障害
「メディシナ・ディプロンと申します」
褐色の肌の男がぎこちなく挨拶をする。
おそらく彼は普段は人の上に立つ人なのだろうと叶は思った。
「お医者様ですね。楽にしてください」
本来であれば頭を下げられるような身分ではない叶としては落ち着かない者があり、そう告げる。
「それじゃ遠慮なく。早速だが、あんた、異邦人だろ?」
「異邦人?」
がらりと態度を変えた男にも驚いたが彼の言葉の意味が理解できなかった。
「他の世界から来た」
「多分それだと思います」
「よく今まで生きてたな」
「え?」
「こっちに来て何日だ」
そう、訊ねられ、叶は答えられなかった。
日付の感覚が無い。
月があるか無いかの違いでずっと夜の気がする。
「七日です」
ミナが代わりに答えた。
「症状は貧血だろ、それに、筋肉が弱ってる。あとは、栄養失調。ちゃんとしたモン食わせてたんだろうな?」
「人の子の食べ物は我々には……」
「祖国に近いものを食べさせてもらいました」
「そうか。じゃあ、原因は単純だ。日光不足。この国を出ればすぐによくなる」
彼の言葉に納得する。人間は日光を浴びなくては健康を保てない。
「他の治療方法は?」
エドワードが訊ねる。
「無い」
メディシナの回答にエドワードの顔が歪んだ気がした。
「何が世界一の医者だ! 治療をしろ!」
珍しく彼が語気を荒らげる。
そして、彼の顔に隈取りのような何かが現れた。
「落ち着け。お嬢さんがびっくりするぞ」
彼は注射器と小瓶を取り出して、叶に何かを注射した。
「これは?」
「栄養剤だ。あと、貧血の薬。しばらくはこれで誤魔化せるかもしれないが、日光不足は命に関わる深刻な問題だ。俺でも、二日が限界だ。この国は」
彼はそう言って叶からエドワードに視線を移した。
「この嬢ちゃんを助けたいならすぐに俺の病院に入院させろ。そして二度とこの国に連れてくるな」
「それはできぬ。カナエは私の后だ。この国に必要な存在なのだ」
「だったらとっとと仲間にしろ」
「それもできぬ。カナエを苦しめることになる。それに、カナエはおそらく、我が一族の血に耐えることができぬ」
二人の会話は叶にはまったく理解できなかったが、その意味を訊ねてはいけない気がして、そっとミナを呼んだ。
「どうかなさいましたか」
「何か飲み物が欲しいです」
「では、お茶をお持ちしましょう」
「お願いします」
はやく帰ってくれないだろうかとメディシナに思う。
この人はなんだかよくないものを持って来た気がする。
「あの、お医者様」
「ん?」
「私はあとどのくらい生きられますか」
「国を出れば百まで健康だろうよ」
「いいえ、ここでどのくらい生きられますか」
正直この場所はあまり好きではなかったが、エドワードを思うとこの国を離れていはいけないように思えた。
メディシナと言う男は見た目は成金趣味なようで胡散臭く見えるが、医師としては真っ当で、叶を患者として案じてくれていることはなんとなく感じ取れる。言葉の選び方は非常に問題がありそうではあるが。
「嬢ちゃん、やめとけ。一月持たない。まず、歩けなくなる。骨がもろくなるんだ。免疫も低下する。とくに、この城はあんたにとって清潔とは言えない。黒死病なんかになったら悲惨だぞ」
確かに、日本で暮らしていたアパートと比べても衛生状況は劣悪だろう。少なくとも叶は生まれてから一度も鼠を見たことがない。それなのに、この城は鼠の足音が聞こえる。そもそもの住む世界が違いすぎるのだ。
「……それでも、エドワード様のお傍に。とてもよくしてくださいました。もう、望に会えないなら、少しでもエドワード様のお傍に居たい」
「ノゾミ?」
メディシナがその名に反応を示した。
「もしかして、それはやたら気の強い自意識過剰で派手好きの姉ちゃんか?」
彼はとても心当たりがあるといった様子だ。
「え? 望を知ってるの?」
「オレの助手だ」
「……望が……あなたの……」
