はこんな座敷わらしちゃん連れて」と話しかけるのは割烹着姿の三毛猫、ピンとたった耳とビー玉みたいな翠の瞳が綺麗なメス猫だ

「そぉなんだよ、さっき合ってね。次のお座敷は猫のいるところにしたいって言うから連れてきちゃったんだ」と我聞がまたも勝手なことを言う

 ...どうやら私は座敷わらしに間違えられてるようだ

 子供らしく見られたくないコンプレックスと目の前の光景がごちゃごちゃに頭を振り回し...

 ナオは考えるのも怒るのも諦めたのだった


 いいさァ、猫の女将さんは言う「今日はどこの箱店もだいたい開いてるよォ、思いっきり見てきな、お嬢ちゃんの次のお座敷の話も聞けるでしょうよォ」


 はこみせ?目が慣れてくるとそこは大きな通りのようだ

 上からは紙でできた赤い行燈が等間隔にぶら下がり右にも左にも大きな木箱が積み上げられていて...中には一つ一つに店が入っている


 そしてその中で商いをしているのは全て猫たちだった

「どえらい所に来ただろ?これが北の猫又市場さ」

 振り向きながら我聞が得意げに言うのだった


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