アホ毛のきもち

寄鍋一人

僕と新学期

 長く退屈な校長先生の話を聞き流し、ぞろぞろと制服の列がそれぞれの教室へと帰っていく。担任の先生が来るまでの何もないこの時間に、新しいクラスで新しいグループが形成される。

 比較的穏やかな僕らのグループは、窓際の僕の席に集まって春の優しい日差しを浴びていた。


「はぁー……もう受験かー……」

「だなー……」


 高校三年。ついに僕らは受験学年になった。

 でもまだ四月だ、本腰を入れなくても大丈夫だろうと本のページをめくりながら、他愛ない会話に花を咲かせる。


「大学どこ行くか決めた?」

「いや全然。調べてすらいないわ」

「俺もそんな感じだな」


 まったくと言っていいほど受験生の自覚がないこの会話は、担任の先生が入ってきたことで幕を閉じた。


「委員会決めるぞー」


 生徒は全員、どこかの委員会に所属しなければならない。

 選ぶルールは特になく、毎年違う委員会でも同じ委員会でも、好きなように選ぶことが出来る。


 僕は毎年図書委員会。一見地味で人気がないが実際の仕事は大変じゃない、かなりの穴場だ。

 例年通り周りの人たちが体育やら放送やら人気の委員会の座を競い合う中、僕は黒板の図書委員のところにそっと名前を書く。騒ぎを利用して無理なく決められる。


 余裕の勝利を獲得し、余裕の着席。一仕事終えた僕は再び本を開く。


「もう決めてないやつはいないかー」


 騒ぎが落ち着いたのを見計らい、先生が教壇に立つ。

 静寂に包まれた教室で、その人は僕の視界の端で、おどおどと手を挙げていた。


 そして。


「じゃあ一人分空いてるから図書委員でいいか」


 先生は返事を待たずしてその人の名前を僕の隣に書いた。

 隣の席に座る彼女は表情を一切変えずにこちらを向き、会釈をした。つられて僕も頭を下げる。


 これが僕と彼女の、少し不思議な関係の始まり。

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