閑話休題 「相原勇次のスーパー☆パパラッチ日記」

 


 九月十二日

 今日もテーリに有益な情報を提供した。というのは嘘で、評価は辛口だった。テーリはいつも評価が厳しい。もっと精進しようと思う。


 九月十三日

 今日はテーリが朝から独り言を呟いていた。あの時の俺は、なぜかそれが必要以上におかしな事に感じて必死に止めたけど、どうしてそう感じたのか今ではわからない。こうして文章にすると尚更意味不明だ。疲れてるのかな? 

 そんな事より、ゴシップ誌の秘密に気付いて北倉倉庫に行った俺は、とんでもないものを見てしまった。麻薬の密売だ。

 どうしよう、こんな事になるなんて思ってもみなかった。見なかった事にするか、通報するか……。でも、通報して俺のことがばれたらどうする? 殺されるに決まってる! 嫌だ嫌だ嫌だ! 俺は平和に過ごしたいだけなのに×〇△……(以下、文字が形を成しておらず解読不能)


 九月十四日

 今日はわけの解らない事だらけだった。密売の現場写真を警察に持って行けとテーリに言われ、でも校門でヤクザが待ち構えていて、殴られて港に運ばれて、テーリがなぜか携帯電話を右手に握らせるだけで助かると言って、手伝ったけどテーリが相手を挑発して殴られて、それが怖くなって、周りも逃げ出して、最後にはヤクザの頭が自殺した。

 こうして文章にしても意味が解らない。一番わからないのは、あの場にいた全員が、ただテーリをのヤクザを怖がった、という点。その全員には本人も含まれているし、俺もそうだ。今思えばあんな連中が暴力を振るうなんて当然だし、そもそもその前に俺は校門前で殴られて気絶させられてる。暴力が怖かったんじゃない。なにかこう……本能的な恐怖を感じた様な……。なんだったんだろう? 今になって冷静に考えてみると、どうもそれはテーリが何か仕掛けたように思えてくる。あの時後ろ手で携帯で何か打ち込んでたし……。今度何かあった時はテーリを問い詰めてみた方がいいかもしれない。


 九月十五日

 今日は一瀬さんと知り合いになった。出会ったのは昨日だけど、昨日はそれどころじゃなかったので、俺としては今日が初対面の気分だった。初対面の人間に言うべきではないと思うけど、この人はどこか変だ。

 テーリと話している時でも、なんだか俺の事まで気にしながら話しているように感じた。それだけじゃなく、なんだか妙に怯えてるような……。なんとなく、そんな気がした。なんとなくなので気にしない方がいいだろう。それ以外には特に何もない日だった。



 (中略)



 九月二十六日

 テーリが入院したらしい。その事を俺に教えてくれたのは一瀬さんだった。俺は今日まで一瀬さんと再会はしていないし、電話番号なんて当然教えてないのに……。それを一瀬さんに聞くと、「ごめん、今度ちゃんと話すから、定理君の前では電話番号を交換してた事にして! お願い!」と言われてしまった。お願いまでされたら聞くけど、事情は絶対に話してもらおう。

 病院に行くと、テーリがすごい怪我をしていた。ヤンキーにボコボコにされたらしい。なんでこんな事を。前回のヤクザの事と言い、何かがおかしいと思った俺は今度こそ何か聞き出そうと思った。自然に聞いたつもりだったが、聞いた途端にテーリは塞ぎ込んでしまった。なんだって言うんだ、一体。


 九月二十七日

 一瀬さんから事情を聞いた。俺の番号を知ってた理由だ。驚いた。こんな漫画みたいな事が本当にあるなんて。それと同時に、彼女はこんな事を言った。「絶対に誰にも話さないで。もし話したら……」

 そこから先は言わなかった。俺はテーリの事が心配だった。最近のテーリの様子がおかしい事は、どうやらこの件とは関係無いらしい。一体なんなんだろう。


  (中略)


 十月十四日

 一瀬さんが、テーリの退院祝いで遊び回ろうと誘ってきた。何か裏があるのかと思わず勘ぐってしまったが、本当に遊びたいだけだと言うので一先ずは納得しておいた。

 ただ、いつもの様にって訳にはいかなかった。テーリは始終何か考えているみたいだったし、一瀬さんは何となく周りを警戒しながら歩いている様に見えた。しかし、テーリの周りで起こっているに関して、俺に出来る事は何も無い。なので、その場ではピエロに徹する事にした。いつも通り、明るく能天気に。少しでもテーリの気が晴れるなら、俺の役割はそれでいい。


  (中略)


 十一月七日

 また一瀬さんから連絡が来た。テーリが危ない、と言うよりは今までずっと危なかったらしい。一瀬さんが何とかしていたらしいけど、何とかってどうやってたんだろう。そこについてはやはり教えてくれないそうだ。

 とにかく、一瀬さんが直接動くのは難しいので、俺に伝言を頼みたいとの事だ。伝言程度ならいくらでもするさ。その程度でテーリが守れるなら。


  (中略)


 十二月九日

 もう駄目だ。多分、この辺りで限界だと思う。一瀬さんにも連絡がつかなくなったし、少し前からテーリが日に日におかしくなっていくのが目に見えて分かる様になった。

 見守るだけが友情じゃない。あんなテーリはもう見たくない。

 それには、直接話す必要がある。俺の言葉でテーリが止まるか分からないけど、何もしないよりはマシだ。

 誰にも邪魔されない場所でテーリと会う必要がある。それには、前にも取材で入った事のあるあの廃ビルが最適だろう。


 待ってろテーリ。俺が、お前を止めてやる。

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