信じられない出来事だ。
きっと神様は居たんだと叶は思う。
「会わせて下さい。望に会いたい。望に会えたら死んでもいい」
瞳から零れ落ちる涙に気付く。
果てしなく遠かった望が、手を伸ばせば届く場所に居る。
「だめだ」
エドワードの冷たい声が響いた。
「どうして?」
「その者が現れれば、お前はここにはいてくれぬのだろう?」
切なすぎる声に、叶は何も言えない。
ただ、この人には自分が必要なんだと思ってしまう。
「私にはお前が必要だ。できることなら永遠の命を与えたい。だが、そうすれば、お前まで呪われてしまう。私はそれに耐えられない」
冷たい手が、叶の手を包んだ。
そして、いつも何を考えているのか分からない瞳が、切なく揺れていることに気がついた。
「一つだけ、可能性がある」
メディシナという男が言った。
「可能性?」
エドワードは怪訝そうに彼を見る。
「これはあくまで噂だが……エレットゥリコという科学者が擬似太陽の発明に成功したらしい」
「擬似太陽?」
聞いた事の無い言葉に叶も首を傾げた。
「ああ、それがあれば……ここでも嬢ちゃんが生き延びられる」
「本当にそんなものが?」
エドワードが真っ先に食いつく。
「あくまで噂だ。それにあったとしても、奴がそれを売り渡してくれるとは限らない」
「何があっても手に入れろ。金ならいくらでも用意する」
メディシナという男は医者である前に商人だ。エドワードは商人を嫌っているのだろうかと叶は思う。
彼はどう見てもメディシナを疑っているのだ。
「金じゃない。俺は、独占貿易権を要求する」
「どういうことだ?」
「クレッシェンテへの輸出は俺を通して欲しいってことだよ」
「初めから貿易などする予定は無い」
鎖国状態だったのかと叶は驚く。
「つまり、俺がここに来てるのは個人取引だと?」
「ああ。そもそも外に出すほど価値のあるものは無かろう」
エドワードは興味など無いというように外を見る。
「いや、宝石、魔水晶、それに織物。クレッシェンテだけじゃない。近隣国が欲しがるものが山ほどあるのに、この国じゃあまり喜ばれない」
「玉など好むのは小人族と鬼族くらいだろう。我々から見れば石に変わりない。魔水晶にしても、自分の魔力を使ったほうが速いから誰も使わぬ。人の子はあんなものが欲しいのか?」
価値観の違いとは恐ろしい。メディシナにとって価値があるものはエドワードにとってはゴミなのだろう。
「ああ、そういうことだ。俺がエレットゥリコと交渉する。それで、おそらく、奴も魔水晶の供給を要求してくるはずだ」
「あの石の山でカナエがここで暮らせるようになるのであれば好きなだけ持っていけ。最優先はカナエだ」
エドワードがメディシナを見る目は冷たい。メディシナは完全に商売をする目をしている。それが気に入らないのだろう。
「けど、交渉が終わるまでの間だけでも嬢ちゃんをうちに預けてくれないか? 勿論護衛は何人つけてもいい。ここで死なせちゃ俺も商売にならねーし、何より本業は医者の方だからな」
「……我々は国から出られぬのだ」
「一人居るだろ。たまに俺を呼び出すでかい兄さんが」
「ウィリアムか?」
エドワードは考え込む。
「ミナ、ウィリアムの指示で外に行けるか」
「夜なら。一度、タイヨウを見ました。あれは恐ろしい」
ミナは身震いした。
「火傷くらいすぐ治る」
「ですが、ずっと焼かれ続けるのですよ」
ミナはその時の記憶が蘇るというように肩を擦った。
「叶はお前が居なくては不安だろう」
「肌を出さなきゃいいだろう」
「え?」
「ハウルの女が着てるようなやつを着て色眼鏡でも掛ければ焼けないんじゃないのか?」
メディシナの言葉に二人は考え込んだ。
「ハウルの女の着物とはどのようなものだ?」
「色眼鏡? どのようなもの?」
どうやら、文化の差が激しすぎて二人には未知の世界らしい。
「わかった。それも用意してやる。で? 嬢ちゃんの護衛は二人で交渉期間は嬢ちゃんを俺の病院で預かる。嬢ちゃんはノゾミと面会、これでいいんだな?」
「一つ忘れている。確実にその擬似タイヨウとやらを手に入れろ」
「それは交渉次第だ。だが、手に入れたとして、ここの連中はみんな肌を焼かれることになるんじゃねーのか?」
「専用の建物を作らせる」
「その職人もこっちの仕事だろ?」
「わかった。任せればいいのだろう」
エドワードはうんざりした様子で答えた。
彼は相当商人が嫌いらしい。
「カナエ、戻って来てくれるか?」
「はい、約束します」
叶は出来る限り笑って見せた。
その方がエドワードを安心させられると思ったからだ。
きっと自分はここに戻る。そう、確信もあった。
もう、エドワードを一人にするなどということは、叶にはできそうにないのだから。
次にミナが叶の部屋を訪れた時、彼女はチャードリーのような衣装を身に纏っていた。
「それ、前見えますか?」
「目の部分が格子状になっていて気持ち悪いです……」
格子が苦手とか魔物みたいなことを言う人だなぁと叶はぼんやりと考えた。
「嬢ちゃん、船は平気か?」
「はい、港育ちですから」
叶は笑ってみせる。ミナがそっと叶を抱きかかえた。
「エドワード様はジョナサンが隔離しています。あの方は……カナエ様を見ると駄々を捏ねますから……」
ミナは深い溜息を吐く。その表情に叶はくすりと笑った。
「笑えるようなら元気そうだな。さっさと話しつけてとっとと戻ってこようぜ」
メディシナは豪快に笑う。
ファッションセンスはともかく、悪い人ではなさそうだ。
しかし、何故エドワードは彼を嫌うのだろうと首を傾げる。
「それが花嫁か?」
一人の男が部屋に入ってきた。
聞いた事のある声。宮廷騎士団長だ。
「ウィリアム・ウルフ宮廷騎士団長です。今回カナエ様の護衛として同行します」
「は、はじめまして」
本当に彼の目は狼のように見え、叶には恐ろしく感じられた。それに、顔に切り傷のような深い傷跡がある。
「顔と目つきと言葉は悪くとも、立派な騎士です。ご安心ください。一応、私の上官ですし、エドワード様とは幼馴染です」
「ウィリアムさんは……そのまま出られる人なんですか?」
ミナたちは招かれなければ出ることができないと言っていた。そう思って訊ねたつもりが、ミナは別の解釈をしたらしい。
「ウィリアム騎士団長はすぐに服を破いてしまうので着替えを用意するのが大変でいつもあのような格好なのです。お気になさらずに」
叶はウィリアムを見る。ストレートパンツに薄手のシャツというかなりラフな格好だ。
それでも彼は「宮廷騎士団長」と書かれた腕章をしている。
それが無ければ体育教師か何かに見えなくも無い鍛えられた身体だ。
「花嫁は随分小さいな」
「貴方が大きいだけですよ。騎士団長」
一間は軽く超える大男。メディシナが大きいと思ったが、彼はさらに大きかった。
「エドワード好みだな」
彼は一瞬軽く笑み、それからすぐに部屋を出る。
「月が昇る前に出るぞ」
「はい。カナエ様、しっかり掴まって下さいね」
そう言って彼女は叶を抱きかかえたまま窓から飛び出した。
「え?」
ふわりと宙に浮く。
「あ、ずりぃぞ!!」
メディシナが叫ぶ。
「ミナ、花嫁は人の子だ。気をつけろ」
すぐにウィリアムが後を追ってきた。
彼らは宙を蹴って空を飛んでいるのだと気付くまで少し時間が掛かった。
空を飛ぶには妖精の粉が必要じゃなかったのかと少しばかり失望する。
けれども、空を飛ぶというこの浮遊感は嫌いではないと思った。
長い船旅を終え、着いた地は、どこかレトロな雰囲気を持っていた。
そう、1800年代のヨーロッパ。そんな雰囲気だ。
随分と久しぶりに見た日の出はとてもまぶしく感じられた。
「ここからは馬車での移動だ」
「馬車?」
観光客向けのそれしか見た事の無かった叶には驚きだった。
四頭立ての馬車。黒い立派な馬だった。
「ロートの馬だ。速いし幻術にも強い。これで一晩でムゲットに行ける」
「ムゲット?」
確か鈴蘭のことではなかっただろうか。叶が訊ねれば「王都のことですよ」とミナが答えた。
「王様が居るの?」
「エドワード様だって国王陛下なのですよ? 見えなくとも」
叶は思う。エドワードの場合は王様というより少女漫画の幸薄そうな貴族の青年だ。
「クレッシェンテは女王だ。治世は二百年。ファントムより短い。けど、大国ハウルよりもずっと長い」
「ハウルは先王が長かっただろう。五百年だ」
「そうだったか?」
「その前がばたばた死んでたと記憶する」
ミナは静かに答える。
真偽は定かではないが、こちらの王というのは随分と長生きらしい。
「エドワード様っておいくつなんですか?」
「四百と……いくつだったか?」
「二十くらいでしょうかね。騎士団長と同じ年でいらっしゃるでしょう?」
「エドワードが覚えていればいいと思って数えるのを止めた」
随分大雑把な人だと叶は思った。
人間ではないかもしれないとは思っていたが、これはいよいよ人間ではない可能性が高い。しかし他の国の王もとなると、そもそもこちらの人間の寿命が異常に長いだけなのかもしれない。
「ほら、日が暮れる前に行くぞ」
「私は日が暮れてくれたほうが嬉しい」
ミナはうんざりと答えるが、ウィリアムの手によって強制的に馬車に乗せられた。
「今は花嫁が第一だ」
「ああ。わかってるよ。だが、あのタイヨウという奴は忌々しい」
ミナは随分と太陽に怯えているのに、ウィリアムは全く気にしていないようだ。
「ウィリアムさんは日光は平気なんですか?」
「ああ。俺は。全く。種族によって違う」
彼はそう答えてあくびをした。
「どうも、日光を見ると眠くなる」
「うっかり変身しないで下さいよ。騎士団長」
「善処しよう」
ウィリアムはまた、大きなあくびをして、窓の外を見る。
まるで遠くに警戒するように。
叶はというと不思議そうに辺りを見回していた。
連れてこられた病院は白を基調とした清潔感なる建物だった。とてもメディシナの悪趣味からは想像できないと叶は思う。
彼は悪い人ではなさそうだが途方もなくファッションセンスが残念だ。
「騎士団長さんはそこでシャワーを浴びてから中に入ってくれ」
「なに?」
メディシナの差別とも取れる指示にウィリアムは不機嫌を露わにする。
「それと、院内で毛を巻き散らかすなよ。ペット禁止なんだぜ? 本当は」
これは彼に対する侮辱だと叶は一言言ってやりたかったが、ウィリアム自身が無言で桶いっぱいの水を被ったことで、何も言えなくなった。
「シャワーを使うまでもない。これで充分だろう」
「ますます犬っぽいな」
メディシナは笑う。彼は明らかにウィリアムに対して敵意を持っている。
「ノゾミを呼べ」
メディシナが受け付けらしい女性に声をかけた。
「本日は騎士団長閣下のお屋敷でおちごとをなちゃっています」
変な話し方をする人だなぁと叶は考える。金髪で、魅惑的な容姿なのに、それに不釣り合いな子供のような声。他の人に声を掛けられたときも、どこか幼児のような話し方で返答していた。
それにしても、メディシナのウィリアムに対する露骨な差別は許されざるものだと思う。
「ミナ、ウィリアムさんはなんで黙ってるの?」
「エドワード様の為です。ここで彼を殺してはエドワード様の顔に泥を塗ってしまいます」
「どうして?」
「我々は本来この国に足を踏み入れてはいけないのです」
つまり密入国ということらしい。
「でも、なんであそこまで言われなきゃいけないんですか」
「それは……我々が人の子ではないからでしょう」
ミナは少し困ったように答えた。
実際、彼らもまた人の子を差別しているのだが、その事実を叶は知らない。
共存をと唱える一方で人の子は弱く脆く取るに足らない小さなものだと考えている。
そして所詮は餌なのだ。
「おい、ばあさん、嬢ちゃんを病室に運べ」
「だ・れ・がばあさんよ! 私はまだ三四六よ!」
「十分ばあさんだろ」
メディシナは呆れたようにミナを見る。
「あ、歩きます」
「いえ、そのようなことをさせては私がエドワード様に叱られますから」
ミナはそう答えたが、叶にはわかった。彼女はただ、意地になっているだけだと。
「叶」
叶が病室で点滴の用意をされていると、驚いたような声が響いた。
それはどんなに懐かしいことだろう。
叶がずっと縋りたかった望の声だった。
「望……会いたかった……」
「なんであんたまでこっちに居るのよ。それに顔色悪いし」
「わかんない。部屋で編み物をしていたの。望とおそろいのショールで、秋には大通りを双子ファッションでショッピングとか思ってたのに」
ミュージカルの新作も観に行こうって考えてた。
なのに、突然。
それは理解の範疇を超えていた。
「怖い思いしなかった?」
「平気。みんなとっても良くしてくれたの」
はじめは彼らが怖かったけれど、優しい人たちだ。
看護師の一人が、会話に口を挟むことはなかったが、手際よく叶の腕に針を刺す。
一瞬、ミナの視線を感じたが、ミナはすぐに後ろを向いた。
「メディシナから聞いたんだけどさ、あんたの居た場所ってホラー映画の世界みたいなんだって?」
「え?」
「太陽が無いとかヤバいでしょ。ヴァンパイアの棲家ってカンジ」
望は笑った。
「まさか」
「なんか、人間とは違う種族がいっぱい住んでるらしいよ。狼人間とか、人魚とか。人魚は見てみたいな。って、マジで叶がそんな場所居たらフィーバーしてるか」
望は笑って叶の髪を撫でる。
「あんたのこと、ずっと心配だった」
触れる温もりが、現実だと教えてくれる。
「私も……一人で心細かった。だって、近頃噂だったんだよ? 神隠しが頻発してるって」
「神隠しの先がここ? あんたも引きずり込まれたんだ。なっさけないねー。ハンターの癖に」
望は笑う。
望は叶の家業を【ハンター】と呼ぶ。元はただの拝み屋だ。
いや、一般的な拝み屋とは少し違うかもしれない。怪物を物理的に殺すことを生業にしている。
「わ、私は……まだ……見習いで……別に仕事にするつもりはない……から……」
祖母も父もハンターだった。
祖母の自慢は吸血鬼殺しの偉業だ。何でも生まれた村に吸血鬼が出たとかでそれを殺したのを何よりも自慢にしていた。
「叶は……腕はいいのにホンッと自信が無いよね。針仕事も格闘技も右に出るものなし! ってくらい凄いのにさ。もうちょっと自信持ちなって」
望はバシッと叶の背を叩いた。
「いだっ」
「あ、ごめん」
「貴様、カナエ様に!!」
ミナが動き出す。
「あ、大丈夫です。いつものことなので……えっと、故郷の習慣で励ましの表現です」
叶は慌てて説明するが、ミナはまだ納得しない様子だ。
「花嫁がああ言っている。ミナ、落ち着け」
「ですが……」
ウィリアムの言葉にもミナはまだ不満そうだった。
「ねぇ、あの人たちなんなの?」
「えっと……エドワード様の家臣で……私の、護衛、みたい」
叶は急に恥ずかしくなった。
これではまるで子守を連れて歩いている無力な子供みたいだ。
「ミナ、お前は人の子の食事の研究でもして来い。花嫁は俺が見ている。問題ない。人の子相手なら百人は束にしても平気だ」
「……ですが」
「俺の方が鼻が利く」
「わかりました」
ミナはしぶしぶ病室を出て行く。
どういう意味だろうかと叶は首をかしげる。
「メディシナさ、あの人になんっかきっついんだよね」
「あ、私も思った。あれ、どうして?」
「メディシナは身分の高い人嫌いだからね。でも、そういうわけじゃなさそう。外国人はわりと歓迎する人なんだけどな」
望は首を傾げる。
結局二人揃って考えても何ひとつ新しい情報は無い。
叶は直接ウィリアムに訊ねようと思ったが、それも失礼な気がして結局訊ねることが出来なかった。
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